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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

新聞記者は「消える仕事」か~週刊東洋経済の特集「1億人の『職業地図』」

 週刊東洋経済の1月30日号が「消える仕事、残る仕事 1億人の『職業地図』」という特集を掲載しています。「消える仕事」18業種の一つに「新聞記者」が挙げられているので、購入して読んでみました。

 記事は業種ごとに平均年収や業界規模などを紹介。業界の最新事情と、2030年に予想される姿を記載しています。
 「新聞記者」の項の業界最新事情は、毎日新聞の発行部数が中日新聞に一時逆転されたこと、朝日新聞が希望退職を募集したこと、全国紙で支局の削減などの縮小均衡が止まらないことを列挙しています。
 「2030年の新聞記者」は以下の通りです。

 無料のヤフーニュース等が普及し、新聞の発行部数は、00年の5371万部から20年に3509万部へ激減。宅配網の維持等課題も多い。夜討ち朝駆けのブラックな体質は若者からも敬遠される。本業不振を不動産業で埋める収益構造が常態化しよう。

 「2030年」と言いながら、内容は2020~21年の現状が中心で見出しとちょっとずれている気がしますが、新聞社の経営環境が厳しさを増しているのは事実です。星五つを満点とする将来性スコアは、星二つです。「業界TOPIC」のひとコマでは米ニューヨークタイムズを取り上げ、電子版が拡大してデジタル収入が紙を上回り、「将来は紙全廃へ」と紹介しています。
 日本の新聞社のうちデジタル展開で確固とした経営モデルを持っているのは日経新聞だけです。他の新聞社は試行錯誤が続いています。「紙全廃へ」と一言では済ませられません。
 新聞社が本業(新聞発行)の売り上げ減を当面は不動産などの副業収入で補うしかない、という議論も、発行部数の減少傾向が顕著になったここ十数年は折に触れ耳にしてきました。
 総じて特集記事に目新しさはなく、「新聞記者」が先行きの暗い業種である、ということがただ強調されているようにも感じられ、37年間、新聞の仕事をしてきた一人として残念に思います。「週刊東洋経済」が経済専門誌であることを考えれば、「新聞記者」を取り上げながら実際は新聞産業に対する論評に終始しているのも仕方がないかもしれません。

 新聞社の収入は長らく、新聞の購読料と新聞に掲載する広告の広告料の二つが柱でした。広告料の単価は発行部数に左右されますので、新聞社の経営にとって部数は多いほどいいわけです。「ウインドウズ95」の登場によって、インターネットの普及が本格的に始まったのが1995年。新聞の発行部数が減少傾向に転じたことがはっきりするのはそれから数年遅れて、21世紀に入った辺りからです。以来、部数減はずっと続いています。特にこの1年は一気に272万部も落ち、総発行部数の7.2%減です(新聞協会のまとめによる)。新聞社の経営の見地からは、週刊東洋経済の特集が指摘している通り、先行きは明るいものではありません。
 しかし、「新聞記者」を個人の仕事として、働き方の一つとしてとらえると、別の風景も見えるのではないかと思います。
 新聞は組織ジャーナリズムのモデルの一つです。新聞記者は新聞社に記者職として採用された後、取材や記事執筆などのトレーニングを実地に重ねながら成長します。新聞社は多くの記者を擁し、組織的に取材を展開してその成果を新聞という情報パッケージにして社会に送り出してきました。こうした組織ジャーナリズム自体は今もなお社会に必要だと思いますし、新聞記者という仕事の醍醐味でもあるのだろうと思います。
 新聞社にとって紙の新聞の後のモデルは、デジタルであるのは間違いありません。しかしデジタル空間では新聞社の情報も個人の情報発信も原理的にはフラットです。そして近年では、例えば東京高検検事長と新聞記者、新聞社社員が一緒に賭けマージャンに興じていた問題など、社会の一般的な感覚と新聞社内の感覚の乖離がSNSなどを通じて可視化される事例も目に付くようになっています。新聞社が新たな組織ジャーナリズムのモデルを手にするには、マネタイズだけではなく、職業倫理の面でもこうした社会との乖離を一つずつ埋めていくことが必要ですし、それは簡単には進まないと思います。しかしその課題を克服し、「やはり社会に組織ジャーナリズムは必要だ」と社会の人々に思ってもらえるようになれば、「2030年の新聞記者」(そのときには「新聞記者」という呼び方は変わっているかもしれませんが)は社会に貢献する、やりがいのある仕事であるだろうと思います。

※参考 日本新聞協会「新聞の発行部数と世帯数の推移」

https://www.pressnet.or.jp/data/circulation/circulation01.php 

 

週刊東洋経済 2021年1/30号 [雑誌]

週刊東洋経済 2021年1/30号 [雑誌]

 

 

 【追記】2021年1月31日8時50分

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