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森喜朗会長が辞意~ジェンダー不平等解消への改めての出発点に

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が辞任する見通しとなりました。2月3日に「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などと発言し、4日には記者会見で発言を取り消し謝罪を口にしながらも、何が問われているかの自覚がうかがえず、居座りへ批判が高まっていました。ネット上でざっと検索した限りですが、マスメディアのサイトで2月11日の正午前から「辞任の方向で調整」との情報が流れ、毎日新聞が12時5分に「速報」で「辞意」、報知新聞が12時25分に「辞意固める」、共同通信12時28分「辞意」、NHK12時36分「辞意固める」といったように、各メディアが次々に速報しました。12日に開かれる組織委の会合で、森会長自身が辞意を表明する見通しで、後任は日本サッカー協会元会長の川淵三郎氏(84歳)で調整中と報じられています。
 「辞意」の確定報の速さが目立つ毎日新聞は、問題の発言があった翌日の4日午前中に森会長に直接取材し、森会長が「辞任」に言及したことをサイトで報じていました。森会長はこの段階で辞任するつもりだったのに、組織委事務局長らの説得で翻意し、4日午後の記者会見で辞任を否定した―とのストーリーも報じられています。
 4日の記者会見では謝罪を口にしながらも「邪魔だと言われれば、おっしゃる通り、老害が粗大ごみになったのかもしれないから、掃いてもらえばいいんじゃないか」との言葉も出ていました。発言を反省していれば、到底口にできる言葉ではありません。本人がそこまで言っているのに、組織委員会からも、日本オリンピック委員会(JOC)からも、日本政府や開催自治体の東京都からも、辞任を求める動きは出ませんでした。自民党などからは「撤回して謝罪したのだからいいじゃないか」と、森会長を擁護する声も聞かれました。こうした状況はそのまま、ジェンダーを巡る日本社会の現状と、不平等の解消のハードルが高いことを如実に示しているように思います。
 国際オリンピック委員会(IOC)も4日の記者会見をもって「この問題は決着」と表明していました。その後、森会長残留への批判の高まりを意識したのか、「森会長の発言は極めて不適切」との強い非難の声明を出し直しました。批判はスポンサーからも寄せられていたようです。IOCがいったんは「決着」を表明したことは、IOCがもっとも重視しているのは何なのか、現代の五輪のありようを考える好機であるようにも思います。
 森会長に辞任を迫ったのは民意のうねりでした。ジェンダーの何がどう問題なのかに改めて気付いた人も少なくなかったはずです。人は往々にして、自分が差別する側に立っていることに無意識、無自覚であり、そのことが差別の解消を困難にしています。その点であらゆる差別は通底していることに、わたし自身も改めて認識を深めました。自分が差別する側であることを自覚するのには心理的な抵抗があって当然ですが、その自覚なしには前に進めません。いい機会だと思います。森会長の辞任で終わりではなく、日本社会のジェンダー不平等をどう解消していくのか、その取り組みの改めての出発点になればいいと思います。