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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

森喜朗会長の女性蔑視発言とマスメディアの当事者性(その3)~大会スポンサーにそろって名を連ねる全国紙

 東京五輪パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言を巡って、2月7日に更新したこのブログの記事では、この問題をマスメディアがどう報じるかも日本社会のジェンダーの現状の一端を示している、その意味でマスメディアには当事者性がある、とのわたしの認識を紹介しました。マスメディアの中でも全国紙にはもう一つ、大会スポンサーとしての当事者性もあります。朝日新聞社、毎日新聞社、読売新聞社、日経新聞社は東京大会のオフィシャルパートナー、産経新聞社はオフィシャルサポーターです。ほかにブロック紙の北海道新聞社がオフィシャルサポーターに名を連ねています。

※大会組織委 公式サイト「スポンサー一覧」
 https://tokyo2020.org/ja/organising-committee/marketing/sponsors/

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【写真】大会組織委の公式サイト

 森会長の発言に対して、全国紙5紙とも社説、論説では批判しているものの、森会長が残留することに対しては、表現に差が見られました。明瞭に「辞任を求める」と主張したのは朝日新聞(5日付)だけで、他紙は「もってまわった」感がぬぐえない、と2月7日の記事でわたしは書きました。
 https://news-worker.hatenablog.com/entry/2021/02/07/130810

news-worker.hatenablog.com

 その後、毎日新聞は9日付の社説で再度、森発言を取り上げ、「辞任すべきだ」と主張しました。
※「森会長の続投論 『仕方がない』は、やめよう」
 https://mainichi.jp/articles/20210209/ddm/005/070/132000c

 だが、撤回や謝罪で済む問題ではない。五輪憲章はあらゆる差別を認めない。それに反する認識を持つ人が、トップに座り続けることは許されない。辞任すべきだ。

 組織委員会は8日、大会スポンサー向けに森発言を巡るオンラインの説明会を開いています。そのことを9日付朝刊で毎日新聞と朝日新聞が報じています。大会スポンサーは当然、五輪の理念に共鳴する立場です。毎日、朝日ともに記事では、自社が社説で森会長の辞任を求めていることにも触れました。推測ですが、毎日新聞社は、大会スポンサーとしても明白なメッセージを社会に発するべきだと考え、2本目の社説掲載に至ったのかもしれません。

 読売新聞、日経新聞、産経新聞も、毎日、朝日のようなストレートな表現ではありませんが、森会長は職を降りるべきであることを社説で主張しています。

 読売新聞・6日付「発言の影響を踏まえて、身の処し方を再考すべきではないか」
 日経新聞・5日付「撤回することは当然だが、それだけですむことではないだろう」
 産経新聞・6日付「森氏がトップに立つことが開催機運の障害となっている現実を、組織委は自覚してほしい」

 オピニオンの主張であれ、五輪大会スポンサーとしての表明であれ、マスメディアが森会長の発言と進退へのスタンスを明らかにしたことは、マスメディア自身のジェンダーギャップの解消にとっても、少なからず意味のあることだと思います。
 新聞労連などマスメディア関連の産別労組などでつくる日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)が2020年3月に公表した調査結果によると、調査対象の新聞社・通信社の執行役員を含む役員計397人(37社)のうち女性は17人(4.03%)、管理職計4565人(38社)のうち女性は352人(7.71%)でした。女性記者が記者全体に占める比率22%と比べても、決定権を持つ役員、管理職の女性比率はいまだ著しく低いのが実態です。
 森会長の女性蔑視発言に対して、新聞各社が社説、論説で強い姿勢を提示し、あるいは五輪大会のスポンサーとしても森会長の辞任を求めることを明白にした以上、自らが抱えるジェンダーギャップの解消にも努めるのは当然のことです。そうでなければ、書いていること、主張していることと、やっていることが違うということになります。
 地方紙、ブロック紙も含めて、今回の社説、論説を自らのジェンダー平等への社会への約束ととらえ、退路を断つ覚悟で取り組みが進めば、それぞれの報道も多様性が増して豊かになり、そのことがまた働き方として、仕事として多様さを増していく、いい循環が生まれることも期待できるのではないかと思います。社会に対して約束を掲げることには、それだけの重い意味があるはずです。

 ※森発言に対する地方紙、ブロック紙の社説、論説(2月7日付まで)は以下の記事にまとめています。
 https://news-worker.hatenablog.com/entry/2021/02/08/085726 

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