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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「表現の自由侵しかねない」(北海道新聞)、「五輪報道の自由奪えない」(京都新聞)~出版労連、MIC、日本ペンクラブも五輪組織委を批判

 東京五輪の開会式イベントの演出を巡る週刊文春の報道に対し、東京五輪・パラリンピック組織委員会が業務妨害や著作権の侵害を主張し、雑誌の回収やネット記事の削除を要求している問題で、朝日新聞、信濃毎日新聞に続き、新たに北海道新聞と京都新聞が4月8日付の社説でそれぞれ組織委の対応を批判しました。北海道新聞社は大会のオフィシャルサポーター、スポンサー企業です。
 ほかに目にとまったところでは、出版界で唯一の産別労組である出版労連、新聞や出版、民放などの産別労組でつくる日本マスコミ文化情報労組会議(略称MIC)がそれぞれ抗議声明を出しているほか、日本ペンクラブも「東京2020組織委員会は報道統制をしてはならない~マスメディアの多様な報道を求める」との声明(4月6日)の中で、週刊文春への威圧も触れています。いずれも表現の自由にかかわる立場からの意思表明です。それぞれの社説、声明の一部を引用して書きとめておきます。
 表現の自由が民主主義社会でどれだけ重要か、組織委に多少なりとも理解があれば、このような事態にはなっていなかったのかもしれません。組織委は、大会スポンサーの一角からすらも批判を浴びていることを真摯に受け止め、自らの行為の意味を正しく理解し、今からでも、週刊文春に対する姿勢をあらためるべきです。ジェンダーバランスやルッキズムが問われ、さらに今また表現の自由を威圧し、しかもその非を認めないまま開催が強行される五輪とは、いったい何でしょうか。

▼北海道新聞社説:4月8日「五輪組織委抗議 表現の自由侵しかねぬ」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/530782?rct=c_editorial

 恫喝(どうかつ)まがいの手法を取る組織委の姿勢は言論封殺に通じる。週刊文春のみならずメディア全体を萎縮させかねず、ただちに改めなければならない。
 組織委が今回の報道に過剰とも見える反応を示すのは、国際オリンピック委員会(IOC)や放映権を握る米メディアとの関係悪化を懸念するからではないか。
 組織委の橋本聖子会長の姿勢も厳しく問われよう。
 女性蔑視発言で退任した森喜朗氏の後を継いだ橋本氏は就任時、「信頼回復に努める」と述べた。組織委の一連の対応は、かえって国民の不信を招きかねない。
 開会式まで100日余りに迫っている。組織委は五輪の本義に立ち返り、コロナ対策を含め選手本位の姿勢を示すべきだ。

▼京都新聞社説:4月8日「組織委の抗議 五輪報道の自由奪えぬ」
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/543931 

組織委では、森喜朗前会長の女性蔑視発言や五輪エンブレム盗用疑惑など不祥事が後を絶たない。組織体質に厳しい目が向けられていることを認識する必要がある。

 五輪の人件費の「肥大化」を報じた新聞社に、組織委は謝罪と訂正を求めている。
 コロナ禍での聖火リレーや五輪開催の可否をめぐり、さまざまな意見や批判が飛び交っている。
 組織委は独善的にならず、しっかりと受け止めるべきだ。できるだけ情報を公開し、批判に応える姿勢を示してもらいたい。
 報道する側には、国民が疑問に思う事象を取材し、伝えていく責務がある。

▼出版労連声明:4月7日「公的機関による言論妨害、出版・表現の自由の侵害に抗議する」

 オリンピック・パラリンピックが、莫大な税金が投下される公共性の極めて高い催しであることはいうまでもありません。同組織委員会は、国内外から多くの批判を受けた森喜朗会長(当時)の女性蔑視の差別発言による辞任、タレントへの侮辱演出案の存在など、五輪憲章に抵触し、人権を軽視した度重なる不祥事を起こしてきました。同誌の表明するとおり、開会式の概要を取材・検証し公表することが公共の利益と合致することはだれの目にも明らかです。
 組織委員会は、非公開で会議を行うなど、極端に不透明な運営手法をとり、過度な情報コントロールを行ってきたことも報道で明らかとなっています。これらを納税者の前に明らかにする記事は、高い公益性を有していると考えます。さらに組織委員会は、警察と相談しつつ内外の関係者の調査に着手するとしていますが、これは刑事告訴をほのめかし取材活動を萎縮させることを意図した恫喝であり、不都合な事実を隠蔽することでガバナンスの不在を繕おうとしていると思わざるをえません。
 平和の祭典と称されるオリンピック・パラリンピックは、市民の共感と支持がその礎にあってこそのものと考えます。そのためには、運営組織の透明性は不可欠です。報道機関として当然の取材活動の範疇にあり、憲法21条で保障されている出版社として当然の出版活動の範疇にある同記事に対し、著作権法違反や業務妨害などの組織委員会の主張は、公的機関による言論活動の妨害、出版・表現の自由に対する重大な侵害にほかならず、看過できるものではありません。

▼日本マスコミ文化情報労組会議声明:4月8日「五輪組織委による言論妨害、出版・表現の自由の侵害に抗議する」 

 同誌の表明するとおり、開会式の概要を取材し公表することが公共の利益と合致することは明白です。さらに、当該記事は、開会式の内容の決定過程や、その公金支出の在り方を検証し批判しているもので、公益性が高い報道です。内部資料の引用や紹介を含む報道記事について著作権が問われると、権力の監視や市民の「知る権利」に応えるメディアの正当な取材活動が成り立ちません。

 さらに組織委は、営業秘密を不正に開示する者についても、「不正競争防止法違反の罪」及び「業務妨害罪」が成立しうるものであり、所管の警察と相談し、内部調査にも着手する、としています。刑事告訴をほのめかし、取材活動の萎縮を意図した恫喝とも受け取れます。公的機関による報道の自由への侵害や内部告発者や内部告発行為への威嚇とも受け取られ、今後の報道の自由、取材活動に多大な制限と影響を与えかねません。

 オリンピック・パラリンピックは、市民の共感、支持があってこそのものです。その運営組織の透明性は不可欠で、メディアの取材活動の範疇です。言論・出版の自由は憲法 21 条で保障されています。組織委の主張は、公的機関からの言論妨害、出版・表現、報道の自由、取材活動に対する重大な侵害にほかならず、メディアで働く労働者として、看過できません。1963 年に日本雑誌協会が制定した雑誌編集倫理綱領の第一項「雑誌編集者は、完全な言論の自由、表現の自由を有する。この自由は、われわれの基本的権利として強く擁護されなければならない」という立場をいま一度、強く支持し、組織委による同誌への発売中止、回収要求に抗議し、即時撤回を求めます。

▼日本ペンクラブ声明:4月6日「東京2020組織委員会は報道統制をしてはならない~マスメディアの多様な報道を求める」

 [またか!]東京2020組織委員会が、また問題を起こしている。今度は週刊文春が開会式内容を報じたことに対して、販売中止・回収・オンライン記事の削除を求め、さらに毎日新聞が非常識な高額日当を基準に会場運営委託費を算定しているのではないか、と報じたことに抗議し、謝罪・訂正を求めている。国立競技場デザイン変更やエンブレム盗用疑惑から始まり、最近の前会長や辞任した開閉会式演出責任者の差別発言まで、いったいどれだけ醜聞をまき散らすつもりなのか。マスメディアが、多額の税金を投入して開催される〝国家プロジェクト〟の内情を取材・報道し、問題点を指摘するのは当たり前ではないか。

※以下[マジか!][落ち着け!]の段落が続きます

 このブログの以前の記事で紹介した朝日新聞と信濃毎日新聞の社説も、リンクを貼っておきます。

▼朝日新聞社説:4月7日「五輪組織委 市民に顔向けて仕事を」
  https://www.asahi.com/articles/DA3S14862472.html

▼信濃毎日新聞:4月7日「組織委の抗議 報道の自由への威圧だ」
  https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021040700125

 

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

news-worker.hatenablog.com