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もはや「改憲」「護憲」の二項対立ではない~世論調査結果からうかがえる民意

 5月3日の憲法記念日に合わせて、マスメディア各社の憲法に関する世論調査の結果が報じられています。目に付いたところでは朝日新聞、毎日新聞、読売新聞が3日付朝刊に掲載。共同通信は1日付朝刊用に配信し、NHKは2日夜、公式サイトにアップしています。朝日、読売、共同は郵送方式で実施。NHKは4月23日から3日間、電話で実施しています。毎日新聞は4月18日に実施した電話調査の中で、憲法についても尋ねたようです。
 憲法改正への賛否について、各調査結果は以下の通りです。
▼朝日新聞
「必要」45% 「必要ない」44%
▼毎日新聞
「賛成」48% 「反対」31%
▼読売新聞
「する方がよい」56% 「しない方がよい」40%
▼共同通信
「必要」24% 「どちらかといえば必要」42%
「どちらかといえば必要ない」21% 「必要ない」9%
▼NHK
「改正する必要があると思う」33%、
「改正する必要はないと思う」20%
「どちらともいえない」42%

 朝日新聞調査だけは賛否が拮抗し、ほかは改憲を是とする回答が、否とする回答を上回っています。朝日新聞と読売新聞は、3日付朝刊に質問と回答の詳細も掲載しているので比較してみました。

 朝日新聞の調査は質問が30以上あり、「いまの憲法を変える必要があると思いますか」は28番目です。その前に、菅義偉政権の支持・不支持に始まって、次の総選挙では投票の際に何を重視するかや、意見が対立する問題は多数決で決めるべきだと思うか、親族や友人など身近な人が政府を批判することにどの程度抵抗があるか、など、実に広範な質問を重ねています。そして、憲法9条の条文を紹介して9条改正の是非を尋ね、自衛隊が憲法に違反しているか否か、現憲法は全体としてよい憲法と思うかどうかの質問に続いて、改憲への賛否を聞いています。ちなみに9条については「変えるほうがよい」30%、「変えないほうがよい」61%、自衛隊と憲法では「違反している」16%、「違反していない」73%、憲法の評価は「よい憲法」57%、「そうは思わない」30%でした。
 読売新聞の調査は、1問目に現憲法のどのような点に関心を持っているかを尋ね、次いで改憲への賛否を聞いています。1問目は19の選択肢を用意し、いくつでも選んで可としています。回答が多かったのは「戦争放棄、自衛隊の問題」(48%)、「環境問題」(43%)、「緊急事態への対応の問題」(43%)、「教育の問題」(33%)、「平等と差別の問題」(32%)などです。
 共同通信の調査結果は、「どちらかといえば」を合わせて改憲が「必要」が計66%に上り、「必要ない」の計30%を大幅に上回っています。質問は、最初に改憲が必要か否かを尋ねています。
 以上のことから、これらの調査結果を踏まえて言えるのは、質問の組み立て方によって回答状況は大きく異なる、ということにとどまるのではないかと思います。
 前振りなしに「憲法改正」と聞いて思い描くイメージがほぼ9条改憲と同義だったのは昔のこと。今は憲法を巡る社会的な関心も、9条と自衛隊以外にジェンダーや多様性の尊重、生存権、環境など広がりを見せ、関心のありようも人それぞれではないでしょうか。わたしは安倍晋三政権時代の衆院解散のありようを見てきて、内閣総理大臣の“解散権”の根拠になっている天皇の国事行為(7条)についての改正議論が必要ではないかと考えるに至っています。
 今や憲法を巡っては、大ざっぱな「改憲派」「護憲派」の二項対立のくくりや、「改憲ありき」あるいはその逆の「改憲絶対反対」の姿勢にとらわれていては、民意が見えなくなるように思います。憲法の何を、どういう理由で、どういう風に変える必要があるのか、あるいはその必要はないのかを、社会の実態に即して、個々に丁寧に見ながら議論していく必要があると感じます。
 ただし、強調しておきたいのは憲法99条の規定です。

 第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

 政府、政権は憲法を尊重し、その精神を政治によって実現させなければいけません。国会で改憲を発議できる規定があっても、憲法の基本原理、原則に反するような改正は認められないと言うべきです。

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 以下は東京発行新聞各紙の5月3日付朝刊に掲載された、憲法関連の主な記事の記録です。
 菅義偉首相が産経新聞の単独インタビューに応じ、改憲にあまり関心がないとされる評価を打ち消そうとでもするかのように、積極的に発言しているのが目を引きました。主見出しは自衛隊の9条への明記ですが、先に紹介したように朝日新聞の世論調査では、自衛隊は違憲かどうかを尋ねています。「違反している」の回答が16%なのに対し、「違反していない」は73%に上ります。憲法に明記せずとも、自衛隊は十分に国民の支持を得ている実態があります。

▼朝日新聞
1面トップ「男女平等の理念 遠い日本/『女性の自立 応援しなかった社会』」ワッペン・憲法を考える
1面準トップ「改憲『必要』45%『必要ない』44%/9条『変えない』61%」※世論調査本記
社会面トップ「緊急事態下 感じた憲法」「国境を越える異動 米国人の婚約者 入国できぬまま婚姻届」「法の下の平等 風俗店 休業要請に従ったのに」「休業・時短要請 『過剰な制約』応じぬ店も」
社説「コロナ下の憲法記念日 憲法の価値 生かす努力こそ」/『強制型』対策へ一歩/説明責任の持つ意味/首相に課された責務
※世論調査関連記事
3面「権利制限する『緊急事態条項』 『改憲せず対応』54%」」
6~7面詳報・特集「憲法観 安定感と移ろいと」「選択の年 政治への視線は」
9面・記者解説「改憲 拮抗する世論/関心や意識に差 年代でもばらつき」

▼毎日新聞
1面準トップ「改憲賛成48%、反対31%/自衛隊明記 賛成51%、反対30%」※世論調査本記
3面・クローズアップ「漂流する『安倍改憲』/自民党内に司令塔不在」「野党共闘 足並み乱れ警戒」「菅首相 関心低く党任せ」
8~9面・特集「家族の形 年々多様化」「『夫婦別姓』議論 行方は」
社説「コロナ下の自由と安全 民主社会の力を示したい」/憲法で保障される権利/市民参加で両立の道を

▼読売新聞
1面「憲法改正 賛成56%/緊急事態 対応『明記を』6割」※世論調査本記
7面・特集「新たな論点 検討急務」※各党インタビュー
社説「憲法記念日 新たな時代へ課題を直視せよ 緊急事態やデジタルも論点だ」/現実との乖離ないか/各党は具体案を明確に/審査会は本格討議を
※世論調査関連記事
2面「国会オンライン出席 賛成83%」
6面・詳報「危機を意識 改憲派増」

▼日経新聞
2面「コロナ・安保 憲法議論迫る/緊急事態、尖閣対処も想定/個人の権利制限 論点に」
8~9面・特集「私の考える憲法」「憲法のかたち 世界と比較」
社説「人権と公共の福祉をどう均衡させるのか」

▼産経新聞
1面トップ「自衛隊『9条に位置づける』/首相、改憲を衆院選公約/党是実現へ指導力不可欠」※菅義偉首相の単独インタビュー
5面「現状そぐわぬ憲法 衆院選で問う」※菅首相インタビュー詳報
社説(「主張」)「憲法施行74年 抑止力阻む9条は不要だ 菅首相は改正論議を加速せよ」/『同盟拡大』も許さない/コロナ禍が欠陥示した

▼東京新聞
1面トップ「憲法24条 軽視の1年/ジェンダー平等の要請 実現は遠く/政府コロナ対策」
2面・核心「自粛頼み 立憲主義に反する/法整備怠り 個人に責任転換/新型コロナ 政府対応の問題点」※江藤祥平・一橋大准教授インタビュー
13面「木村草太さんおすすめ 憲法を考える4冊」
22面(第2社会)「コロナ禍 侵される生存権/砕米食べる男性『10年後なんて』想像できない」※憲法25条・健康で文化的な最低限度の生活を営む権利
社説(中日新聞と共通)「憲法記念日に考える 人類の英知の結晶ゆえ」/戦争は社会契約を攻撃/平和を道徳だけにせぬ/国民の支持あってこそ