予約システムの不備、東京新聞も架空データで検証取材~メディアのスクラムで圧力に対抗

 防衛省による新型コロナウイルスワクチンの大規模接種の予約システムを巡る欠陥の続きです。

 毎日新聞とニュースサイト「AERAdot.(アエラドット)」が市区町村コードや接種券番号に架空のデータを入力し、システムの欠陥を実証取材していたことに対し、岸信夫防衛相が「悪質な行為」として、毎日新聞社と朝日新聞出版に抗議文を送ったと報じられています。そんな中で、この予約システムをあらためて検証する記事が5月20日付の東京新聞の特報面に掲載されました。「予約サイト 初歩的欠陥」「問題指摘に政府『逆ギレ』」「開発会社顧問は竹中平蔵氏」の見出しが並ぶ見開きの長文のリポートです。中でも目を引いたのは、同紙の記者も毎日新聞やアエラドットと同じように、実際に予約システムに架空データを入力して検証取材を行ったことを明らかにしていることです。一部を引用します。

 東京、埼玉、千葉、神奈川の一都三県の住民を対象とした防衛省の「東京大規模接種センター」の予約サイトを訪れると、最初に、自治体から届いた接種券に記載される「市区町村コード(六桁)」と「接種券番号(十桁)」、それに加えて「生年月日」の三項目の入力が求められた。
 記者は券を持っていないため、適当な乱数字を打ち込み、生年月日は入力できるうち、最も古い「一九〇一年一月一日」を選択。年齢にすると百二十歳だ。認証ボタンを押したところ、あっさり認証され、次の画面へ進んだ。
 (中略)
 あとは「予約する」のボタンを押すだけ。予約が完了の直前まで来て、クリックはせずに画面を閉じた。

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 この検証取材がいつのことか、記事からは分かりませんが、岸防衛相が毎日新聞とアエラドットに抗議を表明した後での記事掲載には、二つの意味があるように思います。
 一つは報道機関の取材として実際に試してみることの重要さです。システムを検証して報じるためにはこの作業はやはり必要だ、ということを東京新聞は示したのだと思います。
 そしてもう一つは、毎日新聞とアエラドットへの抗議が筋違いであることを訴える意味も持つことです。予約の確定までは進まなかったとはいえ、岸防衛相が非難の対象にした行為をあえて繰り返し、記事で明らかにしています。抗議を受けるのは覚悟の上のことでしょうし、毎日新聞やアエラドットを支援する、あるいは両者と同じ立場で防衛相と対峙しようとする、その姿勢の表れと受け止めました。
 仮にマスメディアごとに論調は異なるとしても、社会の人々の「知る権利」や「表現の自由」に奉仕する役割と責任は共通です。公権力の側から不当な圧力があれば、メディアが一致して対抗して本来の役割を果たすべきだ―。言葉が持つ本来の意味での「メディア・スクラム」と言えると思うのですが、東京新聞の報道からはそんな姿勢も感じます。

 実は、毎日新聞、アエラドットと同じタイミングで、日本経済新聞社系の日経BP社が運営するサイト「日経クロステック(XTECH)」にも、予約サイトを使って検証した経緯が掲載されていました。しかし、日経BP社は抗議の対象になっていないようです。そのためか、ネット上でも非難は朝日、毎日に集中しているようで、ジャーナリストの江川紹子さんは「朝日、毎日の両メディアを毛嫌い・目の敵にしている人たちが、『ここぞ』とばかりに大声を上げたのだろう」と指摘しています。
 日経クロステックへの抗議を防衛省が意識的に控えているのだとすれば、その意図は何でしょうか。それが狙いかどうかは分かりませんが、可能性があることの一つはメディアの結束に乱れが生じることです。
 ※江川さんのヤフーニュースのリポートは示唆に富んでおり、一読をお奨めします。
「『ワクチン予約システムに欠陥』~この報道は犯罪?不適切?~メディアへの抗議や批判を検証する」=2021年5月20日
 https://news.yahoo.co.jp/byline/egawashoko/20210520-00238759/

news.yahoo.co.jp

 なお、岸防衛相の抗議に対して、毎日新聞社は19日付朝刊紙面で見解を表明。「17日、予約システムについて『架空の数字を入力しても予約できる』との情報を得た。防衛省はシステムのそうした欠陥について事前に公表しておらず、事実であれば放置することで接種に影響が出る恐れもあり、公益性の高さから報道する必要があると判断。防衛省への取材を進めるとともに、記者が実際に入力して事実であることを確認した」などとしています。朝日新聞出版の見解は、20日付の朝日新聞朝刊に掲載されました。「取材過程での予約は情報に基づいて真偽を確かめるために必要な確認行為で、記事にある通り、確認後にキャンセルしました。政府の施策の検証は報道機関の使命であり、記事は極めて公益性の高いものと考えています」としています。 

 一方、毎日新聞やアエラドットの報道に対しては、防衛省がシステムを改修した後にするべきだった、との指摘、批判をネット上のSNSなどで目にします。なるほどと思わないでもありません。
 この点については、ジャーナリストの津田大介さんも共同通信の取材に同趣旨のことを話しています。

 一方、ネットに詳しいジャーナリストの津田大介さんは「もう少し配慮があっても良かったかもしれない」と話す。理由は、システムの脆弱性を修正前に公の場に出すことで悪用される恐れがあるため。ただ、今回のシステム不備は非常に稚拙なレベルだったとして、2社が報じなくても「いずれネットの掲示板などで検証され、問題化しただろう」とみている。

 その上で「そもそも菅義偉首相が突然、専門官庁でもない防衛省に大規模接種を命じたため、防衛省も振り回され、むちゃな設計のシステムで進めざるを得なくなった。その点が本来批判されるべきだ」と語った。

(20日付 信濃毎日新聞朝刊に掲載)

 ワクチンの接種が喫緊の課題であることに異論はありません。しかし、予約システムの不備を解消できないリスクが明らかになったことは、防衛省による大規模接種はどうやっても混乱の恐れを払拭できないことが明確になったととらえた方がいいように思います。以前からこのブログで指摘しているように、大規模接種はそもそもが菅政権による「自衛隊の政治利用」ではないか、との疑念をわたしは持っています。予約システムの不備は、その無理が露呈したのではないかと思います。

 ※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

 

 産経新聞は20日付で「ワクチン架空予約 『報道の自由』に値しない」との見出しの社説(「主張」)を掲載し、「反社会性」という非常に厳しい用語を使って、毎日新聞とアエラドットの報道を批判しています。一つの意見として、紹介しておきます。
 ※「【主張】ワクチン架空予約 『報道の自由』に値しない」=2021年5月20日

https://www.sankei.com/column/news/210520/clm2105200002-n1.html

 だが一連の報道の反社会性については、アエラドットが「防衛省関係者」の指摘として報じた次の内容が証明している。

 「悪意を持った人物が、乱数的に任意の番号を次々と入力し、全ての枠を占拠することだって出来てしまう」「予約枠だけ占拠して、当日誰も行かなければ、大量のワクチンがムダになりかねない。まさにワクチンテロが出来てしまいます」
 防衛省はシステム改修を行うことを決めたが、報道時点では不正アクセスができるままだった。歯止めがないままの架空入力の手口の実例の指摘は、悪質行為の教唆、奨励と読むことも可能で極めて重大な事態を招きかねない。