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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「大切な命を守れるのか」 限りなく「中止」に近い中日・東京新聞の社説

 新聞各紙の6月1日付の社説、論説で、新型コロナウイルスと東京五輪を取り上げた内容のものがいくつか目に付きました。
 中日新聞は「大切な命を守れるのか」との見出しで、五輪の開催強行に強い疑念を表明しました。記者会見での質問に正面から答えなかった菅義偉首相に対して「開催国の最高責任者として失格」「大会への信頼が得られるはずもない」と厳しい表現で批判しています。「中止」という言葉こそ使っていませんが、限りなく「中止」に近い主張だと受け止めました。東京新聞と共通の社説です。

■中日新聞・東京新聞「大切な命を守れるのか コロナ禍の東京五輪」/専門家の懸念に耳を/意義消え、増すリスク
 https://www.chunichi.co.jp/article/264083?rct=editorial

 新型コロナウイルスの感染拡大がこのまま続けば、今夏の東京五輪・パラリンピックは「安心・安全」とは程遠い大会になる。人の命を危険にさらしてまで、開催を強行することは許されない。
 (中略)
 五月二十八日の菅義偉首相の記者会見は、開催国の最高責任者として失格である。
 緊急事態宣言中でも開催するかを重ねて問われ、最後まで正面から答えなかった。「イエス」も「ノー」も言わないのは、宣言中であっても開催する余地を残したいからだ、と多くの人は思う。
 その一週間前、IOCのコーツ調整委員長が「答えはイエスだ」と開催を明言し、世論の反発を招いている。その二の舞いを避けたかったのだろうが、これほど重要な問題に言葉を濁し、大会への信頼が得られるはずもない。
 競技場に観客を入れることについて、首相がプロ野球などを例に前向きな姿勢を示したことにも驚いた。「本当に人々の命が守れるのか」と問いただしたい。専門家の警告に、真摯(しんし)に耳を傾けるべきである。
 (中略)
 開催の意義は色あせ、リスクばかりが増大している。そして政治と行政が大会を特別扱いし、優先する姿勢が、国民の拒否感に輪を掛けている。
 五月に本紙が行った都内有権者への意識調査で、「中止」を求める声は60・2%に達した。
 こうした民意に背を向けて開催を強行し、感染が拡大する事態になれば、日本の政治、世界のオリンピズムは取り返しの付かない不信にまみれるだろう。
 何より大切なのは、人々の命と健康だ。開催できるのは、それが守られるという確信を多くの人が共有した時だけである。

 神戸新聞、愛媛新聞は、緊急事態宣言を巡って、解除の時期が「五輪ありき」で7あってはならないと、クギを刺しています。

■神戸新聞「緊急宣言再延長/明確な出口戦略示すべき」
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/202106/0014376065.shtml

 宣言の期限は東京五輪の開幕1カ月前だ。しかし解除については「五輪ありき」の判断は許されない。各指標がどうなれば解除するのか。解除後の感染対策や検査体制をどうするのか。科学的な裏付けは欠かせない。政府と自治体は緊密に連携して情報を分析し、明確な出口戦略を打ち出すべきだ。

■愛媛新聞「緊急事態宣言延長 五輪ありきを排して対策強化を」

 3週間の延長幅は東京五輪の開催に向け、菅義偉首相がぎりぎりのタイミングと判断したのだろう。ただ、この期間で思惑通り下火に向かうかどうかは見通せない。感染力が高い変異株の急速な拡大が不安材料だ。現在猛威を振るう英国株より脅威とされるインド株も出現し、置き換わりが進む可能性も高い。
 感染者数が十分下がりきらない中で解除すれば再び大きな感染の波を引き起こしかねない。そんな状況で五輪を開けば、日本を中継地にして世界中にウイルスを拡散させる恐れがある。解除するには感染対策の徹底やワクチン接種の効果で、感染者数の減少をはっきりと示す必要があり、五輪ありきで突き進むことは認められない。

 福井新聞も宣言の解除の時期を巡り、五輪・パラリンピックに触れています。

■福井新聞「インド株対策 夏の『第5波』阻止へ動け」

 https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1328649

 一方で宣言対象地域では酒類を提供する飲食店などへ引き続き休業要請する一方、百貨店などには平日の時短営業を認めるという。多くの人が集まる場所をなくせば人出も減り、マスクを外して飲食したり、会話したりする機会が減るとの効果を狙っての休業要請だったはずが、緩和すればインド株などが広がる可能性が高まる。経済への影響を考慮するだけでなく、東京五輪・パラリンピック開催への布石との見方もある。

 東京都の小池百合子知事は感染者数を見て再び休業要請するか否かを判断するとしている。だが、今の感染状況を下火にするとともに、インド株への備えを固めた上で解除に向かわなければ、夏の「第5波」が現実のものとなりかねない。ここは今まで以上の強い対策が求められる。五輪・パラの可否にも関わる重要局面と受け止めるべきだ。

 準備状況の説明を大会組織員会に求める内容の論説もありました。

■山形新聞「五輪のコロナ対策 素早く丁寧に説明せよ」
 https://www.yamagata-np.jp/shasetsu/?par1=20210601.inc

 東京五輪の準備状況を監督する国際オリンピック委員会(IOC)調整委員会のコーツ委員長が大会組織委員会との合同会議後の記者会見で、新型コロナの感染拡大による緊急事態宣言が発令されている状況であっても開催は可能だと明言。併せてIOCと組織委から最新の準備態勢が具体的に明らかにされた。
 最新の情報が組織委の中で留め置かれたために、国民に懐疑的な見方が広がった面を見過ごすことはできない。組織委は安全安心な大会の準備態勢を常に素早く、丁寧に説明することが必要だ。
 (中略)
 選手以外の大会関係者は当初の半数以下に圧縮済みで、さらに削減する方針も示された。組織委は計画の確定版だけでなく、対策の途中経過など公表できるものは公表するとの柔軟性を持つべきだ。
 各国選手団はじめ大会関係者の来日が感染拡大のリスクを高めると、多くの国民が不安を感じていることも世論調査で分かった。これも組織委の説明不足に一因があるのではないか。

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【写真】東京・千駄ヶ谷の国立競技場

 東京五輪開幕2カ月前の5月23日付で、信濃毎日新聞が「政府は中止を決断せよ」との社説を掲載して以降、五輪の開催可否をテーマにした新聞各紙の社説、論説の掲載が続いています。それらの見出しや、本文のごく一部の紹介をまとめた別記事をアップしました。後世に伝える2020東京五輪の記録の一つになれば、と思っています。随時、追記していきます。

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