沖縄マスコミ労協とMICが連名で「重要土地規制法案」への反対声明を公表

 衆議院を通過した「重要土地調査規制法案」に反対する声明が、沖縄県内のマスメディア労組でつくる「沖縄県マスコミ労働組合協議会」議長と、新聞労連や民放労連、出版労連などでつくる「日本マスコミ文化情報労組会議」(略称MIC)議長の連名で発出されました。

 この法案は政府が安全保障上重要だと判断する施設周辺の土地利用を規制する内容ですが、対象施設の指定をはじめとして、政府が恣意的に運用できる余地が大きいとされ、軍事施設を監視したり注視する住民の行動、さらには報道機関の取材活動にも制約を与えるものだとの指摘があります。特に在日米軍の専用施設が集中し、近年では自衛隊の部隊配備が進む沖縄では、県内全域、全県民が対象とされる恐れが指摘されています。自国民を敵視するに等しいわけで、第2次大戦時の沖縄戦で、日本軍による住民殺害があった歴史を思い出さずにはいられません。沖縄のメディア労組の皆さんがとりわけ強く危惧を抱くのは当然だろうと思います。

 以下に、声明の全文を転記します。 

2021 年 6 月 11 日
「重要土地規制法案」に反対する声明

沖縄県マスコミ労働組合協議会議長 比嘉 基
日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)議長 吉永 磨美
<新聞労連、民放労連、出版労連、全印総連、映演労連、映演共闘、 広告労協、音楽ユニオン、電算労>


 政府が安全保障上重要だと判断する施設周辺の、土地利用を規制する「重要土地調査規制法案」がこのほど衆議院を通過し、参議院での審議が進められている。法案では「重要施設」の周辺や「国境離島等」を「注視区域」「特別注視区域」などに指定して、政府が土地所有者の情報を収集・分析し、重要施設の機能を阻害する行為に対しては利用中止等の勧告や命令を出したり、土地などの買い取りができたりすることとなっている。
 同法案については、衆院内閣委員会などを通じて次々と問題が露呈した。対象となる重要施設は、「自衛隊」や「在日米軍」、「海上保安庁」のすべての施設のほか「政令で定める生活関連施設」とされ、「法令で定める生活関連施設」は法令で定めさえすれば、私有物であってもどこまでも広げることが可能である。国による私権の侵害を可能にしている法案である。「国境離島」等は島そのものが対象となっており、「注視区域」が無限定に拡大される懸念がある。調査対象となる者も土地等の「利用者その他の関係者」と広汎な範囲とされ、土地の利用者・関係者の個人情報や国籍、行動履歴や交友関係など幅広い情報が政府に収集されるおそれがある。またこれらの調査においては行政機関などだけではなく、利用者・関係者自身にも情報提供義務が課され、たとえ自身への調査であっても刑事罰をもって報告が強制される。この法案は、政府が日常的に市民を監視し、個人の尊厳、プライバシーの保護、表現の自由、思想信条の自由など、憲法で保障されている基本的人権を侵害する危険性がある。
 そもそも、このように重要な法案を急いで整備しなければならない安全保障上の問題については、政府も認める通りこれまで確認されたことはなく、立法の必要性すら無い。
 政府による区域指定、調査内容、調査手法、調査対象者に限定がなく、何が「機能阻害行為」に当たるかについても、政府はこれまでの国会審議の中で明らかにしていない。国会によるチェック機能も働かない仕組みとされ、同法案は政府により恣意的に運用される余地が大きい。実質的に政府権力による市民社会・私的領域への侵害につながる内容だ。この法案によって正当な取材・報道活動も「機能阻害行為」として罰則対象にされるかもしれないことが憂慮される。
 罰則を講じて私権を著しく侵害する法律については、民主主義を根拠とした「罪刑法定主義」に乗っ取って、その適用を厳しく限定して事前に明示することが欠かせない。しかし、この法案は区域の指定対象先、阻害事項の内容、調査の基本的事項など、罰則につながる根拠やルールに関しては「基本方針」として政府が決定することになっており、事前に詳しく明示されていない。当たり前の前提を欠いた法案を提出・成立させること自体が民主的な手続きとして不備があるもので、議会制民主主義を愚弄するもので、容認することはできない。
 実際に与党側の質問では、辺野古新基地建設への抗議活動を重要施設への「機能阻害行為」に準ずるものと捉え、法案の適用拡大を求めた発言もあり、運用次第では市民による抗議活動への圧力となりかねない。
 沖縄県マスコミ労協は、沖縄戦時の報道が住民を戦争に動員し、犠牲に追い込む役割を担った反省に立ち、「戦争のために、二度とペンをとらない」という、自らの権力性を深く自覚し、健全に律する姿勢としての命題を掲げている。
 また、沖縄の歴史は公権力の犠牲となる住民の歴史でもあった。沖縄戦の戦闘そのものの悲劇に加えて、安全を保障するはずの日本軍が住民に強いた犠牲があった。米軍統治下では人権すら認められず、民主的制度で生活を守ることが叶わずむき出しの軍事暴力による数々の事件・事故にさらされ続けた経験があった。日本国憲法が適用された日本復帰以降も、国家安全保障の名の下に劣位に置かれる住民の生活は現在も続いている。
 私たちはこれらの歴史に向き合い、人間社会の営みにおける個人の尊厳を求め続ける市民・住民を支え、これに寄り添い、自らも発信することによって、公的権力が市民生活を脅かす危険性に警鐘を鳴らし続けてきた。
 米軍専用施設が集中し、自衛隊基地も展開されている沖縄では、「注視区域」の中に新聞社など報道機関の関連施設も含まれる可能性が高く、日常的な取材・報道活動そのものが政府の監視対象とされてしまう。メディアの労組である「沖縄県マスコミ労協」と「日本マスコミ文化情報労組会議(M I C)」は取材・報道の自由を著しく侵害するおそれのある法案を看過できない。
 「権力の暴走」に値する事案は、直近の出来事でも枚挙にいとまがない。米軍機による低空飛行や不時着も相次ぎ、住民は恒常的な危険にさらされている。航空自衛隊那覇基地は有害な泡消火剤を漏らし、周辺住民を危険にさらしながら、当初は安全だと間違った説明をしていた。報道機関による独自調査を突きつけられて初めて訂正・謝罪した。世界自然遺産登録を目指す地域への米軍の廃棄物について調査する研究者に対し、沖縄県警は強制捜査を行った。「重要土地規制法案」の先取りとも指摘される動きは、同法案の危険性を浮き彫りにしている。
 「特別注視区域」として想定される宮古島への陸自配備の過程においては、首長が用地選定の口ききをしていた一方で、反対派住民の声には全く耳をかむけることなく、駐屯地が稼働してから多くの問題が発生している。
 公職にあった者として「私腹を肥やすために島を売った」との批判は免れないだろう。指摘された問題の多くが住民の監視の目から表面化した部分も多い。まさに宮古島にとっては首長逮捕という現実からも、問題を指摘する住民の目線は必要不可欠だ。それを規制するための都合のいい法案が成立することは島民の声を権力で押さえつけることに等しい。
 辺野古新基地については、陸上自衛隊と海兵隊が陸自「水陸起動隊」の常駐について極秘合意していたことも報道によって明らかとなった。防衛省全体の決定を経ておらず、軍事に対する政治の優先を意味する文民統制(シビリアン・コントロール)を逸脱する事案だ。
 公権力に向き合う沖縄のメディアとして、これまで日米地位協定上でどう米軍の行動を管理していくか、という同盟国との政軍関係を問う課題に、自国の「軍事力」の統制、という論点も加わっている。対外的な国家主権の発動として保持される「軍事力」が国内に向けられた時、その指揮命令系統における責任の所在を明らかにすることが必要だ。沖縄にとっては、政治・権力の暴走を許さず、国家の暴力性を律する仕組みとして人類が積み重ねてきた立憲主義的な姿勢を踏まえ、住民の安全保障にとって真に必要な報道に取り組む。
 元々住民の生活があった土地を、米軍が違法に強制接収した背景もあるなかで、後からできた基地を不可侵とするならば、今回の法案は、沖縄にとって実質的な「基地の拡大」だ。今回の法案は、そうした監視や注視する住民の行動、さらには報道機関の取材活動にも制約を与えるものだ。ドローン規制法による「空域規制」に続く、「陸域規制」との指摘もある。
 政府には国家の安全保障だけではなく、人々の暮らしを守る人間の安全保障についても責任がある。政府には政治・外交努力による課題解決に充実した手腕を発揮し、安易な軍事的解決によって国民生活に犠牲が及ぶ過ちを繰り返してはならない。そして何が重要かを決めるのは政府だけではない。国民を監視の対象とするのではなく、主権者として重層的な安全保障環境を構築する担い手とするためにも、知る権利などを通じた市民領域の強化が求められる。
 この法案は国内全体の市民生活に多大な影響を与える懸念がある。重要施設には、「自衛隊・在日米軍」「海上保安庁」のほか、「生活関連施設」が含まれるが、原子力発電所など原子力関連施設に限らず、ガス・水道施設、鉄道や放送局など市中に数多くある民間施設も含まれる可能性があり、適用される区域は沖縄など一部地域に限らない。根拠の不確かな法案が、適用範囲もあいまいなまま、一般市民の人権や報道や表現の自由を不当に制限するようなことは絶対に許されない。2021 年版世界報道自由度ランキングで日本は 71 位、G7内では最下位だ。国際人権規約にも反する本法案は外国人記者の取材活動,個人情報にも影響し、国際社会からの批判をも遮り、孤立へ繋がる可能性もある。
 沖縄の体験に照らし、再び不名誉な惨禍につながりかねない「重要土地調査規制法案」は、廃案にすべきである。


                              以 上

 ※日本マスコミ文化情報労組会議 

https://www.union-net.or.jp/mic/