これでは「あきらめの五輪」~政府、組織委の説明に納得せずが7割(NHK調査)

 NHKが6月11~13日に実施した世論調査の結果が報じられています。
 ※「菅内閣『支持』37% 『不支持』は45%で内閣発足以降最も高く」=2021年6月14日
  https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210614/k10013083971000.html

 東京五輪についての設問は二つ。どうするのがいいかは、「これまで通り」「観客数を制限」「無観客」「中止」の4択で尋ねています。結果は以下の通りです。5月の前回調査でも同じ尋ね方をしていますので、前回調査からどう変わったかが分かるように、前回調査の結果と今回の結果を並べました。

▼東京五輪・パラ 観客をどうすべきか(5月と6月)
これまで通り       2%→ 3%
観客の数を制限して行う 19%→32%
無観客で行う      23%→29%
中止する        49%→31%

 5月の前回調査と比べると、中止するは49%から31%に大幅に減り、かわって観客数を制限は19%から32%に、無観客も23%から29%に増えました。
 要因としては、新型コロナウイルス対策でワクチン接種が始まったことが挙げられますが、菅義偉首相も大会組織委もIOCも「どうしてもやる」「何があってもやる」との方針を崩さず、それが繰り返し報じられていることも大きいのではないかと感じます。「有観客」の方が「無観客」よりも増え方が大きいのは、最近になって菅首相が有観客に意欲を示していると、盛んに報じられていることと符合しているのでしょうか。

 なお、設問の文章がどのようなものか、必ずしも明らかではないのですが、NHKのサイトでは「東京オリンピック・パラリンピックの観客の数について、IOC=国際オリンピック委員会などは今月判断する方針です。どのような形で開催すべきだと思うか聞きました」となっています。観客の数が月内に決まることを前提に尋ねており、選択肢に「中止」を入れるのが適切なのかどうか、疑問に感じます。まず、「今夏の開催」か「中止」を尋ね、次いで「開催」と答えた人を対象に、今まで通りか、観客数の制限か、無観客かを聞く方が、調査としては丁寧なはずです。
 「中止」を入れるのなら「延期」も入れるべきだ、という考え方もあります。「本当は延期するのがいいと思うが、どうしても今年開催なら、無観客で(観客数を制限して)」という考えの人もいるはずです。
 NHKの記事では、各回答の比率だけが報じられていますが、他メディアで見かける評価として、「観客数制限」と「無観客」を合計して「開催」とみなす手法があります。しかし、上述のように尋ね方や選択肢のたてかた次第で回答状況は変わる可能性があります。

 NHKの調査のもう一つの設問は「東京大会を開催する意義や感染対策について、政府や組織委員会などの説明にどの程度納得しているか」です。「納得している」が「大いに」「ある程度」を合計して25%なのに対し、「あまり納得していない」42%、「まったく納得していない」27%の合計は69%と、「納得していない」が圧倒しています。

▼大会開催意義などの説明納得度(6月)
大いに納得している        2%
ある程度納得している      23%
あまり納得していない      42%
まったく納得していない     27%

 開催地の東京では、「あまり納得していない」が44%、「まったく納得していない」が30%で合わせて74%。4人のうち3人が「納得していない」とのことです。
 先述のように、「中止すべきだ」との意見はこの1カ月で18ポイントも減りました。設問の適否の問題はあるにしても、東京五輪の今夏開催を容認する人が増えたことは間違いがないでしょう。しかし、東京大会の意義や感染対策についての説明に納得しているかどうかは別のようです。首相も組織委も東京都もIOCも「どうしてもやる」「何があってもやる」ということのようだから仕方がない、との民意の「あきらめ」の境地が見て取れるように思います。

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 5月以降の東京五輪を巡る報道をいくつか振り返ってみます。

  • IOCのジョン・コーツ調整委員長(IOC副会長)が5月21日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言下にあっても大会を開催するかを問われ、「答えはイエスだ」と明言した、と報じられました。緊急事態宣言は、法に基づいて日本政府が発令しています。海外からの選手らの出入国の可否も日本政府が権限を持っています。コーツ発言は日本の国家主権にかかわるのですが、菅首相をはじめ日本政府は問題視しないようでした。
  • 信濃毎日新聞が5月24日付の社説で、日本の新聞では初めて東京五輪の中止を求める社説を掲載しました。その後、西日本新聞、沖縄タイムスが続き、26日付で朝日新聞が「中止の決断を首相に求める」との社説を掲載しました。発行元の朝日新聞社は大会のオフィシャルパートナー(公式スポンサー)です。
  • IOCの最古参委員、ディック・パウンド氏が、「週刊文春」のインタビューに対して「菅首相が中止を求めても、大会は開催される」などと述べたことが、5月26日に報じられました。コーツ発言以上に、直接的に日本の国家主権にかかわる発言ですが、やはり日本政府は傍観者でした。パウンド氏は英紙の取材に「アルマゲドン(世界の滅亡)にでも見舞われない限り、東京五輪は計画通りに開催される」と話したとも報じられています。菅首相は28日の会見で、本当に緊急事態宣言下でも開催されるのかを問われても、直接答えませんでした。
  • 6月に入ると、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が国会で連日、コロナ禍での五輪開催の強行に対して、「今の状況で(五輪大会を)やるのは、普通はない」「何のために開催するのか、明確なストーリーとリスクの最小化をパッケージで話さないと、一般の人は協力しようと思わない」などと、感染拡大を招く危険性を訴え、万全の対策を取るよう訴えました。しかし、菅政権は危機感を共有してはいないようです。丸川珠代・五輪担当相は4日の記者会見で「全く別の地平から見てきた言葉をそのまま言ってもなかなか通じづらいと実感する」と話しました。科学的な見地からの言葉が通じない「全く別の地平」とは、独善ぶりがうかがえる非常に正直な表現だと思います。
  • 菅首相は7日の参院決算委員会で重ねて問われた末に「国民の命と健康を守るのは私の責任だ。守れなければ(五輪を)やらないのは当然のことだ」と述べました。渋々、「中止」に言及した形ですが、9日の党首討論では「安全・安心」が具体的に語られることはありませんでした。開催の意義をどんな言葉で説明するか、準備の時間は十分にあったはずですが、57年前の東京大会の感動をもう一度、と、ノスタルジックな個人の思いを長々と口にしただけ。「東洋の魔女」に「回転レシーブ」、「アベベ」に「ヘーシンク」。当時を知る年配者ならともかく、若い世代がどれだけ共感したでしょうか。

 1カ月以上もこうした状況を目にしていれば、「どれだけ反対があっても、何があっても五輪は開催されるのだな」と思うようになったとしても不思議はありません。開催に反対だったとしても、止められないのであれば、次善の選択として、無観客での開催や観客数を制限しての開催に意見が変わることは十分にあるだろうと思います。
 表面的には開催への支持が増えているように見えても、内実はあきらめの境地が相当程度を占めているのかもしれません。そんな「あきらめの五輪」でいいのでしょうか。JOC理事の山口香さんが共同通信のインタビューで話した言葉が思い起こされます。
 「応援したかった人が大勢いたにもかかわらず、あえて敵をつくるやり方をしてきたことが残念だ」

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【追記】2021年6月16日7時30分
 五輪開幕前2カ月の5月23日付以降、新聞各紙の社説、論説のうち五輪に触れた内容のものを随時更新で記録しています。 原則として、各紙のサイトで読めるものです。
 6月15日付では、G7首脳会議で五輪開催に各国首脳の支持を取り付けたとされていることに、読売新聞、産経新聞は日本は大会の成功へ大きな責任を負った、と位置付けています。

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