G7声明の英文サマリーに「東京五輪」は見当たらない~「全首脳から力強い支持」の“水増し感”

 これは一体、どれほどのニュース・バリューなのでしょうか。先日のG7首脳会議に出席した菅義偉首相が、東京五輪の開催に対して「全首脳から大変力強い支持をいただいた」と成果を誇り、首脳声明(宣言)にも開催への支持が盛り込まれた、と大きく報じられたことです。首脳声明の原文、サマリーや、菅首相の各国首相との個別会談の内容を見てみると、どうも実態よりもその意味合いが誇張されて伝わっているのではないか、と感じます。言葉は悪いのですが、わたしには“水増し感”があります。

 ▼声明の「結語」に2、3行
 首脳声明は外務省のサイトで見ることができます。英語の原文、その日本語訳、日本語の骨子、英語のサマリーの4種が用意されています。
 ※G7コーンウォール・サミット(概要)
 https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page1_000989.html

 骨子を見ると声明の構成が分かりやすいのですが、「前文」に続いて「保健」「経済回復及び雇用」「自由で公正な貿易」「将来的な先端領域」「気候変動・環境」「ジェンダー平等」「グローバルな責任及び国際的な行動」の各テーマが並び、最後に「結語」があります。「気候変動・環境」と「グローバルな責任及び国際的な行動」はさらに小テーマに分かれています。さて、東京五輪開催への支持はどのテーマで扱われているのか。どこにもありません。答えは「結語」です。以下は日本語訳です。

結語
70.コーンウォールにおいて、我々は、G7のパートナーシップを再活性化した。グローバルな行動のための我々の共通のアジェンダは、我々が本年そして将来の議長国の下で引き続き協調していく上で我々が共有するビジョン及び目標を示すものである。我々は、そうする中で、より良い回復を確実なものにするため特にG20サミット、COP26、CBD15及び国連総会において他の国々と合流するのを楽しみにし、また、新型コロナウイルスに打ち勝つ世界の団結の象徴として、安全・安心な形で2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を開催することに対する我々の支持を改めて表明する。
 ※「70.」は段落の通し番号です。

 英語の原文は25ページ、日本語訳は33ページ。東京五輪はその最後の最後に2、3行だけ記載されています。わたしはこうした外交文書の体裁に詳しくはないのですが、首脳会議のテーマの一つとして話し合われ、その成果が盛り込まれた、という扱いとは異なるように思います。まさにここに書かれているように、G20サミット、COP26、CBD15や国連総会で、他の国々と合流するのを楽しみにしているということと同程度の、いわば儀礼的な賛意であって、それ以上でも以下でもないように感じるのですが、どうでしょうか。ちなみに、日本語の骨子には東京五輪のくだりはありますが、英語のサマリーにはありません。そのことだけで、日本とG7の他国との間に、東京五輪に対して温度差があることが分かるように思います。

※【骨子】G7コーンウォール・サミット成果文書
 https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100200458.pdf
※Summary of Carbis Bay G7 Summit Communique(サマリー)
 https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100200010.pdf

 ▼日独会談では話題にならず
 討議を終えた後、菅首相が記者団に話した内容について、例えばNHKは以下のように報じています。
 ※NHK「G7 菅首相 議論を宣言に反映と評価 五輪開催『全首脳が支持』」=2021年6月13日
 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210613/k10013083301000.html

 また、東京オリンピック・パラリンピックについて「感染対策の徹底と安全安心の大会について、私から説明をさせていただき、全首脳から大変力強い支持をいただいた。私自身、改めて主催国の総理大臣として、こうした支持を心強く思うとともに、東京大会を何としても成功させなければならないという思いで、しっかりと開会し、成功させなければならないという決意を新たにした」と述べました。

 首脳声明に開催への支持が盛り込まれたことも含めて、読売新聞は15日付の社説で、以下のように評価しています。

・読売新聞「G7首脳宣言 民主主義諸国の結束を示した」
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20210614-OYT1T50281/

 東京五輪・パラリンピックについて、宣言は「新型コロナに打ち勝つ世界の団結の象徴」と位置づけ、開催支持を表明した。
 日本に対する大きな期待が示されたと言える。政府は、大会の成功に万全を尽くし、責任を果たさなければならない。

 地方紙のいくつかの社説、論説でも、菅首相が各国首脳の支持を取り付けた、との意義付けは共通しています。
news-worker.hatenablog.com

 NHKによると菅首相は記者団に「私から説明をさせていただき、全首脳から大変力強い支持をいただいた」と話したとのことです。参加した英国、米国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、オーストラリアの各首脳との個別会談でそれぞれ話題にし、その場で支持の言葉を取り付けたのか、とも思ったのですが、そうではないようです。
 菅首相と各国首脳の個別会談は外務省のサイトに概要が掲載されています。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page4_005342.html

 そもそもイタリアのドラギ首相とは個別会談がなく、またドイツのメルケル首相との間では、東京五輪は話題に上らなかったようです。ただ、首脳声明に盛り込まれたのは事実なので、「全首脳から大変力強い支持をいただいた」と話しても、ウソではないでしょう。また、以下のような報道もあります。

 ※日経新聞「首相、五輪開催へG7で決意 『強力な選手団派遣を』」=2021年6月12日
  https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE11EZL0R10C21A6000000/

 各国首脳に「強力な選手団を派遣してほしい」と呼びかけた。「世界のトップ選手が最高の競技を繰り広げることを期待している」と言及した。日本政府によると、参加した首脳から「全員の賛意を代表して、大会の成功を確信している」との発言があった。

 「全首脳」の「大変力強い支持」とは、このことを指しているのかもしれません。「全員の賛意を代表して」とのことですので、やはりウソではありませんが、やはり誇張を感じます。

 ▼声明の「要旨」
 首脳声明の記載に戻ります。東京五輪の扱いについて、あらためて朝日、毎日、読売3紙の14~15日付の紙面を見てみましたが、「結語」の最後に短く触れられていることを明記した記事は見当たりませんでした。詳しく報じていたのは、夕刊紙の日刊ゲンダイです。

 ※日刊ゲンダイ「五輪開催『力強い支持』のマヤカシ G7首脳は塩対応だった」=2021年6月15日 

www.nikkan-gendai.com

 実は一般紙でも注意深く目を通せば、それと気づくことは可能かもしれません。それは「首脳声明の要旨」です。写真は東京新聞の紙面に掲載された共同通信配信の「要旨」です。最後の「結び」に東京五輪が出てきます。

f:id:news-worker:20210617002354j:plain

 しかし、一般の人がそんな紙面の隅にまで目を通すかは分かりません。やはり記事で明記した方がいいと思います。菅首相の誇らしげな発言と、宣言の中での扱いとを対比して、人それぞれに思うこと、感じることがあるのではないでしょうか。それだけの意味がある要素です。