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勝者はいなくても自民は大敗~都議選で示された民意に大きな変化の予感

 東京都議選が7月4日、投開票されました。主な党派別の結果は以下の通りです。

  •  改選前第1党の都民ファーストの会は45議席から31議席に減
  •  4年前の前回、歴史的大敗を喫した自民党は25議席から33議席になり第1党に
  •  公明党は現有議席数と同じ23人が立候補し全員当選
  •  共産党は改選前18議席に1議席上積みし堅調
  •  立憲民主党は改選前8議席をほぼ倍増させて15議席

 告示前は、都民ファーストの会が大幅に議席を減らし、自民党がその分、復調して、自公で過半数を押さえる―との観測が大勢を占めていました。しかし、終わってみれば自民党はさほど伸びない一方で、都民ファーストの会は後退戦ながら善戦したと言えそうです。選挙協力を試みた共産、立民は堅調ないし躍進ですが、議席数そのものは自公に水をあけられています。
 誰が勝ったと言えるのか、よく分からない結果になりました。東京発行の新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京の6紙)の5日付朝刊では、6紙とも主見出しは「自公過半数届かず」でそろいました。極めて異例のことだと感じます。ニュースとは本来「~であること」です。「自公が過半数を獲得した」ならニュースです。「~でないこと」は仮にニュースであっても副次的なのですが、それを主見出しに持ってくるしかないこと、しかも全紙そろって、というところに、この選挙結果の意味づけの難しさが表れているように思います。

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 ただし、誰が勝ったのかはともかくとして「誰が負けたのか」という視点で見れば、自民党が敗北、それも「大敗」と言っていいレベルであることは間違いがないとわたしは考えています。
 そもそも勝敗ラインと位置付けられていた「自公で過半数」に遠く及びません。
 第1党に返り咲いたと言っても「33」は、以下のように過去の獲得議席数に比べれば大敗と呼ぶしかない水準です。
 1997年=59、2001年=53、05年=48、09年=38、13年=59、17年=23
 東京都議選に近接する国政選挙では過去、都議選の結果と傾向が一致することが少なくありませんでした。自民党が都議選で38議席に落ち込んだ2009年には、衆院選で民主党が圧勝して自民党は下野し、政権交代が起きています。「33」はその時よりも少ないのです。

 ことし、衆議院は10月21日に任期満了を迎えます。秋に必ず行われる衆院選はどんな選挙になるのか。そのことを考える上で、都議選の結果は興味深い見方ができることに気付きました(SNS上で友人が指摘しているのが目に止まりました)。
 前回と今回で、都民ファーストの会、自民党、公明党の獲得議席の総計がどのように変わったかの比較です。
・前回2017年
 都民ファースト55、自民23、公明23=計101
  ※都ファは追加公認6を含む
・今回2021年
 都民ファースト31、自民33、公明23=計87

 都民ファーストの会は東京限定の地域政党です。都議選だけを見ていると、自民か都民ファーストか、という構図になるのですが、衆院選ではこの構図はありません。都民ファーストの会は、投票先としては国政では自民党と親和性が高いように思います。言葉を換えると、自民党と都民ファーストの会の間には、立憲民主党や共産党との間ほどの違いはないはありません。
 また、公明党は前回は都民ファーストの会とともに小池百合子知事を支援する勢力でした。そうしたことを考えると、自民党と都民ファーストの会、公明党の議席数の合計が前回から14も減ったことの意味は小さくはありません。コロナ対策やワクチン確保、五輪開催の是非等にとどまらず、もっと大きく、深いところで、有権者が自民党ないしは自民党的なもの、あるいは自公連立政権を見限り始めている可能性があると思います。
 都議選で共産党と立憲民主党の獲得議席数は計34にとどまりますが、衆院選を見据えると、自公、都民ファーストとの議席数差を超える大きな意味があるようにも思えます。衆院選では、野党が票の受け皿をしっかり用意できるかどうかが焦点になります。両党は共闘を模索しています。都議選で示された民意は、そうした動きを後押しするように思います。都議選の投票率は42.39%で前回より8.89ポイント下がり、過去2番目の低さでしたが、受け皿作りが進めば、有権者の関心も高まるでしょう。今後の展開次第で、衆院選で大きな変化が起こる可能性があることを、都議選の結果は示しているように思います。民主主義社会では、政権を担当することが可能な政党を育てるのも主権者の役割だと、あらためて感じます。

 以下に、東京発行の新聞各紙5日付朝刊のうち、都議選の本記の見出しと、総合面の関連記事の見出しを書きとめておきます。

▼朝日新聞
1面「自公、過半数届かず/都議選 衆院選へ打撃/自民33 都民ファ31」
2面・時時刻刻「自公、コロナ逆風」「楽観、ワクチン不足で一変」「小池氏、最終日に都民ファ激励」「野党共闘は健闘、不安も」

▼毎日新聞
1面トップ「都議選 自公過半数届かず/都民ファ 盛り返す/衆院選前 政権に打撃」
3面・クローズアップ「『不在』小池氏 終盤動く」「都民フ陣営 20カ所激励」「自民 想定外の失速」「立憲・共産 共闘手応え」

▼読売新聞
1面トップ「自公過半数届かず/衆院選に危機感/都議選/都民ファ第1党陥落」/「自民幹部『予想外の結果』」
3面・スキャナー「自民 コロナで逆風/五輪対応に批判も/首相 解散戦略に誤算」「小池知事 終盤で都民ファ応援」

▼日経新聞
1面「自公、過半数届かず/都議選 自民第1党、都民ファ拮抗/公明は23人全勝」
2面「自民、衆院選へ懸念/公明との協力 再構築」「立民、候補一本化へ調整/共産と共闘、一定の手応え」

▼産経新聞
1面トップ「自公 過半数届かず/都議選 自民・都民 第一党競る」
2面「自民、衆院選に不安/五輪・コロナ『綱渡り』」

▼東京新聞
1面トップ「コロナ禍 自公過半数届かず/五輪『中止・延期』立共伸ばす/自民第1党 都民ファ続く」「衆院選へ 政権に打撃」
3面・核心「菅自民 コロナの暗雲/迫る衆院選 感染抑え込めず」「野党は共闘に課題」「投票率42%台/過去2番目の低さか」