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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

菅首相のガッツポーズと橋本聖子会長「厳かに」の埋めようがない落差

 ものごとの受け止め方、感じ方は人それぞれであることを踏まえつつ、あまりにも違和感が大きいために、これは記録に残しておきたいと考え、書きとめておきます。
 7月7日の夜、職場で19時からのNHKニュースを見ていたら、東京五輪の日本選手団結団式と壮行会の中継が始まりました。当日の朝刊のテレビ番組欄には予告が入っていたので、当初からNHKニュース内での中継を前提にスケジュールが組まれていたのかもしれません。
 新型コロナウイルス対策として、会場にはごく少数の選手、関係者がいるだけで、代表選手の多くはリモート参加のようでした。結団式に続く壮行会で、菅義偉首相のビデオメッセージが流れました。その様子をスポーツ報知は以下のように伝えています。

 菅首相は64年東京五輪の記憶をひもとき「特に鮮明に覚えてるのは、東洋の魔女と呼ばれた女子バレーボールチーム。回転レシーブでボールを繋ぎ、見事に金メダルを獲得しました。日本人がメダルを取るたびに日本は世界と戦えるんだ、ということを強く感じた」と懐かしそうに振り返った。
 世論の逆風がやまぬ中の開催となる。「世界が新型コロナという大きな困難に直面する今だからこそ、私達が団結してこの困難を乗り越えられることを世界に発信する大会としたい。日本で開催されるオリンピックへ出場する喜びをかみしめながら、世界中のアスリートを相手に自分の力を思う存分発揮し、最高のパフォーマンスを見せてください。頑張れ!ニッポン!」と、ガッツポーズで締めくくった。

 ※スポーツ報知「菅首相が『頑張れ!ニッポン!』とガッツポーズ…五輪壮行会にメッセージ」=2021年7月6日
 https://hochi.news/articles/20210706-OHT1T51172.html

 どうにも違和感を覚えたのは、メッセージに一貫していた歓喜のトーンと、最後のガッツポーズでした。
 折しも静岡県熱海市では、7月3日に発生した土石流災害の捜索活動がこの日も続いていました。壮行会の中継のさなかに、わたしの職場では「新たに2人が死亡」の速報がもたらされました。菅首相のうっすらと笑みを浮かべたガッツポーズと、必死の捜索が続く災害現場の情景とのあまりの落差に、いたたまれない気持ちになり、息苦しさを覚えました。
 この東京大会は「復興五輪」のはずでしたが、菅首相は一言も触れませんでした。

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※写真は日本オリンピック委員会(JOC)のユーチューブチャンネル「JapanOlympicTeam」の動画から
 https://www.youtube.com/watch?v=XZocCAL3Wc0&t=339s

www.youtube.com

※菅首相のガッツポーズは10分35秒のあたりです 

 壮行会は選手を激励する場です。災害発生時であれ、ガッツポーズも別に問題はないのかもしれません。しかし、わたしにはどうしても引っかかることがありました。それは、大会組織委員会の橋本聖子会長が、読売新聞のインタビューで「厳かに」という言葉を口にしていたことです。
 インタビューは7月3日付の朝刊11面(解説面)に「託された開催 日本の信頼に/コロナ禍 五輪の意義」の見出しで掲載されました。この中で橋本会長は以下のように話しています。

 「以前なら、人々にどれだけ大きな感動と歓喜を味わっていただけるかが仕事だった。しかし今、人流増への懸念で、どう祝祭感を抑えるかという、難しい課題に直面している。大会のイメージは、開会式で例えれば、『厳かに』という言葉になるのかと。人々には心の中で、自分自身の思いを握りしめていただく。開催できたことへの、世界の選手たちの感謝とともに」

 また、次のようにも話しています。

 「私たちは、オリンピック・パラリンピックは特別なものと感じ、感動や歓喜の中で過ぎていくのに任せてきた部分があった。今回意義や価値を問われたことは良かったと思う」

 感動と歓喜を凝縮したかのような菅首相のガッツポーズと、橋本会長の「厳かに」との言葉との間にあるこの落差は埋めようがないように思います。