「安全安心」と実態の乖離~東京五輪開幕1週間前の報道の記録

 7月23日の東京五輪開幕まで1週間を切りました。ちょうど1週間前、7月16日付の東京発行新聞6紙の紙面の記録を書きとめておきます。総じて熱気や高揚感とは程遠い紙面です。6紙のうち朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日経新聞、産経新聞の5紙は、発行元の新聞社が大会公式スポンサーに名を連ねています。

■「バブルの穴」
 新型コロナウイルス禍で東京は緊急事態宣言下にあります。その中での開催強行ですので、気になるのはやはり「安全安心」のことです。日本政府も大会組織委員会も、大会関係者全体をバブルで包み込むようにして外部と遮断するので大丈夫、と繰り返し強調してきました。しかし、実態はまるで異なるようです。
 毎日新聞の総合面、クローズアップ「選手団『バブル』穴だらけ」の記事は、「選手団の来日が本格化するにつれて『バブルの穴』が次々と報告されるようになった」「政府関係者らは口々に『空港が大変なことになっている』と語る」として、選手団が押し寄せる空港では、数時間に及ぶこともある検査の結果待ちに疲れた選手らが自由に動き回ったり、マスクを外して談笑したりしている光景が見られると紹介しています。ルールブックで行動を厳格に規制しても、それが守られるかどうかは別問題であって、「机上の空論」との危惧が現実のものになっています。
 産経新聞も1面の記事「五輪水際対策 正念場」の記事で、宿泊先と勤務先以外に外出できないはずの関係者が外出している様子が報道されたことに触れ、監視策を取っても「最後は各自の規範意識に委ねられる部分も大きい」ことを指摘しています。
 朝日新聞は社説「バブルの穴 尽きぬ懸念」で取り上げ、事前の説明と実態のあまりの乖離に「まさか、その場しのぎの弁明だったというわけではあるまい」として、確実な履行を求めています。
 この「バブルの穴」は1日遅れですが、読売新聞も17日付の朝刊総合面・スキャナー「五輪『バブル方式に穴』/外出申告なし・空港一般客と接近」で具体的な事例を詳しく伝えています。大会関係者が宿泊するホテルに組織委員会が派遣した警備員は、取材に「英語が話せないので行き先を聞けない」「誰が関係者かも知らされていないので、誰を監視すればよいかさえ分からない」と話しています。
 朝日新聞も18日付の1面トップで「五輪来日ピーク 危ういバブル/関係者 ホテル近くで外飲み/隔離中『15分以内の外出可』」の記事を掲載しています。

 毎日新聞の総合面の記事と朝日新聞の社説がともに取り上げているのが、IOCのバッハ会長が7月14日に菅義偉首相と訪問した際のひとコマです。会談後に記者団の取材に短時間応じたバッハ会長は、記者団から「関係者が定められたルールを守っていない」と指摘されると、「日本の国民のリスクとなるような違反があったという報告は届いていない」(朝日新聞社説)と話したとのことです。ルール違反の実態を認めて開き直っているとも受け取れますし、空港やホテルなどの現場の実情がトップに届いていないとも受け取れます。
 いずれにしても「安全」を実感できる状況ではなく、したがって「安心」も生まれない。この建前と実態の乖離は、1週間では埋めようがないのではないかと感じます。

 16日はバッハ会長が広島へ、コーツ副会長が長崎へ、それぞれ赴く日でした。五輪に合わせた休戦期間の初日で、五輪が平和の祭典であることを被爆地からアピールする狙いだったようです。東京新聞は特報面で、被爆者らから反対や疑問の声が挙がっていることを紹介しています。
 結局、バッハ会長は広島で「平和」は口にしたようですが、「核廃絶」には触れなかったようです。被爆者がもっとも願っているのがその「核廃絶」なのに、それに触れずして、広島訪問にいったい何の意味があるのかと、わたしも疑問を持っています。

■疑問だらけの組織委
 毎日新聞だけが報じていますが、開会式、閉会式の音楽を担当する一員である小山田圭吾さんが少年期、障害者の同級生へのいじめに加担し、25年前、その加害行為をインタビューにとくとくと答えている様子が雑誌に掲載されていたことに、ネット上で激しい批判が巻き起こりました。小山田さんは16日夜になって謝罪文を公表。組織委は「反省している」として、音楽担当を継続させることを表明しました。そのことに対して18日現在もSNS上などでは批判が止みません。
 小山田さんが音楽担当を続けるかどうかを決めるのは一義的には本人ではなく、組織委のはずです。日本社会では、相模原市のやまゆり園の入所者が殺傷された事件で明らかになったように、今も障害者差別が厳然とあります。なぜ犠牲者は今に至るも匿名なのか、その一事だけでも問題の根深さ、深刻さは明らかです。五輪、パラリンピックを巡って起きた小山田さんの一件も、対応の仕方によっては、例えばそこに組織委員会がどんなメッセージを発するかによっては、障害者差別にどう向き合っていけばいいのか、多くの人が気付き、考える端緒になりうるのではないかと、わたしは考えていました。しかし組織委の見解は、あまりに他人事に過ぎました。無残です。

 18日にバッハ会長の“歓迎会”を、菅首相や組織委の橋本聖子会長、辞任した森喜朗前会長らが出席して迎賓館で開催する、との報道も17日に流れました。新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、外出の自粛を要請している中で、最悪のメッセージになりそうです。歓迎会はIOCの要求なのか、日本政府や組織委員会のIOCへの忖度なのか。なぜ、だれも止めようとしないのか。
 このような状況でまもなく五輪東京大会は開幕を迎えます。いったい何が起こるのか。大会組織委員会は負っている責任を果たせるのか。その機能を維持できているのか。疑問だらけで心もとない限りです。

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【写真】東京・国立競技場周辺=7月17日午後

 以下に、東京発行6紙の16日付朝刊のうち、五輪関連の主な記事と見出しを書きとめておきます。

▼朝日新聞
 ・1面・東京・国立競技場近くの五輪マークの夕景写真:「五輪 あと1週間」の見出し
 ・2面「『開催だけが目的』漂う無力感」「実務担う組織委 目指した『変わる五輪』阻まれ」「選手らは 予選・事前合宿中止■実戦不足に不安」
 ・4面「五輪の行動制限『不正 厳格に処分』/丸川担当相、組織委に対応要請」
 ・第2社会面「五輪 サイバー攻撃警戒/『ハッカーにとって祭り』手法試す舞台」「政府内に情報共有の不備も」
 ・都内版「『都民の安全』強調/IOCバッハ会長、知事と会談」
 ・社説「五輪まで1週間 バブルの穴 尽きぬ懸念」

▼毎日新聞
 ・1面準トップ「被災ルート 組織委認めず/聖火・福島ン 非難指示理由に」
 ・3面クローズアップ「選手団『バブル』穴だらけ」「専門家 感染拡大懸念」「開催 もろ刃の剣/政権浮揚狙う菅首相」
 ・社会面トップ「震災爪痕 見せたかった/廃屋や更地、『2時46分』の時計/福島・双葉 聖火リレー幻のルート/『これで良かったのか』」
 ・第2社会面
 「『ママアスリート』当たり前に/娘のため 違和感ある肩書き背負う/陸上100メートル障害 寺田明日香」
 「五輪中止求める45万人署名提出」/「いじめ告白『炎上』/開会式楽曲担当 小山田さん/90年代の記事」/「IOC会長が都知事と会談」

▼読売新聞
 ・1面
 トップ「濃厚接触の選手 出場可/東京五輪 6時間前『陰性』で/政府・組織委」
 「なでしこ 決戦の地へ/21日カナダ戦/開幕まで1週間」/「聖火台 観覧自粛」
 ・社会面
 トップ「五輪ハッカー警戒/競技場 照明ダウン?/測定システム 不能?/対策担当リスト流出」/「平昌では発券トラブル」
 「聖火 東京の島々回る」/「『日本の皆さん リスクはゼロ』/バッハ氏、都知事と会談」

▼日経新聞
 ・1面「五輪開幕まで1週間」
 ・3面「五輪交通規制が拡大/会場周辺は進入禁止 宅配便に遅れも」
 ・社会面
  トップ「観客『直行直帰』悩む宮城/プラカード誘導、10キロ先の駅へ送迎/地元、歓迎と不安交錯」/「開会式の都心飛行経路公表 ブルーインパルス」
 「五輪、競技参加認めず/規則集違反で『農耕接触』選手/組織委調整」/「バブル方式、実効性焦点/選手・関係者、続々と入国」

▼産経新聞
 ・1面「五輪水際対策 正念場/選手ら5万人 入国本格化/開幕まで1週間 首相、成田空港視察」/「臨海部の聖火台 観覧自粛を要請」
 ・社会面トップ「おもてなし コロナ禍でも/対面中止 選手と新たな交流/展示中心で日本文化PR 浅草などバスツアー計画」/「バッハ会長 有観客要望/感染改善なら、首相に」

▼東京新聞
 ・1面「『中止決断を』45万筆/IOCと都に署名を提出」ワッペン・五輪リスク
 ・2面
 核心「日本と英米 観戦風景に差/五輪無観客の一方…ノーマスク満員/背景にワクチン摂取率、医療システム」
 「バッハ氏『観戦改善なら観客入れて』首相と会談時要望」/「『公益情報公表を』/来日選手感染 詳細明かされず」/「感染防止策の徹底 IOCに協力要請/小池氏、バッハ氏と会談」/「相次ぐ規則集違反 厳格な処分求める/五輪相、組織委側に」
 ・特報面「被爆者ら疑問『賛成できない』/口先だけ『平和』を利用するな/バッハIOC会長 きょう広島へ/76年前 人類初核実験の日」「広島・長崎 五輪共催希望には難色/コロナ禍最中 人権・命ないがしろ/核禁条約や『黒い雨』救済 国も冷淡」
 ・社会面
 トップ「夢に挑む道 格差なくして/パラ選考大会 途上国選手参加できず/『頑張った人 報われるように』」/「ラオスの草の根 日本から育てる」
 「福島第一原発作業 大会中は一部停止」/「ブルーインパルスが五輪・パラ開会日飛行/都内、密回避へ時間は当日発表」