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コロナ感染急増と東京五輪と首相の楽観姿勢~新聞各紙の社説、論説

 新型コロナウイルスの感染者が急増し、7月28日に全国で9500人超に達しました。この問題を取り上げた29日付の新聞各紙の社説、論説を見ると、東京五輪の開催強行が人出の抑制を妨げている可能性を指摘したり、菅義偉首相の対応に危機感が欠けていることを批判したりしている内容のものが少なくありません。一方で、別の記事でも触れていますが、読売新聞と産経新聞は、五輪開催とのかかわりには言及がありません。
 以下に、目に止まった社説、論説の見出しと本文の一部を書きとめておきます。いずれも7月29日付です。

▼朝日新聞「感染者の急増 社会で危機感の共有を」
 https://www.asahi.com/articles/DA3S14991877.html

 政府・都は外出自粛や移動の抑制を求めながら、五輪という巨大イベントを強行し、祝祭気分を醸し出してきた。この矛盾がさまざまな場面で噴出。繰り返される宣言への慣れや、酒類の提供停止をめぐる失政への反発も重なって、行政の要請に協力しようという意識は極めて希薄になっている。
 自分たちの振る舞いによって、自分たちの言葉が市民に届かない。まずその自覚を持ち、これまでの判断ミスを反省したうえで、状況の改善に当たらねばならない。五輪についても、首相が国会で表明した「国民の命と健康を守っていくのが開催の前提条件」という約束にたがわぬ対応をとる必要がある。

▼毎日新聞「五輪さなかの第5波 首相の楽観姿勢を危ぶむ」
 https://mainichi.jp/articles/20210729/ddm/005/070/126000c

 感染者数を抑えない限り全体の入院患者は増え続け、いずれは医療体制に限界が生じる。
 にもかかわらず、菅義偉首相の対応には危機感が感じられない。
 感染者急増にも「不要不急の外出を避け、オリンピックはテレビで観戦してほしい」と呼び掛けるにとどまっている。
 五輪については、「人流(人出)は減少しており、心配もない」と中止の可能性を排除した。
 だが、人出は前回の宣言時ほどには減っていない。感染力の強い変異株の広がりも懸念材料だ。
 大会組織委員会は感染状況に大きな変化が生じた場合、都や政府などを含めた「5者協議」で対応を議論するとしている。事態の推移を注視して臨機応変に対応する必要がある。

▼読売新聞「コロナ急拡大 局面を見極め対策切り替えよ」
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20210728-OYT1T50517/

 感染者数が増加するたびに、宣言の延長や自粛要請の強化を繰り返すだけでは解決にならない。
 店内の感染対策を十分に講じている飲食店には、酒類の提供を認め、資金面でも支援してはどうか。ワクチンの接種や検査を受けた人が優先的に店を利用できるような仕組みの導入など、メリハリの利いた対策が重要になる。

▼産経新聞「コロナ感染急拡大 基本を見直し抑止を図れ」
 https://www.sankei.com/article/20210729-FGV4KNTNGBIVNJMK32RMCB7B2M/

 東京都と政府は「人流の抑制」を都民、国民に要請する一方で、市中感染の拡大につながりかねない自宅療養の解消には、まともに取り組んできたとはいえない。
 お盆を控え、感染拡大の全国への波及も食い止めなければならない。そのために、蔓延防止等重点措置の対象を全道府県に拡大しておくことを提言する。
 道府県内で一律に強いコロナ対策を行う必要はない。たとえば新規感染者が1桁から2桁に増えた段階で、市町村単位で迅速に対応するためである。重点措置を機動的に運用することで、地方のコロナ対策を支えたい。

▼秋田魁新報「コロナ感染急拡大 楽観捨て対策に本腰を」
 https://www.sakigake.jp/news/article/20210729AK0009/

 菅首相と小池百合子都知事が口をそろえて東京五輪のテレビ観戦を呼び掛けている。そんな訴えだけで人出が抑制されるとは到底思えない。
 都内の繁華街の人出は宣言後にやや減少しているとはいうものの、過去の宣言時と比べて減り方は小さいという。夏休みが始まり、無観客とはいえ五輪競技の熱戦が繰り広げられる都内では、高揚した気分の広がりもあって人出の抑制はますます難しくなっているのではないか。

▼山形新聞「コロナ感染最多 対策を総動員する時だ」
 https://www.yamagata-np.jp/shasetsu/?par1=20210729.inc

 首相は8日、都内への4度目の緊急事態宣言発令に際して「東京を起点とする感染拡大は絶対に避けなければならない。先手先手で予防的措置を講ずる」と強調したが、現時点では果たせなかったと言わざるを得ない。発令2週間後には宣言の効果により感染者は減少傾向になる前例が多い。今回逆ベクトルになってしまったのは、五輪開催によるお祭りムードもあって人流を抑え切れなかったためではないか。

▼信濃毎日新聞「コロナ感染最多 甘く見過ぎていないか」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021072900181

 急拡大の様相が顕著になった27日、菅義偉首相は「強い警戒感を持って感染防止に当たっていく」と応じるだけで具体策を示さなかった。記者団に五輪中止の選択肢を問われると「人流(人出)も減っているので、そこはありません」と否定している。
 都内繁華街の人出は宣言後に減っているが、過去の宣言時より鈍い。五輪の会場周辺は人で混雑する状況も生じている。
 しっかりとした分析もなく安易に言葉を使い、誤ったメッセージとして伝わっていないか。五輪期間中、東京から地方に人が流れ、感染を広げていないか。早急に対策を練るべきだ。

▼新潟日報「全国感染最多 首相の認識甘過ぎないか」
 https://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/20210729631607.html

 違和感を覚えるのは、宣言の効果が見えず、医療逼迫(ひっぱく)が起き始めているのに、首相の発言が安心を殊更強調しているように聞こえることだ。
 首相は都内の感染者が最多を更新した27日、「強い警戒感を持って感染防止に当たっていく」と述べた。ただ、「人の流れは減っている。心配はない」とも言い切った。
 ワクチン接種により高齢者の感染が著しく減っているとし、重ねて効果を強調した。
 繁華街の人出はやや減少したとはいえ十分ではなく、感染力が強いインド由来の変異株(デルタ株)が広がっている。
 ワクチンが有効だと言っても2度の接種が済んだ国民は25%にすぎず、未接種者が多い若い世代で感染拡大と重症化が顕著だ。ワクチンの配分不足を巡る混乱も収まってはいない。
 そうした状況下でなぜ首相は「心配はない」と言えるのか。
 首相はまた、五輪中止の選択肢を問われ「そこはありません」と断言した。
 「五輪ありき」で現状を顧みないような姿勢では、国民に感染防止を訴えても危機感が伝わるとは到底思えない。

▼中日新聞・東京新聞「コロナ急拡大 対策を練り直さねば」
 https://www.chunichi.co.jp/article/299914?rct=editorial

 菅義偉首相は、感染拡大に伴い東京五輪・パラリンピックを中止する可能性について「人流も減っている」と否定した。
 四度目の宣言発令後、人出は確かに減っているが、以前の発令時に比べれば減り方は鈍い。専門家会議によると、東京の夜間の人出の減りは前回発令後二週間と比べると今回は二分の一以下にとどまる。人出は減っていないというのが国民の実感だろう。
 人々の間で「コロナ疲れ」が広がり、政府の対策に不安が募っているのに、首相の説明は危機感を欠き、五輪優先の姿勢すら透けて見える。あまりにも不誠実だ。

▼福井新聞「コロナ感染急拡大 ワクチン頼みの無策露呈」
 https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1367022

 首相はワクチン接種に前のめりだが、接種が進む英国や米国では感染力の強いデルタ株で再拡大に見舞われている。首相は少なくとも1回接種した人が全人口の4割に達すれば感染者が減少傾向になるとの見通しを示しているが、あまりに楽観的すぎる。ここに来ての感染急拡大はワクチン頼みの無策が露呈したと言わざるを得ない。

▼西日本新聞「コロナ急拡大 危機感高め対策練り直せ」
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/777163/

 懸念された事態が現実となってきた。新型コロナウイルスの新規感染者が五輪開催中の東京都で連日、過去最多を更新し、地方でも急拡大している。
 専門家は「ワクチン頼みだけでこの危機は乗り越えられない」と警告している。政府は一連の対策が手詰まり状態にあることを直視し、局面打開へ新たな一手の検討を急ぐべきだ。

▼宮崎日日新聞「東京コロナ感染最多 ワクチン頼みの方針見直せ」
 https://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_55188.html

▼南日本新聞「[新型コロナ・東京の感染最多] 原点に戻り対策徹底を」
 https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=141025

 全国でもきのう、過去最多を更新。鹿児島県内も23、25日にクラスター(感染者集団)が相次いで確認され、増加傾向にある。ワクチン接種は各地で進んでいるものの、東京五輪の影響もあり人の流れは抑え切れていない。
 夏休みに入り、お盆の帰省シーズンも近づく。不要不急の外出を控えるなど、原点に立ち返った感染対策を徹底させるよりほかない。

▼沖縄タイムス「[感染者が過去最多]若者に届く言葉 必要だ」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/794610

 心したいのは、今回の急拡大は、友人や知人など県民同士の会食による感染パターンが多いと分析されている点だ。
 緊急事態が5月23日から2カ月以上の長期にわたり、県民の自粛疲れが行動に表れているのだろう。
 初期の緊張感を保ち続けるのは難しい。ただ、気の緩みが健康リスクや医療逼迫(ひっぱく)を招きかねない。玉城知事は、特に若者に危機感が伝わる言葉の発信が必要だ。

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