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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

菅首相「続けてほしくない」65%(共同通信調査)~個人の行動制限の前に、コロナ失政の検証必要

 共同通信が8月14~16日に実施した世論調査の結果が報じられています。8月8日の東京五輪の閉会から1週間のタイミングです。五輪が開催されてよかったと思うかの回答は「よかった」62.9%、「よくなかった」30.8%でした。この1週間前、東京五輪の閉会前後に実施された4件の世論調査(朝日新聞、読売新聞、NHK、JNN)も同じ傾向で、「よかった」は64~56%に上ります。その一方で、菅義偉内閣の支持率は、共同通信調査では前月調査から4.1ポイント減の31.8%でした。先行する4件の調査と同じく、内閣発足以来最低でした。
 共同通信の調査では、9月の自民党総裁選で菅首相が再選されて首相を続けてほしいかを尋ねています。回答は「続けてほしい」27.5%に対し、「続けてほしくない」が65.1%に上りました。菅首相の任期を巡っては、1週間前の読売新聞調査でも「どのくらい首相を続けてほしいと思うか」を尋ねたところ、「すぐに交代してほしい」18%、「今年9月の自民党の総裁任期まで」48%との結果でした。長くても9月の総裁任期までとの回答が計66%であり、共同通信の調査結果とほぼ一致しています。朝日新聞の調査でも「続けてほしい」25%に対して「続けてほしくない」60%でした。
 菅首相は五輪の成功で政権浮揚を図り、党総裁選、衆院選に勝利することを狙っていると、繰り返し報じられてきました。開催前と比べて、五輪開催への評価は好転し、そこは菅首相の思惑通りとなりましたが、政権浮揚に結びついていないどころか、内閣支持率は続落し発足以来最低。民意の大勢は菅首相にもはや期待していないという状況です。
 菅政権への厳しい評価の要因の一つは、新型コロナウイルスの感染拡大でしょう。五輪開催期間中から感染者は急増し、東京や首都圏では医療のひっ迫が深刻になっています。感染は急速に全国へ広がり、17日には、緊急事態宣言の期間延長と対象地域の拡大が決まりました。しかし、感染ピークがいつになるのか、それすら分からない状況です。
 この感染急拡大と五輪開催の強行との関連性について、菅首相も東京都の小池百合子知事もかたくなに否定しています。開催期間前と比べて人の流れは減っている、テレビで観戦した人が多くステイホームに寄与している、などと強弁しています。しかし、共同通信の調査では、五輪開催が感染拡大の一因になったと考えているとの回答が59.8%に上り、JNNの調査でも「そう思う」「ある程度そう思う」を合わせて60%を占めています。朝日新聞の調査では、五輪開催によって外出や会食を自粛するムードがゆるんだと思うか、それほどではないと思うかを尋ねたところ、「ゆるんだ」が61%に対して「それほどではない」32%でした。
 少なくとも人々の主観の問題として、五輪開催と感染拡大に関連があるとの考える人が6割に達し、自粛ムードが緩んだと感じている人が、そうは思わない人の倍に上っているわけです。仮に五輪と感染拡大の明確な因果関係を示すエビデンスが見当たらないとしても、「気の緩み」という心理的な要因がある可能性はコロナ対策の際に十分留意しておく必要があるはずです。こうした民意が示されているにもかかわらず、頭から五輪との関連性を否定してかかる菅首相や小池知事の姿勢は、危機管理の責任を負う立場としては極めて危うく感じます。政府や自治体の指導者がこうした態度では、いくら呼びかけても危機感が社会で共有されない、人々の行動が変わらないのも無理はないように思います。

 感染拡大がやまない現状に、感染症の専門家らからは、個人の行動を制限する仕組みを検討するよう求める声も上がるようになっています。政府の対策分科会の尾身茂会長は17日、報道陣に対し、「単に協力をお願いするだけではこの事態を乗り越えられないことを想定し、法的な仕組みの構築や現行の法律のしっかりした運用について、早急に検討してほしいという強い意見が出た」と説明しました。
 ※NHK NEWS WEB「分科会 尾身会長“一般の人々への行動制限の仕組みづくりを”」
 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210817/k10013207621000.html

www3.nhk.or.jp

 お願いベースの呼びかけだけでは、もはや間に合わないというわけです。しかし個人の行動は私権、人権にかかわることであり、その制限には慎重で抑制的であるべきです。どうしてもそこに踏み込まざるを得ないのであれば、まずこれまでの政府や自治体の対策の不備や、防げたはずの人為的な失政を検証し、責任の所在を明らかにすべきです。
 五輪は開催期間中だけの問題ではありません。昨年の1年延期の決定以降、コロナ対策の節目では「五輪ありき」の判断があり、十分な効果が上がる前に緊急事態宣言が解除される、などの対応がありました。変異株であるデルタ株の感染力の強さを甘く見ずに、五輪の中止ないしは再延期を早期に決断して、社会資源を医療態勢の拡充に充てて感染拡大に備えることも選択肢としてはあったはずです。
 そもそも菅内閣への支持は下がり続け、菅首相には民意の6割以上が続投を求めていない、期待していない状況です。そのような民意の支持を失った政権の下で、コロナの感染拡大に対する危機意識が共有され浸透するかは疑問ですし、ましてやそうした政権が人権の制限の拡大を手掛けるのは極めて問題があると思います。

 17日には、こんなニュースもありました。与党もこうでは、もはや何を言っても説得力はないように思います。
 ※共同通信「自公幹事長ら5人が会食 コロナ禍、SNSで批判も」
  https://nordot.app/800310585497845760

nordot.app

 自民党の二階俊博、公明党の石井啓一両幹事長ら与党幹部5人は17日昼、東京都内の日本料理店で会食した。「不要不急でなく大事な会議だ」(与党幹部)と説明するものの、緊急事態宣言の地域拡大や延長が決まるタイミングでの菅政権幹部による会食。SNSなどで早速批判が上がった。

 以下、8月前半の5件の世論調査結果から、いくつかの問いと回答状況を書きとめておきます。
▼内閣支持率
・共同通信:14~16日実施
  支持 31.8%(4.1P減) 不支持 50.6%(0.8P増)
・読売新聞:7~9日実施
  支持 35%(2P減) 不支持 54%(1P増)
・NHK:7~9日実施
  支持 29%(4P減) 不支持 52%(6P増)
・朝日新聞:7~8日実施
  支持 28%(3P減) 不支持 53%(4P増)
・JNN:7~8日実施
  支持 32.6%(10.1P減) 不支持 63.5%(9.2P増)
▼菅首相の任期
・共同通信:今年9月に菅首相の自民党総裁としての任期が終わります。あなたは菅首相が自民党総裁選で再選され、首相を続けてほしいと思いますか。
 「続けてほしい」27.5% 「続けてほしくない」65.1%
・読売新聞:菅首相には、どのくらい首相を続けてほしいと思いますか。
 「すぐに交代してほしい」18%
 「今年9月の自民党の総裁任期まで」48%
 「1、2年くらい」21%
 「できるだけ長く」8%
・朝日新聞:菅首相の自民党総裁としての任期は9月末までです。あなたは、菅さんには、総裁に再選して首相を続けてほしいと思いますか。続けてほしくないと思いますか。
 「続けてほしい」25% 「続けてほしくない」60%
▼東京五輪が開催されてよかったと思うか
・共同通信 「よかった」62.9% 「よくなかった」30.8%
・読売新聞 「(よかったと)思う」64% 「思わない」28%
・NHK 「よかった」26% 「まあよかった」36% 「あまりよくなかった」18% 「よくなかった」16%
・朝日新聞 「よかった」56% 「よくなかった」32%
・JNN 「開催してよかった」25% 「どちらかといえば開催してよかった」36% 「どちらかといえば開催すべきでなかった」24% 「開催すべきでなかった」14%
▼五輪と感染拡大
・共同通信:あなたは、東京五輪の開催も、新型コロナウイルスの感染拡大の一因になったと思いますか、思いませんか。
 「一因になったと思う」59.8% 「一因になったと思わない」36.4%
・読売新聞:あなたは、東京オリンピックは、菅首相が掲げた『安心安全』な形で開催できたと思いますか、思いませんか。
 「思う」38% 「思わない」55%
・NHK:「安全・安心な大会」になったと思うか。
 「なった」31% 「ならなかった」57%
・朝日新聞①:東京オリンピックは、菅首相の言っていたように、「安全、安心の大会」にできたと思いますか。できなかったと思いますか。
 「できた」32% 「できなかった」54%
・朝日新聞②:この夏にオリンピックを開いたことで、新型コロナウイルス対策のため、外出や会食を自粛する世の中のムードが、ゆるんだと思いますか。それほどではないと思いますか。
 「ゆるんだ」61% 「それほどではない」32%
・JNN:あなたは、今回のオリンピックが感染拡大につながったと思いますか。
 「つながったと思う」20% 「ある程度つながったと思う」40% 「あまりつながったとは思わない」27% 「つながったとは思わない」11%