爆発的感染さなかの「9月解散戦略」「東京の底力」「パラ強行と学校連携観戦」

 新型コロナウイルスの感染者急増は東京から他地域に広がり、政府は8月17日、緊急事態宣言の対象に7府県を追加することを決めました。対象は計13都府県となり、期間は9月12日まで。東京など6都府県では当初、8月31日までとされていました。東京都は4回目の宣言で期間延長が2回ということになります。ほかにまん延防止重点措置も10県が追加され、計16道県に広がりました。
 19日に発表された東京の感染者は5534人、全国では2万5千人を超えました。既に首都圏では医療がひっ迫し、入院できない感染者が自宅での待機、療養を余儀なくされ、症状が急速に悪化して亡くなる事例が出ています。何としても、これ以上の感染拡大を抑え込まなければいけないはずですが、具体的な対応策に目新しさは感じられません。それどころか、パラリンピックは無観客を決めただけで予定通りの開催へ突き進んでいます。「9月12日まで」との緊急事態宣言の期間についても、自民党総裁選と衆院解散の日程をにらんだ菅義偉首相の政治的思惑を込めた判断との指摘も報じられています。
 ここ数日の気になる動きを書きとめておきます。

 ■9月解散戦略
 菅首相は17日の記者会見で、対策として①医療体制の確保②感染防止対策③ワクチン接種―の3本柱を進めることを強調しました。①では、自治体や医療機関と連携して自宅療養者に必ず連絡を取れるようにすること、病床の確保に努めることなどを挙げました。「いまさら」感しかありません。東京の感染爆発は五輪期間中に始まっていました。感染力が強い変異株の脅威を見誤っていなければ、五輪開会前にでも、医療体制の拡充が必要との判断は可能だったはずで、その時間もありました。②の感染防止対策も、宣言地域では新たにデパートやショッピングモールの人数制限を呼び掛けていくとしたほか、旅行や帰省は控え、日々の買物などの外出も半減させるよう要請しました。しかし、支持率が続落している菅政権のこの程度のメッセージに、どれだけ実効性が期待できるか疑問です。
 18日付の朝日新聞朝刊(東京本社最終版)は総合面に連載企画「漂流 菅政権 コロナの時代」の初回を掲載。「延長12日間 透ける再選戦略/総裁選前の解散 余地残した首相」の見出しで、9月12日までとの宣言の期間が、菅首相の政治判断で決まったとの政府関係者の説明を紹介しています。自民党総裁の任期は9月末。総裁選は9月17日に告示され29日に投開票する日程で調整が進んでいます。菅首相は総裁選前に衆院解散に踏み切り、衆院選に勝利して総裁選を無投票で乗り切る「再選戦略」を持っており、9月12日で緊急事態宣言が解除になれば、17日までの間に衆院を解散するチャンスが残る、というわけです。
 菅首相が9月の衆院解散・総選挙にこだわっているとの同様の見方は、18日付の毎日新聞朝刊も総合面の記事「『9月解散戦略』大誤算」の記事で紹介しています。緊急事態宣言の期間の選択肢として8月31日までの現状維持、9月12日まで、同19日までの三つが示され、田村憲久厚労相はもっとも長い9月19日を主張したのに、菅首相と加藤勝信官房長官は迷わず12日を選んだとのことです
 こうした政界の内情リポートは全国紙の政治報道の得意分野の一つで、実情をほぼ正確に伝えていると思います。この期に及んでも、なおも自身の再選を最優先に考えているのかと思うと、もはや菅首相、菅政権の元では、人命は守れないと考えざるを得ません。
 菅首相と政権が民意の支持と信頼を失っている様子は、8月に入って実施されたメディア各社の世論調査の結果からも明らかです。朝日新聞の記事では、9月解散が不可能になった場合は、党総裁選で菅首相とは別の「選挙の顔」を求める動きが本格化する可能性に触れています。

 ■「東京の底力」って何?
 首都圏では医療の現場はひっ迫しています。東京発行新聞各紙の18日付朝刊は、パラリンピックの人ものの読売新聞を除いて、社会面トップにそろって関連のリポートを掲載しました。以下に見出しを書きとめておきます。
 ・朝日新聞「自宅療養 薄氷の見守り/『息は?』『指先が紫?』看護師の電話切迫/玄関座り込む40台 1カ月前なら入院も」
 ・毎日新聞「自宅療養 足らぬ酸素/往診医『見放される命』憂慮」
 ・日経新聞「救急搬送困難 最多3361件/コロナ第5波 病床余力なく/『一時受け入れ』整備急務」
 ・産経新聞「保健所『もう限界』/鳴り続ける電話/入院調整難航/『死ねというのか』怒鳴られ」
 ・東京新聞「入院『30人待ち』搬送に1週間/『危険な状態に』医師警鐘/神奈川県立足柄上病院 ほぼ満床」

 感染しても医療にアクセスできずに自宅で過ごすほかなく、容態が急変して亡くなるなどの事例も報告されています。

 ▽共同通信「入院先5日見つからず死亡、千葉/中等症と診断」=2021年8月17日
  https://nordot.app/800333864798928896

nordot.app

 千葉県は17日、同日公表した新型コロナウイルス感染の死亡者8人のうち、2人が自宅待機中だったと明らかにした。1人は60代の男性で、8月上旬に軽症と診断、その後中等症と判断されたものの、入院先が見つからないまま9日から酸素投与を受け、自宅待機していた。13日に自宅で倒れているのを発見され、搬送されたが、死亡が確認された。

 ▽NHK NEWS WEB「東京都内 親子3人全員が感染し自宅療養中 40代母親が死亡」=2021年8月18日
  https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210818/k10013209851000.html

www3.nhk.or.jp

 都によりますと、亡くなった40代の女性は家庭内感染で、今月10日に陽性がわかったということです。
 夫と子どもも陽性となり、3人で自宅療養をしていたということです。
 女性は、陽性がわかった翌日、11日に保健所が行った健康観察では発熱とせきの症状があったということです。
 都には、保健所から入院の調整依頼がなかったということで、都は軽症だったとみています。
 その翌日12日に自宅で倒れているのを夫が見つけましたが、すでに亡くなっていたということです。
 現時点で、女性の死因は不明だということです。

 ▽東京新聞「コロナ感染の30代妊婦、救急搬送先見つからず自宅で出産 早産の赤ちゃん死亡」=2021年8月19日

www.tokyo-np.co.jp

千葉県柏市は19日、新型コロナウイルスで軽症と診断され自宅療養中だった30代妊婦が早産となり、入院先が見つからないまま、17日に自宅で出産した男の赤ちゃんが死亡したと発表した。女性は妊娠29週だった。

(中略)市保健所の小倉恵美専門監は「感染した妊婦の入院は産婦人科系と呼吸器系の連携ができる病院でなければならず、受け入れ先を探すのが一層難しくなっていた」と話した。

 菅首相は、7月31日の記者会見での自身の発言を覚えているでしょうか。「もし、この感染の波、止められずに医療崩壊して、救うべき命が救えなくなったときに、総理、総理の職を辞職する覚悟はありますか」と問われ、いったんは答えをはぐらかして終わろうとしたのですが、重ねて覚悟を問われるとこう答えていました。
 「私がこの感染対策を自分の責任の下にしっかりと対応することが私の責任で、私はできると思っています」
 「できていない」としか言いようがないように思います。

news-worker.hatenablog.com

 小池百合子・東京都知事のこの発言も書きとめておきます。
 ▽スポーツ報知「小池百合子都知事、コロナ禍の五輪開催『東京と我が国の底力示した』パラ“必ず成功”強調」=2021年8月18日
  https://hochi.news/articles/20210818-OHT1T51103.html

hochi.news

 東京都の小池百合子知事は18日、都議会の第2回臨時会の所信表明において、新型コロナウイルス禍で行われ、8日に閉幕した東京五輪について「この未曾有の難局の中、歴史に残る祭典を成し遂げたことは、東京、そして我が国が持つ底力を示したものと言える」と述べた。

 五輪開催期間中に、東京の感染拡大は爆発的な状態になりました。いったい何が「底力」だというのでしょうか。暗澹たる気分です。
 菅首相にしても、小池知事にしても、民主主義の正当な手続きを経てその地位にあります。選挙での個々人の投票先いかんにかかわらず、首相も知事も社会の総意として選ばれました。首相や小池知事を批判するだけでは何も始まりません。重要なのは、有権者がその権利を行使すること、選挙を棄権せずに1票を投じることだと思います。

 ■パラ強行、学校連携観戦も
 東京のこの感染爆発の状況でも、パラリンピックは予定通り8月24日に開会するようです。さすがに無観客とすることが決まりましたが、「学校連携観戦プログラム」は実施。つまり児童生徒を集団で観戦させることに変更はないとのことです。
 政府も自治体も住民に移動の自粛を求めている一方で、ワクチン未接種の子どもたちだけは例外とする理由は何でしょうか。何よりも、ひとたび感染したら今は医療にアクセスするのが絶望的な状況です。
 東京都教育委員会の18日の臨時会では、出席した4人の委員全員が反対を表明したと報じられています。しかし議決事項ではないため、実施に変わりはないとのことです。

 ▽毎日新聞「実施か、中止か パラ学校観戦、都教委と教育委員が異例の衝突」=2021年8月19日
  https://mainichi.jp/articles/20210819/k00/00m/050/052000c

mainichi.jp

 「医療が逼迫(ひっぱく)する中で大変な状況に置かれている医療従事者に寄り添い、感染者を増やさないためにどういう行動をとらなければならないかが求められている。それは子供にも教えていかなければならない」。元日本オリンピック委員会理事の山口香委員は、オリンピックの開催時より感染状況が悪化していると指摘し、反対意見を述べた。

 児童生徒の観戦の大義名分は教育効果なのかもしれませんが、あくまでも実施するというなら、山口香さんを納得させられるだけの説明が必要ではないでしょうか。
 この問題は国会でも疑問が示されています。
 ▽共同通信「尾身氏、児童らのパラ観戦に慎重/参院内閣委が閉会中審査」=2021年8月19日
  https://nordot.app/800912678069911552

nordot.app

 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は19日の参院内閣委員会閉会中審査で、東京パラリンピックを巡り、児童や生徒に観戦機会を提供する「学校連携観戦プログラム」の実施に慎重な姿勢を示した。野党議員が見解をただしたのに対し「今の感染状況はかなり悪い。そういう中で考えていただければ、当然の結論になると思う」と述べた。

 連携観戦プログラムは千葉県も実施するとのことですので、東京都だけの問題ではないようですが、感染症の専門家からも疑義が示されていることを、教育の場で強行することが、子どもたちにどのように受け止められるかも考慮するべきだろうと思います。

 パラリンピックでは五輪大会と同じように、航空自衛隊のブルーインパルスが都心上空を飛ぶようです。わざわざ都民に「外に出ましょう」と呼び掛けるようなものです。住民に外出を控えるよう呼び掛けている一方で、これがどんなメッセージとして受け止められるか。五輪会期中から感染爆発が起きているというのに、何を考えているのか理解できません。
 ▽共同通信「ブルーインパルス、パラでも飛行/都心周回、3色でライン」=2021年8月17日  

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航空自衛隊は17日、アクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」が、東京パラリンピック開会式当日の24日に東京都心を周回飛行するルートを明らかにした。パラリンピックのシンボルマークに使われている赤、青、緑のカラースモークで線を引きながら飛ぶ。五輪の開会日とは異なり、場所を決めてマークを描くことはしない。