「自民党劇場の人気投票」の伝え方と課題~有権者の政権選択を見据えた報道が必要

 菅義偉首相の自民党総裁職の任期満了に伴う党総裁選が9月17日、告示されました。かねて立候補を表明していた河野太郎、岸田文雄、高市早苗の3氏に、直前になって推薦人20人の確保に至った野田聖子氏の4人の争いになりました。世論調査などで不人気ぶりが鮮明だった菅首相が続投を断念したこと、今秋に衆院選が控えていることから、「選挙の顔」を選ぶ色彩が強く、既に「自民党劇場の人気投票」に陥っている様相です。
 本来は、安倍晋三前首相、菅首相と続いた2012年12月以来の自公政権の政治を検証、総括する視点が必要なはずです。この間、日本社会では分断が深まり、官僚機構は政治への忖度ばかりが目立ち、残すべき公文書を廃棄したり、改ざんしたりするまでに堕しました。国会でも記者会見でも、首相は聞かれたことに答えず、「説明しない政治」が続いています。安倍前首相、菅首相と2代続いての“政権放り出し”というのに、河野、岸田両氏はそれぞれに安倍氏の顔色をうかがうかのような言動が目立ち、高市氏は安倍氏以上に安倍カラー全開の右派ぶりです。とりわけ森友学園、「桜を見る会」、河井元法相夫妻の各疑惑、日本学術会議の任命拒否などを巡っては、3氏いずれが総裁になっても、進展は期待できそうもありません。野田氏が加わったことで、ようやくほかの3氏とは異なる主張もみられるようになりましたが、その野田氏は劣勢が報じられています。
 新聞の深い読み手であるプチ鹿島さんは文春オンラインのコラムで、河野、岸田両氏が森友問題で露骨に安倍氏への配慮を見せたことを評し「かつて安倍氏は『日本を取り戻す』と言ったが今回の総裁選は『安倍を取り戻す』選挙のようにみえる」と指摘しています。言い得て妙です。
 ※文春オンライン(9月14日)「『森友問題を蒸し返すな』総裁選に“安倍の黒い影”が…『異端児』河野太郎が“安倍後継の本命”だと思うワケ」
 https://bunshun.jp/articles/-/48583

bunshun.jp

 東京発行の新聞各紙は総裁選告示を翌18日付朝刊で、そろって1面で扱いました。紙面の主見出しを並べてみます。
 朝日新聞:1面トップ「自民総裁選 4氏立候補」
 毎日新聞:1面トップ「衆院選の『顔』争い」
 読売新聞:1面トップ「コロナ・経済 4氏論戦」
 日経新聞:1面トップ「総裁選 派閥色薄く混沌」
 産経新聞:1面トップ「『安保』『皇位継承』で温度差」
 東京新聞:1面準トップ「『森友再調査』野田氏が明言」

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 毎日新聞の「『顔』争い」が端的にこの総裁選の様相を言い表しているように感じます。一方で、東京新聞の野田氏の主張の主見出しは、9年に及ぶ安倍・菅政治の検証や総括がおろそかにされていないか、と問いかけています。
 東京新聞は1面トップにしなかった点だけでなく、もう一つ、他紙とは際立った特徴があります。3面に、森友問題解明に対する各候補のスタンスを詳述したサイド記事が載っているのですが、4人と並んで野党第一党の立憲民主党にも言及していることです。「総裁選で問われる政策に関し、四候補と衆院選で政権を争う立憲民主党の立場を分析する」としており、今後も随時、テーマごとに4氏と立憲民主党の主張を対比していくようです。
 自民党総裁選を経て菅氏の後継首相が決まりますが、その直後に衆院選が控えています。有権者の立場では、自民党員しか参加できない総裁選ではなく、衆院選にこそ当事者性があります。ましてや、衆院選は政権選択の意味を持っています。総裁選の報道に際しても衆院選を見据えて、論点ごとに野党はどのような主張を持っているのかを合わせて報じていくことが必要です。そうでなければ、総裁選自体が「自民党劇場の人気投票」に終わるだけでなく、報道までもが劇場型で終わってしまうことを危惧します。

 ■自民党劇場に比べ野党公約への冷淡さが顕著

 試みに、告示前までの各紙の一端の記録として、9月8日付から告示日当日の17日付朝刊までの9回(13日付は休刊日のため発行なし)を対象に、総裁選の関連記事を1面に掲載した回数を調べてみました。以下の通りです。
 朝日新聞7回 うち1面トップ2回
 毎日新聞4回 うち1面トップ1回
 読売新聞9回 うち1面トップ2回
 日経新聞8回 1面トップゼロ
 産経新聞9回 うち1面トップ3回
 東京新聞1回 1面トップ1回

 新聞の1面はその日の紙面に収容されている幾多のニュースの中でも、その新聞が特に優先順位が高いと判断した重要ニュースが並んでいます。1面トップのニュースが最重要ニュースということになります。総裁選の告示前に、立候補の動きや党内の各派閥の動向、誰が誰を支援するのかといったことがこれだけ頻繁に、東京新聞以外の各紙で1面に掲載されたことは、やはり劇場型報道の側面が強いと言わざるを得ません。
 しかもこの間、野党の側でも動きがあったのに、自民党総裁選と比べれば冷淡とも言える扱いでした。各紙の掲載面と見出しの大きさ、主見出しを並べてみます。
▼9月8日付 立憲民主党が衆院選公約第1弾を発表
・朝日:1面トップ5段「立憲 疑惑解明の争点化狙う」
・毎日:5面(総合)2段「立憲 政権公約第1弾」
・読売:4面(政治)3段「立民『ゼロコロナ』触れず」
・日経:4面(政治・外交)3段「コロナ対策 司令塔組織」
・産経:5面(総合)2段「『枝野内閣』初閣議で7政策」
・東京:2面(総合)3段「対コロナ 司令組織創設」

▼9月9日付 野党4党と市民連合の政策合意
・朝日:3面(総合)3段「野党4党 共通政策に合意」/4面「野党候補一本化焦点に」・視点「『選挙互助会』にとどまるな」
・毎日:5面(総合)3段「衆院選へ4野党が政策」 ※高市表明は2面3段
・読売:4面(政治)3段「4野党 衆院選へ政策協定」
・日経:4面(政治・外交)3段「野党4党、共通政策合意」
・産経:4面(総合)3段「4野党 共通政策を締結」/「候補一本化急ぎ妥協」
・東京:1面トップ・ヨコ1段「共通政策 自公と対立軸」 ※高市表明は3面(総合)2段

▼9月14日付 立憲民主党が衆院選公約第2弾を発表
・朝日:3面(総合)3段「夫婦別姓・LGBT法 公約」
・毎日:5面(総合)2段「立憲『多様性推進』」
・読売:4面(政治)2段「LGBT法制定 公約」
・日経:4面(政治・外交)3段「立民、多様性実現へ政策」
・産経:5面(総合)3段「結党1年 浸透が課題」
・東京:3面(総合)3段「夫婦別姓・LGBT法 明示」

 朝日新聞や東京新聞には時折、重要ニュースとして扱うスタンスがうかがえますが、全体としては自民党総裁選の影に隠れている感は否めません。
 自民党劇場のような派手な動きを野党が作り出せていない、との一面もありますが、少なくとも報道は「民意の選択」の観点を忘れることなく、総裁選の人気投票だけではない、衆院選を見据えた広く奥深い視点が必要だと思います。

 以下に、総裁選告示を伝える各紙の18日付朝刊の主な記事と社説の見出しを書きとめておきます。
【朝日新聞】
・1面トップ「自民総裁選 4氏立候補」/「3氏『決選投票の公算大』/新首相 来月4日に選出へ」
・2面「表争奪 重なる戦略」「河野氏・野田氏 地方票獲得狙い『国民重視』」「岸田氏・高市氏 決選投票にらみ議員票固め」
・3面 ※各候補の目玉政策
・4面 ※各候補の素顔/「野党『なぜ国会開かぬ』/総裁選巡り 主張重なり危機感も」
・社会面トップ「総裁誰に 党員見極め」
・社説「総裁選告示 『負の遺産』にけじめを」

【毎日新聞】
・1面トップ「衆院選の『顔』争い/自民総裁選告示 4氏立候補/29日投開票」
・3面:クローズアップ「票固め 4氏駆け引き」「河野氏『人気者連合』で攻勢/岸田氏 議員票で『逆転』狙い/高市氏 安倍氏加勢 保守前面/野田氏 多様性軸 差別化図る」
・4面「期待と不安 論戦開始」/「『職場放棄』野党批判/コロナ審議を要求」
・社会面トップ「響いた?4候補の演説」※識者が採点
・社説「自民党総裁選が告示 脱『安倍・菅』が問われる」

【読売新聞】
・1面トップ「コロナ・経済 4氏論戦/自民総裁選告示/29日投票」/「臨時国会来月4日召集 新首相選出」
・2面「北の脅威 対応論点」「『敵基地攻撃能力』温度差」「党改革や若手登用 提案」
・3面:スキャナー「コロナ 独自色競う/アベノミクス『加速』『修正』」「政策作り ブレーン多様」※各候補の主な主張
・4面「推薦人 陣営の思惑反映」/※各候補「こんな人」/ドキュメント・ポスト菅/「野党、国会論戦を要求/『本来の仕事を』総裁選批判」
・社会面トップ「コロナ下 4候補に注文」※医療機関や飲食店の受け止め、反応
・社説「自民総裁選告示 国家観に基づき政策を論じよ」

【日経新聞】
・1面トップ「総裁選 派閥色薄く混沌」
・3面「日本の統治 立て直せるか/コロナ・経済 政策論争」※主な政策/「危機意識を問う総裁選」吉野直也政治・外交グループ長
・4面「推薦人が映す党内基盤」/「4候補 語る言葉は」 ※ワードクラウド/短信「枝野氏、コロナ軽視批判」
・第2社会面 ※医師や旅館の受け止め、反応
・社説「コロナ後をにらんだ議論深める総裁選に」

【産経新聞】
・1面トップ「『安保』『皇位継承』で温度差/自民総裁選告示 4氏の争い」/「女性2人 訴え幅広く」
・3面「自民2大勢力 代理戦争/菅&二階氏 岸田氏と遺恨残る 3A 宿敵連携の河野氏不信」/「株価上昇『河野氏に期待』/改革姿勢好感 4氏の制作 市場注視」/※各候補の横顔
・4面「改革派は誰か 乱戦開幕」※ドキュメント/「推薦人 陣営戦略映す」/※各候補の所見発表要旨
・社会面トップ「次のリーダー 我が街から」
・社説(「主張」)「自民総裁選告示 『日本の舵取り』力量競え コロナ禍克服への具体論を」/イメージ先行に陥るな/皇位の男系継承を守れ

【東京新聞】
・1面準トップ「『森友再調査』野田氏が明言/河野・岸田・高市氏は消極的/共同会見で本紙質問/4氏届け出」
・2面:核心「4氏 目指す社会像は」※各候補の所見分析/「『コロナ対応の軽視』『議員の仕事は国会』/野党各党、一斉に批判」/「森友解明 3氏後ろ向き」※政策について4候補と立憲民主党の比較・随時掲載
・社説「自民党総裁選 安倍・菅政治の総括から」