安倍前首相のアシストで岸田氏圧勝~衆院選へ、「自民党劇場」で終わらない報道が必要

 自民党の新総裁に9月29日、岸田文雄氏が選出されました。国会議員票と同数の党員票の獲得を競った1回目の投票で1位。世論調査などでトップの人気があった河野太郎氏を1票差で交わしました。国会議員票の比重が圧倒的に高い決選投票では、河野氏に大差を付けて圧勝しました。30日付の東京発行新聞各紙の検証記事では、高市早苗氏を推した安倍晋三前首相が同党の国会議員に強力に高市氏への投票を働きかけた結果、河野氏に流れるはずだった議員票の相当数が高市氏に回った結果、岸田氏が1回目の投票から首位に立つことになった、との見方がおおむね共通しています。岸田氏の圧勝は安倍前首相のアシストがあってこそでした。

 政策面でも、安倍前首相から菅義偉首相へと続いている路線を、岸田氏も基本的に引き継ぐようです。特に森友学園への国有地払い下げ、「桜を見る会」の疑惑、日本学術会議の会員候補6人の任命拒否などの徹底解明に否定的な姿勢は、安倍菅政治のマイナス面をも継承するとしか評価のしようがありません。岸田氏が、自身が総裁になったことで自民党の変化をいくらアピールしても、どこまで説得力があるか疑問です。
 「『党再生』にはほど遠い」(朝日新聞)、「権力の二重構造に懸念」(毎日新聞)、「党改革の実現が課題だ」(読売新聞)、「派閥に支えられた勝利」(日経新聞)、「結局『永田町の論理』か」(東京新聞)―。各紙の社説の見出しを追うだけでも、岸田自民党が“変化”とはほど遠いことがよく分かるように思います。

 来週には菅内閣が総辞職し、国会で岸田氏が首相に選出され、岸田内閣が発足します。その直後には衆院選があります。岸田内閣が実績を積む時間はありません。有権者が自民党をどう評価するかは、この総裁選のありようと岸田氏の立ち居振る舞いが大きな比重を占めます。一方の野党の側で選挙区での候補者一本化の調整が進み、なおかつ目指す社会観、価値観で自民党と明確な違いを有権者に分かりやすく示すことができれば、次の衆院選は、政権選択の大きな意味を持つ選挙になることが期待できます。
 そうした観点からマスメディアの報道に対して思うのは、自民党の総裁選、あるいは今後の組閣を大きく報じるだけでなく、衆院選に向けた野党の公約発表や各党間の共闘の動きも同時に丁寧に報じる必要がある、ということです。そうでなければ、ただ単に「自民党劇場」を報じるだけになってしまいます。
 9月30日付の東京発行新聞各紙では、野党の反応の記事も各紙とも掲載してはいるのですが、衆院選の公約にまでは触れていません。唯一、東京新聞が岸田氏と立憲民主党の政策や個別課題へのスタンスを対比させて一覧表にしているのが目を引きました。
 有権者の投票の判断に資する情報提供ができているのかどうかは、マスメディアの課題だと思います。

 

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 以下は、岸田新総裁選出を報じる9月30日付の東京発行各紙の1面と総合面の主な記事と社説の見出しです。野党に触れた記事も書きとめておきます。
▼朝日新聞
1面トップ「自民総裁に岸田氏/決選投票 河野氏破る/首相に来月4日選出/要職に萩生田・甘利・高市氏 浮上」
1面「『安倍・菅路線』向き合う時」坂尻顕吾政治部長
2面・時時刻刻「岸田氏 議員票で圧倒/安倍・麻生・甘利氏『3A』結束 二階派、特定候補支援できず」「党人事『たたき台つくり、1日かかる』/『傀儡と見られる』不安も」
※野党:4面「『安倍・菅政権の継承だ』/野党、衆院選へ対立軸探る」
社説「自民新総裁に岸田氏 国民の信を取り戻せるか」/『党再生』には程遠い/安倍氏の影拭い去れ/選挙前 国会で論戦を

▼毎日新聞
1面トップ「自民総裁に岸田氏/決戦で河野氏破る/来月4日 第100代首相に」
1面「甘利、萩生田氏が浮上/幹事長・官房長官 3候補処遇も焦点」
1面「党の変化 具体的に示せ」中田卓二政治部長
3面・クローズアップ「岸田氏『長老』の影/高市氏と『1・3位連合』」「河野氏、離反で伸びず」「人事 独自色か均衡か」
※野党:2面「野党『本質変わらず』/『ご祝儀相場』警戒」
社説「自民新総裁に岸田氏 『安倍・菅』路線から脱却を」/権力の二重構造に懸念/国民の審判は衆院選で

▼読売新聞
1面トップ「自民総裁 岸田氏/決選投票 河野氏破る/4日首相就任 年内に数十兆円対策」
1面「幹事長に甘利氏 調整/高市、萩生田氏 要職起用案」
1面「決め手になった『安定感』」村尾新一政治部長
3面・スキャナー「岸田氏 議員票圧倒/決戦『高市票』取り込む/安倍氏が影響力」「河野氏『党員票で勢い』不発」
※野党:4面「野党、対決姿勢強める/衆院選見据え 国会論戦を要求」
社説「岸田自民新総裁 政策を肉付けし安定政権築け/聞く力に実行力と発信力が必要」/スピード感持ち決断を/衆院選にどう臨むか/党改革の実現が課題だ

▼日経新聞
1面トップ「自民総裁に岸田氏/決選投票、河野氏下す/来月4日、首相に指名/甘利氏、四役で調整 高市氏も要職」
1面「今の日本に猶予はない」吉野直也政治部長
3面「勝敗決した2日前の会談/安倍・麻生・甘利氏でシナリオ/自民、支持回復で緩み」
社説「国民の声に耳を傾ける岸田政権に」/派閥に支えられた勝利/菅内閣の教訓に学べ

▼産経新聞
1面トップ「岸田氏 自民新総裁/コロナ対策『全て懸ける』/甘利氏 党四役で起用案/決選投票 河野氏破る」
1面「3度目挑戦 岸田氏覚悟の変身」佐々木美恵編集局次長兼政治部長
2面「河野氏 伸びなかった議員票」「高市氏『次』につながる敗戦」「野田氏 上積みも上位争い絡めず」
3面「岸田氏 保守系と距離感課題/『改憲・皇位継承』難題続々」
※野党:5面「野党『自民変わらない』/予算委での論戦要求」
社説(「主張」)「岸田政権誕生へ 国民を守り抜く首相たれ 信頼獲得へ政策遂行が重要だ」/コロナで実績を挙げよ/中国が50年ぶり論点に

▼東京新聞
1面トップ「自民新総裁 岸田氏/第100代首相へ 4日新内閣/決選投票 河野氏破る」
1面・解説「安倍・菅政治の継続選択/『負の遺産』向き合わず」
2面・核心「路線修正でもアベノミクス評価/しがらみ多く実行力に疑問符/立民、衆院選へ『説明しない政治』に照準」
※野党:3面「野党、政権浮揚を警戒/『中身変わらない』」
社説「岸田氏新総裁に 結局『永田町の論理』か」※中日新聞と共通