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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

岸田首相の所信表明に地方から懐疑、批判~「『みんな』に沖縄は含まれるのか」(琉球新報)、「被災者にどう寄り添う」(福島民報)、「被爆地の期待、裏切られた」(中国新聞)

 岸田文雄首相が10月8日、国会で就任後初の所信表明演説を行いました。総じて具体性に乏しく、就任以来盛んに強調している「新しい資本主義」「成長と分配の好循環」についても、何がどう新しいのかよく分かりません。実質的には、安倍晋三元首相が進め菅義偉前首相が受け継いだアベノミクスを基本的に継承するようです。格差拡大を是正し、分厚い中間層を再興させようとするなら、不安定で低賃金の非正規雇用がこの20年間、増大を続けていることをどうするのか、そのことを抜きにはできないと思うのですが、その点についても見るべき言及はなかったと感じています。
 9日付の新聞各紙の社説、論説もこの所信表明演説を取り上げています。やはり、具体論を欠いていることへの批判的なトーンが目立ちます。所得税の累進性を高めることや、金融所得への課税強化など、富裕層や企業の不評を買いそうなテーマに触れなかったのは、衆院選が控えているためではないか、との指摘も多く目に付きました。
 地方紙、ブロック紙の社説、論説はネット上の各紙サイトで読める範囲で見てみました。それぞれの地域の視点からの厳しい論評が目立ち、全国的に期待よりも懐疑、批判が上回っているように感じます。地方からこうも厳しい視線が注がれていることは、岸田政権の大きな特徴かもしれません。

 ■沖縄の民意より日米同盟
 わたし自身、所信表明演説で「たったこれだけか?」と感じたことの一つは、沖縄・辺野古の新基地建設です。外交・安全保障の項で、以下のように触れただけです。

 日米同盟の抑止力を維持しつつ、丁寧な説明、対話による信頼を地元の皆さんと築きながら、沖縄の基地負担の軽減に取り組みます。普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指し、辺野古沖への移設工事を進めます。

 これに対して琉球新報の社説は以下のように疑問を投げ掛けます。

 首相はアフリカのことわざを引用し「遠くまで行きたければみんなで進め」と国民の協力を呼び掛けた。
 しかし基地なき沖縄という戦後ずっと続く目標に向かっては「みんなで」進むつもりはなさそうだ。沖縄に言及した部分で最初に抑止力維持を掲げたように、あくまで日米同盟の強化が主である。「みんな」に沖縄は含まれるのか。

 沖縄タイムスの社説も「『沖縄に寄り添う』と言いながら、新基地建設を強行に進めてきたのが『安倍・菅政権』だった」と振り返り「岸田首相が本当に沖縄と信頼関係を築きたいなら、そのための道筋をしっかりと示すべきだ」と指摘しています。

 ■被災地の声をどうするのか
 東日本大震災も短く触れただけでした。
 「東日本大震災からの復興なくして日本の再生なし。この強い思いの下で、被災者支援、産業・生業(なりわい)の再建、福島の復興・再生に全力で取り組みます」―。わずか66字。ツイッターのツイート1回の上限の半分もありません。東京電力福島第一原発事故を巡る現状や課題にも触れていません。
 福島民報の社説は「拍子抜けの感が強い。被災者にどう寄り添い、被災地の声を政策に反映させるのか。具体策が聞きたかった」とし「『車座対話を積み重ね』の言葉の通り、各閣僚が現地に足を運び、住民目線で課題の解決策を見いだすべきだ」と指摘しています。
 河北新報の社説も「復興支援に関して聞くべき内容はなかった。被災地は震災と原発事故を美談にすることなど望んでいない」として「課題を直視した対応」を求めています。
 東京電力の巨大原発が地元に立地する新潟日報も「極めて残念なのは原発政策に対する言及がなかったことだ」としています。

 ■核兵器禁止条約に触れず
 岸田首相は被爆地・広島の選出であることに強いこだわりがあるようです。そのこと自体には期待もあるのですが、所信表明演説では踏み込みが浅いと感じました。口にしたのは、以下のようなことです。

 被爆地広島出身の総理大臣として、私が目指すのは、「核兵器のない世界」です。私が立ち上げた賢人会議も活用し、核兵器国と非核兵器国の橋渡しに努め、唯一の戦争被爆国としての責務を果たします。
 これまで世界の偉大なリーダーたちが幾度となく挑戦してきた核廃絶という名の松明(たいまつ)を、私も、この手にしっかりと引き継ぎ、「核兵器のない世界」に向け、全力を尽くします。

 これに対して、地元の中国新聞の社説は、以下のように失望が露わです。

 「唯一の戦争被爆国としての責務を果たす」と言うなら、なぜ今年1月に発効した核兵器禁止条約に触れないのだろう。来年春に初めて開かれる禁止条約締約国会議へのオブザーバー参加を打ち出すべきではなかったか。被爆地で高まっていた期待は、あっさり裏切られた。

 他地域でも、福井新聞の論説が「『核兵器国と非核兵器国の橋渡しに努める』では安倍、菅政権と何ら変わらない」と批判的に評しているのが目に止まりました。
 ほかに外交では、北方領土を巡って北海道新聞は「首相は自民党総裁選で四島返還を目指す意向を示し、事実上の2島返還路線に転換した安倍氏との違いをにじませる。ならば、四島返還を実現するための具体的な戦略を語るべきだろう」と指摘しています。

 ■民主主義の危機
 ほかにも地域を問わない大きな論点があります。民主主義に対する姿勢それ自体です。
 中日新聞・東京新聞は「岸田氏は首相就任後、民主主義の危機に直接言及しなくなった」として、森友学園への土地払い下げ問題、日本学術会議会員の任命拒否、河井克行元法相夫婦の選挙を巡る自民党の1億5千万円の支出などの再調査にいずれも消極的であることを挙げて「首相交代とは思えない『安倍・菅政治』の継続だ。総裁選で示した覚悟は何だったのか」と強く疑問を呈しています。
 信濃毎日新聞も「これらを放置したままでは『丁寧な説明』とはいえまい。岸田首相は『言葉』と『行動』が一致していない。これでは政治への信頼回復の道は遠いままである」と批判しています。「政治の信頼回復には、十分な説明と国民の納得が欠かせないと肝に銘じてほしい」(神戸新聞)、「『負の遺産』とどう向き合うのかも政権の評価に影響する」(高知新聞)などの指摘もあります。

※首相官邸「第二百五回国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説」2021年10月8日 

https://www.kantei.go.jp/jp/100_kishida/statement/2021/1008shoshinhyomei.html

 以下に9日付の新聞各紙の社説・論説の見出しと、本文の一部を書きとめておきます。ネット上の各紙サイトで読めるもの(10日午前の段階)は、リンクを張っています。

▼朝日新聞「初の所信表明 信頼と共感 遠い道のり」
 https://www.asahi.com/articles/DA3S15070670.html

 総裁選の期間中に首相が繰り返したキーワードで、演説にはなかった言葉がある。「寛容な政治」だ。「我が国の民主主義が危機に陥っている」という現状認識と、それを踏まえた信頼回復策も示されていない。
 コロナ禍や社会の分断を乗り越え、「絆の力」で新しい時代を切り開く――。演説では前向きなメッセージに重きを置いたのかもしれないが、初志をおろそかにすれば、「信頼と共感」は得られないと心すべきだ。

▼毎日新聞「岸田首相の所信表明 転換への踏み込み足りぬ」
 https://mainichi.jp/articles/20211009/ddm/005/070/131000c

 「絆」「やさしさ」などの言葉をちりばめ、独自色を打ち出そうという姿勢はうかがえた。だが、安倍晋三、菅義偉両政権の路線を見直すとは明言せず、踏み込み不足だった。転換への意気込みが伝わらなかった。
 首相は、両政権を念頭に「国民の信頼が大きく崩れ、民主主義の危機にある」と繰り返してきた。問われるのは、その問題意識を実行に移すことができるかだ。
 ところが、国民の信頼を大きく損なってきた「政治とカネ」や、公文書改ざん・廃棄などの問題には、演説で一切触れなかった。これでは本気度が疑われる。

▼読売新聞「所信表明演説 成長と分配の具体策が肝心だ」
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20211008-OYT1T50319/

 首相は、自身が提唱した「新しい資本主義」について、「成長も分配も実現するため政策を総動員する」と説明した。実現会議を創設して構想をまとめるという。
 新自由主義的とされた小泉政権以来の規制改革路線は、所得格差を拡大し、国民の分断を招いた、という認識があるのだろう。
 経済成長を重視するアベノミクスを基本的に継承しつつ、さらに分配に力を入れる姿勢を鮮明にしたと言える。働く人の所得を増やし、消費や投資の拡大につなげる方針を示したのは理解できる。
 安倍内閣も「成長と分配の好循環」を掲げていたが、成長戦略は不発に終わり、分配は道半ばだった。経済政策の柱とする以上、実効性のある施策を明示し、目に見える成果を出すことが重要だ。

▼日経新聞「首相はビジョンの中身にもっと踏みこめ」

▼産経新聞「首相の所信表明 中国問題を正面から語れ」
 https://www.sankei.com/article/20211009-OVLI33WFVRI6TKKIUOZUYGEGC4/

 物足りないのは、演説で北朝鮮の核・ミサイルや拉致問題を取り上げた一方で、中国の覇権主義的行動を問題視する言葉を発しなかった点だ。これは歴代首相の演説と同様の対応だが、中国に気兼ねしている時代ではもはやない。首相の語る外交・安全保障政策の大部分は中国への備えである。分かりやすい説明をしてほしい。
 中国は尖閣諸島(沖縄県)を狙い、台湾への軍事的威嚇を重ね、南シナ海では国際法無視の人工島の軍事拠点化を進めている。日本の首相として、これらへの明確な「ノー」を代表質問などの機会に発信するのは当然だ。

▼北海道新聞「岸田首相所信 路線転換の道筋見えぬ」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/598145

 ただ、富の再分配の具体策としては賃上げを行う企業の税制優遇、看護師や保育士らの待遇改善などを挙げるにとどまった。
 その一方で、大企業や富裕層に恩恵が偏ったと指摘されるアベノミクスの三本柱である「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「成長戦略の推進」を改めて経済政策の軸に据えた。
 これで効率と競争を重視する新自由主義を修正できるのか。そこからこぼれ落ちる人を救う手だてが後回しになる懸念は拭えない。
 (中略)
 外交では日ロ関係について「領土問題の解決なくして、平和条約の締結はない」と強調した。
 首相は自民党総裁選で四島返還を目指す意向を示し、事実上の2島返還路線に転換した安倍氏との違いをにじませる。ならば、四島返還を実現するための具体的な戦略を語るべきだろう。

▼河北新報「岸田首相が所信表明/『成長』への具体策見えぬ」
 https://kahoku.news/articles/20211009khn000005.html

 演説冒頭で東日本大震災の際に発揮された日本社会の絆については言及したが、復興支援に関して聞くべき内容はなかった。被災地は震災と原発事故を美談にすることなど望んでいない。課題を直視した対応を求めたい。

▼東奥日報「信頼築く具体策を示せ/岸田首相初の所信表明」
 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/704757
▼秋田魁新報「岸田首相所信表明 『分配』の財源明示せよ」
 https://www.sakigake.jp/news/article/20211009AK0016/

▼福島民報「【首相所信表明】具体策がまだ見えない」
 https://www.minpo.jp/news/moredetail/2021100991025

 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故に関しては「東日本大震災からの復興なくして日本の再生なし。この強い思いの下で、被災者支援、産業・生業の再建、福島の復興・再生に全力で取り組む」という短い文言のみだった。これは、政府が四日に閣議決定した基本方針の中の「東日本大震災からの復興、国土強靱化」の本文の文面とほぼ同じだ。
 前首相が就任直後に出した基本方針には復興の文字はなかった。今回の基本方針は「福島」の固有名詞まで挙げて力点を置くことを強調しており、演説に注目していたが拍子抜けの感が強い。被災者にどう寄り添い、被災地の声を政策に反映させるのか。具体策が聞きたかった。
 (中略)
 過去の政権が地元の訴えを無視してきたとは言わないが、形式的な対話のみに終わっていた印象は拭えない。「車座対話を積み重ね」の言葉の通り、各閣僚が現地に足を運び、住民目線で課題の解決策を見いだすべきだ。

▼福島民友新聞「所信表明演説/『成長と分配』の具体策示せ」
 https://www.minyu-net.com/shasetsu/shasetsu/FM20211009-660444.php

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興は、まだゴールが見えない。歴代首相も口にしてきた「復興なくして日本の再生なし」の言葉を、どう行動で示していくのか注視していきたい。

▼信濃毎日新聞「’21衆院選 所信表明演説 『丁寧な説明』には程遠い」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021100900099

 政治手法では、新型コロナウイルス対策で「国民に納得感を持ってもらえる丁寧な説明を行う」と強調するなど、各所に「対話」と「説明」の言葉をちりばめた。
 ならば聞きたい。所信表明演説だけで衆院選挙に臨む姿勢を、どう説明するのか。
 岸田首相が説明すべきことは数多い。自民党幹事長に起用した甘利明氏の金銭授受問題や、参院選広島選挙区の買収事件で党が1億5千万円を送金したこと、日本学術会議の会員候補を菅義偉前首相が任命拒否した問題、森友学園問題の再調査などである。
 これらを放置したままでは「丁寧な説明」とはいえまい。岸田首相は「言葉」と「行動」が一致していない。これでは政治への信頼回復の道は遠いままである。

▼新潟日報「首相所信表明 信頼の獲得実現できるか」
 https://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/20211009646462.html

 所信表明は首相が重視する中長期的な目標を列挙し、政策を網羅的にまとめた印象が強い。そうした中で極めて残念なのは原発政策に対する言及がなかったことだ。
 菅前首相は昨年10月に行った初めての所信表明演説で「グリーン社会の実現」の章を立て、温暖化防止へ脱炭素を進めるため再生可能エネルギーを最大限導入し、安全最優先で原子力政策を進めると述べた。
 10年前の東京電力福島第1原発事故以降、本県では原発への不安感は根強い。柏崎刈羽原発を巡る相次ぐ失態で、県民の東電不信はさらに高まっている。
 それだけに、首相には自らの考えを語ってほしかった。

▼中日新聞・東京新聞「民主主義の再生 首相の覚悟が見えない」
 https://www.chunichi.co.jp/article/344458

 岸田氏は首相就任後、民主主義の危機に直接言及しなくなった。森友問題の再調査に否定的で学術会議会員の任命拒否も撤回せず、自民党は選挙違反事件があった参院選広島選挙区への支出一億五千万円の再調査もしないという。
 首相交代とは思えない「安倍・菅政治」の継続だ。総裁選で示した覚悟は何だったのか。
 岸田氏は所信表明で「私をはじめ全閣僚が車座対話を積み重ね、国民のニーズに合った行政を進めているか、徹底的に点検する」と述べたが、民主主義を危機に陥らせた誤りを正さずして、危機を克服することはできない。

▼福井新聞「岸田文雄首相所信表明 具体策、痛みをなぜ語らぬ」
 https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1413941

 「被爆地広島出身の総理大臣として、私が目指すのは『核兵器のない世界』」と大上段に振りかぶりながら「核兵器国と非核兵器国の橋渡しに努める」では安倍、菅政権と何ら変わらない。地元からは核禁止条約締約国会議へのオブザーバー参加を求める声が上がっているのに、どうこたえるのか。外交・安全保障でも路線継承にとどまらず、緊迫化する台湾情勢を含め総合的な外交戦略を早急に示す必要があるだろう。

▼京都新聞「首相所信表明 政策の根拠が見えない」
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/654191

 人の話をよく聞くことを長所と自認するだけに、「丁寧な説明を大切にする」と繰り返し、「車座対話」を行うなどコミュニケーション重視の姿勢を見せた。
 説明不足を批判された菅義偉前首相との違いを際立たせたといえる。
 ただ、岸田氏が力説した「新しい資本主義の実現」は、具体策に乏しい印象が残った。

▼神戸新聞「所信表明演説/政策実現への道筋を示せ」
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/202110/0014745696.shtml

 首相には政策実現への道筋を明確に語る責務がある。ところが演説では、山積する政権の課題に対し、総花的に政策を羅列した印象が拭えない。衆院選を控え、痛みを伴う政策への言及を避けるのではなく、財政再建策や国民負担の方向性も併せて示さなければ説得力に欠ける。
 (中略)
 安倍、菅両政権で相次いだ「政治とカネ」問題も重要事案だが、言及は一切なかった。政治の信頼回復には、十分な説明と国民の納得が欠かせないと肝に銘じてほしい。
 岸田首相は「国民の声を真摯(しんし)に受け止める信頼と共感を得られる政治が必要だ」と力説した。対話重視を貫けるかどうかは、政権の命運を握る。国会軽視の姿勢を改め、丁寧な議論を尽くすことを求めたい。

▼山陽新聞「首相所信表明 政策実現への道筋見えぬ」
 https://www.sanyonews.jp/article/1184085

 一方、自民党総裁選と新政権発足までの動きが注目を集める中、野党が埋没したことも否めない。与党が分配政策にかじを切れば、野党は独自色を出しにくくなる。与党以上に実効性のある生活保障案を示せるかが鍵となろう。

▼中国新聞「岸田首相の所信表明 課題解決へ具体策欠く」
 https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=798928&comment_sub_id=0&category_id=142

 自民党総裁選でも掲げた「新しい資本主義」については、実現していこうと呼び掛けた。被爆地広島から選出された首相として「核兵器のない世界に向け全力を尽くす」とも誓った。
 聞こえの良さと裏腹に、物足りなさが募った。課題解決や目標達成への道筋が示されていないからだ。例えば核なき世界の目標では、米国など核兵器を持っている国と、持っていない国との橋渡しに努めるとの従来の方針を繰り返しただけだった。
 「唯一の戦争被爆国としての責務を果たす」と言うなら、なぜ今年1月に発効した核兵器禁止条約に触れないのだろう。来年春に初めて開かれる禁止条約締約国会議へのオブザーバー参加を打ち出すべきではなかったか。被爆地で高まっていた期待は、あっさり裏切られた。

▼山陰中央新報「所信表明演説 信頼築く具体策を示せ」
 https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/105504

▼高知新聞「【岸田首相所信】『丁寧な説明』はできたか」
 https://www.kochinews.co.jp/article/493176/

 所信表明で触れなかったのは、忘れていたわけではないだろう。「負の遺産」とどう向き合うのかも政権の評価に影響する。
 森友学園問題を巡る財務省の決裁文書改ざんについて、世論調査では6割以上が再調査を求めている。自民支持層でも5割を超える。
 「政治とカネ」問題の解明も怠れない。参院選広島選挙区の買収事件を巡る資金問題や、「桜を見る会」前日の夕食会を巡る問題の説明も十分とは言い難い。甘利明幹事長の現金授受問題もくすぶる。

▼西日本新聞「新首相所信表明 有権者の判断材料足りぬ」
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/813189/

 国民や党内の賛否が分かれることは慎重に扱い、異論も聞く柔軟性を示したのであれば、従来政権とひと味違う「岸田カラー」と言えるかもしれない。国民との車座対話もそうだろう。
 一方で、菅義偉前首相の「自助・共助・公助」のように、物議を醸しながらも政権の方向性を明確にする言葉はない。岸田政権の姿はまだ像を結ばない。
 こだわりがのぞいたのは「核兵器のない世界」への言及だ。被爆地・広島出身という使命感がうかがえる。それだけに、核兵器禁止条約に触れず、日本の役割についても従来方針を繰り返すにとどまったのは残念だ。

▼佐賀新聞「所信表明演説 信頼築く具体策を示せ」※共同通信
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/752041

▼南日本新聞「[所信表明演説] 『選択』へ具体策提示を」
 https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=144826

 さらに安倍・菅政権が信頼を損なう一因となった「政治とカネ」や森友学園を巡る財務省の決裁文書改ざんの問題に言及はなかった。独善的な姿勢が際立った両政権の「負の遺産」を清算する姿勢がうかがえなかったことは残念だ。
 首相は総裁選でも国民への説明を重視する姿勢を強調してきた。それならば、野党が開催を求める臨時国会での予算委員会に応じ、政策論争を通じて国民に選択肢を示すよう求めたい。

▼沖縄タイムス「[岸田首相 所信表明]美辞ではなく具体策を」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/844194

 沖縄には、外交・安全保障政策の中で言及している。
 「丁寧な説明、対話による信頼を地元の皆さんと築きながら、沖縄の基地負担の軽減に取り組む」とし、前政権同様、「辺野古沖への移設工事を進める」と明言した。
 県内移設では、沖縄の負担軽減は実現しない。
 2019年の県民投票では、県民の7割超が辺野古移設に反対し、民意はすでに示されている。辺野古移設推進では「信頼関係を築く」ことにはならない。
 来年は復帰から50年になるが、「世界一危険」といわれる普天間飛行場の返還は、日米合意から25年が経過した今も、実現していない。
 「沖縄に寄り添う」と言いながら、新基地建設を強行に進めてきたのが「安倍・菅政権」だった。
 岸田首相が本当に沖縄と信頼関係を築きたいなら、そのための道筋をしっかりと示すべきだ。

▼琉球新報「岸田首相所信表明 沖縄だけを取り残すな」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1404996.html 

 所信表明で首相は「日米同盟の抑止力を維持しつつ、丁寧な説明、対話による信頼を地元の皆さんと築きながら、沖縄の基地負担軽減に取り組みます。普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指し、辺野古沖への移設工事を進めます」と述べた。
 新基地の土台を文字通り揺るがす軟弱地盤の存在に目を背け、工事を強行するのにどうして信頼が得られよう。
 歴代政権が呪文のように唱えた「丁寧な説明」という言葉を使ったが、これまで果たされたことがあったか。地元の信頼を得たいのであれば、まずは辺野古新基地を断念し、普天間飛行場の閉鎖へ米政府と交渉するのが筋だ。
 首相はアフリカのことわざを引用し「遠くまで行きたければみんなで進め」と国民の協力を呼び掛けた。
 しかし基地なき沖縄という戦後ずっと続く目標に向かっては「みんなで」進むつもりはなさそうだ。沖縄に言及した部分で最初に抑止力維持を掲げたように、あくまで日米同盟の強化が主である。「みんな」に沖縄は含まれるのか。
 同時に安全保障政策で海上保安能力やミサイル防衛能力の強化も挙げた。
 いずれも沖縄にとって見過ごせない問題だ。
 (中略)
 米国追従の歴代政権は核兵器禁止条約への参加も消極的だったが、「広島出身の総理大臣」として核兵器のない世界を目指すとも述べた。
 広島は、沖縄、長崎とともに国内でも特に平和を希求する地域である。広島から誕生したリーダーであればこそ、平和という芯に貫かれた政権運営に当たってもらいたい。