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「不発」野党共闘の意義~自民「絶対安定多数」を読めなかったマスメディア 衆院選報道振り返り①

 10月31日投開票の衆院選は、終わってみれば自民党が261議席(無所属からの追加公認2人を含む)を得て、全ての常任委員会で委員長ポストを独占し、なおかつ全委員会で過半数の委員を確保する「絶対安定多数」に達しました。改選前から15議席減とはいえ、岸田文雄首相は十分に信任を得たと言うべきでしょう。連立与党の公明党も3議席増の32議席でした。
 野党は立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組の4党が市民グループ「市民連合」の仲立ちで共通政策に合意し、小選挙区で候補者を調整して、政権交代を目指して臨みましたが、立憲民主96(改選前から13減)、共産10(同2減)、社民1(同変わらず)、れいわ新選組3(同2増)でした。立憲民主、共産両党は議席を減らす結果に終わりました。一方で日本維新の会は改選前11議席から41議席に躍進し、国民民主党も8議席から11議席になりました。
 選挙の結果は与党の圧勝。立民、共産など4党の共闘は及びませんでした。議席数の変動で見る限りは、自民党と野党が減らした分は主として維新の会に流れた、つまり維新の会は、自公政治は支持しないが野党共闘でもないという有権者の受け皿になったように見えます。こうした結果をもって、野党共闘を失敗ととらえる見方もあるようですが、共闘がなければ自民党がもっと議席を得ていたことは間違いがありません。
 野党4党が候補を一本化した選挙区は214ありました。うち自民党候補に勝った選挙区が62、敗北したものの惜敗率(自民党候補の得票との比率)が90%以上だった選挙区が33あります。北海道4区、長崎4区、大分2区では、その差はわずか1000票以内でした。

※しんぶん赤旗「激戦制した一本化 62小選挙区で野党勝利」=2021年11月2日 

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik21/2021-11-02/2021110203_01_0.html

 仮にこの33選挙区で野党統一候補が競り勝っていれば、選挙結果全体のイメージは相当に変わっていたはずです。また自民党の現職幹事長だった甘利明氏や、元幹事長の石原伸晃氏らが選挙区で敗北したのも、野党共闘があったことが大きな要因の一つです。競り負けた選挙区の要因を詳しく探ることで、次の機会に向けた野党共闘の強化を図ることも可能でしょう。今回の選挙で、政権交代への野党共闘の有効性が実証されたとの見方にもうなずけるものがあるように感じます。

 以下に、マスメディアの選挙報道について、現在感じていることを書きとめておきます。
 投票日までを振り返ると、この野党共闘によって選挙区では激戦区が多くなっていました。また最後まで、与野党の双方にこれといった風が吹くことがなく、そのことが選挙結果を読みづらくしていました。新聞各紙の情勢調査や、投票日当日のNHKや新聞各紙の出口調査でも、ここまで自民党が目減りを小幅に抑えるとは、なかなか読み取ることはできませんでした。
 以下に東京発行の新聞各紙の開票日翌日、11月1日付朝刊の1面に掲載された主な見出しと、その時点で獲得党派が決まっていなかった議席数、各紙編集幹部らの署名評論の見出しを並べてみます。
 ※いずれもわたしが住む東京都区部西部に配達された紙面です。同じ東京でも地域によっては違った見出しになっている可能性があります。

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 ▼朝日新聞
 「自民伸びず 過半数は維持/立憲後退 共闘生かせず/岸田首相続投 維新3倍超」残り15議席
「『聞く力』忖度やめてこそ」坂尻信義・ゼネラルエディター兼東京本社編集局長
 ▼毎日新聞
 「自民堅調 安定多数/立憲伸びず 維新躍進/首相『政権に信任』」残り28議席
 「勝者なしという民意」中田卓二政治部長
 ▼読売新聞
 「自民 単独過半数/野党共闘振るわず/維新躍進 第3党に」残り30議席
 「『聞く力』に『行う力』も」村尾新一政治部長
 ▼日経新聞
 「自民、単独で安定多数/立民は議席減、共闘不発/維新躍進、第3党 公明堅調」残り29議席
 「争点なき政治の危機」吉野直也政治部長
 ▼産経新聞
 「自民 単独過半数維持/立民『共闘』不発 維新は躍進/与党競り勝ち政権維持」残り51議席
 「一定の信任 実績挙げよ」大谷次郎政治部長
 ▼東京新聞
 「自民後退 過半数は維持/野党共闘伸び悩み」残り66議席

 新聞は配達に要する時間を見込んで、読者の手元に紙面が届く時間から逆算して制作工程を決めます。通常より遅い時間までニュースを紙面に収容する態勢を取ったとしても、開票の最終結果が判明する前に紙面を組まなければなりません。締め切り時間があります。そのため各紙とも15~66の未確定議席を残しての紙面になっています。自民党が259議席を得て、追加公認2人を加えて261議席の絶対安定多数に達したことが分かった後になって各紙の紙面を見れば、やはり自民党の“勝ちっぷり”の表現が控え目だと感じます。
 その一方で、野党4党の共闘には「振るわず」「不発」「伸び悩み」のネガティブな表現が並びました。選挙区の勝敗はおおむね判明しており、「政権交代」という目標に照らせばまさに「不発」でした。ただ、最後まで競り合った選挙区が決して少なくなかったことをどうとらえるかで、別の評価もなしうるのではないかと感じることは前述の通りです。
 それはともかく、上記のような「タイムラグ」はメディアとしての紙の新聞の宿命です。このタイムラグがあるために、新聞社は選挙区ごとに担当記者を当てて事前の情勢取材に力を入れ、最近では期日前投票でも投票所で出口調査を行い、また開票所でも開票の進捗状況をチェックしながら、独自に当落の判定を行ってきました。選挙取材にそのような大変な労力をかけてきたのも、選挙管理委員会の最終発表を待たずに結果を独自に判定して紙面作成の締め切り時間に間に合わせるためです。選挙が民主主義の根本をなす手続きであるからこそ、その労力を惜しまずに今日まで来ました。今後、締め切り時間がないデジタルの世界にシフトして、新聞社が報道を本格的に展開しようとするとき、選挙報道も大きな変化が避けられないように感じます。

 野党共闘については、もう少し考えていることがあります。共闘の意義がどこまで社会に、有権者に伝わっていただろうか、ということです。マスメディアの政治報道とも密接な関連があるのではないかと感じています。後日、このブログで書いてみたいと思います。