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東京新聞が特集「石原慎太郎氏の差別発言 いま再び考える」掲載

 故石原慎太郎・元東京都知事の差別発言について、東京新聞が2月15日付の朝刊に1ページの特集記事「石原慎太郎氏の差別発言 いま再び考える」を掲載しました。掲載の趣旨は、13日付の紙面で大場司・編集局長(中日新聞社東京本社編集局長)が説明していました。 

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 大場編集局長は、石原元知事の差別発言を紙面では「石原節」とひとくくりに表現して報じてきたことに対し、「言葉の作用に敏感であるべき新聞が、率先して差別発言を容認するような表現を繰り返してきたこと。そのことが、政治家の暴言や失言を容認する風潮を生み出していったこと。今、この責任を痛感しています」として、新聞としての責任を明言していました。編集責任者として、読者に対し率直に非を認めたものと、わたしは受け止めています。
 その上で、「新聞記事は歴史の記録であり、後世にまで残ります。読者の批判を受け止め、石原氏の差別発言を考える特集を後日掲載します」と予告していました。

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 15日付の特集では、石原元知事の差別発言を「ジェンダー、LGBT」「障害者」「外国人」の三つの類型に分けて計5件を詳細に掲載しました。「文明がもたらしたもっとも悪しき有害なものは『ババア』なんだそうだ」とのいわゆる「ババア」発言や、同性愛者に対しての「どこか足りない感じがする。遺伝とかのせいでしょう。マイノリティーで気の毒ですよ」との発言などです。
 特集の中心は、識者3人の大型の談話です。見出しは以下の通りです。
 ▽「『石原節』メディアの責任重い」=ジェンダー法学の戒能民江・お茶の水女子大名誉教授
 ▽「『差別許さない』メッセージを」=ヘイトスピーチやレイシズムに詳しい明戸隆弘・立教大助教
 ▽「扇情的発言 不利益は国民に」=現代社会学の千田有紀・武蔵大教授

 戒能氏は、昨年の森喜朗氏の女性蔑視発言など、政治家らによる差別発言が続いていることを挙げて、「『よくある冗談』と許され、発言した当事者は人権問題だとつゆほども思っていない。『ババア発言』のあった二十年前とどれほど変わったと言えるだろうか」と疑問を投げかけています。石原元都知事の発言が容認されてきたことが一因であり、メディアは「石原節」報道によって容認の当事者になっていました。
 明戸氏の「政治家の問題発言に対し、メディアは内容を精密に分析し、差別や中傷に該当する場合は、立場を超えて『許さない』という声を上げていかねばならない」との指摘は、メディアの責任を端的に示しています。
 千田氏は石原元知事について「『うっかり失言した』というより、こうした発言を好意的に受け止める層がいることを分かった上で、発言されていたようにも思う」と分析。扇情的な発言に飛びつく有権者の問題も指摘しています。
 「石原節」との取り上げ方を巡って、東京新聞の内部ではどのような議論があったのか、あるいはなかったのか、にまで踏み込んだ報告はありませんでした。ただ、そうだとしても、今回の特集記事は、マスメディアの責任を自覚していることの表れだと受け止めています。少なくとも今後、同じ愚を犯してはいけない、との意識は東京新聞の内部では共有されるのではないでしょうか。
 他のマスメディアも何らかの形で続くのかどうか、動向を注視しています。