ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「NO WAR」への連帯は、戦争をやめさせるための希望~ロシアの放送局員が生放送中に抗議行動

 マスメディアで働く一人として、黙って見過ごすわけにいかない出来事です。
 ※共同通信「生放送で『戦争やめて』、ロシア TV局の女性社員が紙掲げる」=2022年3月15日
 https://nordot.app/876234491127693312?c

 タス通信などによると、ロシアの主要テレビ「第1チャンネル」で14日夜、ニュース番組「ブレーミャ」の生放送中に女性がキャスターの背後で「戦争をやめて」などと大書された紙を掲げるハプニングがあった。ロシアのウクライナ侵攻に反対する抗議行動とみられる。

 他メディアによると「第1チャンネル」はロシアの国営放送。女性は同局の編集者で、この後、警察に連行されたと伝えられています。ロシア国内では、当局がフェイクニュースと見なした場合、最大15年の禁錮刑を科せる法律が施行され、ウクライナ侵攻に反対する活動は弾圧を受けています。そのさなかでの国営放送局の放送中の抗議は、メディア人の良心からの行動だと受け止めています。
 朝日、毎日、読売など新聞各紙をはじめ、日本のマスメディア各社も、紙を掲げた女性が映ったテレビ画面の写真とともに、それぞれの公式サイトで報じています。中でも目を引いたのは、NHKが自局サイトで報じているその詳しさです。

※NHK「【詳報】ロシア国営テレビ職員 放送中に突然『反戦』訴え」
 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220315/k10013531881000.html

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 【写真】NHKのサイトのスクリーンショット(2022年3月15日夜)

 NHKによると、女性はこのテレビ局で編集担当者として働くマリーナ・オフシャンニコワさん。事前に収録していたビデオメッセージをSNSに投稿していました。その中で「いまウクライナで起きていることは犯罪だ。そしてロシアは侵略者だ。侵略の責任は、ただ一人の道義的な部分にかかっていてそれはプーチン大統領だ」「残念ながら私は過去何年もの間、『第1チャンネル』でクレムリンのプロパガンダを広め、今はそれをとても恥じている」などと話しているとのことです。NHKはメッセージ全文の訳文も紹介し、オフシャンニコワさんの行動に対する自局の解説委員による解説も付けています。

 共同通信によると、モスクワの裁判所は、軽微な違法行為を行政処分にする法律に基づいてオフシャンニコワさんに3万ルーブル(約3万1千円)の罰金を科したとのことです。「刑法犯としなかった判断には、問題の政治化を避けたいプーチン政権の意向が働いたとみられる」とし、タス通信が、裁判所は放送中の行動ではなく、事前収録したとみられる動画で無許可集会への参加を呼び掛けたことを罰金の理由とした、と伝えていることを紹介しています。

 ※東京新聞=共同通信「ロシアのニュース番組で『戦争をやめて』と紙掲げた女性に罰金 刑法犯とせず…問題の政治化を避ける狙いか」=2022年3月16日 

https://www.tokyo-np.co.jp/article/165804

 このブログでも何度か書いてきましたが、ロシア国内で戦争に反対し、ウクライナ侵攻に抗議の意思を表している人たちがいることは、この戦争を早く終わらせるための希望です。そうした人たちに向けて、ロシア国外から支援と連帯の声を上げることには、大きな意義があると思います。その声がロシア社会に届けば、状況を変えることができる可能性があります。そのためにはまず、抗議の意思を表している人がいること自体が広く知られなければなりません。ロシアの国営放送内部から、そうした抗議が発せられたこと。日本で公共放送のNHKが詳細にその出来事を報じたことには、大きな意義があると思います。
 マスメディアの組織ジャーナリズムは事実を伝えることが役割です。だから国営放送というマスメディアで働くオフシャンニコワさんの行動には、とりわけ大きな意義があります。わたしはジャーナリズムの役割は突き詰めれば戦争を起こさせないこと、始まってしまった戦争は一刻も早く終わらせることだと考えています。ロシアの国内外を問わず、ジャーナリストやメディアで働く人たちがオフシャンニコワさんに連帯するなら、ジャーナリズムはその役割を果たすことができるでしょう。ジャーナリズムの労働組合は出番だろうと思います。
 思えば、戦争下でマスメディアが為政者の意向に従って虚偽を伝えることは、日本でも1945年8月の敗戦まで続いていたことでした。「77年も前」か「わずか77年前」か。そうした歴史も踏まえて、マスメディアの組織ジャーナリズムを仕事にしてきた者として、わたしもここにオフシャンニコワさんの行動を支持することと、オフシャンニコワさんへの連帯の意を表します。

 オフシャンニコワさんに対しては、SNSへの投稿の内容に対して刑罰が科されるおそれがあるとの報道もあります。経緯を注視しています。

 

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【写真】日本のマスメディアの報道の例。朝日新聞デジタル

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【写真】日本のマスメディアの報道の例。共同通信のデジタル用コンテンツ