吉野家元常務の「シャブ漬け」発言は労働問題としてもアウト~実名、匿名に分かれた在京紙

 牛丼チェーン「吉野家」常務の早稲田大の社会人講座での発言が、新聞各紙でも19日付朝刊で報じられています。ジェンダー、人権、コンプライアンスなど、どの面からみても許容されない発言でしょう。以下、共同通信の配信記事から引用します。

 吉野家によると、伊東氏は若者を牛丼好きにする方法を受講生に提案させようとし、狙いを「地方から出てきた右も左も分からない生娘さんが、初めて(吉野家を)利用して、そのままシャブ漬けになるような企画」と表現した。「不適切な表現で不愉快な思いをする方がいたら申し訳ない」と前置きはしていたという。

 牛丼、牛めしはわたしもかつてはよく食べていました。事件担当記者だった当時、夜回りが日常の一部だったころは、忙しい日の夕食にさっと食べられて、それなりに食欲が満たされるので重宝していました。時に、無性に食べたくなることがありました。
 当時から、吉野家に限らず各チェーンの商品は、それぞれに味に特色があったと思います。後年、BSEの影響で米国産の輸入牛の流通が途絶えた際に、豪州産や中国産ではダメなのかとの疑問に、「脂身の多い米国産でなければ、吉野家のあの味にならない」との指摘をネットか何かで目にして、納得したことがあります。
 そのころ、いち早く「牛めし」の販売を再開したチェーンがありました。吉野家は豚丼を提供していました。ある休日、商店街を歩いていると、小学生の男の子2人を連れた夫婦の会話が耳に入りました。「おっ、牛めしがあるよ。お母さん、食べていこうよ」「だめよ。この子たち、吉野家しか食べないの」。
 さて、今回の発言です。例えとしての「中毒」の表現、「牛丼中毒」までなら、それ自体は許容の範囲内とわたしは考えます。しかし「シャブ漬け」とは「覚せい剤の乱用」です。さすがにありえない。そもそも自社商品を大事に思っていたら、覚せい剤などに例えるでしょうか。
 「かっぱえびせん」の言わずと知れたキャッチコピーは「やめられないとまらない」です。ユーモアとともに、商品への愛情がにじみ出ているように思います。「男性客が多い吉野家の牛丼ですが、女性にも一度食べてもらえたら、かっぱえびせんではありませんが『やめられないとまらない』となるような…」。こういう話法で十分だったろうと思います。
 共同通信の配信記事によると、この常務は講義の際に「不適切な表現で不愉快な思いをする方がいたら申し訳ない」とも話していました。また、他業界から4年前に吉野家常務に就いたとのことです。朝日新聞の記事は「生活用品大手プロテクター・アンド・ギャンブル(P&G)出身で、マーケティングの専門家として知られる」と紹介していますです。本人も発言が不適切だと自覚していたこと、外食産業とは別の世界から移って来ていたとの、そうした情報を知って、「ああ、なるほどな」と、感じるものがありました。
 この元常務(4月19日に解任されたと報じられていますので、以後は「元」を付けます)には「吉野家の牛丼」そのものへの愛着はない。どうやって売り上げを伸ばすか、その対象としての関心だけなのだろうと感じます。適切な表現を選ぶ意識が欠如していることから、ゲームに近い感覚なのかもしれないとも感じます。自社商品に愛着を持つ社員、従業員は、この元常務に「早く出ていけ」と思っているのではないでしょうか。この発言は社員、従業員への侮辱にも等しい。そういう意味では労働問題だろうと思いますし、やはりアウトです。

 東京発行の新聞各紙も4月19日付朝刊でこの出来事を報じましたが、日経新聞の紙面には記事が見当たりませんでした(見落としの可能性もあります)。他の5紙(朝日、毎日、読売、産経、東京)のうち東京新聞は共同通信の配信記事を掲載。産経新聞も共同稿が元になっています。
 5紙の報道を二分する明らかな違いがあります。元常務を実名で報じたのは朝日と共同(産経、東京)、匿名が毎日と読売でした。毎日、読売は経歴の記載がなく、外食産業とは無縁の他業界出身だったことは分かりません。
 5紙が紹介している発言の内容も同じではありません。吉野家への取材のほかに、SNSで講座の受講生が発信している情報を引用しているかどうかで違いがあるようです。講義の際に「不適切な表現で不愉快な思いをする方がいたら申し訳ない」と口にしていたことを紹介しているのは共同通信の配信記事だけです。
 実名と経歴が分かるかどうかで、この出来事に対する受け止め方にも違いが出てくるのではないでしょうか。
 以下に各紙の記事の扱い(掲載ページ)、見出し、紹介されている発言をそれぞれ書きとめておきます。

【朝日新聞】第3社会面「『若い女性に牛丼』巡り不適切発言/吉野家常務、早大での講座」
・発言内容
「生娘をシャブ(薬物)漬け戦略」
「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢、生娘なうちに牛丼中毒にする」
「男に高い飯をおごってもらえるようになれば、(牛丼は)絶対に食べない」※広報は「(詳細は)分かりかねる」

【毎日新聞】社会面「『若い娘を薬漬け』牛丼中毒に/吉野家常務が発言」
・発言内容
「生娘をシャブ漬け戦略」
「田舎から出てきたばかりの若い女の子を生娘なうちに牛丼中毒にする。男に高い飯をおごってもらえるようになれば絶対に食べない」

【読売新聞】第3社会面「吉野家の常務 女性蔑視発言/大学の講座で」
・発言内容
「田舎から出てきた若い女の子を牛丼中毒にする」
「男に高い飯をおごってもらえるようになれば、絶対に(牛丼を)食べない」といった趣旨

【産経新聞】社会面「『吉野家』常務 不適切な発言/社会人向け講座で」(共同通信配信記事を元に)
・発言内容
「地方から出てきた右も左も分からない生娘さんが、初めて(吉野家を)利用して、そのままシャブ漬けになるような企画」
「不適切な表現で不愉快な思いをする方がいたら申し訳ない」

【東京新聞】社会面「吉野家常務『若い女性を薬物漬け』講座で発言/会社が謝罪、処分検討」(共同通信配信記事)
・発言内容
「生娘がシャブ(薬物)漬けになるような企画」
「地方から出てきた右も左も分からない生娘さんが、初めて(吉野家を)利用して、そのままシャブ漬けになるような企画」
「不適切な表現で不愉快な思いをする方がいたら申し訳ない」

 

※追記 2022年4月20日21時15分
 吉野家元常務の発言について、日経新聞には記事が見当たらないと書きましたが、4月19日付朝刊の15面に掲載されていました。他紙のように社会面への掲載ではなく、企業関連の記事をまとめた「ビジネス」面です。わたしが見落としていました。
 見出しは「吉野家、不適切発言で発表会中止」。19日に予定していた親子丼の発表会を中止した、との書き出しです。「同社の常務取締役が16日に外部の社会人向け講座で女性蔑視の発言をしたことを受けた措置」としており、元常務は匿名です。発言の具体的な内容には触れていません。