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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

平和の理念尊重の論調が圧倒~憲法記念日の地方紙、ブロック紙の社説

 5月3日付の地方紙、ブロック紙各紙に掲載された憲法記念日の社説、論説を、ネット上の各紙のサイトで読める範囲でチェックしました。ロシアのプーチン政権によるウクライナ侵攻の真っただ中であり、やはり日本国憲法の平和主義の理念を堅持し、現実の外交に生かすことや、性急な憲法改正を疑問視し、慎重に対応すべきだとする論調が圧倒しています。わたしが目にした限りですが、少なくとも、憲法改正によって軍事力を整備し、国家と国民を守るべきだとする論調は、明示的にも暗示的にもありません。
 以下に、各紙の社説、論説の見出しと、一部は本文の抜粋を書きとめておきます。リンクも張っておきます。

【北海道新聞】「きょう憲法記念日 平和の理念今こそ大切に」/紛争解決導く外交を/危機への便乗は禁物/国民の命が最優先だ
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/676707

 憲法は前文で「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」とうたう。
 専制的なプーチン政権がウクライナを従わせようとする侵略行為は、日本の憲法の趣旨とは全く相いれない。
 第2次世界大戦で日本は2度にわたる原爆投下などで激しい惨禍にさいなまれた。その教訓を踏まえ掲げたのが平和憲法である。
 国家権力が戦争を起こすことを許さない。他国と信頼関係を築くことで国民の安全を保持する。こうした決意を胸に、今こそ日本は平和の理念を伝え広げるべきだ。

【河北新報】「平和憲法と安全保障 『同盟の恐怖』克服する力に」
 https://kahoku.news/articles/20220503khn000004.html

 巻き込まれる恐怖と見捨てられる恐怖。同盟につきまとう二つの恐怖のうち、米国が「世界の警察官」の役割を降りて巻き込まれる恐怖が後景に退くと、日本は見捨てられる恐怖におびえ、米国への追従を深化させるようになった。
 台湾有事の際、核大国の中国を相手に軍事介入するかどうか。ウクライナ危機が深刻化する中にあっても、米国は態度を明らかにしない「あいまい戦略」を続けている。
 にもかかわらずなのか、だからこそなのか、与党有力者からはウクライナを例に「米国が自衛のために戦わない国を助けることはない」といった発言も目立ちだした。
 かつてなく対米追従の動きを強める中で、指導者たちが国を守る「正義の戦争」を前面に打ち出している。この現実もまた、中国の海洋進出や北朝鮮のミサイル発射に並ぶ平和への脅威ではないか。ここは努めて冷静に考えたい。

【東奥日報】「危機にこそ理念再確認を/憲法施行75年」
 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/1037480

 国際情勢の緊迫化や感染症のまん延は国民の不安を募らせる。だが、敗戦の反省に基づいて国際平和の追求を先導していくこと、人権が抑圧された時代を忘れずに権利と自由を守っていくことは、時代の変化に左右されない普遍的な理念ではないか。危機の時にこそ、不安に乗じた議論ではなく、憲法の理念を再確認する議論を尽くし、その実現に努めるべきだ。
(中略)
 憲法前文は恒久平和と国際協調を掲げ、ロシアのような専制支配を否定している。民主主義国としての崇高な宣言だ。紛争を拡大させないために憲法の理念に基づく外交こそが求められている。

【秋田魁新報】「憲法施行75年 平和主義後退させるな」
 https://www.sakigake.jp/news/article/20220503AK0013/

 ロシアによるウクライナ侵攻など国際情勢は厳しさを増す。自民党は防衛力の大幅な増強を提言。岸田文雄首相は9条への自衛隊明記など改憲議論進展を期待する。平和憲法が岐路に立たされている。国民の危機感に乗じた拙速な防衛力増強や改憲論議は避けなければならない。
 ウクライナ危機ばかりではない。北朝鮮の弾道ミサイル開発、中国による台湾周辺での軍事活動の活発化が進む。いずれも到底容認できない動きだ。
 日本を取り巻く状況が緊張を高めていることは確かだ。だが平和憲法を持つ日本がまず取り組むべきなのは、防衛力増強よりも、積極的な平和外交で緊張緩和に努めることではないか。

【山形新聞】「憲法施行75年 危機にこそ理念再確認」
 https://www.yamagata-np.jp/shasetsu/index.php?par1=20220503.inc

【福島民報】「【憲法施行75年】原則は守られているか」
 https://www.minpo.jp/news/moredetail/2022050396704

 繰り返し訴えねばならないのは、東京電力福島第一原発事故の発生から十一年が過ぎても、三万二千人を超える避難者がいることだ。居住環境がある程度は改善されたり、避難先に居を構えて新しい生活を始めたりしたとしても、古里に戻れぬつらさは癒えはしまい。仮に憲法が定める「健康で文化的な最低限度の生活」は満たされても、「幸福追求権」はどれほど享受できているだろう。

【信濃毎日新聞】「憲法記念日に 物言う自由を手放さない」/力ずくでの排除/統制の強力な手段/自分の声を発する
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022050200739

 憲法に緊急事態条項を置く改憲論が、ウクライナの危機にも乗じて勢いづいている。例外状況の下で政府に緊急権限の発動を認める規定は、言論の自由を封じて全体主義に道を開いてきた。参院選後をにらんだ改憲の動きを厳しく見ていかなくてはならない。
 かつて日本は、報道・言論の統制を徹底し、戦時体制に人々を総動員して破滅へ突き進んだ。物言えぬ社会を再来させないために、自由をどう守り抜くか。それぞれが働き暮らす場で、自分の声を発したい。黙り込むうちに、強まる圧迫を押し返しきれなくなる。

【新潟日報】「憲法施行75年 戦争放棄の理念を今こそ」/専守防衛守れるのか/改正機運に世論冷静
 https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/57891

 ロシアだけではない。軍事的圧力を強める中国、北朝鮮の相次ぐミサイル発射など隣国情勢は近年になく緊迫している。
 戦後続いてきた平和はかつてなく危うい状況にある。
 新潟日報社が、県内大学生に憲法観を聞いたアンケートでは、「ロシアのウクライナ侵攻で日本も戦争をするのではないかと不安がある」と答えた人が6割近くを占めた。
 憲法の理念である国際平和を求める動きを強めていかねばならない時にある。
 しかし、脅威を背景に防衛力強化への動きが顕著になっていることに、憂慮の念を禁じ得ない。憲法9条に基づく専守防衛の原則が揺らいではならない。

【中日新聞・東京新聞】「良心のバトンをつなぐ 憲法記念日に考える」/血塗られた20世紀/愚かな為政者が戦争を
 https://www.chunichi.co.jp/article/463787

 しばしば憲法は法人である国家と国民との間で結ばれた社会契約だと説明されます。契約の第一は基本的人権の保障でしょう。九七条は次のように記しています。
 <日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである>
 私たちが自由に生き、権利を行使できるのも、人類の多年にわたる努力の成果に他なりません。戦争はとりわけ厳しい試練でした。「信託」という難しい言葉が書かれていますが、憲法をつくった人々が、未来の人々に託したバトンであるに違いありません。
 (中略)
 もっともらしい脅威や危機をあおり、「軍事」の掛け声が聞こえたら危険信号です。歴史の教えです。明治維新から昭和の敗戦に至る戦争の七十七年。敗戦から今日までの平和の七十七年。未来の分水嶺(れい)のような年です。
 静かに死者たちの声を聞き、次の時代に良心のバトンをつなぎたいものです。

【福井新聞】「日本国憲法施行75年 危機にこそ理念踏まえよ」
 https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1543525

 憲法前文では恒久平和と国際協調を掲げ、ロシアのような専制支配を真っ向から否定している。敗戦の反省から国際平和の追求をリードしていくこと、さらには人権抑圧時代を忘れずに権利と自由を守っていくことは時代がどんなに変わろうと普遍的な価値であるのは論をまたない。危機の時にこそ不安に乗じた議論ではなく、憲法の理念を踏まえた議論を尽くしその実現に努めるべきではないか。

【京都新聞】「憲法記念日に 浮足立たず、向き合う時だ」/「反撃能力」の保有明記/一足飛びの軍事力増強/改憲ありき 冷める国民
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/783180

 ロシアの暴挙や北朝鮮の弾道ミサイル発射、中国の香港弾圧など近隣情勢が激変する中、日本の安全保障が問われているのは確かだ。だが危機に乗じ、根底となる憲法や日米安保の在り方の議論を飛び越して「反撃」を口実に軍事の力を強める姿勢は容認できない。東アジアの軍拡競争を誘発し、日本の戦争リスクを高めることにもなりかねない。
 岸田首相は「検討する」としているが、政府与党の浮足立った議論を抑え、外交と防衛のバランスの中で有事に日本がどう動くのかを冷静に考える必要がある。

【神戸新聞】「憲法施行75年/9条の意義語る言葉を探して」/世界を先導する理想/防衛力の正当性問う
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/202205/0015269582.shtml

 安倍元首相ら自民党保守派が、ロシアの「核の威嚇」を受けて米との核共有論を議論すべきと声を上げた。続いて自民党安保調査会が、相手領域内でミサイル発射を阻止する敵基地攻撃能力を「反撃能力」に改称し、保有を求める提言を岸田文雄首相に提出した。
 ミサイル基地だけでなく「指揮統制機能等」を攻撃目標に加え、国内総生産の1%程度を維持してきた防衛費の倍増や、武器輸出の制限緩和なども盛り込んだ。なし崩し的に日本の攻撃力が拡大すると見なされれば軍拡を助長しかねない。
 専守防衛は、武力攻撃を受けたときに初めて自衛権を行使し、必要最小限にとどめる「憲法の精神に則(のっと)った受動的な防衛戦略の姿勢」(防衛白書)とされる。だが、岸田首相はあらゆる選択肢を排除しないという。政策の大転換を目指すなら、正面から国民に説明すべきだ。

【山陽新聞】「憲法記念日 合意得ながら議論深めよ」
 https://www.sanyonews.jp/article/1257815

 現行憲法は施行から一度も改正されていない。条文や内容が時代にそぐわなくなっているとも指摘されている。国内外の情勢が変わる中で、実態に合うように与野党が議論を深める環境が整うことは評価したい。
 議論を主導する自民には、憲法審の開催頻度を高め、9条への自衛隊明記を含めた党改憲案4項目の実現に向けた流れをつくる思惑もあろう。ただ、数に任せた「改憲ありき」の考えがあるのなら危ういと言わざるを得ない。他党と対立点があるのなら説明を尽くし、丁寧に互いの合意を得ながら議論を進めていかねばならない。
 岸田文雄首相は「国会の議論と国民の理解は車の両輪になる」と衆参両院の憲法審での議論進展を促している。自身の自民党総裁任期中の改憲に意欲を示すが、民意とは距離があるのが実情だ。

【中国新聞社】「緊急事態条項 憲法の改正まで必要か」
 https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/161500

 もし今、任期延長の規定を設けるとしても、憲法改正まで必要なのか。国会法や公選法の改正で対応できるのではないか。
 任期延長の先には、さらに危うい動きが控えている。緊急時の人権制限に加え、法律と同様の効力を持つ緊急政令を内閣が制定できる権限を憲法に盛り込もうとしていることだ。
 政府への権限集中や権力乱用を招き、深刻な人権侵害をも引き起こしかねない。そもそも憲法は国民の自由や権利を守るため、政府に縛りをかけるのが役割だ。そうした立憲主義の「たが」を外すことは許されない。
 人権制限の規定は既に、有事法制や災害対策基本法に盛り込まれている。なぜ、どんな場合に、さらなる制限が必要か。十分な国民の理解が求められる。

【山陰中央新報】「憲法施行75年理念再確認の議論を」
 https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/202283

【高知新聞】「【憲法施行75年】『なし崩し』を危惧する」
 https://www.kochinews.co.jp/article/detail/561374

 むろん、憲法は「不磨の大典」ではない。共同通信の世論調査では、デジタル社会の人権保障など新たな課題の議論を求める声も多かった。社会との深刻な乖離(かいり)があれば、見直すのは当然だろう。
 一方で、世論調査では改憲の機運は「高まっていない」とする回答が7割を占めた。「危機」に乗じるかのような憲法論議には、拙速に陥る危うさがある。主権者の声を十分に踏まえた冷静な議論を求める。

【西日本新聞】「憲法施行75年  広く、深く論じなければ」/ウクライナが問うもの/二つの77年見つめ直し
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/917183/

 平成、令和と時代が過ぎても日本社会は、旧憲法を是正した現憲法という「対の関係」で憲法を捉え続けた。それは75年に及ぶ日本の平和の実現に貢献した。半面、憲法論議はともすれば「戦力放棄」をうたう9条を巡る改憲、護憲に陥りがちで深まりを欠く。
 今こそ、憲法を大いに論じるべきである。コロナ禍とウクライナ情勢が突き付ける、不確実で不条理にあふれる世界の現実からは目を背けられない。
 大規模災害や感染症拡大に加え中国や北朝鮮による武力紛争を含む緊急事態に、今の憲法では十分に対応できないかもしれない。そんな問題意識が国民の中にも静かに広がっているのではないか。
 私たちがここで心がけたいのは従来より、もっと広く、深く憲法を論じることである。

【宮崎日日新聞】「憲法施行75年 危機にこそ理念の再確認を」
 https://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_62441.html

【南日本新聞】本社:鹿児島市
「[憲法施行75年] 平和主義の理念堅持を」/専守防衛の転換か/参院選で争点化を
 https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=155555

 ロシアによるウクライナ侵攻など国際情勢の緊迫化や新型コロナウイルス禍を契機に、憲法の改正や解釈を巡る論議が活発化している。施行から75年、国の柱となってきた理念をほごにしてはならない。

【沖縄タイムス】「[憲法施行75年] 今こそ平和主義を貫け」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/952445

 戦争を終わらせるには非常な痛みと困難を伴う。20世紀に2度の大戦を経験した世界だが、21世紀に入っても戦火が収まる気配はない。
 そんな国際社会で平和を維持するには、戦争を始めないことが最も重要だ。戦争違法化のうねりを背景に、過去の教訓を踏まえつくられたのが日本国憲法だった。
 (中略)
 戦争は現実に起こり、いったん起きれば甚大な犠牲と破壊で日常は奪われ、多くの命が失われる。
 国際社会を見れば、軍事力や抑止力の強化だけでは戦争を回避できないことは一目瞭然だ。緊張が高まる今こそ、平和主義に立った上での取り組みが最も重要だ。

【琉球新報】「施政権返還50年(3) 憲法と沖縄 地方自治規定が鍵握る」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1511268.html

 当時は戦争放棄を掲げる憲法9条が注目されたが、最近注目されているのは95条である。95条は特定の地方公共団体にのみ適用される法律は「その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ」制定できないと定めている。
 これまで沖縄の運命を決める重要な局面で、95条は適用されなかった。改憲勢力が勢いを増す中で、いまや形骸化が指摘される95条の地方自治規定は、沖縄問題解決の鍵を握る。95条を生かしたい。