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参院選 自民大勝~早急な改憲は必要なのか

 参院選は7月10日投票が行われ、11日にかけての開票で全議席が確定しました。自民党は改選前から8議席増の63議席を獲得し、単独で改選125席の過半数に達しました。大勝です。次いで、各党の獲得議席は以下の通りでした。
 立憲民主党17議席(改選前から6減)、公明党13議席(同1減)、日本維新の会12議席(同6増)、国民民主党5議席(同2減)、共産党4議席(同2減)、れいわ新選組3議席、NHK党、社民党、諸派各1議席、無所属5議席
 8日に安倍晋三元首相の殺害事件が起きる以前から、マスメディアの情勢調査では自民が優勢と報じられていました。共同通信の新聞向け配信記事「表層深層」によると、「期日前出口調査では9日、比例代表で自民に投票したとの回答が前日に比べ約5ポイント増えた」とのことです。事件で一定の票が自民党に流れたことがうかがえますが、情勢が大きく動いたわけではなく、大勢は事件発生の前に決まっていたように感じます。

 11日付の朝刊各紙を東京・世田谷区内で買い求めました。1面トップの見出しは以下の通りです(同じ東京都内でも、地域によっては見出しが異なっている場合があるかもしれません)。
・朝日新聞「自民 改選過半数/1人区 野党4勝28敗/維新伸長 立憲減 第2党は維持/改憲4党 2/3超す」
・毎日新聞「自公堅調 改選過半数/改憲4党 3分の2維持/立憲伸びず 維新は増」
・読売新聞「与党大勝 改選過半数/自民1人区28勝4敗/立民 改選割れ 維新伸長」
・日経新聞「自民大勝 与党改選過半数/改憲勢力2/3維持/参院選 首相、内閣改造へ」
・産経新聞「改憲勢力3分の2維持/自公 改選過半数/麻生・茂木両氏再任へ/維新は議席大幅増」
・東京新聞「自公 改選過半数/1人区 野党4勝28敗/改憲勢力3分の2維持」

 各紙の社説、政治部長の署名評論の見出しは以下の通りです。
【社説】
・朝日新聞「自公勝利後の政治 民主主義 実践が問われる」/多様な意見を認め合う/フリーハンドではない/野党の役割を忘れるな
・毎日新聞「参院選で与党過半数 国民の不安ぬぐう政治を」/問われた民主主義の力/岸田政権は針路明確に
・読売新聞「与党改選過半数 安定基盤で懸案の解決に挑め/経済再生と防衛力強化が急務だ」/様々な危機が背景に/旧民主党勢力は低迷/難題取り組む環境整う
・日経新聞「民主主義の重みかみしめ政治を前に」/激動に安定求めた民意/負担の議論も逃げるな 
・産経新聞「参院選で与党勝利 首相は憲法改正の実現を/効果見極め物価高に対処せよ」/『防衛費増額』も急務だ/感染拡大の対策万全に
・東京新聞「参院選で与党過半数 暮らしの安定最優先に」/物価高に柔軟対応を/『白紙委任』ではない/野党共闘再構築急げ

【署名評論】
・朝日新聞「『聞くだけ』政治は許されない」林尚行・政治部長
・毎日新聞「今こそ岸田カラーを」中田卓二・政治部長
・読売新聞「ひるまず政策遂行を」村尾新一・政治部長
・日経新聞「民主主義応える政治を」吉野直也・政治部長
・産経新聞「次は改憲掲げ信を問え」大谷次郎・政治部長
・東京新聞「物価高直撃 東京は『伯仲』」高山晶一・政治部長

 殺害された安倍元首相は憲法改正が悲願であり、軍事力の強化にも熱心でした。事件を「卑劣なテロ」と呼ぶことの裏返しのように、安倍元首相への称賛が自民党内を中心に高まっている中で、安倍政権当時に安倍首相への支持が鮮明だった読売新聞は選挙結果を受けて軍事力強化の必要性を強調し、産経新聞は憲法改正を主張しています。
 ただし、今回の選挙の情勢調査では、有権者の主要な関心は物価高対策でした。憲法改正については、早急に必要な事情(立法事実)があるのか疑問ですし、もとより自民大勝は白紙委任を意味しているわけではありません。
 安倍元首相が突然いなくなったことで、自民党内のパワーバランスにどんな変化が生じるのか。就任以来、重要課題を先送りしてきたと指摘されている岸田文雄首相が、どう独自色を出すのか、出さないのか。衆院解散がなければ、次の参院選まで国政選挙がないことから、岸田政権にとってこれからの3年は「黄金の3年間」になる、との比喩をたびたび目にします。その間、有権者の審判がないのであれば、マスメディアによる公権力の監視は一層重要になります。

 安倍元首相の殺害事件は、11日で発生から4日目です。報道されている範囲内のこととはいえ、容疑者の供述内容からは政治的な意図を持った動機はうかがえません。この事件を「テロ」と呼ぶことには、わたしには違和感があります。
 11日付の各紙社説で事件を「テロ」と位置付けているのは日経新聞(「テロには決して屈しない」)と産経新聞(「卑劣なテロ」)でした。政治部長の署名評論では読売新聞(「卑劣なテロ」)と日経新聞(「テロの衝撃」)でした。