ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「東北の被災地に刻まれている記憶は複雑だ」(河北新報)~安倍元首相の国葬に疑義示す社説、論説が続く

 安倍晋三元首相の国葬を巡る新聞各紙の社説、論説の記録の続きです。岸田内閣が国葬の実施を閣議決定した7月23日前後にも、社説、論説の掲載が相次ぎました。
 もっとも印象に残るのは22日付の河北新報(本社仙台市)の社説「性急な決断、『聞く力』どこへ」です。地域に根差した視線で、安倍元首相の「実績」について「特に東北の被災地に刻まれている記憶は複雑だ」として、厳しく問うているのが目を引きました。
◎河北新報「安倍元首相『国葬』 性急な決断、『聞く力』どこへ」=7月22日付
 https://kahoku.news/articles/20220722khn000008.html

 東京電力福島第1原発の状況を「アンダーコントロール」と語って招致した東京五輪は、いつの間にか「復興五輪」から「コロナに打ち勝った証し」にすり替わった。
 「最後は金目でしょ」「まだ東北だったからよかった」「石巻市(いしまきし)」「復興以上に大事」「長靴業界はもうかった」
 第2次安倍内閣以降、閣僚らの失言、暴言は何度も繰り返された。更迭せざるを得なくなると、安倍氏は決まって「任命責任は私にある」と語ったが、具体的な行動で責任を取ることはなかった。
 連戦連勝だった在任中の国政選挙でも、東北では1強政治への不信感から、自民党候補が幾度も苦杯をなめた。
 全国では未解明のままの森友・加計学園問題や桜を見る会の疑惑を巡る批判が根強い。礼賛一色となるような葬送には、違和感を覚える人もいるだろう。

 23日付では、北海道新聞、信濃毎日新聞がともに国葬については2回目となる社説を掲載。北海道新聞(「弔意の強制にならぬか」)は「国費で経費の全額を賄う国の儀式として葬儀を実施するのは『弔意の強制』にならないか」と、疑問を呈しています。政府は、国民に弔意を強制することはないと説明していますが、口にするかしないか、通達、通知を出すか出さないかの問題ではなく、国費で全額賄うこと自体が「強制」の意味を帯びるのではないかと、危惧を表明しています。
 費用については信濃毎日新聞(「割れる民意は見ぬふりか」)も「異例の儀式に税金を使うのだから、国会で国葬の是非やあり方について審議するのが筋だ。主権者は誰か。岸田政権は忘れてはならない」と指摘しています。

 全国紙では毎日新聞が23日付で、2度目の社説を掲載しました。前回は、7月14日に岸田首相が記者会見で国葬の方針を表明した直後の16日付(見出しは「国民の思い尊重する形に」)でした。「落ち着いた状況の中で、世論を見極めながら決めるべきではなかったか」「さまざまな国民の思いを尊重し、世論の分断を招かぬよう丁寧に進めなければならない」と指摘していたものの、わたしは「いち早く容認」と受け止めました。2度目の今回は「なぜ国会説明しないのか」の見出しで、賛否両論が噴出していることを指摘し、国会での説明を求めていますが、国会審議は最初の社説ではっきり主張しておいても良かったのではないかと感じます。
 日経新聞は23日付で初めて社説で取り上げ(「広く国民の理解を得る国葬に」)、「内政や外交の実績を総合的に評価した判断は理解できるが、国内には国葬への慎重論もある。運営方法の透明性を高め、広く理解を得られる形での実施をめざしてほしい」と求めています。

 7月22日付から24日付で、ネット上の各紙のサイトで確認できた関連の社説、論説の見出しを書きとめておきます。全文が読めるものはリンクもはっておきます。
 それ以前の社説、論説は、以下の過去記事を参照いただければと思います。

news-worker.hatenablog.com

news-worker.hatenablog.com


【7月22日付】
▼河北新報「安倍元首相『国葬』 性急な決断、『聞く力』どこへ」
 https://kahoku.news/articles/20220722khn000008.html
▼秋田魁新報「安倍氏銃撃2週間 多くの課題、突き付ける」
 https://www.sakigake.jp/news/article/20220722AK0006/

 国葬の対象者や実施要領を明文化した法令はない。岸田首相は会見で、憲政史上最長の在職期間や国際社会からの高評価、選挙中の蛮行による死去などを理由に挙げた。「閣議決定によって実施は可能」と説明したが、費用を全額国費で負担するのであれば国会での議論を経て決めるのが本来の姿ではないか。
 (中略)
 自民党の茂木敏充幹事長は反対する野党に対して強く反論。「国民から、いかがなものかとの指摘があるとは認識していない。国民の声とはかなりずれている」と述べた。国民に多様な考えや意見があることを認めようとしない姿勢に映る。
 国葬を強引に営むことで国民の分断を進めてはならない。野党が求めているように、政府は国葬の意義や理由を国会で丁寧に説明する必要がある。

▼山梨日日新聞「安倍元首相の国葬 説明不十分では分断を生む」

【7月23日付】
▼毎日新聞「安倍氏『国葬』を決定 なぜ国会説明しないのか」
 https://mainichi.jp/articles/20220723/ddm/005/070/137000c

 銃撃事件で死亡した安倍晋三元首相の「国葬」を9月27日に行うと、政府が閣議決定した。
 岸田文雄首相が先週、方針を発表して以来、賛否両論が噴出している。だが、なぜ国葬なのか、説明が尽くされていない。
 (中略)
 首相は国葬とすることによって「暴力に屈せず、民主主義を断固として守り抜くという決意を示す」と強調している。
 日本の民主主義の基盤は、国民の代表で構成する国会である。国民の疑問に答えるには、政府が国会で説明し、議論することが欠かせない。

▼日経新聞「広く国民の理解を得る国葬に」
 https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK2251V0S2A720C2000000/

 政府が安倍晋三元首相の国葬を9月27日に都内の日本武道館で行うと閣議決定した。内政や外交の実績を総合的に評価した判断は理解できるが、国内には国葬への慎重論もある。運営方法の透明性を高め、広く理解を得られる形での実施をめざしてほしい。
(中略)
不慮の死を遂げた元首相を静かに悼む環境がなにより大切だ。今回の国葬が世論の分断をさらに広げないよう努めるのも政府・与党の役割である。
岸田首相は葬儀委員長として国葬の意義を丁寧に説明し、透明性の高い運営方法を主導してほしい。それが時代に合った国葬のあり方を考える基準にもなる。

▼北海道新聞「『国葬』閣議決定 弔意の強制にならぬか」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/709154

 当日は休日にしない方針で、松野博一官房長官は「国民一人一人に喪に服することを求めるものではない」と強調した。
 だが、国費で経費の全額を賄う国の儀式として葬儀を実施するのは「弔意の強制」にならないか。
 安倍政権は森友・加計学園問題や桜を見る会の疑惑などもあり、国民の間で評価が分かれている。国葬に反対する声は少なくない。
 国葬の対象や要領などを定めた法令はなく、政府が閣議のみで一方的に決めた手法も疑問である。
 国葬とする基準や費用負担のあり方について、政府は国民が納得できる説明を尽くし、国会で議論を深めるべきだ。

▼東奥日報「分断回避へ説明尽くせ/安倍氏の国葬」
 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/1221467
▼山形新聞「安倍氏の『国葬』 分断回避へ説明尽くせ」
 https://www.yamagata-np.jp/shasetsu/?par1=20220723.inc
▼信濃毎日新聞「安倍氏国葬決定 割れる民意は見ぬふりか」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022072300042

 このコロナ禍、近親者のみで葬儀を済ませる世帯が目立つ。故人との別れとなる弔問を控えたという人も多かろう。そんな折、国は海外から要人を招き、盛大に儀式を催す。「国民の声」を認識できていないなら、ずれているのは政府・与党の方だろう。
 松野博一官房長官は「国民一人一人に喪に服すことを求めるものではない」と繰り返す。弔旗の掲揚や黙とうを強制してはならないのは、言うまでもない。
 政府は、予備費からの費用支出を想定する。異例の儀式に税金を使うのだから、国会で国葬の是非やあり方について審議するのが筋だ。主権者は誰か。岸田政権は忘れてはならない。
 海外から要人が来れば、厳重な警備態勢が要る。平日の都内の交通規制も課題になる。急拡大する新型コロナ感染が収束しているかどうかも気がかりだ。
 何より、十分な説明もないまま異論を封じれば、国民との間にしこりが残るに違いない。

▼北日本新聞「安倍元首相の国葬/弔意を強制せぬように」
▼福井新聞「安倍氏の『国葬』 多くの賛同へ説明尽くせ」
 https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1596022

 現行憲法下で国葬に関する明文化した法令はない。岸田首相は国の儀式を所掌する内閣府設置法があり、閣議決定で国葬の実施は可能としたが、恣意(しい)的運用の懸念は否定できない。ましてや、自民党内の保守派やその支持層への配慮はなかったといえるのか。
 立民や日本維新の会などから国葬とした判断について首相の説明責任を問う声が上がっている。8月3日召集予定の臨時国会や閉会中審査での質疑を求めている。自民党側は応じない構えだが、より多くの国民の賛同が欠かせないはずであり、国会で理解を得る努力が必要だろう。首相は「民主主義を断固として守り抜く」と訴えた以上、国葬賛成派と反対派の間で新たな分断、対立を生まぬよう説明を尽くすべきだ。

▼大分合同新聞「安倍氏の国葬 分断回避へ説明尽くせ」

【7月24日付】
▼茨城新聞「安倍氏の国葬 分断回避へ説明尽くせ」
▼山陰中央新報「安倍氏の国葬 分断回避へ説明尽くせ」
 https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/243389