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安倍元首相の国葬、産経・FNN調査では賛否が拮抗~産経「主張」(社説)は自社調査結果に言及せず

 安倍晋三元首相の国葬に対して、産経新聞とFNN(フジテレビ系)が合同で7月23、24日に実施した世論調査では賛否が割れたことが報じられています。産経新聞の紙面では26日付朝刊(東京本社)に掲載されています。政府が「国葬」とすることを決め、費用は全額国費で負担する、との決定について、「よかった」「どちらかといえばよかった」が計50.1%、「よくなかった」「どちらかといえばよくなかった」が計46.9%とのことです。その差は3.2ポイント。産経新聞はサイド記事で「拮抗」と評しています。
 岸田文雄首相が記者会見で、安倍元首相の国葬を表明したのは7月14日でした。以後、わたしの目に止まった範囲ですが、マスメディアの定例世論調査は23日までに朝日新聞、毎日新聞、NHKの3回ありました。国葬に対しては法的な根拠や手続き、安倍元首相の功罪などで疑義や異論がさまざまに指摘されています。世論調査では各メディアとも当然に質問を用意するだろうと思っていました。しかし、朝日新聞、毎日新聞の調査では国葬についての質問はありませんでした。NHKの調査では、国葬とする政府の方針に対して「評価する」49%、「評価しない」38%の結果でした。
 一方では、自民党の茂木幹事長が18日の会見で「国民から『国葬はいかがなものか』との指摘があるとは、私は認識していない」と言い放ち、疑義や異論があること自体に向き合おうとしない姿勢を顕著に示しました。この見解は現在も撤回していないようです。産経新聞とFNNの合同調査の結果は、わたしが目にした限り、安倍元首相の国葬に対する世論の状況を示すものとして、NHKに次ぐ2例目です。この二つの調査結果から言えるのは①社会の中で国葬の賛意は半分程度であること②「いかがなものか」との意見も3分の1から半数近くあること―です。朝日新聞、毎日新聞が調査で取り上げなかった理由は分かりませんが、仮に取り上げていれば、より民意の所在を探る材料が増えていたはずで、茂木幹事長も“暴言”を放置できないのではないか、と感じます。

 ただし、産経新聞・FNNの調査結果をどう評価すればいいのか、わたしには当惑もあります。
 産経新聞は調査結果を掲載した同じ26日付紙面に、安倍元首相の国葬を巡る2回目の社説(「主張」)を掲載しました。「野党の反対は理解できぬ」との見出しで、国葬の決定を積極的に評価する内容です。もともと産経新聞は、安倍元首相を国葬で送るよう、岸田首相が表明する前から主張していました。
※産経新聞「安倍元首相の国葬 野党の反対は理解できぬ」=2022年7月26日
 https://www.sankei.com/article/20220726-NG2IVQEVDVMP3L3EVBV7JGWM4M/

 その2回目の「主張」の中に、以下の一文があります。

各種世論調査で、国葬に賛意を示す国民は多数を占めているが、慎重派も少なくない。

 先述のNHKの調査では、「評価する」が「評価しない」を上回っている、とは言えますが、過半数に達しておらず「賛意を示す国民は多数を占めている」とまでは言えません。自社とFNNの合同調査も産経新聞自らが、賛否が割れている、拮抗していると書いている通り「賛意を示す国民が多数」ではありません。そもそも産経新聞の社説には、自社の世論調査結果への言及が見当たりません。言及すれば、「国葬に賛意を示す国民は多数を占めているが、慎重派も少なくない」との表現と齟齬をきたすようにも思います。
 産経新聞とFNNの合同世論調査では以前、データのねつ造がありました。現在は信頼回復の途上だとわたしは考えています。産経新聞の社説が調査結果に言及しない理由は分かりませんが、やはりこの調査結果の扱いには慎重にならざるを得ません。

 安倍首相の国葬を巡っては、熊本日日新聞や南日本新聞(本社鹿児島市)などの地方紙がSNSを通じて賛否を問うアンケートを実施しています。結果はいずれも「反対」が「賛成」を上回っており、南日本新聞の調査では「反対」が72%に上っています。

※南日本新聞「安倍元首相国葬 反対72%『安易な神格化懸念』『国費負担に違和感』 賛成23%『在職最長、功績ある』 実施の是非巡りアンケート」=2022年7月25日
 https://373news.com/_news/storyid/160064

 これらの結果はネット上で話題になっていますが、世論調査とはまったく別物であり、そのことは各紙の記事にも明記されています。世論調査は、限られたサンプル数の中に世論の動向を正確に反映繁させるために、調査対象者の「無作為抽出」にさまざま手間や費用をかけています。対して地方紙のアンケートは、調査対象者の母集団は新聞社のSNSに登録している人たちに限られています。世論調査とは異なる、文字通りアンケートです。
 なぜ今回そうしたアンケートが話題になるのかは、全国紙などの定例世論調査であまり取り上げていないことと無関係ではないように思います。仮に、朝日新聞と毎日新聞が世論調査で質問していれば、NHKと合わせて3件となっていました。それだけあれば、世論の受け止め方はかなり正確に分かったはずです。世論調査結果があまりにも少ないために、地方紙は地方紙で、民意が安倍元首相の国葬をどう見ているのかを知るために、自らができることをやろうとしている、とわたしは考えています。あるテーマに対して、社会で賛否が分かれていることは、それ自体が社会で共有されるべき情報です。