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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

五輪汚職捜査に「『安倍政治の時代』の検証」の意味~新聞各社の公式スポンサー入りと金権構造

 かねて捜査の動きが報じられていた昨年の東京五輪を巡る汚職事件が8月17日、大きく展開しました。公式スポンサーだった紳士服大手の「AOKIホールディングス」側から、スポンサー選定などをめぐり計5100万円の賄賂を受け取ったとして、東京地検特捜部は受託収賄容疑で、大会組織委員会の高橋治之元理事を逮捕しました。贈賄容疑で、AOKI前会長ら3人も逮捕しました。「まさか」というよりも「やはり」との思いが優ります。元理事は容疑を否認していると伝えられていますので、受託収賄罪が成立するかどうかは慎重にみていきたいと思いますが、資金の提供自体は争いがないようです。大会組織委員会の理事を務める立場で、名目はどうあれ、公式スポンサーになる企業から多額の資金を得ること自体、金権体質が指摘されて久しい五輪の一面をよく表していると思います。
 受託収賄罪が成立するためには、わいろの授受に加えて、職務上の権限を巡って贈賄側から具体的な依頼(請託)を受けたことを証明する必要があり、その点で収賄罪と比べて捜査、立証はハードルが高くなります。
 特捜検察と言えば、近年は森友学園の土地取得を巡る財務省職員らの虚偽公文書作成や背任を不起訴にしたり、「桜を見る会」の経費補助で、家宅捜索もしないまま安倍晋三元首相を不起訴にしたりと、「安倍一強」に忖度したのではないかと思わざるを得ないほどに、安倍政治にかかわる事件では消極姿勢が際立っていました。「立件できない理由」ばかりを探し出しているようにさえ思えました。そうしたこれまでの姿勢との比較で言えば、この東京五輪を巡る疑惑には、特捜検察は積極的に取り組んでいるように思えます。東京五輪も安倍元首相が深くかかわった“国策”でした。安倍政治そのものではないかもしれませんが、「安倍政治の時代」の検証としての意味はあるように思います。特捜検察の捜査の推移を注視したいと思います。

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 この事件とマスメディア、特に新聞とのかかわりで考えることがあります。東京五輪では全国紙5紙と北海道新聞も新聞社として公式スポンサーに名前を連ねていました。1業種1企業が原則だった公式スポンサーは、東京大会では同じ業種で複数が選定されました。新聞業界はその一つです。この方式を進めるのに、逮捕された元理事が積極的に関与したとの報道もあります。狙いは収入増でした。そうやって収入を増やせば、その分、公費からの支出を減らすことができる、というのが大義名分だったようです。
 ただし、金が集まるところには利権が生まれます。五輪を巡って金権体質との批判が続くゆえんです。利権があれば不正、腐敗の温床になる、その構図が今回の事件でも浮かび上がっています。受託収賄罪に当たるかどうかはいったん留保するとしても、組織委の理事を務める人物が、公式スポンサーになる企業から多額の資金を得る構図は、やはり金権体質そのものです。そうした金権構造の一角に少なくない新聞社が連なっていました。その意味をあらためて考える機会でもあると思います。

 組織委の元理事らの逮捕を、東京発行の新聞各紙も18日付朝刊で大きく扱いました。朝日、毎日、読売、産経は1面トップ。日経、東京は準トップでした。大型の事件とあって、朝日、毎日、読売、日経、産経の5紙が連載企画を組んでいます。わたしが検察担当の記者だった当時は、こうした事件の連載企画には、事件の性格を端的に表すタイトルを考えるのが常でした。今回は各紙のタイトルは以下の通りです。
 朝日:「五輪汚職」
 毎日:「暗躍 五輪汚職事件」
 読売:「五輪汚職」
 日経:「五輪汚職」
 産経:「蝕まれた祭典」
 5紙のうち3紙がそっけない「五輪汚職」でした。そもそも3紙ものタイトルが同じ、ということ自体、わたしの感覚では「異例」です。
 むしろ、以下のように各紙の社説の見出しの方に「腐敗の祭典」「『五輪マネー』の闇」「不正の構図」など、それらしいキーワードが目に付きます。
 朝日「五輪汚職 腐敗の祭典だったのか」
 毎日「組織委元理事を逮捕 『五輪マネー』の闇解明を」
 読売「五輪贈収賄逮捕 『平和の祭典』に泥を塗るとは」
 産経「五輪元理事の逮捕 不正の構図の解明を急げ」
 当事者が容疑を否定していること、推定無罪の原則があることもあって、連載企画に凝ったタイトルを考えるような時代ではないのかもなあ、と思ったりしています。

 以下に、8月18日付の東京発行各紙朝刊の主な記事の見出しを書きとめておきます。

▼朝日新聞
・1面トップ「五輪組織委元理事 逮捕/スポンサー選定 受託収賄容疑/東京地検 AOKI側から5100万円/高橋元理事と青木前会長 容疑否認」
・2面:時時刻刻「コンサル料 全て『賄賂』/組織委理事 みなし公務員/検察、継続的な便宜認定」「スポンサー集め 電通が主導/国内68社から3761億円」
・3面「五輪マネー 闇またも/承知時に豪華接待・組織委会長が有罪」
・15面(スポーツ)「札幌招致へ影響懸念/JOC会長『残念』」
・社会面トップ:連載企画「五輪汚職」(上)「祭典の陰 カネ呼んだ存在感/高橋元理事 海外スポーツ界要人と人脈」/「青木さんには『何もできませんよ』と/逮捕前 高橋容疑者の一問一答」/識者談話2本/「招致めざす札幌『この時期に…』」
・社説「五輪汚職 腐敗の祭典だったのか」

▼毎日新聞
・1面トップ「東京五輪 高橋元理事逮捕/5100万円受託収賄容疑 東京地検/贈賄容疑 AOKI3人も」
・3面:クローズアップ「五輪で便宜 立証焦点」「特捜、『賄賂性』判断にめど」「閉鎖性 汚職の温床に」/「スポーツ界『驚き』 選手『怒り』」
・社会面トップ:連載企画「暗躍 五輪汚職事件」(上)「五輪の蜜月 破綻/青木前会長『だまされた』」
・社説「組織委元理事を逮捕 『五輪マネー』の闇解明を」

▼読売新聞
 ・1面トップ「五輪組織委元理事 逮捕/スポンサー契約便宜か/5100万円受託収賄容疑/AOKI前会長ら贈賄容疑 東京地検」
 ・3面:スキャナー「五輪利権 証拠固め/『事業要望文書』入手/東京地検特捜部」「コンサル契約 スポンサー選定1年前」「スポーツとカネ 過去にも」
 ・19面(スポーツ)「札幌五輪の招致『影響確実』/支持率向上に逆風」
 ・社会面トップ:連載企画「五輪汚職」(上)「『ドン』誰も逆らえず/『高橋詣で』AOKI何度も/電通で辣腕 国内外に人脈」
 ・第2社会面「スポーツ界 落胆/小池知事『誠に残念』」
 ・社説「五輪贈収賄逮捕 『平和の祭典』に泥を塗るとは」

▼日経新聞
 ・1面準トップ「五輪組織委元理事を逮捕/東京地検 5100万円受託収賄の疑い/AOKI前会長も 贈賄容疑」
 ・2面「五輪汚職 利権にメス/不透明な商品選定や契約/IOC規程に抵触も」
 ・社会面トップ:連載企画「五輪汚職」(上)「『第一人者』の影響力頼み/公式商品販売狙う/AOKI 元理事と親交09年から」/「創業一代で大手に/青木前会長、賄賂性を否定」/「高橋元理事『便宜はない』 主な一問一答」
「コンサル料、賄賂と認定/東京地検 依頼メールなど決め手/請託の立証にハードル」/「組織委清算法人『捜査に協力』」

▼産経新聞
 ・1面トップ「五輪組織委元理事 逮捕/スポンサー契約巡り 受託収賄疑い 東京地検特捜部/AOKI前会長らは贈賄容疑」
 ・1面:連載企画「蝕まれた祭典」(上)「『私が中止回避』聴取は独演会」※社会面へ
 ・3面「コンサル料『賄賂』認定/契約1年後に五輪スポンサー」「受託収賄 立証にハードル」/「スポンサー企業『迷惑』」
 ・12面(スポーツ)「札幌五輪招致に陰/関係者『タイミング悪い』」
 ・社会面トップ:蝕まれた祭典「『高橋案件』古巣に影響力/企業集め 圧倒的なスポーツ人脈」/「電通社員 イメージ悪化懸念」/「行商から業界大手に 青木前会長」
 ・社説(「主張」)「五輪元理事の逮捕 不正の構図の解明を急げ」

▼東京新聞
 ・1面準トップ「五輪組織委元理事を逮捕/協賛社選定で受託収賄疑い 東京地検/AOKI前会長ら3人 贈賄容疑」
 ・3面「スポンサー選定 介入か/元電通・高橋容疑者 受領資金の使途 焦点」
 ・10面(スポーツ)「汚職 五輪イメージ失墜/札幌招致 影響も」/「『極めて残念』山下JOC会長」
 ・社会面「五輪招致『隠然たる力』/『レジェンド』大物政治家とも接点」/「『こんなの事件になるか』/高橋容疑者 捜査に反発」/「64年の感動原点 青木容疑者」/「『私服のためか』『最後までけち』市民ら失望」