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若年層の安倍政治支持に変化が起きているのか~「国葬」へ否定的評価が急増

 ひとつ前の記事の続きです。
 読売新聞が9月2~4日に実施した世論調査では、安倍晋三元首相の国葬に対する評価が、同じ質問をした8月の調査(8月5~7日)から大きく変化しました。「評価する」は49%から11ポイントも減って38%にとどまった一方、「評価しない」は46%から10ポイント増の56%です。読売新聞は8月調査では「評価する」「評価しない」が拮抗と位置付けていましたが、今回はその差は18ポイントにもなり、「評価しない」が多数です。見ようによっては、評価は逆転とも言えそうです。この大きな変化の要因は、若年層の回答状況とのことです。
 5日付の読売新聞の記事によると、18~39歳では「評価する」が8月調査の65%から22ポイント下がり43%でした。「評価しない」は28%から21ポイント上がり49%に。「評価する」が「しない」を40ポイント近くも上回っていたのに、わずか1カ月で逆転です。40~59歳でも、「評価する」は46%から36%に下がり、「評価しない」は50%から60%に上昇しました。
 他社の8月時点での世論調査でも、若年層が国葬に対して肯定的な傾向が見られました。朝日新聞が8月27、28日に実施した調査で18~29歳は賛成64%、反対30%だったのに対し、60代以上では賛成3割、反対6割でした。当初は若い人たちの間では、国葬に対して好意的な評価が高い割合を占めていました。ここにきて、否定的な評価が急速に取って代わりつつあるようです。
 以前の記事でわたしは、以下のように書きました。

 2006~07年、12~20年と長期にわたって首相の座にありました。若い世代で国葬への賛成が3分の2に上るのは、「子どものころから、首相と言えば安倍首相だった」という事情が関係しているのかもしれないと感じます。

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 7月に国葬論議が持ち上がって以降、当初は、安倍元首相へのなじみの深さから国葬を肯定的にとらえていた若者は少なくなかっただろうと思います。しかし、社会的にさまざまに交わされる意見に接するうちに、国葬に法的根拠がないこと、弔意の強制の意味合いを持つことなどを理解するに至った人たちが少なからずいるのではないか。そしてもう一つ、安倍政治に「功」があったとしても「罪」もまた小さくないことを知り、国を挙げての弔意の対象足りえない、と考えるようになったのではないか―。もちろん、安倍政権当時から、自民党所属の国会議員が旧統一教会と選挙などで深く結びついていたことが明らかになったことも関係しているでしょう。読売新聞の調査結果に表れた大きな変化の要因について、わたしはこのように推測しています。
 若年層の中で、国葬の社会的議論を通じて、安倍政治への評価それ自体に変化が起きているのだとしたら、その意味は小さくありません。安倍元首相が長期政権を誇った大きな要因の一つは、まさに若年層の支持が高い水準で安定していたことだったからです。自民党は安倍政治の当時と今も変わらず、岸田文雄政権は基本的に安倍政治を継承しています。若年層に安倍政治への評価の変化が生まれているのだとしたら、まさに「今」の政治に大きな影響を与えうるはずです。

 国葬の費用について、岸田内閣は9月6日、総額が16億6千万円になるとの試算を明らかにしました。それまでは、8月26日の閣議で会場設営費などに2億4940万円を支出することを決めたものの、警備費などは国葬が終わった後に明らかにするとしていました。世論が反対多数へと変わる中で方針を変更し、警備に8億円、海外からの要人の接遇費に6億円などの見通しを示したようです。しかし、今までの約2億5千万円がいきなり6倍以上に跳ね上がったことに対しては、理解よりも反発が上回るのではないかと感じます。
 国葬がこのまま強行されれば、岸田政権というよりも安倍元首相、菅義偉前首相当時から続く自民党政治への批判が高まることになるのかどうか。もしそうなれば、日本の政治に大きな変革が起こるきっかけになるかもしれません。