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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

日本政府に重なるキャラウェイ「沖縄の自治は神話」発言~玉城知事大差で再選の意味 ※改題しました

 沖縄の日本復帰から50年のことし、沖縄県知事選の投開票が9月11日に行われ、玉城デニー氏が再選されました。この選挙結果が持つ意味は、玉城氏が訴えた米軍普天間飛行場の辺野古移設反対が、今も変わらない沖縄の民意として示されたことにとどまらないと感じます。辺野古移設に協力的かどうかで、国の予算配分を恣意的に操作するような日本政府に対する異議の申し立てです。思い起こすのは、米統治下の1963年3月、沖縄の最高権力者だったキャラウェイ高等弁務官が、自治権拡大の要求が高まっている中で言い放った「沖縄の自治は神話である」との言葉です。復帰から50年たって、今は口にせずとも日本政府が同じ姿勢で沖縄に臨んでいるかのような状況は、本土に住む主権者の一人として申し訳ない気持ちであり、恥ずかしい限りです。
 選挙から早くも1週間が過ぎましたが、記録の意味も兼ねて、思うところを書きとめておきます。

 選挙は立憲民主、共産などが推す現職の玉城氏と、自民、公明が推す前宜野湾市長の佐喜真淳氏、元衆院議員の下地幹郎氏の3人の争いでした。投票率は57.92%。得票は玉城氏33万9767票、佐喜真氏27万4844票、下地氏5万3677票。佐喜真氏と下地氏の得票を合わせても玉城氏に届かず、大差と言っていい結果でした。
 普天間飛行場の名護市・辺野古への移設を巡って、玉城氏は「反対」を前面に掲げたのに対し、佐喜真氏は「容認」を明言していました。だから、辺野古移設と辺野古への新基地建設の是非は、この知事選で明確な争点でした。そして玉城氏の勝利によって、沖縄県民の「反対」の民意が明らかになったと言うべきです。新基地建設を強行する第2次安倍政権以降、知事選で「移設反対」の民意が示されたのは、故翁長雄志氏が初当選した2014年選挙から3回連続になります。辺野古移設の是非に絞った2019年の県民投票でも「反対」は7割に上っており、沖縄県民の意思は一貫してゆるぎがない、と言うべきでしょう。
 敗れた佐喜真氏は辺野古移設容認とともに、日本政府との協調を掲げていました。コロナ禍もあって社会が疲弊している中で、地元の経済を最優先に考えるなら、日本政府が厳しい姿勢で臨んでくることが明らかな玉城氏ではなく、佐喜真氏を選ぶことも可能だったはずです。それでも沖縄の民意は玉城氏を選択しました。
 この選挙結果について、地元紙の沖縄タイムスは3回に渡って社説で取り上げています。単に、辺野古移設、辺野古への新基地建設への反対にとどまらず、沖縄の民意を日本政府が一向に尊重しようとせず、国の沖縄関係予算を恣意的に操作し、いつまでもアメとムチで接し続けようとしていることへの異議の意思表示でもあることが分かります。
 それぞれの社説の一部を引用します。

【沖縄タイムス社説】
①9月12日付「[県知事に玉城氏再選]辺野古見直し協議せよ」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1022884

 在任中に急逝した翁長雄志氏も今回の3候補も、実は県内の分断が進むことを懸念し、対立の政治を終わらせたいと望んだ。
 選挙戦で明らかになったのは、政府の強引な政策とかたくなな姿勢が沖縄内部に分断を持ち込んだという事実だ。
 国の沖縄関係予算は、翁長・玉城両氏に対する自民党の感情を反映し、露骨に操作され、来年度の概算要求も選挙を意識して減額された。
 下地氏が「国の予算に頼らず沖縄は自らの魅力で元気になる」と訴えたことが新鮮に響き、佐喜真氏の主張する政府とのパイプ論が古くさく感じられたのは確かだ。

②9月13日付「[復帰50年の知事選]政府不信が浮き彫りに」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1023454

 共同通信社の出口調査では、投票で重視した政策は「経済の活性化」が最も多く「基地問題」を上回った。その中で玉城氏の再選が支持された現実は重い。
 新基地建設問題が浮上して以来、振興予算での揺さぶりは露骨になった。来年度予算の概算要求で沖縄関係予算は、前年度から200億円減額された。新基地建設に反対する玉城県政へのけん制であることは間違いない。
 今年3~4月、県内の有権者に実施した世論調査でも、政府の姿勢を冷ややかに見る県民の姿が浮き彫りになった。
 基地受け入れに協力するかどうかで自治体に交付金を出すか、出さないかを決める国の手法を「適切でない」と回答した人は半数を超えた。
 米軍基地問題で、国が沖縄の意見をどの程度聞いていると思うかとの質問には「聞いていない」と「あまり」「まったく」を合わせて74%が疑問視している。
 今回の知事選の結果は、こうした政府対応への県民の不満の表れと見るべきだ。

③9月15日付「[知事選後の沖縄施策]負担軽減へ本気度示せ」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1024762

 政府によくよく考えてもらいたいのは知事選で示された「民意の重さ」である。
 再選を果たした玉城デニー知事の支持層に1期目のような高揚感はない。辺野古の新基地建設を巡って、これからも政府と県の対立が続くとみているからだ。
 これからもいばらの道が続くと知りながら、多くの県民が玉城知事に票を投じ大差で当選させた、その意味は重い。
 (中略)
 戦争を体験した自民党重鎮の中には、山中氏(注:山中貞則氏)に限らず、贖罪(しょくざい)意識から沖縄の「苦難の歴史」に向き合う姿勢が見られた。
 政治家の世代交代が進み、その間に沖縄の格差是正が進んだこともあって、自民党の中に「沖縄を甘やかすな」との声が出始めた。
 「安倍・菅政権」の時に新基地建設問題を巡る国と県の対立が浮上し、一括交付金の減額など基地と振興をリンクさせた沖縄施策が公然と打ち出されるようになった。
 会談で玉城知事は2023年度の沖縄関係予算を巡り、一括交付金の増額などを要望した。これに政府がどう対応するか注視したい。

 自民党の中にある「沖縄を甘やかすな」との声。その声を許している責任は、突き詰めて言えば日本本土に住む日本国の主権者にあります。本土のマスメディアにも少なからず当事者性があります。長く全国メディアの一角で組織ジャーナリズムを仕事にしてきた一人として、そのことにあらためて恥じ入るばかりです。
 知事選の結果に対しては、琉球新報も12日付の社説で取り上げています。辺野古移設に反対の民意が確認されたことを指摘したうえで、やはり、国の沖縄関係予算のありように触れています。

【琉球新報社説】
※9月12日付「玉城氏が知事再選 『辺野古』断念が民意だ」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1581977.html

 今回は、沖縄振興特別措置法や、県が使途を決められる一括交付金など現行の沖縄振興策の是非に加え、国への予算計上を内閣府が一本化する一括計上方式の在り方も争点となった。
 玉城氏は沖縄振興について現行制度の維持を求めた。一括交付金は「『不利性』解消、振興推進で有効に機能した」と評価し「『不利性』の解消は不十分」として継続を求めた。一括計上方式も「ビジョン計画の各種施策を総合的・計画的に推進するための制度」として必要性を強調した。
 しかし、50年前に定めた沖縄振興の枠組みを、今後も踏襲することで、沖縄は自立できるのだろうか。あらかじめ基地問題の解決を排除した沖縄振興計画、他県と異なる一括計上方式による県の予算編成が、自立の気構えと県の政策立案能力を弱体化させたのではないか。
 今回の知事選で、国に頼らず県自ら独自の制度を立案・実施するなど裁量拡大を重視する主張があったことに注目したい。玉城氏は沖縄の真の自立に向けた県政運営を目指してほしい。
 とりわけ経済政策は重要だ。コロナの収束後を見据え、沖縄観光の再生や企業の「稼ぐ力」を強化する取り組みを進めてもらいたい。

 今回の知事選の結果を、本土メディアのうち新聞各紙は9月12日夕刊と13日付朝刊で報じました。11日が休刊日に当たっており、12日付の朝刊は発行がありませんでした。

 東京発行の6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の報じぶりを13日付朝刊で比較すると、朝日、毎日、東京は1面トップだったのに対し、読売、産経はともに1面の3番手辺りの扱いでした。ニュースバリューの判断がはっきりと分かれました(日経は2面でした)。このニュースバリューの判断の違いは、そのまま「日本政府と沖縄の民意」の関係をどうとらえるかの違いでもあるように感じます。各紙の本記と社説の見出しを書きとめておきます。

■本記
・朝日新聞「辺野古反対 玉城氏再選/沖縄知事選」
・毎日新聞「沖縄知事 玉城氏再選/辺野古『反対』3連勝」
・読売新聞「辺野古反対 玉城氏再選/沖縄知事選 政府は早期移設方針」
・日経新聞「政府の安保戦略に影響/『移設反対』台湾有事の備え懸念/沖縄知事に玉城氏再選」
・産経新聞「沖縄知事 玉城氏再選/辺野古反対、自公系破る」
・東京新聞「辺野古ノー 民意鮮明/沖縄知事に玉城氏再選/容認明言の佐喜真氏破る/政府『唯一の解決策』変えず」

■社説 ※各紙サイトの無料域で読めます
・朝日新聞「沖縄県知事選 県民の意思は明らかだ」
  https://digital.asahi.com/articles/DA3S15414044.html
・毎日新聞「玉城沖縄知事が再選 国は『アメとムチ』脱却を」
  https://mainichi.jp/articles/20220913/ddm/005/070/091000c
・読売新聞「沖縄県知事再選 不毛な対立を国と続けるのか」
  https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20220912-OYT1T50229/
・日経新聞「安保論議へ沖縄の民意は重い」
  https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK126120S2A910C2000000/
・産経新聞「沖縄知事の再選 国と協力して県政運営を」
  https://www.sankei.com/article/20220913-XX3XMBSG3NLGNOPPNCERXWSVQE/
・東京新聞(中日新聞)「辺野古『反対』 民意と誠実に向き合え」
  https://www.tokyo-np.co.jp/article/201781

 選挙結果の意味をどうとらえているか、違いは社説に顕著です。
 目を引くのは読売新聞の「不毛な対立を国と続けるのか」の見出しです。地方選挙の結果に対する論評の見出しとして、私の目には極めて異様、奇異に映ります。
 一部を引用します。

 移設計画は依然、迷走が続いている。2018年末に始まった沿岸部の埋め立て工事で、これまでに予定海域の約3割が陸地化されたが、改良が必要な軟弱地盤の区域は手つかずのままだ。
 防衛省は20年、軟弱地盤の改良工事のため設計変更を県に申請したが、玉城氏は不承認とした。県の判断を覆す国土交通相の指示に対し、県が提訴し、またしても法廷闘争となっている。
 住宅や学校に囲まれた普天間飛行場は、「世界で最も危険な米軍基地」とまで言われている。
 玉城氏は、どう普天間の危険性を除去するつもりなのか、現実的な打開策を示すべきだ。

 普天間飛行場の移設が進まないのは、玉城知事のせいだと言わんばかりと感じます。しかも、普天間飛行場の危険性除去の方策を示すように玉城氏に求めていますが、それは日本政府の責任を沖縄の民意に転嫁するかのような論法です。
 さらに読売社説は以下のように続きます。

 沖縄振興予算は、13年の政府と県の約束の期限が切れ、今年度は3000億円を下回った。県経済界からは失望の声が上がっている。県民所得は全国最低水準から抜け出せていない。コロナ禍で観光産業が受けた打撃も大きい。
 県政を率いる立場にありながら、移設問題に固執するだけでは、住民生活の向上は望めない。交通網を含めた社会資本整備や、ITなど競争力の高い産業の育成を通じ、成長を図ることが重要だ。
 知事は政府と協力し、県の将来展望を明確に示す責任がある。

 「住民生活の向上」を大義名分に、玉城知事に対し、選挙で得た民意の信任に背き、国策に協力するよう求めています。選挙で示された民意を尊重する姿勢は感じられません。果たして他地域の日本本土の知事選で、地域の民意を正面から否定するに等しい論説を書けるものでしょうか。強硬方針を取る安倍晋三元首相以来の政権と同化した視線を感じます。そこにあるのは、「沖縄の自治は神話」と言い放ったキャラウェイ高等弁務官と同じ思考のありようだとも思います。

 産経新聞の社説は、やはり辺野古移設推進の主張です。選挙で示された地域の民意をどう読み解くか、言及していません。見出しは読売新聞と比べれば穏当かもしれません。本文の一部を書きとめておきます。

 玉城氏は「(米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設)反対の民意で当選させてもらったのは紛れもない事実だ」と述べ、引き続き移設に反対していく考えを示した。
 だが、米軍基地をどこに設けるかという判断は、国の専権事項である安全保障政策に属する。知事にも知事選にも、その権能は与えられていない。
 松野博一官房長官は12日の記者会見で「日米同盟の抑止力の維持と、普天間飛行場の危険性の除去を考え合わせたとき、辺野古移設が唯一の解決策だ」と述べ、移設工事を進める方針を強調した。
 政府の方針は妥当だ。普天間基地周辺に暮らす県民の安全と、中国などの脅威から沖縄を含む日本を守り抜くために、辺野古移設が求められている。
 玉城氏は移設をめぐる国との対立路線を転換すべきである。国と与党は移設の意義を丁寧に説明する必要がある。

 以下に、東京発行の各紙が13日付朝刊で選挙結果をどう報じたか、主な記事の見出しと扱いを書きとめておきます。

【朝日新聞】
▽1面
トップ「辺野古反対 玉城氏再選/沖縄知事選」
「底流 募る本土不信」木村司・那覇総局長
▽2面
時時刻刻「移設ノー 知事選3連勝/限られる策 背水の玉城氏/軟弱地盤で応酬 国連・米に訴え」「旧統一教会 自民に逆風/『辺野古が唯一』政府なお強硬」「無党派層62% 玉城氏に/最重視『経済』41% 『基地』34%を上回る 出口調査」
「名護市議選は与党系過半数/宜野湾市長 自公系再選」
▽第2社会面
「沖縄の思い 基地以外も/貧困や教育・自民に不信感・コロナ禍からの再生」
「保革対立は終わった」大阪教育大・櫻澤誠准教授
▽社説
「沖縄県知事選 県民の意思は明らかだ」

【毎日新聞】
▽1面
トップ「沖縄知事 玉城氏再選/辺野古『反対』3連勝」/「宜野湾市長選は移設容認派再選」
▽3面
クローズアップ「辺野古阻止へ活路模索/沖縄知事 玉城氏再選」「法廷闘争・内外世論」「自公推進へ 続く対決色」「『経済』より『基地問題』 投票行動調査」
▽5面
「自民『影響分からず』 旧統一教会/沖縄知事選 与党系敗北」
▽第2社会面
「『県民の思いぶれず』/辺野古反対 継続呼びかけ」
解説「民意無視 募った反感」
▽社説
「玉城沖縄知事が再選 国は『アメとムチ』脱却を」

【読売新聞】
▽1面
「辺野古反対 玉城氏再選/沖縄知事選 政府は早期移設方針」/「宜野湾市長は与党系が再選」
▽4面
「辺野古工事 政府『粛々と』/名護・宜野湾 佐喜真氏、得票上回る」
「移設 野党間にも温度差」
▽社説
「沖縄県知事再選 不毛な対立を国と続けるのか」

【日経新聞】
▽2面
「政府の安保戦略に影響/『移設反対』台湾有事の備え懸念/沖縄知事に玉城氏再選」
▽社説
「安保論議へ沖縄の民意は重い」

【産経新聞】
▽1面
「沖縄知事 玉城氏再選/辺野古反対、自公系破る」
▽3面
「辺野古さらに遅滞も/政府は移設堅持『唯一の策』」/「自民大敗 2つの誤算/三つどもえ 戦略崩れ 『旧統一教会』逆風に」/「宜野湾市長は与党系が再選」
▽5面
「改造後敗北 自民に衝撃/『対決型』に波及懸念」/「野党、批判路線に手応え/旧統一教会『全体として効いた』」
▽第3社会面(24面)
「沖縄の民意 示されたか/経済界『地元再建策かすんだ』」
▽社説(「主張」)
「沖縄知事の再選 国と協力して県政運営を」

【東京新聞】
▽1面
トップ・核心「辺野古ノー 民意鮮明/沖縄知事に玉城氏再選/容認明言の佐喜真氏破る/政府『唯一の解決策』変えず」
▽22面(特報面)
「デマ再び 沖縄知事選/×『玉城氏は中国共産党の勢力』/×『旧統一教会系団体の会合出席』/県外が多数『継続的なチェックを』」
▽社説
「辺野古『反対』 民意と誠実に向き合え」

 

※追記 2022年9月18日22時50分

「思い起こすのはキャラウェイ『沖縄の自治は神話』発言~玉城知事大差で再選の民意」から改題しました。