「安倍政治」全肯定、主観と印象論の菅前首相の弔辞~「『功』より『罪』」のアベノミクスには触れず

 9月27日に実施された安倍晋三元首相の国葬や、その報道について、わたしの思うところ、感じるところを備忘を兼ねて書きとめておきます。まずは、国葬で読み上げられた弔辞のことです。

 弔辞(追悼の辞)は、国葬の実行委員長を務める岸田文雄首相と、安倍政権の官房長官を長く務めた「友人代表」菅義偉前首相の2人が長々と読み上げました。ほかに衆参両院の議長、最高裁長官も弔辞を述べましたが、ごく短いものでした。友人代表が菅前首相に決まったのは、安倍元首相の妻の意向とも報じられていますが、この人選一つ取っても、国葬の意味が感じられません。中心的な弔辞の2人が、身内も同然の岸田首相と菅前首相であり、いわば身内で礼賛に終始するのなら、国葬ではなく、まさしく自民党葬がふさわしかったように思います。
 実際に岸田首相、菅前首相とも、弔辞の内容は礼賛一色でした。弔辞とはそういうものだと言ってしまえばそれまでです。しかし、その中に嘘がある、あるいはそうとは言わないまでも、過大な誇張があるとしたら、どうでしょうか。私的な場ではなく、国の儀式です。
 特に菅前首相の弔辞に、わたしは見過ごせない、大きな疑問を持っています。例えば菅前首相は、会場の武道館周辺に花をささげよう、国葬(朗読は「国葬儀」だったようです)に立ち会おうとたくさんの人が集まっている、と述べ、以下のように続けました。

 20代、30代の人たちが、少なくないようです。
 明日を担う若者たちが、大勢、あなたを慕い、あなたを見送りに来ています。
 総理、あなたは、今日よりも、明日の方が良くなる日本を創りたい。
 若い人たちに希望を持たせたいという、強い信念を持ち、毎日、毎日、国民に語りかけておられた。
 そして、日本よ、日本人よ、世界の真ん中で咲きほこれ。ーこれが、あなたの口癖でした。
 次の時代を担う人々が、未来を明るく思い描いて、初めて、経済も成長するのだと。
 いま、あなたを惜しむ若い人たちがこんなにもたくさんいるということは、歩みをともにした者として、これ以上に嬉しいことはありません。
 報われた思いであります。

 若い人たち、具体的には20代、30代の人たちのうち、いったいどのぐらいの割合の人が安倍元首相を惜しんでいるのか。「少なくない」と感じたのは菅前首相の主観であり、しかも武道館周辺で目にした限りでのことのはずです。より正確に言えば、武道館周辺で見かけたのは年配の人ばかりではない、という程度に受け止めておかなければならないことです。惜しむ人以上に、否定的にみている人がいる可能性があります。
 メディア各社の世論調査の結果からは、この8~9月に、18~39歳の年齢層で変化が起きたことが鮮明になっています。安倍元首相の国葬への肯定的な評価が急減し、否定的な評価と逆転していました。NHKの8月の調査では、「評価する」53%、「評価しない」30%と、「評価する」が23ポイントも上回っていました。しかし9月の調査では「評価する」43%に対し、「評価しない」47%でした。読売新聞の9月の調査でも、「評価する」が8月調査の65%から22ポイント下がり43%に。「評価しない」は28%から21ポイント上がり49%になっていました。「評価する」が「しない」を40ポイント近くも上回っていたのに、わずか1カ月で逆転していました。

news-worker.hatenablog.com この変化は、国葬への評価であって、設問で安倍元首相への評価を尋ねているわけではありません。しかし、このブログの上記の過去記事にも書いたことですが、若年層の中で、国葬の社会的議論を通じて、安倍政治への評価それ自体に変化が起きている可能性があります。安倍元首相と旧統一教会の関係を自民党が調べようとすらしないことが不信を招き、ひいては安倍元首相への評価が変わっている可能性は否定できません。
 こうした世論調査の結果があるのに、主観的な印象で安倍元首相が若い世代に変わらず支持を受けているかのように語り、「報われた思いであります」とまで口にするのは、印象操作の度が過ぎると感じます。
 菅前首相が弔辞の中で、安倍元首相を「総理」と呼び、「あなたの判断はいつも正しかった」と言い切ったことにも強烈な違和感があります。安倍元首相の業績は評価が定まっていません。なのに、国の儀式という公式の場で、このような一方的な物言いがまかり通ってしまうのは、それが弔辞だからです。日本社会では一般に、葬送の場面では故人のネガティブな側面は口にしないのが慎みです。それをいいことに、安倍政治の全肯定が行われました。それが今回の国葬の本質だと感じます。安倍元首相の側近だった人物が話を盛るのはある意味、当然のことかもしれません。そんな言説に惑わされることなく、世論の動向を冷静に見ていけばいいのかもしれません。
 一方で、生前の安倍元首相自身が業績として誇っていながら、国葬の弔辞では岸田首相も菅前首相も触れなかったことがあります。アベノミクスです。そのことを中日新聞・東京新聞の9月28日付社説が指摘しています。

 私たちの暮らしにとって、アベノミクスは「功」よりも「罪」の方がはるかに大きい。
 安倍氏の後継政権である菅義偉前首相、岸田首相は国葬での追悼の辞で、いずれもアベノミクスに言及しなかったが、これまでの経済政策を検証し、改めるべきは改めることが、政策の選択肢を広げる第一歩ではないか。

※中日新聞・東京新聞社説「『安倍政治』検証は続く 分断の国葬を終えて」=2022年9月28日
 https://www.chunichi.co.jp/article/553047