ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「ニュース離れ」と組織ジャーナリズムの持続可能性

 新しい年、2023年になりました。
 昨年、英国のロイタージャーナリズム研究所が公表した「デジタルニュースリポート2022」が、ニュースそのものに触れることを意図的に避けようとする人たちが世界的に増加しているとの分析を示し、メディア関係者の間で話題になりました。「選択的ニュース回避」(selective News Avoidance)と呼ぶのだそうです。
 日本の状況を分析したNHK放送文化研究所のリポートによると、こうした層は2017年から2022年の5年間で、ブラジルでは27%から54%に、英国でも24%から46%と倍増。日本では、絶対数としては多くないものの、2017年の6%から2022年の14%と倍になりました。ニュースを避ける理由としては、「政治や新型コロナなどのテーマが多すぎる」と答える人が27%で最も多く、次いで、「信頼できない、偏向している」が18%、「気分に悪影響がある」と「時間がない」と答えた人はそれぞれ17%。またニュースを理解するのが難しいとの答えも8%あったとのことです。
 ※ロイタージャーナリズム研究所『デジタルニュースリポート』2022 
  世界で“ニュースへの信頼”低下 日本では信頼は上昇するも関心は低下
 https://www.nhk.or.jp/bunken/research/oversea/pdf/20220615_1.pdf

 日本では若い世代ほど新聞を読む習慣がない「新聞離れ」が指摘されて久しいのですが、事態はそれにとどまらないようです。「ニュース離れ」とも呼ぶべき状況がこのまま進んでいくと、社会で何が起きているか、何が問題になっているかについて、情報が共有されなくなります。だれにも関係がある重要な問題なのに社会的な議論が成り立たない状況に陥れば、民主主義の危機です。
 発行部数の減少が続く日本の新聞社にとって、デジタル展開は経営上の喫緊の課題ですが、ニュースがどう社会に受容されるかは、新聞社の経営だけではなく、社会のありようにもかかわる問題です。

 マスメディアの組織ジャーナリズムの将来に関連して、最近、もう一つ気付いたことがあります。どうやら、新聞社や通信社、放送局に入って記者として働きたい、という人が減っているようです。客観的な公開データはなかなか見当たらないのですが、わたし自身がこの1年ほど、大学で非常勤講師を務めたり、メディア志望の就職活動中の学生と接したりする中で間違いないと感じていることです。もともと志望者の減少は指摘されていましたが、この数年で「激減」ではないかと思います。
 考えてみれば、当たり前のことかもしれません。新聞を読む習慣がない人にとっては、日々の紙面がどんな風に作られているのか、そこに載っている記事の1本1本がどのような取材を経て、だれが書いているのかは、そもそも関心がないでしょう。スマホの画面上に映し出されるニュースも、アプリのデータとして次から次に消費されていけば、あたかもAI(人工知能)の作成のようで、そこに生身の記者の息吹を感じ取ることは難しいように思います。
 まして、「新聞離れ」はおろか「ニュース離れ」がこの先も進んでいくのだとすれば、組織ジャーナリズムも、それを支える「記者」という仕事も、存在感はどんどん薄れていくのは必然的なことのようにも思います。
 しかし、記者の仕事を志望する人がゼロになったわけではありません。むしろ、ジャーナリズムやマスメディアについてきちんと勉強し、記者として働きたいモチベーションを確固として持っている人が、相対的には目立つようになっているようにも感じます。そうした人たちを見出し、受け入れ、育てていくことが、組織ジャーナリズムの持続可能性には必要であり、重要なのだろうと思います。
 わたしの立場でできることとして、今年は職業としての「記者」、仕事としての組織ジャーナリズムについて、わたし自身の経験も踏まえながら、このブログで少しずつでも書いていきたいと思います。

 本年も、よろしくお願いいたします。