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軍事費大幅増の賛否逆転、増税は反対が圧倒~岸田軍拡への民意の評価は変わり始めている

 今年に入って実施されたNHKと読売新聞の2件の世論調査の結果が報じられています。岸田文雄政権が表明した軍事費の大幅増に対して、読売新聞の調査では賛成43%、反対49%と、反対が賛成を6ポイント上回りました。

■読売新聞 1月13~15日実施
・政府は、日本の防衛力を強化するため、これまでの5年間で総額約27兆5000億円だった防衛費を、今後5年間で総額43兆円に増やすことを決めました。このことに、賛成ですか、反対ですか。
賛成 43%
反対 49%

 昨年12月の読売新聞の調査では、ほぼ同じ質問(金額の表記が「今後5年間で総額40兆円を超える規模まで増やす方向です」でした)で賛成51%、反対42%でした。さらに1カ月さかのぼった昨年11月の調査では「あなたは、今後、日本が防衛力を強化することに、賛成ですか、反対ですか」との質問に賛成が68%、反対は23%と大差が付いていました。ほぼ同じ質問の前回調査との比較で、賛成は8ポイント減、反対は7ポイント増。賛成が反対を9ポイント上回っていたのが、今回は反対が賛成を6ポイント上回りました。ここにきて、賛否は逆転したと言っていいように思います。

 軍事費の大幅増を巡ってもう一点、その財源を増税で賄うとの方針に対しての賛否を読売新聞、NHKの両調査とも問うています。結果は、反対が6割に上っているのに対し、賛成は3割に達していません。両調査ともに反対が賛成を圧倒しています。

■読売新聞 1月13~15日実施
・政府は、防衛費を増やすための財源として、法人税、所得税、たばこ税の3つを段階的に増税し、2027年度に1兆円強を確保する方針です。この方針に、賛成ですか、反対ですか。
賛成 28%
反対 63%

■NHK 1月7~9日実施
・増額する防衛費の財源を確保するため、増税を実施する政府の方針に対する賛否
賛成 28%
反対 61%

 岸田内閣の支持率は、上向きに転じる気配はありません。

■読売新聞 支持 39%(前回と同じ)
      不支持47%(前回比5ポイント減)
■NHK  支持 33%(前回比3ポイント減)
      不支持45%(前回比1ポイント減)

 ロシアのウクライナ侵攻はやまず、北朝鮮のミサイル発射は続き、中国が台湾問題で強硬姿勢を崩さない中で、岸田政権の大幅な軍備拡大方針に対し、いったんは賛成が反対を上回ったものの、財源を始めとしてその実態が明らかになるにつれて、民意は冷静になってきているー。世論調査の結果から読み取れるのは、このような民意ではないかと思います。民意がどう動くのか、後続の調査の結果を待ちたいと思います。

 軍事費の大幅増に対する賛否の調査結果を伝える読売新聞の報道で気になることがあります。16日付朝刊1面に掲載された本記では、過去の調査結果には触れずに「今後5年間の防衛費を総額43兆円に増やすことについては『反対』49%と『賛成』43%で分かれた」とだけ書いています。総合面の関連記事(見出しは「防衛増税『反対』63%」)でも、一言だけ「防衛力強化については、昨年11月の調査で『賛成』が68%に上っていた」と触れてはいます。本記と読み合わせて考えてみれば「賛否逆転」になったことは分かるのですが、そうと明記はしていません。
 これらの表記の限りでは間違いはありません。あるいは「逆転」とは言っても反対は過半数に届いておらず、慎重な表現にとどめたのかもしれません。それならそれでいいと思います。ただし、読売新聞が社論として岸田政権の軍拡方針を支持していることを考え合わせると、有事とマスメディアの関係の観点からは、こうした伝え方には軽視できない論点があるように思います。うがった見方かもしれませんが、世論調査で示された民意が、自社の社論にそぐわなければ小さく扱う、というような思惑が働いているとすれば、結果として報道が政権を利することにもなりかねません。
 以前からこのブログで書いているように、岸田政権が「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」と無理な呼び替えを押し通していることには、かつての日本軍が「撤退」を「転進」と、「全滅」を「玉砕」と呼んだことに通じるごまかしがあります。その先に想起せざるを得ないのは、戦時に虚偽で固められた報道一色になっていったかつての大本営発表報道です。読売新聞の今後の世論調査と、その結果の報道を注視しようと思います。