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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

財源だけではない、岸田軍拡そのものに懐疑と否定的見方が広がっている~1月の世論調査の結果から

 一つ前の記事の続きになります。岸田文雄政権が進めようとしている軍拡=大幅な軍事費増に対して、現在、民意がどう受け止めているかを、1月にマスメディア各社が実施した世論調査の結果から読み解いてみました。結論から言えば、軍拡を支持する人の割合も決して低い水準ではないのですが、昨年秋にまでさかのぼって世論の推移を見れば、支持は減ってきていることが見て取れます。直接の要因は、岸田首相が軍拡の財源を増税に求めている事への拒否感が大きいようです。ただ、敵基地攻撃能力を保有することの危うさなども含めて、岸田軍拡の実相が明らかになるにつれ、軍拡に疑問を感じる人が増えていることの反映とみることができると思います。

 目に止まった範囲ですが、各社の1月の世論調査のうち、軍事費の大幅増に関する質問と回答結果は以下の通りです。

【共同通信】1月28、29日実施
▽政府は、防衛費増額の財源として、2027年度以降は約1兆円の増税をする方針を決めました。あなたは、防衛力強化のための増税を支持しますか、支持しませんか。          
 支持する  36・0%
 支持しない 60・7%
▽あなたは、防衛費増額に伴う増税の前に衆院選を行い、増税の是非を国民に問う必要があると思いますか、思いませんか。 
 必要がある 77・9%
 必要はない 19・3%

【日経新聞・テレビ東京】1月27~29日実施
▽岸田文雄首相が防衛力強化の財源を確保する増税に踏み切る前に、国民に信を問うべきか
 増税前に衆院解散・総選挙すべきだ    63%
 増税前に衆院解散。総選挙する必要はない 30%

【朝日新聞】1月21、22日実施
▽政府は、新年度から5年間の防衛費を、これまでの計画のおよそ1.5倍の43兆円に増やす計画です。あなたは、防衛費をこのように増やす計画に賛成ですか。反対ですか。
 賛成 44%
 反対 49%
▽政府は、防衛費を増やすために、およそ1兆円を増税する方針です。あなたは、この方針に賛成ですか。反対ですか。
 賛成 24%
 反対 71%

【毎日新聞】1月21、22日実施
▽政府が防衛費を増やす財源として増税することに賛成ですか。
 賛成 22%
 反対 68%
▽政府が増税する場合、岸田首相は衆議院を解散して国民に信を問うべきだと思いますか。
 思う   72%
 思わない 18%

【産経新聞・FNN】1月21、22日実施
▽政府は防衛力強化のため防衛費を大幅に増額する方針を決めた。防衛費の増額に賛成か
 賛成 50.7%
 反対 42.8%
▽防衛費増額のため法人税、所得税、たばこ税を段階的に増税する政府の方針に賛成か
 賛成 28.9%
 反対 67.3%
▽防衛費目的の増税を実施する前に衆院解散・総選挙を行うべきか
 行うべき    60.4%
 行う必要はない 32.7%

【読売新聞】1月13~15日実施
▽政府は、日本の防衛力を強化するため、これまでの5年間で総額約27兆5000億円だった防衛費を、今後5年間で総額43兆円に増やすことを決めました。このことに、賛成ですか、反対ですか。
賛成 43%
反対 49%
▽政府は、防衛費を増やすための財源として、法人税、所得税、たばこ税の3つを段階的に増税し、2027年度に1兆円強を確保する方針です。この方針に、賛成ですか、反対ですか。
賛成 28%
反対 63%

【NHK】1月7~9日実施
▽増額する防衛費の財源を確保するため、増税を実施する政府の方針に対する賛否
賛成 28%
反対 61%
▽防衛費の増額に伴う増税を実施する前に衆議院の解散・総選挙を行うべきか
行うべきだ   49%
行う必要はない 35%

 軍事費増の財源を増税で賄うとする岸田政権の決定への賛否を尋ねた(日経新聞・テレビ東京以外の6件の調査)のに対して、回答は反対ないし不支持が60~71%、賛成ないし支持は22~36%でした。否定的な回答が肯定的な回答を圧倒しています。
 増税実施の前に国民の信を問う必要があるかどうか、具体的には衆院を解散して総選挙を行うべきかどうかの質問にも、年明け直後のNHKの調査では「行うべきだ」が49%だったものの、以後の調査(朝日新聞、読売新聞以外の4件)では66%から77%にも達しています。

 増税に対する世論の拒否感は明確に読み取れるのですが、岸田政権の軍拡方針を巡るより本質的な論点は、これから5年間の軍事費がこれまでの計画のおよそ1.5倍の43兆円にも上るという、そんなケタ外れの軍拡を認めていいのかどうかです。その点を尋ねている調査は、読売新聞、朝日新聞、産経新聞・FNNの3件でした。
 読売と朝日は質問も回答状況もほぼ同じです。政府が軍事費(質問の中では「防衛費」)を今後5年間で総額43兆円にまで増やす、と、具体的な金額を示したうえで賛否を尋ねています。回答は、読売調査は賛成43%、反対49%、朝日調査が賛成44%、反対49%でした。これに対して、産経新聞・FNN調査では賛成50.7%、反対42.8%と、賛成が反対を上回っています。質問の中で金額を示していないとみられる点が、朝日、読売両調査との違いかもしれません。
 産経新聞は調査結果を報じた1月24日付紙面(東京本社発行の朝刊)の1面に掲載した記事に「防衛費増額 賛成50.7%」の見出しを立てていたのが目を引きました。同紙は社論として岸田政権の軍拡を支持しています。財源はともかく、軍拡そのものに対しては賛成がわずかながらも過半数を超えていることを強調する趣旨なのだろうと感じました。

 財源を巡る論議はともかくとして、軍拡=軍事費増それ自体に対する民意はどう推移しているのか。読売、朝日、産経・FNNの調査をさかのぼってたどってみると、いくつか興味深いことが見えてきます。
 産経・FNN調査では昨年12月、5年間で総額43兆円との金額を質問の中で示して、評価するかどうかを尋ねています。結果は「評価する」45.8%、「評価しない」48.3%と、このときは否定的な回答がわずかながら上回っていました。肯定的な回答が過半数に達した1月の調査では、金額は示していないようです。軍拡に肯定的な意見が増えたのか、それとも金額を示す、示さないでこうした違いが出るのか、どちらなのかはよく分かりません。ただし、数字を示した朝日新聞や読売新聞の調査と比べると、肯定、否定の逆転は、質問を変えたことによる可能性は否定できないと思います。
 さらにさかのぼると、産経・FNN調査は昨年10月には「首相は防衛力を抜本的に強化するため防衛費を増額すると表明した。防衛費の増額に賛成か反対か」を尋ねていました。回答は賛成が62.5%で、反対29.8%を圧倒していました。質問の中に金額を含まないという点では、今年1月の質問に近い尋ね方です。その結果の比較では、肯定的な回答は62.5%から50.6%へ10ポイント減少し、否定的な回答は29.8%から42.8%へ13ポイント増えています。
 読売新聞は昨年12月の調査で、今回とほぼ同じ質問をしています。違いは「総額43兆円に増やす」が「総額40兆円を超える規模まで増やす」となっているだけです。結果は賛成51%、反対42%でした。さらに1カ月さかのぼった昨年11月の調査では、「あなたは、今後、日本が防衛力を強化することに、賛成ですか、反対ですか」と質問していました。結果は賛成68%で、反対23%を圧倒していました。大雑把な比較になりますが、昨年11月から今年1月にかけて、軍拡への肯定的な意見は68%から43%へ25ポイント減り、否定的な意見は23%から49%へ26ポイント増えたとみることが可能です。
 朝日新聞は昨年12月の調査で、1月調査と同じように「5年間」「1.5倍」「43兆円」の数字を盛り込んで賛否を尋ねています。結果は賛成46%、反対48%でした。「賛否二分」から、1カ月間でわずかながらも反対が賛成を上回る(その差5ポイント)状況に変わったと言えます。

 以上をまとめるなら、世論の中で軍事費増を増税で賄うとの財源問題にとどまらず、軍事費増=軍拡そのものに否定的、懐疑的な見方が強まっているのは間違いがありません。
 昨年来、ロシアのウクライナ侵攻が続き、北朝鮮のミサイル発射も相次ぎました。台湾に対する中国の強硬姿勢が軍事的脅威として喧伝されることもあって、岸田政権の軍拡路線は当初は6割から7割近くに達する相当な世論の支持を得ていたのは間違いありません。しかし、ここにきて、敵基地攻撃能力の保有に踏み切れば際限のない軍拡競争に突き進む恐れがあることなど、この岸田軍拡の実相が知られてきています。それにつれ世論は変わり、今は調査によっては明確に賛否が逆転している状況です。
 財源を増税によらないのであれば、軍拡自体には賛成だ、という人もいるでしょう。ただ、国債で賄うにしても、他の支出を削るにしても、負担するのは国民であることに変わりはありません。安全を確保するのに軍拡にどの程度の効果があるのか、ほかにやるべきこと、できることはないのか。岸田軍拡の実相がさらに明らかにされ、社会に広がっていけば、そうした論議も高まるはずです。さらに世論が変わっていく可能性があります。マスメディア各社が行う世論調査の定点観測としての意義は小さくありません。調査結果の報じ方、その報道の受け取り方もまた重要です。