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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

備忘メモ:用紙代の値上げによる新聞社の負担増の規模感

 会員制の月刊誌「選択」の3月号に「新聞界が絶望する紙価格『暴騰』~読売新聞が狙う業界再編『焦土作戦』」というタイトルの記事が掲載されています。新聞社は「新聞」という印刷物の商品を製造、販売しているメーカーの側面があります。用紙を始め原料価格の高騰が経営を直撃するのは一般の企業と何ら変わりはありません。もろもろの商品の価格の値上げが毎日のようにニュースとして報じられています。その中で、この記事は、読売新聞社は読者に価格転嫁を求めない、つまり購読料の値上げはしないと宣言していることを紹介し「読売が同業他社を一層の苦境に追い込み、廃刊や合併で再編を促す『焦土作戦』を始めたとする受け止め方が専らだ」と紹介しています。
 新聞などマスメディアの分野にも業界紙はあり、新聞各社トップの発言なども紹介されています。読売新聞の幹部らの発言で昨年来、目立つのは「唯一の全国紙」という言い回しです。読売新聞の企業グループとしての強みは、スポーツをはじめとした事業面です。新聞発行と事業の組み合わせで、読売グループは生き残り、唯一の全国紙の発行を続ける、との戦略であるようです。
 一般的な定義では、日本の全国紙は朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞、日経新聞の5紙とされます。読売新聞が「唯一の全国紙」を目指して「焦土作戦」を仕掛けている、との「選択」記事の内容の当否はともかくとして、用紙価格の高騰への対応が新聞社各社の経営上、大きな課題になっているのは間違いがありません。その影響の大きさはどれぐらいのものなのか、大まかな感覚でもつかめればと思い、公開情報を元に、備忘を兼ねて手元で試算してみました。実情を正確に踏まえたものではなく、あくまでも参考程度です。

 新聞用紙のメーカーの一つ、日本製紙が2月27日に「新聞用紙の価格改定について」とのニュースリリースを公表しています。値上げ幅として「300円/連」との記述があります。

【写真】日本製紙のニュースリリース
 ※https://www.nipponpapergroup.com/news/year/2023/news230227005415.html

 大王製紙のホームページには「新聞用紙の『単位』とは?」として、以下の説明が掲載されています。

新聞用紙の基本単位は「連」であり、「1連」は4ページの新聞が1,000部印刷できる紙の量を表します。標準的な新聞巻取紙 60連巻1本(巾163cm、長さ16,380m)からは、32ページの新聞が約7,500部、40ページの新聞が約6,000部印刷できます。

https://www.daio-paper.co.jp/product/paper/newspaper/

 1連=4ページの新聞1000部=4000ページです。
 1連当たり300円の値上げということは、新聞社にとっては新聞1ページ当たり0.075円の負担増ということになります。
 新聞は二つ折りにした紙の両面に印刷されていますので、用紙1枚で4ページになります。したがって、新聞1部のページ数は4の倍数になることが多いです。記事の量や広告の量によってページ数は変わることがあり、同じ新聞社でも毎日必ず同じというわけではありません。
 仮に1部32ページとして試算すると、1連300円の値上げによる1部当たりの負担は2.4円になります。
 月に30日発行すると仮定すると2.4円×30日=72円となります。
 20万部発行の新聞社なら月に72円×20万部=1440万円。年額なら12カ月で1億7280万円の負担増になります。
 100万部発行なら、それぞれ5倍で、1カ月に7200万円、1年で8億6400万円の負担増です。
 同じように、1部20ページとして試算した場合も含めて表にすると、以下の通りです。

 新聞の部数についての目安として、「ABC部数」と呼ばれる数値があります。一般社団法人日本ABC協会が認定している新聞社、雑誌社の販売部数のことで、発行部数とは異なりますが、一応の目安にはなると思います。
 2022年下半期の平均部数は、文化通信のサイト上の以下の記事から参照できます。
 ※文化通信「ABC協会 新聞発行社レポート 22年下半期平均部数 全国紙の部数大幅減続く」=2023年2月28日
 https://www.bunkanews.jp/article/318792/

 全国紙5紙の販売部数を抜き出すと、以下の通りです。
 朝日新聞 397万4942部
 毎日新聞 185万9147部
 読売新聞 663万6073部
 産経新聞  99万9883部
 日経新聞 168万0610部

 仮に1部32ページの新聞を400万部発行したとして、1連当たり300円の用紙代の値上げによる負担増を単純に試算すると、1年で34億5600万円となります。600万部なら51億8400万円です。1部20ページと仮定すると400万部で21億6000万円、200万部で10億8000万円です。
 実際には様々な変数がありますので、そんな単純な話ではありません。以上は実情を正確に反映した計算ではなく、あくまでもざっくりとした机上の試算、モデルのようなものです。新聞社の損益の状況も新聞社によって違いがあります。あくまでも参考にとどまるものですが、用紙代の高騰が経営に及ぼす影響の規模感のようなものがある程度、イメージできるのではないかと思います。
 新聞社各社が様々な経営努力を重ねていることは、言うまでもありません。多様な新聞が社会に存在することは、多様な価値観、ものの見方、考え方が社会に担保されることです。民主主義社会では、多様な新聞が存在していること自体が一つの価値です。