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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「政治的公平」は番組全体で判断と総務省が確認~高市氏への忖度みられず

 一つ前の記事の続きです。メディアで明快な報道が見当たらなかったのですが、放送法の「政治的公平」の解釈を巡って、総務省が重要な答弁を行っていました。政治的に公平かどうか、単独の番組の内容だけで判断することもある、との総務相当時の高市早苗氏の答弁を上書きして、番組全体で判断するとの立場を表明した、と評価しうる内容です。
 行政文書を入手して公表した立憲民主党の小西洋之参院議員が、自身のツイッターで、議事録の速報と思われる詳しいやり取りを紹介しています。
 https://twitter.com/konishihiroyuki/status/1638529498256936960

 

【写真】小西議員が紹介しているやり取りの詳報

 この点について、朝日新聞が3月24日付の社説で取り上げているのが目に止まりました。
 「放送法の解釈 高市氏答弁 撤回明快に」
 https://digital.asahi.com/articles/DA3S15590134.html

 放送番組の政治的公平を定めた放送法4条の解釈をめぐって、先週の国会で、聞き逃せない答弁があった。
 総務省の内部文書を公開した立憲民主党の小西洋之参院議員が、所属する外交防衛委員会で質問し、総務省の山碕良志審議官が「極端な(番組の)場合でも一つの番組ではなく、番組全体を見て判断する」と答えた。
 2015~16年に当時の高市早苗総務相が行い、問題になった答弁とは明らかに構えを異にする言い回しだ。
 (中略)
 高市答弁は、その局が放送する番組全体をみて判断するとしていた従来の政府の立場を逸脱した。報道の萎縮を招き、事実上の検閲にもつながる。朝日新聞の社説は撤回を求めてきた。今回、総務省が修正にかじを切ったのなら、妥当なことだ。
 しかし、総務省は撤回や修正といった言葉を使っていない。官僚による非常にわかりにくい説明で済ませようとしており、問題が大きい。
 国民や放送事業者がまぎれなく理解できるよう、岸田首相や松本剛明総務相ら政治家が責任をもって説明するのが筋ではないのか。高市答弁を撤回し、いかなる場合でも一つの番組だけで判断しないとの解釈を、あらためて明快に述べるべきだ。

 首相や総務相があらためて明快に述べるべきだ、というのはその通りだと思います。

 高市氏は総務省の行政文書について、「捏造」という激しい言葉を使って、感情的とも思えるほどに、当初はその存在そのものを全否定しました。今も自身に関わる部分の内容は信用できないと主張しています。この間の国会審議を高市氏の主張を軸に振り返ってみると、総務省が高市氏の主張を一つずつ否定してきた、とみることも可能なように思います。
 このブログで繰り返し書いているように、本来、官僚に事実を改ざんした記録を残す動機はありません。官僚が記録を改ざんしたケースと言えば、森友学園への国有地払い下げ事件の事例がありますが、当時の安倍晋三首相が払い下げへの自身と妻の関与を国会で否定し、関与が明らかになれば首相も議員も辞職すると言い切ったことが発端でした。官僚機構の中に首相への忖度が働き、記録が改ざんされていき、そのことを良しとしなかった職員の自死という結果まで招きました。
 高市氏がなぜ、不合理で不可解とも言えるほどに行政文書を認めないのか、その真意は分かりませんが、森友事件の例を見れば、総務省の官僚機構の中で高市氏に対する忖度が働くかもしれないとの危惧は皆無ではありませんでした。しかし、これまでの総務省の対応に、高市氏への忖度は感じられません。それが当たり前のこととはいえ、その当たり前がなかったのが安倍政治だったのだと、改めて感じます。