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民意と乖離している岸田首相の改憲前のめり姿勢~憲法記念日の世論調査結果から

 ことしの5月3日の憲法記念日は、岸田文雄政権が軍事費の大幅増、敵基地攻撃能力の保有などの軍拡を推し進める中で迎えました。軍事面で戦後の日本の国是であった「専守防衛」の変容としか言いようがありません。岸田首相が改憲姿勢を強めているのも、軌を一にした流れだと感じます。ロシアのウクライナ侵攻は終わりが見えず、北朝鮮のミサイル発射が続き、さらには中国の軍事面での脅威が強調されれば、民意の中にも不安と危機感が広がるのは無理もないかもしれません。
 この日の東京発行の新聞各紙の朝刊では、改憲を社是とする産経新聞が1面トップに岸田首相の単独インタビューを掲載しているのが、ひときわ目を引きました。見出しは「改憲へ国民投票 早期に/首相 任期中の実現意欲」。同じく改憲を社是とする読売新聞の1面トップの見出しは「憲法改正『賛成』61%/露侵略・コロナ影響/本社世論調査」。憲法記念日に合わせて、電話ではなく郵送で実施した詳細な世論調査の結果です。記事によると、2年連続で60%台の高い水準と位置付けています。
 一方、朝日新聞の1面トップは「議論なき9条/敵基地攻撃 政府『決着』/歯止め 形骸化の危機」。3回続きの企画「憲法を考える」の初回です。毎日新聞は「改憲 首相見えぬ本音/自民、9条に重心 公明反発」。必ずしも改憲志向ではないものの、テーマは改憲です。東京新聞は「憲法『骨抜き』76年前の警鐘/憲法学の権威 施行前に論考 独を教訓」。戦後を代表する憲法学者の故芦部信喜氏が、戦前のドイツを引き合いに、憲法が骨抜きにされることへの危機感を示していた、との話題ものです。
 紙面を比較してみれば、総じて、改憲論が勢いづいているように見えます。しかし、民意も同じように改憲志向を強めているのかと言えば、そうではないようです。

 読売新聞と同じように、詳細な憲法をめぐる郵送の世論調査を朝日新聞と共同通信も実施しています。結果を朝日新聞は3日付朝刊に掲載。共同通信は前日の2日付朝刊用に配信しています。これらの調査結果からは、改憲志向はそれなりに高い水準にあるとは言えるものの、改憲の機運が高まっているかと言えば、まったくそうではないことも明らかです(共同通信調査がずばりの質問をしています)。議論を進めることはともかくとして、民意は性急な改憲を求めているわけではありません。岸田首相が産経新聞のインタビューに答えた「国民投票を早期に」の前のめり姿勢は、民意と乖離していると言っていいように思います。

 以下に、読売新聞、朝日新聞、共同通信のそれぞれの調査結果の一部を書きとめておきます。

【読売新聞】
▽憲法改正
 「改正する方がよい」61%(昨年調査60%)
 「改正しない方がよい」33%(昨年調査38%)
▽9条1項(戦争放棄)改正の必要
 「ある」21%
 「ない」75%(昨年調査80%)
▽9条2項(戦力の不保持)改正の必要
 「ある」51%(昨年調査50%)
 「ない」44%(昨年調査47%)
▽「自衛目的で敵のミサイル発射基地などを破壊する『反撃能力』」の保有
 「賛成」66%
 「反対」31%

【朝日新聞】
▽憲法9条
 「変える方がよい」37%(昨年調査33%)
 「変えない方がよい」55%(昨年調査59%)
▽憲法を変える必要
 「変える必要がある」52%
 「変える必要はない」37%
▽専守防衛を維持すべきか
 「今後も維持すべきだ」59%
 「見直すべきだ」36%(昨年調査28%)
▽「相手の領域内のミサイル発射拠点などを直接攻撃する『敵基地攻撃能力(反撃能力)』」の保有
 「賛成」52%
 「反対」40%

【共同通信】
▽改憲の機運
 「高まっている」4%
 「どちらかと言えば高まっている」24%
 「どちらかと言えば高まっていない」48%
 「高まっていない」22%
▽国会での改憲論議
 「急ぐ必要がある」49%
 「急ぐ必要はない」48%
▽9条改正
 「必要」53%
 「必要ない」45%

 ひと口に「憲法改正」と言っても、論点は多岐にわたります。どの調査結果を見ても、9条については、民意が改正を求めているとは言い難い状況であることは明らかです。