ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

米軍基地、NATOへの接近、負傷兵受け入れ、原爆投下の責任と謝罪~広島G7サミット報道の追記

 非常勤講師を務めている大学の授業で先日、広島市で開催されたG7サミットを巡る新聞各紙の報道について話をしました。一貫して「核廃絶」を焦点に報じた地元紙の中国新聞から、ウクライナ支援の強化などを通じてG7の結束の固さを証明していくべきだとして、社説で「G7議長国の日本も殺傷力を持つ兵器の提供を実現するときである」と主張した産経新聞まで、主張の幅が相当に広いことを説明しました。それはそのまま、新聞各紙を比較することによって、多様な意見、ものの考え方があることを見て取れる、ということです。履修生たちもよく分かってくれたのではないかと思います。
 
 広島サミットに出席した米国のバイデン大統領の入国ルートについても、授業で触れました。サミット開幕前日の5月18日、米空軍の大統領専用機で山口県岩国市の米軍岩国基地に到着。米海兵隊の大統領専用ヘリで、岩国基地から広島市内に移動したと報じられています。他国の首脳は、専用機でも広島空港から入国しました。
 米国の大統領の在日米軍基地の利用を巡っては、昨年5月にバイデン大統領が来日した際にこのブログで取り上げています。
news-worker.hatenablog.com

 昨年5月は東京の米軍横田基地からの入国でした。やはり海兵隊の大統領専用ヘリで、都心の米軍施設に併設されているヘリポートに移動していました。あたかも米国内を移動するかのような“自由さ”です。この都心の米軍ヘリポートに対しては、港区が早期の撤去を求めていることは、昨年のブログの記事でも紹介しています。
 サミットは外交の場です。かつては米国の大統領も羽田空港から入国していました。米軍基地を使うことは、準軍事的な行動の色彩を帯びるのではないか。そのような観点から、専門家の見解などが報じられてもいいと思うのですが、そうした報道は目に止まりませんでした。
 「軍事」に関連して、もう一つ気になることがあります。G7サミットの“準軍事同盟化”とでも言えばよいでしょうか。ロシアの侵攻を受けているウクライナのゼレンスキー大統領が討議に参加したことで、ウクライナ支援はサミットの大きなテーマになりました。ウクライナはロシア軍に対する反攻に備えて、欧米各国に軍事的支援の強化を求めています。具体的にはNATO(北大西洋条約機構)加盟諸国です。軍事の枠組みとして、G7構成国のうち日本以外の各国が加わっています。
 日本国憲法9条が放棄を定めているのは戦争だけではありません。「武力による威嚇又は武力の行使」も放棄しています。その精神にのっとれば、日本は軍事同盟であるNATOとは一線を画すべきですが、サミットでの議論の様子からは、G7の枠組みごと、日本がどんどんNATOに近づいていっているような印象を受けました。外交の枠組みであるG7が変容していないか、という疑問があるのですが、そうした観点からの報道は極めてわずかです。わたしが目にした範囲では、東京新聞が5月23日付の特報面で、「NATOに接近 親ウクライナ/日本鮮明」との見出しの記事で触れている程度です。
 日本のウクライナ支援では、負傷兵を自衛隊病院で受け入れることを岸田文雄政権が決めた、とのニュースもありました。快復した兵士が再び戦場に立てば、それは日本による戦闘支援に当たる懸念があるように思えるのですが、そうした報道もわずかです。これもわたしが目にしたところでは、信濃毎日新聞が5月20日付の社説で取り上げています。

※「負傷兵受け入れ 許される支援どこまでか」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2023052000064

 人道上の意味がある、G7議長国として当然だ…。そう肯定する声はあろう。ただ、異例となる外国軍兵士の受け入れを判断するために必要なはずの情報や議論が、あまりに乏しい。
 ウクライナの医療環境はどうなっているのか、ポーランドなどの隣国の受け入れでは足りないのか。受け入れた兵士が傷を癒やした後、再び戦地の任務に就くこともあり得るのか。それは軍事支援に当たらないのか…。
 かろうじて歯止めがかかっている軍事協力に、なし崩しに踏み込んでいく懸念がつきまとう。

 この社説の指摘はその通りだと思います。

 そして最後に、広島と長崎への原爆投下に対する米国の責任と謝罪の問題についても触れておきます。
 バイデン大統領は、2016年5月27日に広島を訪問したオバマ氏に次いで、現職として広島を訪れた2人目の米国大統領となりました。事前に米政府からは「謝罪はしない」との言明があった、と報じられました。そのためもあってか、今回は謝罪すべきかどうかの議論は、日本国内の報道ではほとんど目にしませんでした。G7という複数国の枠組みの会議での広島入りでは、話題にしにくいのかもしれません。オバマ氏の広島訪問後、安倍晋三首相(当時)が、米ハワイの真珠湾を訪れ、太平洋戦争に対する日米の和解が強調された経緯もあり、もはや原爆投下への謝罪が必要かどうかは「謝罪不要」で決着ということなのでしょうか。
 オバマ氏、バイデン氏と2人続けて謝罪はありませんでした。仮に3人目の大統領が広島や長崎を訪問しても「前例踏襲」となるのではないか。腑に落ちません。
 核を保有する、保有を目指す者に「核を使用しても、勝者になってしまえば問題ない」との受け止めを生じさせないか、危惧しています。

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

 広島サミットについて書いた過去記事は以下の通りです。

news-worker.hatenablog.com

news-worker.hatenablog.com

news-worker.hatenablog.com