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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

ガーシー元参院議員逮捕の報道の記録~目立つ警察捜査の詳報 ※追記「ドバイ発・ガーシー逮捕の一部始終」

 一つ前の記事と関連する内容ですが、別の記事にします。ガーシー(本名・東谷義和)元参院議員が6月4日、成田空港着の航空機で帰国し、警視庁に逮捕状を執行されたことを、5日付の東京発行の新聞各紙がどのように報じたか、その記録です。
 本記を1面に掲載したのは朝日新聞、読売新聞、産経新聞の3紙。毎日新聞は、逮捕状を執行された後のガーシー元議員の写真だけを1面に掲載。「突然の帰国」の見出しです。記事は第2社会面です。日経新聞、東京新聞は社会面の掲載でした。
 ガーシー元議員をめぐる一連の出来事は、極めて今日的であることは、一つ前の記事でも触れた通りです。大雑把なまとめですが①海外にいながら「暴露系ユーチューバー」として強い影響力②既成政党の枠を超えた旧NHK党という政治勢力から議員に当選③「暴露系」ゆえに訴追を恐れて帰国せず国会も欠席④一度も登院しないまま参議院から除名⑤警視庁が逮捕状を取り旅券返納命令も出て包囲網、SNSも凍結-ということになるかと思います。
 それぞれに論点があり、帰国と逮捕を機にあらためて考えてみることも必要ではないかと思います。マスメディアの報道もそのための情報を社会に提供することに役割があります。
 5日付の各紙の報道を見ると、上記の⑤に関連した警察捜査のサイド記事が目立ちます。気になるのは、どうしても警察寄りの視線になってしまうことです。突然の帰国で、記事を用意する時間が限られていた事情があったと思われ、仕方がない面はあると思います。今後、あらためてガーシー元議員をめぐる事象の全体像を踏まえた報道がされるよう期待したいと思います。

 以下は、5日付の東京発行の新聞各紙の扱いと主な記事の見出しです。

▽朝日新聞
1面「ガーシー前参院議員 逮捕/UAEから帰国 俳優ら常習脅迫容疑」顔写真(成田)
社会面トップ「拒み続け ついに帰国」写真
①雑観「ガーシー前議員 言葉発さず」
②警察捜査サイド「警察、現地当局に直談判」
③経過「UAEへ出国から1年半」

▽毎日新聞
1面・写真のみ「突然の帰国」
第2社会面「ガーシー元議員逮捕/UAEから帰国 退去処分か/常習的脅迫疑い」「報道陣の問いに無言」写真
①本記、雑観込み
②サイド「『包囲網』逃げきれず」経歴や参院選出馬、当選の経緯なども

▽読売新聞
1面「ガーシー前議員 逮捕/UAEから帰国 芸能人ら脅迫容疑」写真
社会面準トップ・警察捜査サイド「事実上の国外退去か/警視庁 UAEに協力要請」写真

▽日経新聞
社会面準トップ「ガーシー元議員を逮捕/UAEから帰国 著名人らを脅迫疑い」写真
警察捜査サイド「狭まった包囲網/旅券失効やSNS凍結」

▽産経新聞
1面「ガーシー容疑者逮捕/脅迫など、UAEから帰国」顔写真(資料)
社会面トップ「逃げ場失い 突然の帰国」写真
①警察捜査サイド「警察、UAE側に働きかけ」
②雑観「ブランドTシャツ姿で時折笑み」
③経過「当選後一度も登院せず/参院議員8カ月で除名」

▽東京新聞
社会面トップ「ガーシー元参院議員逮捕/UAEから帰国 著名人脅迫疑い」写真
警察捜査サイド「現地で直接交渉 膠着打開」

 

【追記】2023年6月6日22時30分
 成田に到着した際のガーシー元議員は、水色のTシャツに白い短パン、サンダルという軽装でした。各紙の紙面に掲載された写真を見ても、身柄を拘束されたというのに時に笑顔を見せたりしています。どうしてこの格好だったのか。どうして笑みを見せることができるのか。新聞各紙の報道が触れていない、その事情を明らかにしたのは、「悪党 潜入300日 ドバイ・ガーシー一味」の著者である伊藤喜之氏のリポートです。

※現代メディア「【独自】ドバイ発・ガーシー逮捕の『一部始終』…屈強なアラブ人10数人がガーシーを攫った『緊迫の連行劇』の舞台裏…『もう日本帰って戦うわ』」=2023年6月5日
https://gendai.media/articles/-/111289

gendai.media

 ガーシー元議員はドバイで6月3日夜、知人2人とともに食事に出かけようとしたところを、現地当局関係者とおぼしき男性たちに身柄を拘束されたこと、4日未明、ドバイ国際空港まで連れて行かれ、成田空港行きのエコノミーチケットを渡され、帰国するよう命じられたこと、出国審査を経た後に解放されたことなどが明らかにされています。あの軽装は、食事を済ませればまた戻ってくるつもりだったためのようです。
 伊藤氏のリポートによると、ガーシー元議員は近しい関係者と電話で今後のことを相談。最後に「いや、もう日本帰って戦うわ。真実を話してくる。俺、何も悪いことしてへんし」と話したとのことです。支援してきた関係者の以下の話も紹介されています。

「これまでインターポールに赤手配をかけられた日本人のリストを見ると、ハイジャック事件の犯人とかバラバラ殺人の殺人犯とか、そんな凶悪犯罪ばかり。容疑になったガーシーさんの暴露には広く世間に知らしめるべき事実としての公益性が認められると思うし、それで赤手配なんて不条理でしかない。だから、たとえ起訴されても裁判で十分戦えると考え、ガーシーさんは最後、自分で決断して帰国した。だからこそ到着した成田空港では、あの晴れやかな表情だったんです」

 各紙の5日付朝刊紙面には、成田空港でさまざまな表情を見せたガーシー元議員の写真が掲載されています。一カ所の取材ポイントで、容疑者のこれだけ多様な表情が記録されることは、そうあることではありません。その舞台裏を知っているかいないかでは、容疑者に対する視線も変わってくると思います。ガーシー元議員とその周辺への伊藤氏の継続的な取材があってこそのことです。

【写真】ガーシー元議員が成田空港でさまざまな表情を見せたことは、5日付の各紙紙面に掲載された写真からも分かります

 6日付の各紙の朝刊では、東京新聞が特報面で「ガーシー現象の教訓」を取り上げているのが目につきました。「暴露系」と呼ばれるネット上の過激な投稿が支持を受けること、海外に滞在しながらでも28万票を集め国会議員に当選したことの意味や背景事情を識者に聞き、メディアの報道のありようにも触れています。他のメディアでも、あらためて「ガーシー現象」を検証していいのではないかと感じます。