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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

日経新聞は600円値上げで月5500円に~「世界で最も信頼されるメディア」を強調 ※追記:朝日新聞メディア指標

 日経新聞が6月9日付の朝刊に掲載した社告で、7月1日から購読料を値上げすることを公表しました。朝刊夕刊のセットでは、現在の月ぎめ4900円が5500円と600円の値上げになります。朝刊のみでは、4000円から4800円と800円の値上げです。日本の新聞で月決め購読料の5000円超は初めてだろうと思います。日経の強みと指摘されることが多い電子版については、月ぎめ購読料は4277円に据え置くとのことです。紙の新聞との比較で割安感が大きくなり、紙から電子版への切り替えが進むかもしれないと感じます。
 社告は同紙のサイトで読めます。
 ※「朝夕刊の購読料改定のお願い 電子版は据え置き」
 https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL083230Y3A600C2000000/

 値上げの理由として、諸物価の高騰を上げているのですが、それに加えて以下のように、「グローバル報道強化への投資」を続けてきたことや「世界で最も信頼されるメディア」に向けた不断の紙面強化を強調しています。他紙との差別化を図っていることがうかがえます。

 購読料の改定は2017年11月以来、5年8カ月ぶりとなります。その間も日経はデータやビジュアルの技術を駆使した新しいジャーナリズムに挑戦し続け、質の高いコンテンツを提供するための人材育成にも力を入れてまいりました。混迷する世界の動向を的確に伝えるため海外拠点を拡充し、複数のアジア経済メディアと提携するなど、グローバル報道強化への投資を続けています。
 今後はこれまで以上に企業努力を積み重ね、日経が世界で最も信頼されるメディアとなるよう不断の紙面強化をお約束いたします。

 全国紙では朝日新聞が5月1日から、毎日新聞が6月1日から、それぞれ値上げを実施しています。昨年来の物価高騰の中で日経新聞が3社目の値上げになります。これに対して読売新聞は、ことし3月25日の社告で、少なくとも向こう1年間は値上げしないことを公表しています。産経新聞を含めて、全国紙5紙の月ぎめ購読料の現状を以下のように一覧にまとめました。値上げ率は小数点第2位を四捨五入しています。夕刊発行がなく朝刊のみの地域では通常、夕刊の情報も朝刊に統合した「統合版」が販売されています。

 比較してみると、やはり目立つのは日経新聞のセット価格5500円です。統合版の値上げ率が20%も、朝日新聞や毎日新聞の値上げ率を上回っています。
 ただ、日経新聞は経済情報がメインの専門紙的な性格が強く、他紙とは購読層の特性が異なっています。株式などの投資のために必須の情報入手先になっている人は少なくないでしょう。自前の販売店網は他紙と比べて小規模ですし、電子版の展開が抜きんでていることもあって、値上げが経営にどう影響するかは、他紙とは事情が異なるはずです。
 日経新聞を除いて、各紙の購読料の状況を見てみると、目立つのはやはり読売新聞の現行価格の維持です。広言している「唯一の全国紙」の状況が、来年3月には実現するのか。営利を追求する企業経営としては、市場でシェアの拡大を目指すのは当然のことです。ただ一方で、複数の新聞が発行されていることが、社会に多様な情報と言論を担保することにつながります。経営が立ち行かなくなる新聞社が出てくれば、その分、社会に流通する情報や言論の多様性が細ります。民主主義の下では社会的な損失です。
 現在の新聞発行のビジネスモデルは、起源をたどると日露戦争のころに行き着くと指摘されます。これまで新聞が担ってきた組織ジャーナリズムを維持するには、ほかにどんな持続可能なモデルがあるのか。「営利」から「公共」への転換-。おぼろげながら、そんなことも頭に浮かんでいます。いずれ考えを整理してみたいと思います。

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

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【追記】2023年6月12日7時30分

 朝日新聞社が今年1月から「朝日新聞メディア指標」を公表しています。
 1月19日の最初の公表分から一部を引用します。

 朝日新聞社は19日、同社の媒体力を示すデータ「朝日新聞メディア指標」を公表しました。報道機関である朝日新聞のコンテンツがどれだけの人に届いているかを示す指標として、朝刊販売部数と朝日新聞デジタル有料会員の合計数、朝日ID会員数、月間ユニークユーザー(UU)数、LINE友だち登録数の4つの項目を掲げています。

 https://www.asahi.com/corporate/info/14796273

www.asahi.com その後、4月に一度、更新しています。
 https://www.asahi.com/corporate/info/14887277

www.asahi.com 興味深いのは朝刊販売部数と朝日新聞デジタル有料会員数です。
▼1月公表分(2022年12月)
  朝刊販売部数   383.8万
  デジタル有料会員 30.5万
▼4月公表分(2023年3月)
  朝刊販売部数   376.1万
  デジタル有料会員 30.5万
 3カ月で朝刊部数は7万以上減ったのに対し、デジタル有料会員は変わらず。5月の紙の値上げ以降、どうなっているか気になるところです。紙をやめて安いデジタルへ、となるのかどうか。ちなみに値上げで朝夕刊セット版は4900円、デジタルは同社が推奨している「スタンダードコース」が月額1980円です。
 「朝日新聞メディア指標は、半年ごと原則4月と10月に公表します」とのことですので、次回は10月のようです。