自己決定権が封じられているのはだれのせいか:(備忘)「衆院選と基地、沖縄」の本土紙社説

 衆院選はきょう12月14日、投開票日を迎えました。12月2日の公示直後、マスメディア各社の世論調査をもとにした序盤情勢で安倍晋三首相の自民が野党を圧倒の勢いと報じられて以降も、自民党は勢いを失わず、終盤に入っても単独で全議席の3分の2をうかがう勢いと伝えられています。
 この選挙で個人的に注目していることの一つは、沖縄の米軍基地の過剰負担の問題ですが、結局のところは沖縄県外、日本本土ではほとんど争点にならなかったと感じます。選挙期間中の5日、知事退任を目前にした仲井真弘多氏が、米軍普天間飛行場の移転先とされる名護市辺野古地区での工法変更を承認する出来事がありました。10日には、普天間飛行場の県内移設反対を掲げて知事選で圧勝した翁長雄志氏が就任。基地問題は沖縄で新たな位相に入っているのですが、本土ではどこまでそのことが意識されているでしょうか。
 衆院選が急浮上した当初から、わたしは安倍首相と自民党が「勝った」と言える結果を収めた場合に、沖縄県知事選で翁長氏圧勝に表れた沖縄の民意を、全国の民意が上書きしたと言わんばかりに「全国の国民の支持を得た」と強弁して、安倍首相と政権が辺野古移設を強行することを危惧しています。(参考過去記事:11月16日「沖縄知事選と衆院解散・総選挙 ※追記:辺野古移設反対の翁長氏が当選確実」
 仮に、地域の民意は繰り返し明らかになっているのに、中央政府がそれを認めず国策をゴリ押しに押してくる、というような例が日本の沖縄以外の地域にあるのかどうか。沖縄では知事選も保革を超えた対決構図で翁長氏が圧勝し、衆院選もまた非自民の候補が自民の候補と渡り合っています。基地をめぐって沖縄では社会が従来とは異なる位相に進んでいるのに、本土の側はそれに対応できていないと言うべきではないかとも感じています。それは政府や政党だけのことではなく、日本国の主権者たる国民一人一人をも含めてです。命と生活にかかわる国策をめぐって地域の自己決定権が封じられている状況は、政府や政権の責任が大きいとしても、その政府や政権を成り立たせているのは主権者たる国民です。その意味では、どのような選挙結果になろうとも、沖縄で起きていることが本土の国民に知られることの重要さは変わらず、むしろ高まるのだと思います。

 ここでは、本土の新聞が掲載した衆院選と沖縄をめぐる社説の中で、目についたものをいくつか書き留め、一部を引用します。

▼12月9日 毎日新聞衆院選 ここを問う 沖縄の基地」民意から目をそらすな

 衆院選で沖縄では4選挙区すべてで、自民党候補と、辺野古移設に反対する野党系候補が対決する。各種の世論調査では、接戦か野党系候補の優勢が伝えられている。
 自民党は公約に辺野古移設推進を掲げているが、安倍晋三首相は選挙演説で沖縄の問題にはほとんど触れない。安倍政権がどうしても移設を推進するというなら、少なくとも衆院選では堂々と議論すべきだ。
 普天間問題の争点化を避け、自民党が全国的に勝てば、辺野古移設も含めて信任されたと言おうとしているなら、納得できない。
 政権内の一部からは「衆院選で勝てば沖縄知事選の敗北を帳消しにできる」という声も聞こえてくる。民意をないがしろにしてはならない。

▼12月11日 読売新聞「日米同盟 辺野古移設の実現が重要だ」

 自民党は、辺野古移設の推進を明記した。公明党民主党は、辺野古移設には触れず、普天間飛行場を含む米軍施設の返還計画の日米合意などの「着実な実施」に取り組む方針を示している。
 公明党は、沖縄県本部が辺野古移設に反対のため、先月の県知事選では仲井真弘多知事の推薦を見送ったが、衆院選小選挙区では自民党の4候補を推薦している。
 辺野古移設は、安倍政権が昨年末、知事の埋め立ての承認を取り付けたことで、重要な前進があった。仲井真氏は知事選で反対派の新人に敗れたが、先週、防衛省の埋め立て工事の一部変更を承認し、当面は工事が進む方向だ。
 普天間飛行場の危険な現状の長期固定化を避け、海兵隊のグアム移転などの沖縄の基地負担軽減を実現する。そのためには、辺野古移設が最も現実的な近道だ。
 それが、日米同盟の実効性を高めることにもつながろう。

▼12月12日 朝日新聞「(衆院選)沖縄の基地―終わった事ではない」

 沖縄では衆院選の4選挙区すべてで、知事選と同様、移設容認派VS.移設反対派の構図となっている。土壇場の承認は、移設反対派の怒りに油を注いだ。
 一方、本土で辺野古移設は「沖縄の基地問題」として、遠くの見えない場所に置きざりにされている。
 海兵隊を沖縄に常駐させる軍事的メリットに、米国内からさえ疑問の声が上がり始めている。それでも移設推進を公約に掲げる自民党なら、せめて「辺野古移設が唯一の解決策」という自らの主張を全国民に問い、議論するべきではないか。
 亡くなる直前に沖縄を訪れた俳優の菅原文太さんは辺野古移設を批判してこう語った。
 「沖縄の風土も、本土の風土も、海も、山も、空気も、風も、すべて国家のものではありません。そこに住んでいる人たちのものです」
 「そこに住んでいる人たち」の切実な民意と全国に広がる無関心――。そこをつなぐのが国政選挙の役割でもあろう。
 これから私たちが選ぶ政権が、地元民意と誠実に向き合えるのか。それとも、本土の無関心に乗じて「国防、安保政策は政府が決めること」と無視するのか。今回の衆院選には、そんな選択も含まれなければならないはずである。


 以下はブロック紙、地方紙です。
▼12月10日  信濃毎日新聞「12・14衆院選 沖縄基地問題 政党の覚悟が問われる」

 今度の総選挙について、沖縄では「辺野古隠し選挙」との見方があるという。地元紙の沖縄タイムスが伝えている。
 11月に行われた知事選で、米軍普天間飛行場名護市辺野古への移設に反対する翁長雄志氏が、移転容認の現職仲井真弘多氏を破って当選した。約10万票の大差だった。移設を進めてきた政府には打撃となった。
 総選挙にはそのショックを和らげる狙いがあるというのだ。
 これまでとは様相の違う知事選だった。翁長氏には旧来の保革の枠組みを超えて支持が集まった。選挙は移設を押しつけてくる本土政府に対し、沖縄ぐるみで立ち向かう色彩も帯びた。
 翁長氏は当選の翌日「知事権限を行使する。埋め立て承認の撤回を視野に動く」と述べている。仲井間氏が昨年12月に決定した辺野古沖埋め立て申請の承認を、取り消す可能性を示唆した。
 こうした経緯を踏まえた上で、沖縄基地問題についての各党の公約にあらためて目を通す。
(中略)
 政府は今も移設への作業をやめていない。このまま既成事実の積み上げを続けるようだと、沖縄との溝はますます深くなる。
 沖縄の基地問題は日本の安全保障問題そのものだ。避けて通ったり曖昧な姿勢を取ったりするようでは政党の役割は果たせない。
 普天間飛行場の固定化をどう回避するか。沖縄の基地負担を軽減するために米国政府とどう交渉するか。困難な課題に正面から向き合う責任が各党に重い。

▼12月11日 神戸新聞「沖縄と基地/負担軽減をどう実現する」

 先月の沖縄県知事選では、米軍普天間飛行場辺野古移設に反対する新人の翁長雄志(おながたけし)氏が、計画を容認する前知事の仲井真弘多(ひろかず)氏に10万票の大差をつけて当選した。
 あらためて「反対」の民意が明確に示されたといえる。沖縄の思いを誠実に受け止め、計画の再検討と基地負担の軽減に取り組む。それが国政の務めではないか。
 しかし、与党の自民党は計画を見直すつもりはなく、衆院選の公約でも「推進」を明記する。菅義偉官房長官らも「淡々と進める」などと語る。「知事選は基地問題の県民投票ではない」という理屈だ。
 きのう就任した翁長知事は、前知事が行った辺野古沿岸部の埋め立て承認について、外部有識者による委員会で経緯を検証する方針を示した。このままでは沖縄と国政の距離は開くばかりだ。
 自民、公明両党は「基地負担軽減」と「在日米軍再編」も公約に掲げるが、一方で沿岸部の海底調査などの工事を強行する構えも崩さない。聞こえのいい言葉を並べるだけでは県民の理解は得られないだろう。
 沖縄には米軍専用施設の74%が集中する。事故や犯罪などの危険と向き合う厳しい現実を忘れてはならない。負担軽減を口にするなら、各党は具体的な見通しを語るべきだ。

▼12月11日 西日本新聞「沖縄基地問題 本土の有権者も考えよう」

 今回衆院選で、沖縄では4小選挙区とも、自民党候補と辺野古移設反対派の候補が対決する構図だ。もし自民党が圧勝すれば、安倍政権は「沖縄の基地問題を含む政策に信任が得られた」として知事選で示された民意を無視して、移設をさらに強引に進めるのではないか‐。移設に反対する沖縄県民はこんな危機感を抱いている。
 米軍基地問題は、単に沖縄だけの政治テーマではない。政府は辺野古移設が完了するまでの間、普天間飛行場の基地機能を佐賀空港に暫定移駐する構想を検討した。米軍が難色を示したためこの案は頓挫したが、暫定移駐が可能なら「移設先は辺野古しかない」という政府の主張が揺らぐのではないか。衆院選を通じて、与党は基地問題をきちんと語るべきだ。
 反対派の候補や政党も、普天間飛行場の固定化を避けるためにどんなプランがあるのか、具体策を示してもらいたい。
 本土の有権者にとって、衆院選における基地問題の優先順位は高くないのが現実かもしれない。しかし、沖縄県民になったつもりで、米軍基地についてじっくり考えてほしい。「人ごとではない」と思えば、関心も深まるはずだ。

▼12月12日 北海道新聞「<2014衆院選>沖縄基地問題 民意を慎重に把握せよ」

 全国的に低調な選挙戦の中で、激しい戦いとなっているのが沖縄だ。米軍普天間基地名護市辺野古に移設する計画の是非が大きな争点になっているからだ。
 先月の県知事選で反対派の翁長雄志(おながたけし)氏が当選したばかりだが、国は計画を変えようとしない。地元には怒りが充満している。
 遠くの出来事と見過ごすことはできない。政策を頭ごなしに地方に押しつける国の姿勢が問われている。選挙に表れる民意を慎重にすくい取る姿勢が求められる。
 (中略) 
 (安倍晋三政権は)かつて沖縄が米軍施政下にとどまることになった日を「主権回復の日」として祝った。自民党執行部は沖縄県選出の国会議員普天間県外移設の公約を撤回させた。
 辺野古移設は反対論を退けて進めている。経済振興策というアメと負担増のムチを使い分け、地元を分断してきた。首相の「沖縄の人々の気持ちに寄り添う」との言葉は真意を疑わざるを得ない。
 沖縄の野党勢力はこんな安倍政治を厳しく批判する。四つの小選挙区では共産、社民、生活など各党が従来の枠を超えた「オール沖縄」の協力態勢を築いている。「辺野古反対」の一点で結集した。
 与党は自民、公明両党の連携を軸に議席維持に必死だ。基地問題には深入りを避け、経済政策などを前面に訴える戦いだ。
 国はこの衆院選の結果を誠実に受け止めるべきだ。民意が分断される中、賛成論だけを採用し、反対論を排除してはならない。


※追記 2014年12月14日14時45分
 産経新聞は12月13日の社説(「主張」)で沖縄に触れています。一部を引用して書き留めておきます。
▼12月13日 産経新聞「あす衆院選 『安全保障』も選ぶ基準に」

 あす投開票を迎える衆院選で、有権者に考えてほしいことがある。
 経済政策が大きな争点になっているが、日本の平和と安全、国民の生命財産をどのように守っていくかである。
 これらの基盤となっているのは日米安保体制だ。日米同盟に基づく抑止力の整備が、今ほど求められているときはない。
 日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増す一方である。日本の島々や海、空をどのように守っていくのか。これまで以上に真剣に取り組まなければならない時代に入っている。
 今年4月の日米首脳会談で、オバマ米大統領は、中国が力による奪取をねらう尖閣諸島沖縄県石垣市)について「日米安全保障条約に基づき防衛義務を果たす」と表明した。大統領が、日米安保の適用対象だとわざわざ明言しなければならなくなっている。
 国の守りの最前線になっている沖縄では、米軍普天間飛行場辺野古移設が改めて政治問題化している。
 就任したばかりの翁長(おなが)雄志沖縄県知事は12日、初の所信表明演説で、仲井真弘多前知事による辺野古埋め立て承認について、瑕疵(かし)があれば取り消しを検討する考えを示した。
 だが、辺野古移設は日米合意に基づくものであり、すでに工事が始まっている。頓挫(とんざ)すれば同盟を傷つけ、抑止力の低下を招く。市街地にある普天間飛行場の危険性を除く上でも実現が急がれる。