ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

意見の違いを認めつつ、読み手に納得してもらえるスキル~4月から半期、文章指導の講座を担当

 この4月から半期、東京・成城大学文芸学部で非常勤講師を務めることになり、第1回の授業を先日行いました。講座名は「マスコミ特殊講義」。マスメディアの実務経験者による実習を含んだ実践的な内容です。わたしの場合は、新聞ジャーナリズムの実務経験者ということであり、実技としては文章指導がメインです。シラバスでは副題を「メディアで通用する文章力を身に付ける」としました。正確で分かりやすく、説得力や納得性が備わった文章を書くことができるスキルのことを想定しています。
 初回の授業では、以下のようなことを話しました。
 文章には読み手がいて、伝えたい内容がある。だから文章はコミュニケーション。伝え手と読み手の間に、社会で何が起きているか、社会がどうなっているか、共通の知識、理解があることがコミュニケーションには役立つ。だから日々、ニュースに触れることはとても大切だ。同時に、一つの出来事に対して、人によって肯定否定の受け止め方や、意見に違いがあるのも当然のこと。民主主義の社会では、異なった意見、多様なものの見方や考え方が担保されていることが重要。人は誰でも、それまで知らなかった事実や意見に触れると、それまでと考え方が変わることがあるからだ。社会が一色に染まるのは危うい。目指すのは、意見の違いを認めつつ、説得力があって読み手を納得させうる文章だ。「わたしの意見は違うが、あなたの言うことは分かる。なるほど、と思う」と相手に言ってもらえる文章を書くことができるスキルを身に付けよう-。

 成城大の授業では、時事問題をテーマにした論作文を課題にすることにしました。1月まで、東京近郊の大学で2年間担当してきた「文章作法」の授業と、目指すことに本質的な違いはありません。ただ、この2年間は作文の書き方から始まり、最後に何回か、論作文、小論文と進めてきました。作文は自身の固有の経験やエピソードを踏まえて、「自分」という人間をアピールするのに対し、小論文は、与えられたテーマについて論拠を示しながら論理的に書きます。作文は読み手の共感を得られればひとまず成功です。小論文は少し違っていて、必要なのは説得力と納得性です。論作文はその中間かもしれませんが、具体的なテーマが与えられるということでは、やはり説得力と納得性が必要です。
 社会と向き合う視点を養う一助として、授業では毎回、新聞紙面を元に、時々のニュースの読み解き方も解説していきます。教材に新聞紙面を使うのは、同じ出来事でも新聞によって取り上げ方が異なることが視覚的にも分かりやすいこと、その体験を通じて、多様な価値観が社会にあるとはどういうことかを体感できるからです。この点は、この2年間の実践で、わたしなりに自信を深めています。
 履修生には、日々の予習・復習の意味でも、毎日、マスメディアのニュースに接することを求めています。特に新聞各紙の社説、論説の読み比べを推奨していきたいと考えています。テーマによっては、各紙の論調が真二つに分かれていることを実感できます。それはそのまま、社会にある意見の幅を知ることです。世論調査の結果なども参照すれば、自分自身の意見や考え方が世の中でどの辺りにあるのか、多数派なのか少数派なのか、といったことも実感できます。ネット上の各紙のサイトで、社説や論説を無料で公開している新聞が全国紙、地方紙合わせて二十数紙あり、アクセスのしやすさという意味でも、学生たちにはなじんでほしいと思います。
 新聞を中心にマスメディアの組織ジャーナリズムの現状のあれこれも、丁寧に話してみたいと考えています。新聞社や通信社、放送局がどのように情報を集め、裏付けを取り、読者や視聴者に届けているかを知ることは、フェイクニュースや陰謀論に惑わされない、真偽を見極めるスキルを養うことに役立つと思うからです。組織ジャーナリズムの現状や課題をまとめることは、そのまま、わたし自身が組織ジャーナリズムの一員として過ごしてきた40年余を振り返ることにもなります。

 大学の非常勤講師は、今回が3校目です。これまでの経験では、わたし自身にもそれぞれに気付きや学びがありました。まさに「教えるは学ぶに通じる」です。今回も、新たな気付き、学びがあることを期待しています。