不祥事続きでも安倍政権支持率は40~50%で安定~要因にスマホ普及

 3月にマスメディア各社が実施した世論調査の結果から、安倍晋三内閣の支持率を書きとめておきます。同じ週末に実施された調査結果同士を比べてみても、どうも支持率の増減などに共通の傾向を読み取るのは難しいように思います。強いて言えば、いずれの調査でも「支持」はおおむね40%から50%近くあるということでしょうか。

 首相主催の「桜を見る会」を巡る問題、東京高検検事長の定年延長、河井案理参院議員陣営の選挙違反事件、そして森友学園への国有地売却を巡る公文書の改ざんで自殺した近畿財務局職員の手記公表と、個々に問えば安倍政権への批判や疑問が多数を占める出来事、不祥事が続いているのにもかかわらず、なぜ内閣支持率は一定の水準の幅で安定するのか。マスメディアで働く一人として、報道が足りないのか、それとも報道が社会に届いていないのか、その両方かと考えています。そうした中で、非常に示唆に富んだ論考に目がとまりました。

※文春オンライン「なぜ『安倍内閣支持率』は不祥事連発でもコロナ危機でも下がらないのか――“3つのポイント”とは」=2020年3月24日

https://bunshun.jp/articles/-/36797

bunshun.jp

 筆者の東洋大教授、薬師寺克行さんは元朝日新聞の政治記者です。

内閣支持率が不祥事などに左右されず安定的に推移するようになったタイミングと、スマートフォンの普及が高原状態に達したタイミングが一致しているのである。(中略)新聞社がいくらこぶしを振り上げて政権を批判しても、伝わりにくい仕組みができているのだ。

 ニュースに接するツールがスマートフォンだけという層が増えていることと、スマートフォンで流通するニュース(コンテンツ)の内容の二つがポイントのようです。特に新聞のジャーナリズムが以前のようには社会に届いていない側面があるのは、間違いないように感じます。

 以下は3月の内閣支持率です。※カッコ内は前回比、Pはポイント
・日経新聞・テレビ東京 3月27~29日実施
 「支持」48%(2P増)
 「不支持」42%(5P減)
・共同通信 3月26~28日実施
 「支持」45.5%(4.2P減)
 「不支持」38.8%(0.7P増)

・産経新聞・FNN 3月21、22日実施
 「支持」41.3%(5.1P増)
 「不支持」41.1%(5.6P減)
・読売新聞 3月20~22日実施
 「支持」48%(1P増)
 「不支持」40%(1P減)

・共同通信 3月14~16日実施
 「支持」49.7%(8.7P増)
 「不支持」38.1%(8.0P減)
・朝日新聞 3月14、15日実施
 「支持」41%(2P増)
 「不支持」38%(2P減)
・毎日新聞 3月14、15日実施 ※前回は1月18、19日実施
 「支持」43%(2P増)
 「不支持」38%(1P増)
 「関心がない」18%(3P増)

・時事通信 3月6~9日実施 ※対面調査
 「支持」39.3%(0.6P増)
 「不支持」38.8%(1.0P減)
・JNN 3月7、8日実施
 「支持」48.9%(0.9P減)
 「不支持」47.5%(0.7P増)
・NHK 3月6~8日実施
 「支持」43%(2P減)
 「不支持」41%(4P増)

五輪1年延期を「賭け」と言い放つ森組織委会長~朝日新聞のインタビューに

 一つ前の記事(「事実上の『神頼み』」 東京五輪リセット~7年前の高揚感なく」)の続きになります。
 東京五輪・パラリンピックの2021年への延期が決まったことについて、朝日新聞が大会組織委の森喜朗会長にインタビューしました。記事は、紙面では4月3日付朝刊のスポーツ面(15面)に掲載されています(東京本社発行最終版)。見出しは「五輪延期『1年でよかったのか』」「『中止考えたくない。首相も私も21年に賭けた』」。本文の中に少なからず驚いた発言がありました。記事の一部を引用し、書きとめておきます。

 ―3月24日に首相公邸で安倍首相とバッハ会長の電話会議があり、延期が決まった。その場に立ち会っていたが。
 「会議の30分前に来てくれ、と安倍さんに言われてね。彼は1年延期というから、『2年にしておいた方がいいのではないですか』と聞いたら、『ワクチンの開発はできる。日本の技術は落ちていない。大丈夫』と言う。(来年9月の自民党総裁任期満了を踏まえて)『政治日程もあるよな』と言ったら、『あまり気にしないでくれ』と。安倍さんはかなり明快に『これでいいんだよ、1年でいいんだ』と言った。(安倍首相は)21年に賭けたんだ、と感じたよ」
 ―コロナ禍が来年のこの時期も続くようなら、大会は中止になるのか。
 「そういうことは考えたくないと思っている。(私も)賭けたんだ。21年に。それに科学技術の進歩に賭けなかったら、人類は滅亡してしまう」
 (中略)
 ―5年前に肺がんの手術を受け、今は人工透析を受けている。1年延期が決まり、五輪への思いに揺らぎはないのか。
 「いや、神様、あと1年頼みますよ、という思いだけ。残りの人生を奉仕だと思って今までやってきた。その分を日本の国や五輪に報いてもらえないか、と思っている。だから(記者会見で)『神頼み』と言ったんだ。自分の人生になぞらえて」

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 五輪延期の理由、要因は新型コロナウイルスの感染拡大に尽きます。来年になって、五輪が開催できるほどにウイルス禍が収束しているのかどうかは、だれにも分からないはずです。もし、そうならなければどうするのか。しかし森会長は「(安倍首相は)21年に賭けたんだ」と言い、「コロナ禍が来年のこの時期も続くようなら、大会は中止になるのか」との問いには「そういうことは考えたくない」とまで言っています。賭けに負けたらどうするのでしょうか。五輪延期によって追加の経費と労力が掛かります。その分を喫緊の課題であるコロナ禍対策に充てる選択肢もあったはずです。そう考えると、賭けで失うのは日本社会で暮らす人たちの命と健康ではないかと思います。
 森会長は記者会見での「神頼み」発言にも触れ、「残りの人生を奉仕だと思って今までやってきた。その分を日本の国や五輪に報いてもらえないか、と思っている」などと話しています。病身を押し、人生を掛けてひたむきに取り組んでいる、ということを強調しているのかもしれません。しかし、そのことと、来年になってもコロナ禍が収まっていなかった場合の備えをどうするのかとは、全く関係ありません。
 安倍首相が、ワクチンを開発できるから1年延期で大丈夫だと言ったという点にも危惧を覚えます。世界史を振り返れば、ウイルスが猛威を振るうのは一度ではありませんし、人間への感染を繰り返す中で変異も起こします。いったん終息したように見えても時間を置いて再び、ということは、例えば「スペインかぜ」と呼ばれたインフルエンザの世界的流行の際にも日本であったことです。教訓とすべきそういった歴史を安倍首相はどう考えているのでしょうか。
 いずれにしても、日本の首相と組織委員会の会長が、最悪の結果への備えを持とうとせず、五輪開催をギャンブルのように考えていることは、忘れずに覚えておこうと思います。

 森会長が明かしている安倍首相とのやり取りは、密室の中での出来事です。思い出すのは2005年、当時の小泉純一郎首相が「郵政民営化の信を問う」として、与党自民党内にすら反対の声が少なくなかった衆院解散・総選挙に打って出て、圧勝した際のエピソードです。
 小泉氏の出身派閥の領袖であり、前任の首相だった森氏は、小泉氏に衆院解散を回避するよう直談判で説得しました。ウイキペディア「郵政国会」および「小泉劇場」によると、会談を終えた森氏は「寿司でもとってくれるのかと思ったが、これしか出なかった」と、缶ビールとチーズを記者団の前に差し出し、小泉氏とのやり取りを公開。「俺もさじ投げたな。あれ(小泉)は『変人以上』だ」と評してみせたとされます。わたしの記憶では、小泉氏は郵政改革ができるなら殺されてもいい、だか、死んでもいいと言っている、というようなことも森氏は話していました。そして、この森氏の「証言」が一斉に大きく報道されたのを境に潮目は変わり、小泉自民党圧勝の流れができたように記憶しています。
 今回は朝日新聞のみのインタビューですが、森氏は「安倍首相は総裁任期のことは考えていない」「安倍首相は日本の技術力を信じて、退路を断って取り組んでいる」ということを安倍首相に代わってアピールしているように感じます。民意はどう受け止めるのでしょうか。

事実上の「神頼み」 東京五輪リセット~7年前の高揚感なく

 7年前に撮った1枚の写真があります。2020年の五輪開催地が東京に決まったことを伝える2013年9月9日の夕刊各紙です。当時、わたしは勤務先の転勤人事で大阪にいましたので、写っているのは全国紙各社の大阪本社発行の紙面です。「東京」の見出しを追ってみると、朝日新聞「おかえり東京五輪」、毎日新聞と読売新聞は「2020年東京五輪」、日経新聞「東京、総力戦で圧勝」、産経新聞「東京五輪 日本復活かけ」。何よりも、安倍晋三首相や森喜朗元首相ら関係者がガッツポーズで立ち上がる写真から、当時の高揚感が伝わってきます。
 この誘致成功の時のことは、このブログには書いていません。大阪に住んでいて、東京の誘致騒ぎを少し冷ややかに眺めていたように覚えています。どんなことを考えていたのか、書きとめておいてもよかったかと、少し後悔しています。そんな思いとともに、この7年前の写真を記録に残しておきます。

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 その2020年東京五輪は、新型コロナウイルスの感染拡大のために延期が決まりました。ウイルス禍の収束が見通せない中で、新たな日程は慎重に検討を重ねて判断するのかと思っていたら、延期決定から1週間足らずの3月30日に決まってしまいました。当初予定と同じ曜日に合わせて、五輪は21年7月23日に開幕、パラリンピック開幕は8月24日とのことです。
 報道によると、組織委員会の森喜朗会長は「(安倍)総理が言ったように、東京五輪を成功させることが、大変な事態を突破することの証しになりたい」「神頼みみたいなところはあるが、そうした気持ちが必ず通じて行くと思う」(朝日新聞)と語ったとのことです。来年7月に新型コロナウイルス禍が収束し、五輪が開催できる状況になっているかどうかは「神頼み」であることを認めたわけです。
 また東京都の小池百合子知事は30日の会見で「大会成功のためにはウイルスに打ち勝たなければならない」(毎日新聞)と語ったとのことです。安倍首相が好んで使う「ウイルスに打ち勝つ」という表現への違和感は、以前のこのブログの記事で触れました。勇ましさはあるかもしれませんが、実体が伴っていない空疎なものの言い方です。小池知事が言っていることも、森会長の「神頼み」とさして変わりはないように思います。
 ただ、五輪開催のためには準備が必要で、準備を進めるには開催スケジュールが決まっていなければならないことは理解できます。それでも、新型コロナウイルスという見通し不透明な要因がある以上、来年7月になっても収束していないという可能性は折り込まれるべきであるように思います。仮にそういう事態になった場合に、再延期や中止を含めて、どういうプロセスでどういう検討、判断を行うのか、その想定手順ぐらいは、少なくとも持ち合わせていなければならないし、現時点でも説明が必要なのではないかと思います。それを「気持ちが必ず通じて行く」「ウイルスに打ち勝たなければならない」で済ませていいのかどうか。五輪の延期と新たな日程の決定は、ウイルス対策に人もモノも予算も必要な時に、五輪のために追加経費も労力もかけよう、という決定です。そのもろもろをウイルス対策に充てる、という別の選択肢もあるはずです。
 そもそも東京五輪は「復興五輪」でした。東日本大震災の被災地の復興を、これまで「五輪開催」がどれだけ後押ししてきたか(あるいは後押ししていないのか)の検証も必要です。

 ニューヨーク発の共同通信記事を書きとめておきます。米紙USAトゥデー電子版が、東京五輪の新たな大会日程発表について国際オリンピック委員会(IOC)を批判したことを伝えています。海外にどのような意見があるのかを知ることには、大きな意義があります。

「『無神経の極み』と批判 五輪日程発表で米紙」=2020年3月31日
 https://this.kiji.is/617462879109071969?c

 同紙の運動担当コラムニストは「世界中が疫病と死と絶望に包まれている時に、なぜ日程を発表する必要があるのか」と指摘。「せめて暗いトンネルを抜けて光が見える時まで待てなかったのか」と述べ、新型コロナウイルス感染の状況改善を待つべきだったとした。

 以下は五輪の新日程決定を伝える東京発行各紙の3月31日付朝刊紙面です。やはり、高揚感とは程遠い印象です。

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志村けんさんの訃報に抱く喪失感

 悲しい知らせがありました。ザ・ドリフターズのメンバーでタレントの志村けんさんの訃報が3月30日午前、報じられました。報道によると死去したのは3月29日午後11時10分、死因は新型コロナウイルスによる肺炎でした。ウイルスに感染していることは既に報じられていました。残念でなりません。謹んで哀悼の意を表します。
 訃報を知って、悲しみとともに直感的な予感として思ったのは、新型コロナウイルスを巡って、日本社会でいろいろ局面が変わるのでは、ということでした。それぐらいインパクトがあり、ショッキングな知らせだと思いました。
 1960(昭和35)年生まれのわたしにとっては、志村けんさんと言えば、まずドリフターズの一員として出演していたテレビ番組「8時だョ!全員集合」です。小学生だったわたしが毎週のように見ていた番組でした。リアルタイムの放送で見たのか、その後の名場面特集のような映像だったのか、記憶は定かではありませんが、荒井注さんの後任として、付き人から昇格した志村けんさんが、リーダーのいかりや長介さんから紹介されながら、神妙な顔付きでいたシーンを覚えています。その後も「バカ殿」や、加藤茶さんを相手に「あんた神さまかい?」ととぼけた掛け合いを展開する「神さまコント」が、わたしのお気に入りでした。こうやって書いていても、テレビをつければどこかのチャンネルで変わらず笑わせてくれているのではないかと感じるほどに、社会に溶け込んだキャラクターでした。
 SNS上では、多くの人が弔意を表明し、深い喪失感を吐露しています。報道によれば、3月17日に倦怠感を訴えたのが最初の兆候で、20日に肺炎の診断を受け入院。23日に新型コロナ検査で陽性が判明していました。それから1週間足らず。心の準備も何もないまま、訃報がもたらされました。あまりにも病状の悪化は速く、唐突感すらありました。
 この深い喪失感は、新型コロナウイルスで肉親を失った世界中の人たちに共通のことなのだということに、今は思い至っています。志村けんさんの死を通じて、今や多くの方が、その感情を共有しているようです。訃報に接した当初の予感、社会で新型コロナウイルスを巡る局面が変わるのでは、との予感は、このことだったように思います。今まで、どこか距離を感じていた新型コロナウイルスのことが、身近な問題、だれもが当事者になりうる問題としてとらえられ始めているのだと思います。

 志村けんさんの訃報は、東京発行の新聞各紙の30日夕刊では、朝日新聞、東京新聞が1面トップでした。毎日新聞、読売新聞も1面に掲載しました。おそらく、新型コロナウイルスの日本人の犠牲者としては、初めて実名で報じられたケースだと思います。世界でウイルスの感染者が70万人に上っている、その中での訃報でした。そうしたことも後世への記録にとどめておこうと思います。

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「復興五輪」を口にしなかった安倍首相、「ウイルスに打ち勝った証しの五輪」に違和感

 ことし7~8月に予定されていた東京五輪と、8~9月のパラリンピックの延期が3月24日に決まりました。新型コロナウイルス感染の世界的な拡大を見れば、もう少し早く決めても良かったように思うのですが、報道によれば、安倍晋三首相が24日夜に国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と電話で話し、1年程度の延期を提案。バッハ会長も全面的に同意し、その直後のIOCの臨時理事会で正式に決めたと伝えられています。
 24日付の東京発行新聞6紙(朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日経新聞、産経新聞、東京新聞)の朝刊は、このニュースが1面トップでそろいました。各紙の報道を見ながら感じたことをいくつか書きとめておきます。

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▽「ウイルスに打ち勝った証し」に違和感
 安倍首相はバッハ会長との電話を終えた後、記者団に対し「今後、人類が新型コロナウイルス感染症に打ち勝った証しとして、完全な形で、東京オリンピック・パラリンピックを開催するために、IOC・バッハ会長と緊密に連携をしていくということで一致をしたところだ」と話しました。この「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証し」という言い回しを安倍首相は気に入っているのか、少し前から口にするようになっていますが、わたしは強い違和感を覚えます。
 まず、何をもって「ウイルスに打ち勝った」と言えるのか、その定義が不明です。人類とウイルスは「勝った」「負けた」の関係なのでしょうか。勇ましく力強い感じがして、耳には心地よい表現かもしれませんが、実体を伴っていません。その意味では空疎な言葉です。
 この点について、東京新聞が25日付朝刊の特報面で取り上げているのが目を引きました。記事では、感染症専門家の「私たちはウイルスに対して『打ち勝つ』という言葉を軽々しく使わない。政治家のアピールの言葉だ」(長崎大感染症共同研究拠点の安田二朗教授)とのコメントを紹介しています。
 そもそも、1年延期とは言いながら、1年後に新型コロナウイルスの感染拡大が収まっているかどうかは全く分かりません。

▽主役は安倍首相
 「政治家のアピール」ということでは、24日の一連の動き自体が、意図的かどうかは分かりませんが、少なくとも結果的には安倍首相の政治的アピールになった、との印象を受けます。
 24日は安倍―バッハ協議に続いてIOCの臨時理事会で延期が正式に決定されました。連続する短時間のうちの出来事だったために、安倍首相の政治決断によって延期が決まった、という雰囲気がかなり濃厚に醸し出されたのではないかと思います。それは東京発行各紙の紙面からも感じます。1面の「延期」の大見出しとともに掲載されている写真は、安倍首相が主役です。五輪の中止や延期を決めるのは開催国ではなくIOCなのですが、バッハ会長の写真を載せたのは2紙だけです。仮に、電話協議から1日なり2日なりの時間を置いてIOCの正式決定があったとしたら、全体の印象は随分と違っていた可能性があるのではないかと思います。「安倍首相の決断による延期決定」という雰囲気が意図的に演出された可能性はないのか、気になります。
 この点に関連して興味深く読んだのは読売新聞25日付朝刊3面(総合面)の「『21年』首相が直談判」の記事です。まさに、東京五輪・パラリンピックを自らの「政治遺産(レガシー)」としたい安倍首相が、IOCの判断が遅れて中止に追い込まれることを懸念し、自ら率先して動いたことを明らかにしています。一気にIOCの正式決定まで進んだ舞台裏について、IOC側の事情なのか、あるいは日本側の何らかの力学が働いたのかなど、さらに深掘りした報道を期待したいと思います。

▽「復興五輪」を忘れない
 安倍首相の頭の中は、今や「新型コロナウイルスに打ち勝った証しの五輪」を自身の政治遺産とすることでいっぱいだとしても、そもそも東京五輪は「復興五輪」だったはずです。しかし24日は首相の口からはこの言葉は聞かれなかったようです。東京発行新聞各紙の25日付朝刊紙面でも、東日本大震災の被災地は、聖火リレーの関連で福島県の人たちの様子が紹介されているにとどまっています。
 マスメディアにとって、今は新型コロナウイルスを巡る報道の優先度が高いとしても、「復興五輪」の掛け声で何か見えなくなっていたものはないのか、「コロナ勝利五輪」で何か見えなくされようとしているものはないのかを探り、報じることが課題だろうと思います。

 以下に、25日付朝刊各紙の1面、総合面、社会面の主な記事の見出しを書きとめておきます。

【朝日新聞】
1面トップ「五輪延期1年程度/首相・IOC会長合意/新型コロナ 理事会も承認/五輪史上初」
1面「聖火リレー見送り」
2面・時時刻刻「延期へ 流れ一気」「IOC、突き上げ続き決断」「世界陸上も調整 環境整う」「追加の負担 都は警戒」
第2社会面「五輪延期『残念』/『中止にならず希望出た』」
第2社会面「1年ならイメージ」バルセロナ銀。アトランタ銅メダリスト 有森裕子さん/「来年の秋が妥当では」首都大学東京 舛本直文特任教授(五輪論)/「ワクチン開発が必要」東京医大病院渡航者医療センター 浜田篤郎教授(渡航医学)
第2社会面「感染者数 東京都が最多に」

【毎日新聞】
1面トップ「東京五輪延期/首相『1年程度』/パラも IOC正式承認/新型コロナ 聖火も中止」
1面「チケットの権利 組織委が『配慮』」
2面「首相『開催国の責任果たす』」発言全文
3面・クローズアップ「IOC追い込まれ/日程・費用・会場 棚上げ」「政権『来年夏前』視野」
3面「招致から多事多難/国立競技場 エンブレム 不正疑惑」
社会面トップ「夏の希望 消えた/五輪延期 列島衝撃/『仕方がない』の声も」「代表選手ら戸惑い」「小池都知事歓迎」
社会面「聖火 寂しき福島入り/地元 再開願う」「当面は現地に」
第2社会面「1年後でも難題/世界水泳と日程重複」

【読売新聞】
1面トップ「東京五輪1年延期/来夏までに開催/首相・IOC会長合意 電話会談/IOC臨時理事会承認」
1面「聖火リレーも延期」
3面・スキャナー「『21年』首相が直談判/中止論に危機感 早期決着」「世界水泳など調整急務」
7面(国際)「五輪延期 世界に衝撃/各国報道 今夏開催に逆風 指摘」
社会面トップ「五輪延期ショック/『チケット無効やめて』『グッズ用意したのに』」「聖火走者『来年ぜひ』/マラソン『札幌変わらず』森会長」
社会面「『復興の火』15秒ルール」
第2社会面「新教科書『五輪』ずらり/出版社 修正余儀なく」
第2社会面「パラ委員会委員長『延期は正しい』」

【日経新聞】
1面トップ「東京五輪 21年夏に延期/IOC、首相提案を承認/大会名称『2020』は維持/新型コロナ 収束見通せず」
3面「延期 空前の難事業/準備、振り出しに/会場確保・選手ケア急務」「巨額の追加費用 不可避」「聖火リレーも延期」
社会面トップ「五輪延期『やむをえない』/関係者ら落胆の声/『完全な形へ努力』」

【産経新聞】
1面トップ「東京五輪 来夏に延期/『コロナで年内困難』/首相と会談、IOC承認/マラソンは札幌」「東京2020 名称は維持」「パラも歓迎」
1面「聖火リレー中止 福島で保管」
2面「海外『歴史的な瞬間』速報」
3面「1年延期 最善シナリオ/世界選手権 日程譲歩も/代表選考は混乱避けられず」
3面「東京五輪延期 首相発言全文」
5面「与党 中止回避を評価/野党『十分な経済対策必要』」
社会面トップ「祭典延期 安堵と失望/小池知事『中止なくクリアに』/聖火ランナー『とてもつらい』」
社会面「識者『やむを得ない判断』」

【東京新聞】
1面トップ「東京五輪 来夏に延期す拉す首相提案 IOC承認/史上初 パラリンピックも/聖火リレー中止」
1面・核心「予定白紙 不安噴出/チケット有効? ホテルキャンセル料は?」
3面「首相主導の五輪 難局/1年延期 在任中に開催」/首相発言要旨
3面「1年後 消去法の選択」谷野哲郎・運動部長
特報面(26、27面)「『ウイルスに打ち勝つ』時とは/東京五輪1年延期へ 『完全な形』と首相は言うけれど」/「時期決定 感染収まり状況見定めて」/「少ない国内検査『収束見極め困難』」「撲滅無理なのに『政治的アピール』」「薬には10カ月?ワクチンは数年後」
社会面トップ「延期決着 驚きと困惑/代表選手ら『整理つかぬ』『実力上げる時間に』」「都知事『ゴール具体的に』」
社会面「街の声『提案評価』『やむを得ぬ』」/「森会長 複雑『残念と、やれやれ』」/「危機克服の象徴に」トーマス・バッハIOC会長の話
第2社会面「ランナー『それでも走りたい』」「聖火リレー中止/被災地『早く決めてほしかった』」「聖火、当面福島に『来年は参加できない人も』」

近畿財務局職員の手記公表と遺族の提訴、在京紙の報道は二分 ※追記「会見回避の首相、『森友』追求逃れか」(西日本新聞)

 森友学園への国有地売却を巡り、2018年3月に自殺した近畿財務局職員の妻が3月18日、決裁文書を改ざんさせられ苦痛と過労でうつ病を発症したなどとして、国と佐川宣寿・元財務相理財局長(元国税庁長官)に計約1億1千万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴しました。妻は職員が遺していた手記も公表。そこには改ざんの克明な経過が記され、「すべて佐川氏の指示だった」と書かれています。
 この公文書改ざん問題で財務省は2018年6月4日、調査報告書を公表しています。改ざんは当時の佐川理財局長が方向性を決め、理財局総務課長が中核的な役割を担ったと認定していました。これに対して職員の手記は「佐川氏の指示」を明記しています。財務省の調査結果を上回る内容が含まれているわけで、常識的に考えれば再度、調査しなければならないはずですが、安倍晋三政権も財務省もその考えはないようです。
 公文書の改ざんや、佐川元局長の国会での虚偽答弁を巡っては、安倍首相が土地取引への自身と妻の関与を全面否定し「もし関与していれば首相も国会議員もやめる」と大見えを切った国会答弁が背景にあると指摘されています。佐川元局長の動機は、首相を守ろうという忖度ではなかったか、との疑念は解消されていません。手記の公表によって、徹底的に真相究明を求める世論が高まれば、政権も財務省も無視はできなくなるはずです。

 提訴と手記の公表について、東京発行の新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の3月19日付朝刊紙面での扱いは分かれました。朝日新聞と東京新聞は1面トップ、毎日新聞も1面の2番手で、それぞれ関連記事も総合面、社会面に展開しています。毎日新聞は1ページを使って、手記の全文を掲載しました。手記は相澤冬樹さんが妻から預かり、週刊文春で先んじて公開していました。新聞各紙にとっては、週刊文春がスクープしたネタの後追いですが、それでも事の本質の重大さに応じて、大きな扱いにした、ということなのだと思います。経済ニュースが中心の日経新聞は社会面に見出し4段ながら、やはり手記の要旨も掲載しています。
 一方の読売新聞は第2社会面に見出し3段、産経新聞は社会面に見出し3段で、相対的に小さな扱いでした。

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 職員の手記には「大阪地検特捜部はこの事実関係をすべて知っています」とも書かれていました。虚偽公文書作成や背任などの疑いで告発を受け捜査していた大阪地検特捜部は、財務省の調査結果と処分の発表より一足早く18年5月31日に、佐川元局長ら捜査対象になった財務省職員ら38人全員の不起訴を発表しています。当時の報道は、検察内部には、悪質さを重視して起訴するべきだ、との声もあったと伝えていました。わたしは、大阪地検の結論には「起訴しないで済む理由ばかり集めたな」と感じていました。その思いが改めて強まっています。

news-worker.hatenablog.com


 森友学園の問題は、決して既に終わった話ではありません。これ以上の調査は不要とする政権や財務省の姿勢は問われるべきでしょうし、佐川元局長らを不起訴にした検察の判断が妥当だったかどうかも、問い直されていいと思います。折しも、東京高検検事長の定年延長を巡って、安倍政権による検察支配の危険性が指摘されています。同時に、マスメディアが今後、この問題をどう報じていくのか(あるいは報じないのか)も引き続き注視したいと思います。

 以下に、3月19日付の各紙朝刊紙面の主な記事の見出しを書きとめておきます。 

【朝日新聞】
・1面トップ「国・佐川氏を妻提訴/森友文書改ざん 財務局職員自殺/『佐川氏指示』主張」
・1面・視点「究明不足 問われる政権」羽根和人・大阪社会部長
・2面・時時刻刻「佐川氏の指示 再び焦点」「原告側、『主導的』と指摘/職員手記 改ざんの経緯記録」「政権冷ややか『今さら』/財務省『報告書と齟齬ない』」
・4面「職員自殺 麻生氏の責任は 立憲・那谷屋氏/信頼回復向け 職責果たす・麻生財務相」焦点採録
・社会面トップ「改ざん苦悩 震える字/夫の手記・遺書 妻『真実知りたい』」/「公文書管理に警鐘」内閣府の公文書管理委員会委員を務めた三宅弘弁護士
・社会面「検察も経緯把握 それでも不起訴」
・社会面「赤木さんの妻のコメント(全文)」「手記の要旨」

【毎日新聞】
・1面「森友改ざん 遺族が国提訴/手記に『佐川氏の指示』/財務局職員自殺」
・5面「野党 森友改ざん再検証へ/自殺職員遺族提訴 合同チーム設置」
・26面「森友学園への国有地売却 赤木俊夫・近畿財務局元職員の手記(全文)」「本省の了解なしに交渉 ありえない/修正どんどん拡大 嘘に嘘を塗り重ねる」
・社会面トップ「『理財局が人生壊した』/自殺職員、苦悩と批判」
・社会面「妻『佐川さんは真実を』/弁護団『裁判で経緯明らかに』」/「財務省『新たな事実ない』」

【読売新聞】
・本記:第2社会面・見出し3段「自殺職員の妻 提訴/国と佐川元長官に賠償請求/森友改ざん」写真・手記の一部
・4面(政治)「『森友』改ざん再調査せず/首相『今後も適正に対応』」

【日経新聞】
・本記:社会面・見出し4段「『森友改ざん強制』提訴/自殺職員の妻 国・佐川氏に賠償求め」写真・記者の質問に答える原告の弁護士ら
・社会面「『差し替えは佐川局長の指示』/男性職員の手記要旨」
・4面(政治)「野党『森友』で検証チーム/自殺職員の手記巡り設置」

【産経新聞】
・本記:社会面・見出し3段「佐川氏と国を提訴/財務局職員自殺 遺族『改竄を強制』/森友問題」

【東京新聞】
・1面トップ「佐川氏と国を提訴/自殺職員の妻 手記・遺書公表」「森友文書改ざん『本省の指示』/『財務官僚 最後はしっぽ切り』」表・経緯
・1面「財務省、再調査せず 『新事実ない』」
・2面・核心「改ざん指示 多くは今も要職/『主導』の佐川氏 遺族に謝罪なし」
・2面「よくぞ記録残した」財務省近畿財務局OBの元同僚田中朋芳さん
・7面「麻生氏や太田氏の説明は虚偽答弁◆誰一人本省に反論しません◆これが財務官僚機構の実態です」赤木さん手記要旨
・社会面トップ「どうか真実を/1人で抱え込んだ夫…『黒塗り』の死から2年」/妻のメッセージ全文
・社会面「天の声 生々しく 赤木さん手記」

 

■追記 2020年3月21日16時10分
 ネットで西日本新聞の以下の記事が目に留まりました。
※西日本新聞「会見回避の首相、『森友』追求逃れか」=2020年3月21日

 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/593699/

 安倍晋三首相は20日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた一斉休校要請の延長を見送ったが、政府対策本部の会合で一方的に発言しただけで、記者会見は開かなかった。政府関係者によると、首相は当初、会見で直接国民に説明する方向だった。森友学園を巡る決裁文書改ざん問題で自殺した財務省職員の手記が公表され、会見で関連質問が出るのを嫌ったのではないかとの見方が出ている。
 (中略)
 なぜ首相は会見しなかったのか。政府高官は取材に「コロナの会見で関係ないことを聞かれるのは良くない」と言い、森友学園問題が一因だったことを暗に認めた。

 安倍晋三首相が何を話すのかと同時に、何を話さないのか、話そうとしないのかも、意味のある情報であると感じます。それもまた、首相というこの国の権力者がどういう人物であるのかを、主権者が判断する上での材料です。

内閣支持率 大勢は横ばい、全校休校に肯定的評価~分かりにくい?検事長定年 世論調査の記録

 3月中旬までに実施された世論調査の結果がいくつか報じられています。新型コロナウイルスの感染拡大があり、安倍晋三政権の対応に様々な批判も出ています。安倍首相が主催した「桜を見る会」を巡る疑惑や、東京高検検事長の定年延長にも批判がやまない中で、安倍内閣の支持率がどのような推移を見せるか注目していましたが、大勢は横ばい、ないしは微増と言っていいのではないかと思います。
 目に留まった調査結果のうち、内閣支持率は以下の通りです。時事通信は対面調査ですが、ほかは電話調査です。

【内閣支持率】 ※カッコ内は前回比、Pはポイント
・共同通信 3月14~16日実施 ※前回は2月15、16日の2日間実施
 「支持」49.7%(8.7P増)
 「不支持」38.1%(8.0P減)
・朝日新聞 3月14、15日実施 ※前回は2月15、16日実施
 「支持」41%(2P増)
 「不支持」38%(2P減)
・毎日新聞 3月14、15日実施 ※前回は1月18、19日実施
 「支持」43%(2P増)
 「不支持」38%(1P増)
 「関心がない」18%(3P増)

・時事通信 3月6~9日実施 ※対面調査
 「支持」39.3%(0.6P増)
 「不支持」38.8%(1.0P減)
・JNN 3月7、8日実施
 「支持」48.9%(0.9P減)
 「不支持」47.5%(0.7P増)
・NHK 3月6~8日実施
 「支持」43%(2P減)
 「不支持」41%(4P増)

 一見して共同通信調査の支持率8.7ポイント増が目を引きますが、ほかは微増か微減。共同通信の調査では、前回2月に支持率が前々回1月から8.3ポイント下落していました。その前は上昇。朝日新聞調査とほぼ同じタイミングで実施しているのですが、傾向は大きく異なっています。評価は難しいと思いますが、共同通信調査結果を除いて眺めれば内閣支持率は横ばい。共同の結果を含めると、少なくとも支持率は落ちていない、という見方は可能かもしれません。
 個別の質問では各調査とも、新型コロナウイルスの日本政府の対応や、小中高全校の一斉休校要請への評価のほか、東京高検検事長の定年延長への賛否、「桜を見る会」を巡る安倍首相の説明に納得できるかどうかなどを尋ねています。回答状況を見て感じることを書きとめておきます。

 ▽全校休校要請に支持、評価多数
 安倍晋三首相は新型コロナウイルス対策として、全国の小中高校に春休みが終わるまでの休校を要請しました。専門家の助言を得てのことでもなく、何よりも突然の政治決定で、報道では混乱する教育現場や、子どもをどうするか、降ってわいたように対応を迫られる保護者らの様子が紹介されました。そうした報道を見ながら、漠然とですが、この措置が理解を得るのは難しいかと考えていたのですが、世論調査の結果は支持、評価の肯定的回答が多数でした。各調査の肯定的回答は60~71%に達しているのに対し、否定的回答は24~31%です。
 大ざっぱな推測ですが、否定的回答は実際に子どもを育てている層が中心だったのではないかと感じます。厚生労働省の2018年国民生活基礎調査によると、18歳未満の未婚の「児童」がいる世帯は全世帯の22.1%です。
 また、専門的な見地からの助言などがない「政治決定」でも肯定的回答がこれだけ多数に上ったということは、ウイルスへの不安の大きさを示しているようにも感じます。

 ▽政府対応への評価は二分
 新型コロナウイルスに対する日本政府の対応に対しては、「評価する」と「評価しない」がおおむね拮抗しています。ネット上ではPCR検査一つを取っても、検査数を増やすべきかどうかを巡って様々な意見が飛び交っている状態です。どのような対応が正解なのか、現状でははっきりしたことは分からないことが、政府への評価が二分される結果につながっているように思います。
 改正特措法には、共同通信調査だけが触れています。緊急事態宣言の発令に対して「発令は慎重にするべきだ」が73.5%、「積極的にするべきだ」が24.3%でした。積極意見が4分の1というのは、少し多いような気もします。

 ▽検事長の定年延長、疑問視は過半数そこそこ
 東京高検検事長の定年延長に対しては、「納得できない」「問題だ」などの否定的回答が各調査とも多数でした。ただその水準をみると52~60%で過半数そこそこ。圧倒多数が疑問を感じている、という結果ではありません。一方で肯定的回答も18~35%。否定、肯定に二分というわけではなく、それ以外の「分からない」「無回答」が各調査とも13~24%あります。
 まず、一般の人にとって、警察と比べても検察はなじみが薄くよく分からない、知らない世界であるということが背景にあるように思います。また、安倍政権や法務省が無理に無理を押し通すような不自然な答弁を積み重ねていることもあって、問題の経緯が複雑になってきてもいます。マスメディアはそうしたことを踏まえて、繰り返し丁寧な報道に努めるべきでしょう。そういう報道の課題も読み取れる調査結果ではないかと考えています。

 検事長の定年延長や「桜を見る会」など、テーマによっては安倍政権に厳しい見方が多数を占めるのですが、内閣支持率となると、全体傾向としては支持を大きく落とす、ということにはなっていません。結局は、検事長の定年延長や「桜を見る会」は、内閣を支持する層には身近な問題とは受け止められていない、ということなのかもしれないと感じます。最近は新型コロナウイルスへの対応を巡って「今は団結して力を合わせる時」という雰囲気が強まってもいます。感染拡大防止が重要なのは言うまでもありませんが、それはそれ、これはこれで、引き続き世論の推移を見ていきたいと思います。

 以下に、各社調査の個別質問と回答状況の一部を書きとめておきます。

【新型コロナウイルス】
・共同通信 

新型コロナウイルスの感染が日本各地で拡大しています。あなたは、これまでの政府の対応を評価しますか、しませんか。
 「評価する」48・3% 「評価しない」44・3%

 安倍晋三首相は、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、2日から全国の小中学校、高校などを一斉に休校するよう要請しました。あなたは、この判断について適切だったと思いますか、思いませんか。        
 「適切だった」24・4%
 「どちらかといえば適切だった」47・4%
 「どちらかといえば適切ではなかった」17・1%
 「適切ではなかった」8・9%

 新型コロナウイルスの感染拡大に備え、首相が緊急事態宣言を発令できる改正法が成立しました。緊急事態宣言が発令された場合、外出自粛などを要請できますが、個人の権利が制限される可能性もあります。あなたは緊急事態宣言の発令についてどう考えますか。            
 「発令は積極的にするべきだ」24・3%
 「発令は慎重にするべきだ」73・5%

・朝日新聞

 新型コロナウイルスをめぐる、これまでの政府の対応を評価しますか。評価しませんか。

 「評価する」41% 「評価しない」41%

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、安倍首相は全国の小中学校などを全て臨時休校にするよう要請しました。この要請を評価しますか。
 「評価する」60% 「評価しない」30%

・毎日新聞 

新型コロナウイルスの感染が拡大しています。これまでの政府の取り組みを評価しますか、評価しませんか。
 「評価する」49% 「評価しない」45%

 新型コロナウイルスの感染拡大で、安倍晋三首相は小中学校や高校などに臨時休校を求め、多くの学校が休校しています。首相の判断を支持しますか、支持しませんか。
 「支持する」63% 「支持しない」31%

 ・JNN

 新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大しています。
 あなたは、感染防止に向けた政府のこれまでの対応を評価しますか? 評価しませんか?
 「評価する」37% 「評価しない」50%
 
 安倍総理は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため3月2日から全国の小・中・高校を一斉に休校するよう要請しました。あなたは、この措置をどの程度評価しますか? 次の4つから1つ選んでください。
 「非常に評価する」15% 「ある程度評価する」53%
 「あまり評価しない」24% 「全く評価しない」7%

・NHK

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための、政府のこれまでの対応についての評価
 「大いに評価する」6% 「ある程度評価する」43%
 「あまり評価しない」34% 「まったく評価しない」13%

 安倍総理大臣の要請を受けて、全国の多くの小学校、中学校、高校などが春休みに入るまで臨時休校になっています。この対応について
 「やむを得ない」69% 「過剰な対応だ」24%

 

【東京高検検事長の定年延長】
・共同通信

 政府は、「検察官の定年は延長できない」というこれまでの法律の解釈を変更し、黒川弘務東京高検検事長の定年を半年間延長すると決定しました。安倍首相は「問題ない」と説明していますが、野党は検察の中立性を損なうと批判しています。あなたは、この決定に納得できますか、納得できませんか。         
 「納得できる」26・6% 「納得できない」60・5%

・朝日新聞

 安倍政権は法律の解釈を変え、これまでできないとしてきた東京高検の検事長の定年延長を決めました。このことで現在の東京高検の検事長が検事総長になることも可能となりました。安倍政権が法律の解釈を変えて定年延長を決めたことは問題だと思いますか。
 「問題だ」55% 「問題ではない」24%

・毎日新聞

 政府は、検察ナンバー2の黒川弘務・東京高検検事長の定年を半年間延長しました。検察官の定年延長はこれまで例がなく、安倍首相は従来の法解釈を変更したと説明しています。一方、野党は政権による検察人事への介入だと批判しています。この定年延長をどう思いますか。
 「問題だ」52% 「問題だとは思わない」35%

・JNN

 政府は、東京高検の黒川検事長について、過去一度も例がない定年を延長させる人事を決定しました。政府はこれまでの法律の解釈を変更したと説明していますが、あなたはこの人事に賛成ですか? 反対ですか?
 「賛成」18% 「反対」60%

・NHK

 政府は、これまでの法律の解釈を変更し、東京高等検察庁の検事長の定年を延長する決定をしました。この決定は適切だと思うか
 「適切だ」22% 「適切ではない」54%

【「桜を見る会」】
・共同通信

 国が費用を負担して春に開かれる「桜を見る会」に関し、さまざまな疑惑が指摘されています。あなたは、これについて安倍首相は十分に説明していると思いますか、思いませんか。    
 「十分に説明していると思う」13・5%
 「十分に説明していると思わない」82・5%

・毎日新聞

 「桜を見る会」についてお尋ねします。安倍首相の後援会が開いた前夜祭の費用は、首相の政治資金収支報告書に記載がありません。首相は約800人の参加者が個別にホテルと契約して参加費5000円を支払ったので、報告の必要はないと説明しています。この説明をどう思いますか。
 「納得できる」16% 「納得できない」72%

・JNN  

あなたは、「桜を見る会」をめぐる安倍総理の一連の説明について納得していますか? 納得していませんか?

 「納得している」11% 「納得していない」76%

 

残る報道規制への危惧~特措法を安倍政権が運用 新型コロナウイルス対策

 新型コロナウイルスへの対策として安倍晋三政権が国会に提出した新型インフルエンザ等特措法改正案が3月13日、国会で可決されました。このブログの一つ前の記事で触れたように、ひとたび緊急事態宣言が発せられれば、国民の私権が制限され、また「表現の自由」や「知る権利」が制約される恐れがあるのに、宣言には国会の承認も不要で、付帯決議で国会への事前報告を求める、としただけでした。
 「表現の自由」「知る権利」に関連して、マスメディアの報道に直接かかわってくるのは、首相が必要な指示を出せる「指定公共機関」にNHKが指定されていること、指定公共機関は政令で指定するとされており、原理的にはNHKだけでなく民放各局や新聞社も指定が可能と考えられる点です。
 報道によると、改正案の審議の過程で宮下一郎内閣府副大臣が、いったんは民放局への指定は可能であり、放送内容に指示をすることも可能との見解を示し、後にこの答弁を撤回したと伝えられています。仮に「民放局は指定しない」「放送内容に指示はできない」との見解を示したものだとしても、「だから大丈夫。歯止めになるだろう」と考えるのは楽観的に過ぎるように思います。東京高検検事長の定年延長に見られるように、安倍晋三政権であれば、国会への説明も記録文書の作成もなく法解釈を変更し、閣議決定で実行に移すことに躊躇はないと考えておいた方がいいと思います。
 公式の記録を残すことや、国会での説明を軽視する体質が露わになっている安倍政権に、このような強権の行使を許すこと自体に危惧は消えません。

 この改正特措法に対して、専修大教授の山田健太さんが問題点を指摘していることは前回の記事でも紹介しました。山田さんは13日にも三たび、論考をアップしています。とりわけマスメディアの報道に携わる方には、一読をお願いしたいと思います。

・「改正特措法は報道規制の道具になりうる~緊急事態対処法である新型コロナ特措法の大きな罠」=3月13日
 https://news.yahoo.co.jp/byline/yamadakenta/20200313-00167656/

・「先手でも後手でもない『禁じ手』~なぜいま、緊急事態対処法がダメなのか」=3月10日
 https://news.yahoo.co.jp/byline/yamadakenta/20200310-00167053/

・「情報統制が不安を増幅させる~なぜいま、緊急事態対処法がダメなのか」=3月11日
 https://news.yahoo.co.jp/byline/yamadakenta/20200311-00167059/

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

 東京発行の新聞各紙の14日付朝刊では、改正特措法の成立は朝日新聞、読売新聞、東京新聞が1面トップでした。他紙の1面トップは、毎日新聞は東京市場の株価、日経新聞は連載「新型コロナと世界経済」の初回、産経新聞は東京五輪延期論です。

f:id:news-worker:20200314091452j:plain

 各紙の改正特措法に関する記事のうち、主として運用への危惧の観点から目に留まったものの見出しを書きとめておきます。

▼朝日新聞
1面「信頼不可欠 首相は自覚を」栗原健太郎政治部長の署名
2面・時時刻刻「緊急事態 なお慎重論」「国民の権利 制限が可能に」「宣言へ2要件『現時点満たさず』」
4面「緊急事態時 民放介入の余地/『できる』→『しない』に修正 『できない』とは言わず」

▼毎日新聞
5面「政府理解『生煮え』/民放への『指示』巡り」
5面・社説「新型コロナ 特措法成立 『緊急事態』にせぬ努力を」
6面「『緊急事態』あやふや/『要件 不十分』指摘も」

▼読売新聞
1面「国民に丁寧な説明を」湯本浩司・政治部次長
3面・社説「改正特措法成立 冷静に判断し厳格な運用を」
4面「『緊急事態』与野党がクギ/採決 野党足並み乱れる」
4面「『民放に指示可能』撤回 宮下副大臣」

▼日経新聞
4面「緊急事態、民放指定せず/経財相、副大臣の答弁訂正」

▼産経新聞
1面「団結し『国難』に立ち向かえ/東京五輪の延期も選択肢だ」乾正人論説委員長

▼東京新聞
2面「『民放に指示可能』答弁撤回/宮下副大臣、衆院委で陳謝」
5面・社説「特措法の改正 独断への懸念は消えぬ」
7面「抗議集会 できなくなる/国会に事前報告 法的拘束力なし/元日弁連事務総長 海渡雄一弁護士」

「表現の自由を理解しない公権力に、自由を制約するための強力な道具を与えることは、あまりに危険」~新型コロナウイルス 特措法への危惧

 新型コロナウイルスへの対策として安倍晋三政権は3月10日、新型インフルエンザ等特措法の改正案を閣議決定し、国会に提出しました。13日に成立の見通しと報じられていますが、緊急事態宣言が発せられた場合には国民の私権が制限され、また「表現の自由」や「知る権利」が制約される恐れがあるとの指摘がなされています。
 弁護士や研究者が9日に公表した反対の緊急声明と、マスメディアなどの産別労働組合でつくる日本マスコミ文化情報労組会議(略称MIC)が10日に公表した反対声明を転記します。

 このほか専修大ジャーナリズム学科教授の山田健太さんの論考も参考になります。「表現の自由を理解しない公権力に、自由を制約するための強力な道具を与えることは、あまりに危険である」との指摘は重要だと感じます。長文ですが、とりわけマスメディアで働く方には一読をお奨めします。

・「先手でも後手でもない『禁じ手』~なぜいま、緊急事態対処法がダメなのか」

  https://news.yahoo.co.jp/byline/yamadakenta/20200310-00167053/
・「情報統制が不安を増幅させる~なぜいま、緊急事態対処法がダメなのか」
  https://news.yahoo.co.jp/byline/yamadakenta/20200311-00167059/

 新型コロナウイルス対策のための特措法改正に反対する緊急声明

 新型コロナウイルスの感染拡大が深刻さを増すなか、安倍政権は現行の「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(以下「特措法」と略記)の対象に新型コロナウイルス感染症を追加する法改正(ただし、2年間の時限措置とする)を9日からの週内にも成立させようと急いでいる。

 しかしながら、特措法には緊急事態に関わる特別な仕組みが用意されており、そこでは、内閣総理大臣の緊急事態宣言のもとで行政権への権力の集中、市民の自由と人権の幅広い制限など、日本国憲法を支える立憲主義の根幹が脅かされかねない危惧がある。
 そのような観点から、法律家、法律研究者たる私たちは今回の法改正案にはもちろん、現行特措法の枠内での新型コロナウイルス感染症を理由とする緊急事態宣言の発動にも、反対する。あわせて、喫緊に求められる必要な対策についても提起したい。

 1 緊急事態下で脅かされる民主主義と人権

 特措法では、緊急事態下での行政権の強化と市民の人権制限は、政府対策本部長である内閣総理大臣が「緊急事態宣言」を発する(特措法32条1項。以下、法律名は省略)ことによって可能となり、実施の期間は2年までとされるものの、1年の延長も認められている(同条2項、3項、4項)。

 問題なのは、絶大な法的効果をもたらすにもかかわらず、要件が明確でないことである。条文では新型インフルエンザ等の「全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるもの」という抽象的であいまいな要件が示されるだけで、具体的なことは政令に委ねてしまっている。また、緊急事態宣言の発動や解除について、内閣総理大臣はそれを国会に報告するだけでよく(同条1項、5項)、国会の事前はおろか事後の承認も必要とされていない。これでは、国会による行政への民主的チェックは骨抜きになり、政府や内閣総理大臣の専断、独裁に道を開きかねず、民主主義と立憲主義は危うくなってしまう。

 緊急事態宣言のもとで、行政権はどこまで強められ、市民の自由と人権はどこまで制限されることになるのか。特措法では、内閣総理大臣が緊急事態を宣言すると、都道府県知事に規制権限が与えられるが、その対象となる事項が広範に列挙されている。例えば、知事は、生活の維持に必要な場合を除きみだりに外出しないことや感染の防止に必要な協力を住民に要請することができる(45条1項)。また、知事は、必要があると認めるときは、学校、社会福祉施設、興行場など多数の者が利用する施設について、その使用を制限し、停止するよう、施設の管理者に要請し、指示することができる。また施設を使用した催物の開催を制限し、停止するよう催物の開催者に要請し、指示することができる(同条2項、3項)。

 外出については、自粛の要請にとどまるとはいえ、憲法によって保障された移動の自由(憲法22条1項)を制限するものである。また、多数の者が利用する学校等の施設の使用の制限・停止や施設を使用する催物の開催の制限・停止という規制は、施設や催物が幅広く対象となり、しかも要請にとどまらず指示という形での規制も加え、強制の度合いがさらに強められており、憲法上とりわけ重要な人権として保障される集会の自由や表現の自由(憲法21条1項)が侵害されかねない。

 また、特措法の下で、NHKは、他の公共的機関や公益的事業法人とならんで指定公共機関とされ(2条6号など。民放等の他の報道機関も政令で追加される危険がある)、新型インフルエンザ等対策に関し内閣総理大臣の総合調整に服すだけでなく(20条1項)、緊急事態宣言下では、総合調整に基づく措置が実施されない場合でも、内閣総理大臣の必要な指示を受けることとされている(33条1項)。これでは、報道機関に権力からの独立と報道の自由が確保されず、市民も必要で十分な情報を得られず、その知る権利も満たせないことになる。

 さらに、知事は、臨時の医療施設開設のため、所有者等の同意を得て、必要な土地、建物等を使用することができるが、一定の場合には同意を得ないで強制的に使用することができる(49条1項、2項)。これも私権の重大な侵害であり、憲法が保障する財産権にも深く関わる措置である(憲法29条)。

2 政府による対策の失敗と緊急事態法制頼りへの疑問

 政府は、特措法改正の趣旨を、新型コロナウイルス感染症の「流行を早期に終息させるために、徹底した対策を講じていく必要がある」(改正法案の概要)と説明している。
 しかし、求められる有効な対策という点から振りかえれば、中国の感染地域からの人の流れをより早く止め、ダイヤモンドプリンセス号での感染を最小限にとどめ、より広範なウイルス検査の早期実施と実施体制の早期確立が必要であった。にもかかわらず、国内外のメディアからも厳しく批判されてきたように、初期対応の遅れとともに、必要な実施がなされない一方で、専門家会議の議論を踏まえて決定されたはずの「基本方針」にもなかった大規模イベントの開催自粛要請、それにつづく全国の小中高校、特別支援学校に対する一律の休校要請、さらに中国と韓国からの入国制限などが、いずれも専門家の意見を聞かず、十分な準備も十分な根拠の説明もないまま唐突に発動されることによって、混乱に拍車をかけてきた。

 本来必要な対策を取らないまま過ごしてきて、この段階に至って緊急事態法制の導入を言い出し、それに頼ることは感染の抑止、拡大防止と具体的にどうつながるのか、大いに疑問である。根拠も薄弱なまま、政府の強権化が進み、市民の自由や人権が制限され、民主主義や立憲主義の体制が脅かされることにならないか、との危惧がぬぐえない。現に、特措法改正を超えて、この際、今回の問題を奇貨として憲法に緊急事態条項を新設しようとする改憲の動きさえ自民党や一部野党のなかにみられることも看過しがたい。

 3 特措法改正ではなく真に有効な対策をこそ

 今回の特措法改正はあまりにも重大な問題が多く、一週間の内に審議して成立させるなどということは、拙速のそしりをまぬかれない。私たちは、政府に対し今回の法改正の撤回とともに、特措法そのものについても根本的な再検討を求めたい。加えて、次のことを急ぐべきである。すなわち症状が重症化するまでウイルス検査をさせないという誤った政策を転換し、現行感染症法によって十分対応できる検査の拡大、感染状況の正確な把握とその情報公開、感染者に対する迅速確実な治療体制の構築、マスクなどの必要物資の管理と普及である。感染リスクの高い満員通勤電車の解消、テレワークを可能にする国による休業補償、とりわけ中小企業への支援、経済的な打撃を受けている事業者に対するつなぎ融資や不安定雇用の下にある人々や高齢者、障がい者など生活への支援を必要とする人々への手厚いサポートが必要である。そのため緊急にして大胆な財政措置が喫緊である。

 強権的な緊急事態宣言の実施は、真実を隠蔽し、政府への建設的な批判の障壁となること必至である。一層の闇を招き寄せてはならない。

 2020年3月9日

梓澤和幸 (弁護士)

右崎正博 (獨協大学名誉教授)

宇都宮健児 (弁護士、元日弁連会長)

海渡雄一 (弁護士)

北村 栄 (弁護士)

阪口徳雄 (弁護士)

澤藤統一郎 (弁護士)

田島泰彦 (早稲田大学非常勤講師、元上智大学教授)

水島朝穂 (早稲田大学教授)

森 英樹 (名古屋大学名誉教授)  (*あいうえお順)

 

 

市民の自由や集会・報道の自由を脅かす新型コロナ対策特別措置法に反対する

2020年3月10日
日本マスコミ文化情報労組会議

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、安倍政権は3月10日、「緊急事態宣言」が可能となる新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正案を国会に提出しました。13日までに成立させることを目指しています。
 この法案は、首相が「緊急事態」を宣言すれば、都道府県知事が、外出の自粛や、学校やイベント会場の使用制限などを要請することができるようになります。要請に応じない場合は「指示」に踏み切ることもできます。また、一定条件を満たせば所有者の同意なく土地や建物の強制使用も可能になる強い規定もあります。さらに「指定公共機関」に日本放送協会(NHK)を明記し、新型コロナ対策の責務を負わせ、首相や都道府県知事が指示を出せる対象にしています。指定公共機関は「公益的事業を営む法人の中から政令で定めることができる」と政府の判断で追加も可能になっています。
 報道機関は自らの判断に基づき必要な報道を行うものであり、政府や自治体が適切に権限を行使し、正確に情報を発信しているかなどを監視する社会的使命があります。その報道機関に法律上の責務を負わせることは、権力監視機能を損なわせる恐れがあります。また、施設利用制限の条項を使って、政府対応の問題点を市民が話し合い、改善を求めるための集会まで中止に追い込まれる危険性があります。あいまいな要件で「集会の自由」や「報道の自由」、国民・市民の「知る権利」を脅かし、憲法で保障された基本的人権の侵害につながりかねない法案であり、メディア関連労組として容認することはできません。
 そもそも、1月に国内で初めて新型コロナウイルスの感染が確認された後、政府は場当たり的な対応を続け、安倍首相は専門家の意見も聞かずに、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校の全国一斉臨時休校を打ち出すなど、合理的な根拠と透明性に著しく欠ける意思決定を重ねています。そうした政府に対して、公文書やエビデンスに基づいた説明責任の担保をつけずに、幅広い裁量のお墨付きを与えることは非常に危険です。
 実効性と民主的なプロセスを両立する新型コロナウイルス対応の実現に向けて、国会での法案審議が行われることを強く求めます。

日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)
(新聞労連、民放労連、出版労連、全印総連、映演労連、映演共闘、広告労協、音楽ユニオン、電算労)

  ※日本マスコミ文化情報労組会議

  http://www.union-net.or.jp/mic/

 

「大本営発表」報道の今日的教訓~東京大空襲から75年

 第2次世界大戦末期の1945年3月10日未明、東京の下町一帯は米軍B29爆撃機の大編隊による空襲を受け、一夜で10万人以上が犠牲になりました。東京大空襲からことしは75年です。このブログでは毎年この日は、努めて何かを書きとめるようにしています。ことしは何を書くか考えましたが、あらためて空襲当時の報道を考えることにしました。
 以下は1945年3月11日付の朝日新聞です。

f:id:news-worker:20200309211609j:plain

B29約百三十機、昨暁
帝都市街を盲爆
約五十機に損害 十五機を撃墜す

「大本営発表」(昭和二十年三月十日十二時)本三月十日零時過より二時四十分の間B29約百三十機主力を以て帝都に来襲市街地を盲爆せり
右盲爆により都内各所に火災を生じたるも宮内省主馬寮は二時三十五分其の他は八時頃迄に鎮火せり
現在迄に判明せる戦果次の如し
 撃墜 十五機 損害を与へたるもの 約五十機

  これが戦時中の「大本営発表」の部分です。当時の新聞には、当局に許された範囲内の報道しかありませんでした。
 ※ウイキペディア

 「大本営」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E6%9C%AC%E5%96%B6

 「大本営発表」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E6%9C%AC%E5%96%B6%E7%99%BA%E8%A1%A8
 これまでもこのブログで繰り返し書いてきたことですが、この大本営の発表の本文部は、今日の感覚で言えばツイッターのツイート1回分でしかありません。 

https://twitter.com/newsworker/status/1237025256369311744

   実際には10万を超える人々が犠牲になったというのに、そこには人的被害は何も触れられていません。具体的な被害状況と言えば、宮内省で馬や自動車を担当する部門の火災が午前2時35分に鎮火した、ということだけです。実際には、死屍累々の惨状が広がっていたにもかかわらず。

 朝日新聞の紙面には、この「大本営発表」に続いて、自社の記者が書いたと思われる記事が掲載されています。その内容を書き起こしてみます。

 単機各所から低空侵入
 敵機の夜間来襲が激化しつつあったことは敵の企図する帝都の夜間大空襲の前兆として既に予期されていたことであったが、敵はついに主力をもって帝都を、一部をもって千葉、宮城、福島、岩手の各県に本格的夜間大空襲を敢行し来たった。
 まず房総東方海上に出現した敵先導機は本土に近接するや、少数機を極めて多角的に使用しつつわが電波探知を妨害して単機ごとに各所より最も低いのは千メートル、大体三千メートル乃至四千メートルをもって帝都に侵入し来たり帝都市街を盲爆する一方、各十機内外は千葉県をはじめ宮城、福島、岩手県下に焼夷弾攻撃を行った。
 帝都各所に火災発生したが、軍官民は不適な敵の盲爆に一体となって対処したため、帝都上空を焦がした火災も朝の八時ごろまでにはほとんど鎮火させた。また右各県では盛岡、平に若干の被害があったのみで他はほとんど被害はなかった。
 この敵の夜間大空襲を邀(よう)撃してわが空地制空部隊は帝都上空および周辺上空において壮烈な邀撃戦を敢行して大規模な初の夜間戦闘において撃墜十五機、損害五十機の赫々たる戦果を収めた。
 現下の防御態勢においてかくのごとき敵空襲は避けがたく敵は本土決戦に備えて全国土を要塞化しつつあるわが戦力の破壊を企図して来襲し来ったものと見られる、しかし、わが本土決戦への戦力蓄積はかかる敵の空襲によって阻止せられるものではなく、かえって敵のこの攻撃に対し邀撃の戦意はいよいよ激しく爆煙のうちから盛り上がるであろう。

 久しぶりにこの記事を読み返してみて、敗戦の5カ月も前のこの時期に、新聞記事に「本土決戦」の単語があることに、あらためて気付きました。国中を要塞化して、本土に敵を迎え撃たなくてはならないとは、少し考えれば、日本はこの戦争に必ず負ける、ということを意味していることが分かったはずです。しかし、そうとは直接報じることが許されない、戦争の実相を社会で共有できない。それが戦争末期の日本の社会の姿でした。
 それから75年。日本の社会の民主主義、さらには「表現の自由」や「知る権利」の行く末を深刻に案じざるを得ない中で今年の3月10日を迎えました。
 例えば東京高検検事長の定年延長です。森雅子法相は2月10日の国会答弁で、1981年当時に国家公務員法の定年延長(勤務延長)の対象に検察官は含まれていないと人事院が答弁していたことを突き付けられ、「詳細には承知していない」と口にしていました。人事院も、当時と解釈は変わっていないとしていました。ところが2月13日に安倍晋三首相が法解釈を変更した旨を表明して以降は、法相も人事院も後付けと言われても仕方がないような無理に無理を重ねた主張を続けています。検事長の定年延長を決めた閣議決定の前に、法解釈変更の手続きを適正に取ったと強弁しますが、そのことを客観的に裏付ける記録は何一つ示しません。「わたしが『正しい』と言っているのだから正しい」と言っているだけです。
 こうした「公」の記録をないがしろにする姿勢は、事実を伏せて都合のいいことだけを、時には事実の裏付けがない誇大な戦果を発表していた「大本営発表」と根は極めて近いように思います。
 より直接的に「表現の自由」や「知る権利」との関連で危惧されるのは、新型コロナウイルスを巡る新型インフルエンザ特措法改正です。ひとたび緊急事態宣言が発せられれば、感染拡大防止の大義名分のもとに、外出や公的施設を使った集会が事実上、制限されることになりかねません。他の公共的機関や公益的事業法人とならんで指定公共機関とされるNHKが、政府の対応などを巡って自由に報道できるかどうかも分かりません。民放等の他の報道機関が政令で追加される危険があることも指摘されています。

 これが現在の日本の社会です。

 戦前の新聞は戦争に反対することなく、むしろ戦争遂行に加担し戦意をあおっていきました。そのあげくの「大本営発表」報道でした。そうなってしまうには短くはない経緯があるのですが、要は、戦争と自由な表現、自由な報道とは本質的に相いれないのだとわたしは考えています。それこそが敗戦の大きな教訓の一つだろうと思います。その教訓を生かさなければなりません。この75年は「はるか75年も前」ではなく「わずか75年前」のことだとわたしは考えています。

※参考過去記事

 東京大空襲に関連するこのブログの過去記事は、カテゴリー「東京大空襲」をご覧ください。
 https://news-worker.hatenablog.com/archive/category/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%A4%A7%E7%A9%BA%E8%A5%B2