高市早苗政権は4月21日、殺傷能力を持つ武器の輸出を全面的に解禁しました。閣議と国家安全保障会議で、防衛装備移転三原則と運用指針を改定しました。これまでは輸出の目的を救難、輸送、警戒、監視、掃海の「5類型」に限っていましたが、この制限は撤廃されました。
日本国憲法9条は、国権の発動としての戦争と武力による威嚇、武力行使を国際紛争の解決手段としては永久に放棄すると定めています。戦後の日本の武器禁輸政策は、この憲法9条と対をなすものと理解していました。日本が自国はもちろんのこと、他国の戦争、他国の武力による威嚇や武力行使にも加担しないことを担保する具体策の一つとしての意義があるからです。
高市首相は21日午前のX(エックス)への投稿で、自衛隊の装備に他国製の武器があるのだから、他国に日本製の殺傷兵器を供与してもいいとの趣旨の見解を示しています。しかし、専守防衛に徹してきた自衛隊と、他国の軍隊は性格が異なります。逆に言えば、自衛隊を他国の軍隊と同じように戦争ができる「軍」に変えたいとの意向がにじんでいると感じます。武器輸出解禁は、憲法9条の改変と根っこでつながっています。
高市首相は同じ投稿の中で「戦後80年以上にわたる平和国家としてのこれまでの歩みと基本理念とを堅持することに、全く変わりはありません」と記しています。そうでしょうか。武器輸出、そして政府のインテリジェンス機能の強化、スパイ防止法の制定、それらの仕上げの憲法9条改正こそ、かねて口にしている「国論二分」の政策のはずです。平和国家の歩みと基本理念を根本的に変えるから国論が二分になることを、高市首相自身が自覚しているはずです。
https://x.com/takaichi_sanae/status/2046392245604291018
殺傷武器の輸出をめぐっては、現に戦闘を行っている国であっても、日本の安全保障上の特段の事情があれば、例外的に認められます。それを決めるのは国会ではなく政府です。米国とイスラエルによるイラン攻撃に対して、法的な評価を避け続け、トランプ政権追随のままでいる高市政権が、トランプ大統領から武器の供与を求められた場合に、断ることができるでしょうか。現状でも在日米軍基地は米軍の出撃拠点になっています。日本製の武器が米軍によって使用されることで、より直接的に日本が米国の戦争に加担する恐れが高まっていると考えざるを得ません。
武器の輸出それ自体も問題ながら、極めて危ういと感じるのは、「国論二分」の政策を力押しで進める高市首相に、かつて戦争に突き進んだ日本の現代史の教訓に対する知見や見識もなく、歴史に学ぶ姿勢すら感じられないことです。その点は、小泉進次郎防衛相も同じです。
現職の陸上自衛隊3等陸尉が刃物を所持して東京の中国大使館に侵入する事件がありました。小泉防衛相や木原稔官房長官が「遺憾」と口にしただけです。自衛隊内の独自調査を指示することもなく、あまりに事態を軽視しています。
4月12日の自民党大会では、陸自の3等陸曹が制服姿で登壇。自衛隊員だとの紹介を受けて君が代を歌いました。自民党による自衛隊の政治利用が本質なのに、自民党や高市政権は「君が代を歌うことは政治的行為ではない」「休暇中の私的な行為なので問題ない」「自衛官は常時制服着用」などと釈明を重ね、小泉防衛相は「事前に報告があれば別の判断もあったかもしれない」との趣旨のことを述べ、自衛隊の報告体制に問題をすり替えました。大会の会場で高市首相も小泉防衛相も、3曹が歌うのを見ていました。現場で政治利用に承認を与えたも同然の当事者です。小泉防衛相が3曹と一緒に撮った写真を自身のXに投稿した行為は、防衛相自身による自衛隊の政治利用です。投稿を削除したから不問に付される問題ではありません。罷免でも不思議はありません。
軍事組織の規律や統制に対する理解や見識を欠いていることに懸念を抱かざるを得ない高市首相や小泉防衛相が、戦争ができる“普通の”国を目指して「国論二分」の政策を、国会を軽視して押し進めていく現状に、憲法がないがしろにされていると感じます。日本の民主主義の根幹であるはずの立憲主義、法治主義の危機です。
そうした折に、武器輸出解禁と同じ4月21日、大分県の陸自日出生台演習場で、射撃訓練中の戦車で砲弾が破裂し、乗員3人が死亡、1人が重傷を負いました。予想もできなかった惨事です。原因を突き止め、是正すべきを是正しなければ、自衛隊員の生命が危険にさらされ続けます。
軍事組織である自衛隊の現場で何が起きているのか。実態の解明には、見識を備えたトップの強力なリーダーシップが必要ですが、高市首相や小泉防衛相に可能でしょうか。
殺傷能力がある武器の輸出解禁を、4月22日付の東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の朝刊はいずれも1面トップで報じました。この日の最重要のニュースとの判断です。ただし、社説も合わせてみてみると、肯定的な評価と否定的な評価とにはっきり分かれています。

日経新聞は「武衛産業 成長底上げ」の主見出し。肯定的な評価ながら、企業業績の視点を前面に出す発想は少なからず驚きました。
産経新聞は社説で高市政権を全面的に支持。読売新聞も24日付の社説でほぼ全面支持を表明しつつ、高市首相に説明を尽くすよう求めています。
産経、読売両紙はかねてから憲法9条改変が社論です。武器輸出に対する論調の差異は、憲法に対する論調の違いと重なっているように感じます。
▽産経新聞社説:4月22日付
「武器輸出の解禁 平和守る決定を歓迎する」
https://www.sankei.com/article/20260422-XQTVWWR6MVN7BODME6Y7FCBFBA/
武器輸出の解禁を評価する。日本と地域の平和に資するからだ。同盟国・同志国の防衛力を高め、日本にとって望ましい安全保障環境を創出できる。防衛産業を成長させ、国民を守る自衛隊の継戦能力を高められる。高市内閣と与党自民党、日本維新の会の努力を多としたい。
(中略)
武器輸出解禁を「戦後の平和主義に反する」と批判する声が一部にあるが間違っている。
戦後でも日本は、占領期に起きた朝鮮戦争に際し、銃砲弾を生産して国連軍の主力である米軍へ納入した。これが北朝鮮の侵略をくじくのに寄与した。この史実を思い出したい。
移転三原則の源流である武器輸出三原則は昭和42年に制定され、運用が拡大されて事実上の武器禁輸を招いた。
もし、世界の主要先進国が従来の日本にならって武器輸出を自制していればどうなったかを想像してほしい。日本は自衛隊の装備を十分に揃(そろ)えられず、ウクライナは侵略者ロシアに抵抗する術(すべ)を持ちえなかったろう。それでいいはずがない。
▽読売新聞社説:4月24日付
「防衛装備品移転 ルール見直しで同志国増やせ」
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20260424-GYT1T00005/
平和を唱えるだけで平和を守れるなら、それに越したことはない。
だが、現実の国際社会では、大国が隣国を侵略し、超大国のリーダーが「文明を滅ぼす」とまで公言して、他国に対し、国際法を無視した攻撃を展開している。
平和と安全を守るためには、防衛力の備えはもちろん、反撃のための継戦能力の強化が必要だ。自国だけで安全を守り切れない以上、同盟国や同志国と防衛装備品の相互援助を含めた協力体制を構築することが不可欠となる。
政府が、防衛装備移転3原則とその運用指針を改定し、輸出を原則として可能としたのは、安全保障環境の変化に対応する措置として当然だ。平和国家の理念を損なうどころか、平和を守るための新しい構想への転換と言える。
(中略)
今回の改定は、法改正が不要だったため、国会での議論は短時間に限られた。世論の理解を得ているとは言い難い。今後、輸出拡大の狙いや意義について、高市首相自ら説明を尽くすべきだ。
朝日新聞、毎日新聞、東京新聞は武器輸出の解禁に否定的、批判的です。特に東京新聞の社説(中日新聞と共通)の「平和主義を損なう浅慮」との見出しが目を引きました。
▽朝日新聞社説:4月22日付
「武器輸出政策の大転換 平和国家の理念はどこへ」/殺傷兵器を全面解禁/国会の関与は不十分/『好循環』は本当か
https://digital.asahi.com/articles/DA3S16448579.html
武器輸出は国のあり方の根本にかかわる重大事なのに、三原則と運用指針の改定は政府・与党の判断だけで行われた。日本は他国の紛争に加担しない。国際法や人権を無視する国に武器は渡さない。そのための方策を国会で徹底的に議論する必要がある。政府には、国会の関与の強化を含め、再考を求めたい。
▽毎日新聞社説:4月22日付
「武器輸出の5類型撤廃 平和主義曲げぬ歯止めを」/野放図な拡大を危ぶむ/国会関与の仕組み必要
https://mainichi.jp/articles/20260422/ddm/005/070/088000c
5類型撤廃は昨年の自民党と日本維新の会の連立合意に盛り込まれた。高市早苗政権は、防衛分野を成長戦略の柱の一つに位置づけている。三木内閣当時の宮沢喜一外相が国会で「日本は兵器の輸出で金を稼ぐほど落ちぶれていない」と述べたことについて、高市首相は「時代が変わった」と突き放した。
地域の安定を実現するための明確なビジョンを欠いたまま、武器輸出をなし崩しに拡大することは許されない。日本が「死の商人」とみられるような事態は避けねばならない。
戦後日本が掲げてきた平和国家のあり方に関わる問題である。国会で正面から議論すべきだ。
▽東京新聞社説:4月22日付 ※中日新聞と共通
「殺傷武器の輸出解禁 平和主義を損なう浅慮」/武器で稼ぐ「普通の国」/対米輸出なら戦争加担/歯止めの在り方論ぜよ
https://www.tokyo-np.co.jp/article/483546
政府が防衛装備移転三原則と運用指針を改定し、殺傷能力のある武器の輸出を全面解禁した。国際紛争の助長を避けるために武器輸出を厳しく制限してきた安全保障政策の大転換は、憲法の平和主義を損なう浅慮と断じるほかない。
武器輸出の制限は、専守防衛、非核三原則とともに、戦後日本の平和主義の根幹をなしてきた。1967年に武器輸出三原則を打ち出して以降は、事実上の全面禁輸が国是になってきた。
近年は段階的に武器輸出の緩和を進め、他国と共同開発する戦闘機や護衛艦などの輸出を容認してきた。ただ、完成装備品の輸出は救難・輸送・警戒・監視・掃海の5類型の用途に限り、殺傷兵器の輸出に縛りをかけていた。
政府は今回、この5類型を撤廃し、殺傷兵器の完成品輸出を容認した。国会での熟議や国民的議論もなく、平和主義の理念を蔑(ないがし)ろにするものとして深く憂慮する。
以下に、4月22日付の東京発行各紙について、関連記事の主な見出しをまとめておきます。大分で陸自戦車の砲弾が破裂し3人が死亡した出来事の記事の扱いと見出しも書きとめておきます。
■朝日新聞
・1面トップ「殺傷武器輸出 全面解禁/政府決定 5類型の制限撤廃/戦後の抑制政策転換」
・2面・時時刻刻「武器輸出 踏み出した政府/国会審議経ず 自維協議わずか3回」「戦闘中の国へも輸出の余地/歯止めは『事後通知』実効性に疑問も」「防衛産業 予算増額が追い風」
・4面「野党『説明が不十分』『国内産業を育成』」/識者談話2人
・第2社会面「武器輸出 働いてきた人の思いは/造船継承へ『モノづくり大事』/海外に『武器ではなく平和を』」
1面準トップ「戦車の砲弾暴発 3人死亡/大分 陸自の訓練1人重傷」
社会面トップ「異例の暴発『記憶ない』/大分 陸自トップら衝撃/『10式』、最新の国産主力戦車」
■毎日新聞
・1面トップ「武器輸出を解禁/安保政策の転換点/閣議決定 装備『5類型』撤廃」
・2面「各国、受け入れ温度差/対中スタンスを反映」/「ミニ論点」識者2人
・3面・クローズアップ「政府、売り込みへ躍起」「歯止め策 不十分の声」「防衛産業、期待と課題」
・4面「野党『政府説明足りぬ』/5類型撤廃『平和国家に傷』懸念も」
・社会面トップ「市民ら動かす危機感/反対の声 デモで可視化」/「改憲反対集会 最多は30代」
1面3番手「砲弾破裂 3隊員死亡/大分・陸自演習場 戦車射撃訓練中」
第2社会面「安全管理 住民ら疑問/大分 落雷事故に続き隊員死亡」
■読売新聞
・1面トップ「『武器』の輸出 可能に/3原則改定 装備『5類型』撤廃/協定締結国に限定」
・2面「『平和国家 堅持』強調/『武器輸出』政府、段階的に緩和」/「中国『深刻に懸念』フィリピンは歓迎」
・3面・スキャナー「安保政策を転換/防衛産業強化で抑止力向上」「国民の理解不可欠/戦闘中は原則不可/国会には事後通知」
・4面「武器輸出容認 野党賛否/国民賛同『防衛産業育成する』」
・21面・防衛装備移転3原則と運用指針の主な変更点
1面3番手「陸自戦車『暴発』3人死亡/大分の演習場 砲弾破裂、1人けが」
社会面トップ「『前代未聞』隊員ら衝撃/破裂前 通常通り射撃か」/「『10式』南西防衛投入を想定」
■日経新聞
・1面トップ「武衛産業 成長底上げ/装備輸出『5類型』撤廃 政府決定/IHI、ミサイル部品増産」
・3面「防衛市場10年で5割増、640兆円/輸出拡大、外交力高める」
・4面・識者3人
社会面準トップ「戦車射撃訓練、4隊員死傷/大分の陸自演習場 砲弾が破裂/陸自トップ『早急に原因究明』」
■産経新聞
・1面トップ「武器輸出 原則可能に/防衛政策の大転換/政府『5類型』撤廃」/連載企画「岐路の国防 武器輸出」上「公明『死の商人論』足かせ/連立相手交代で状況一変」
・3面(企画続き)「共通武器 他国と連携/中国脅威『一国では安全確保できない』」/識者・拓殖大海外事情研究所・佐藤丙午所長
1面4番手「戦車砲弾破裂 3人死亡/大分 陸自訓練中、1人重傷」
社会面トップ「破裂『聞いたことない』/陸自トップ 安全装置複数」/「周辺住民不安『こんな近くで』」
■東京新聞
・1面トップ「殺傷武器輸出 解禁/平和国家 歩み大変換/政府新指針 5類型撤廃」/「『安保のジレンマ』陥る恐れも/抑止力向上 保証なし」
・2面・核心「国民不在で歴史的改定/禁輸から半世紀 緩和繰り返しの末」「被害受ける側の視点持たず/維新と連立、国会軽視加速」青井未帆・学習院大教授/「『売り上げ期待』『イメージ悪く』/武器部品製造 中小メーカー」
社会面トップ「戦車砲弾破裂 3人死亡/1人重傷 陸自演習場 訓練中 大分」/「『記憶にない事故』陸自幹部」
※参考過去記事
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