ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

記者は危険に近づくことを避けられない~追悼 松田高志さん

 ずっと心に引っかかっていました。
 20年前の2006年9月16日夜、広島市で台風による大雨の中を、マイカーで被災現場の取材に向かった27歳の中国新聞記者、松田高志さんが行方不明になりました。警察、消防のほか、中国新聞社の社員や地域の人たちも加わって、川などの捜索が続きましたが、松田さんは見つかりませんでした。
 中国新聞の報道によると、ことし8月になって、取材に向かっていた現場から約20キロ離れた浅瀬で人骨が見つかり、広島県警がDNA型鑑定で松田さんの遺骨と特定しました。10月下旬に家族に渡されたとのことです。
 松田さんに、謹んで哀悼の意を表します。
 中国新聞が、経緯を詳しく伝える記事を同紙のサイトにアップロードしています。だれでも読むことができます。

■「中国新聞記者の遺骨の一部見つかる、広島市中区の京橋川 20年前の豪雨取材中に行方不明」
 2026年11月5日09:30
 https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/919539

www.chugoku-np.co.jp

 中国新聞社の岡畠鉄也社長のコメントも掲載されています。「松田記者の遺志を重く受け止め、今後とも安全な取材体制の徹底と、災害報道を通じた地域の安全確保に全力で取り組んでまいります」の一文に、改めて思うことがあります。

 2006年9月当時、わたしは2年間の新聞労連委員長の任期を7月に終え、8月に通信社の社会部次長の職に復帰していました。いわゆる「デスク」です。何かあれば、記者に現場へ取材に向かうよう指示を出す立場です。大きな事件事故では、記者と共にデスクも現場に向かいます。だから松田さんのことは他人ごとではありませんでした。当時運営していたブログ「ニュース・ワーカー」に、以下のように書きとめていました。

 ニュースとは何か、と言えば、答えの一つに挙げることができるのは「非日常」だ。災害はその典型の一つであり、戦争が「最大のニュース」と言われるのも同じことだ。だから職業としての新聞記者は、本来的に危険に近づくことを避けられない。
 危険が予想される取材では、事前に考えうる限りの対策を取ることが鉄則になっている。豪雨の中を夜間、マイカーで取材に向かったことは適切だったのか。検証は必要だが、今は一刻も早く、松田さんが見つかることを願っている。

newsworker.exblog.jp

 絶対の安全を確保しようとしたら、危険に近づかない、極端なことを言えば現場に行かないことが、いちばん確実です。しかしそれでは、地域で、日本国内で、あるいは世界で、今何が起きているかを社会で共有することができません。
  やはり職業としての記者は、本来的に危険に近づくことを避けられないのだと思います。その中でどうやって記者の安全を確保するのか。今も、これからも、変わらずジャーナリズムの課題です。

現実との乖離を改憲で解消するのか、現実を理念に近づけるのか~日本国憲法公布から80年 新聞各紙の社説、論説の記録

 11月3日は日本国憲法公布から80年。新聞各紙の3日付の社説、論説を、ネット上で読める範囲で見てみました。見出しとリンクは後掲の通りです。
 全国紙5紙では、毎日新聞、読売新聞、日経新聞、産経新聞に関連の社説がありましたが、朝日新聞には見当たりません。前日2日付にもありませんでした。意外です。
 改憲を社是とする読売新聞、産経新聞は、ある意味、いつも通りの主張です。ただし、両紙とも2本社説のうちの1本で、長文の1本社説ではありません。
 読売新聞の社説(「憲法公布80年 時代に合わせ改正論議深めよ」)の以下のくだりが目に止まりました。

 一方、憲法と現実との 乖離が最も顕著なのが9条だ。
 1項で戦争放棄、2項で戦力不保持を定めているため、政府は、現在の自衛隊は「戦力」に当たらないという苦しい解釈を続けている。しかし、世界有数の装備を持つ自衛隊が戦力ではないとの説明は無理がある。
 近年、中国がロシアと連携して日本を威圧するなど、安全保障環境は厳しさを増している。自衛の能力の向上が必要なことは誰の目にも明らかだ。

 「自衛隊が戦力ではないとの説明は無理がある」とは、「自衛隊は実態としては『戦力』だ」との主張と読めます。それは、自衛隊が憲法に違反していることを認めているに等しいのではないか。仮に、憲法違反の状態を解消するために実態を変えるのではなく、憲法の方を変えるのであれば、それはもう憲法ではなくなってしまうように感じます。
 この点について、毎日新聞の社説(「憲法公布80年 立脚点忘れぬ国づくりを」)は簡潔に以下のように説いています。

 憲法と現実に乖離(かいり)があるのはその通りだ。だが要因は、無軌道な現実が、堅守すべき理念を逸脱していることにある。必要なのは現実を理念に近づける努力だろう。

 ブロック紙・地方紙は、性急な改正手続きを戒める内容が大勢を占めます。その中で、以下のような書き出しの信濃毎日新聞の社説(「憲法公布80年 沖縄と外国人、置き去りのまま」)が目を引きました。特に外国人の人権と憲法制定の経緯は、あまり注目されていなかった論点だと思います。

 旧体制下の政府と、起草に深く関わった連合国軍総司令部(GHQ)のせめぎ合いを含め、制定に至る過程で置き去りにされたものが大きく二つある。一つは沖縄。もう一つは外国人の人権だ。

 以下に、ネット上で全文が読める各紙の社説について、見出しとリンク先を書きとめておきます。
■毎日新聞「憲法公布80年 立脚点忘れぬ国づくりを」/軍事大国に走る危うさ/国会の活性化こそ急務
 https://mainichi.jp/articles/20261103/ddm/005/070/099000c

■読売新聞「憲法公布80年 時代に合わせ改正論議深めよ」
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20261102-GYT1T00398/

■日経新聞「憲法80年の重みに耐えうる熟議を」
 https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK0237E0S6A101C2000000/

■産経新聞「憲法公布80年 改正原案の条文化に入れ」
 https://www.sankei.com/article/20261103-ODPWDE6BSFM75IISOJ2OEY2WQQ/

■中日新聞・東京新聞「憲法公布80年に考える 不戦と立憲主義の誓い」/国連総会で「専守防衛」/不断の努力で守り抜く
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/525739

■東奥日報「権力発動 抑制の役割を/憲法公布80年」
 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/2395729

■信濃毎日新聞「憲法公布80年 沖縄と外国人、置き去りのまま」/軍事拠点化がさらに/基層にあるまなざし/閉じ込められる人権
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/gf01dbk4a0g9cm960evo2930

■静岡新聞「憲法公布80年 改正の是非 関心持とう」
 https://news.at-s.com/article/2090306?lbl=576

■山陽新聞「憲法公布80年 拙速な改正議論避けねば」
 https://www.sanyonews.jp/article/2014786

■中国新聞「憲法公布80年 『改憲ありき』のその前に」/理念軽んじる政治/国民が権力を縛る
 https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/918844

■高知新聞「【憲法公布80年】平和主義の重み忘れずに」
 https://www.kochinews.co.jp/article/detail/1060068

■沖縄タイムス「憲法公布80年 次世代に人権と平和を」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1958116

 

メモ:【緊急声明】ロシア当局による北海道新聞記者の不当拘束に抗議し、即時解放を強く求める ※追記 オンライン署名2件に賛同します

 北海道新聞記者がロシアで拘束が続いていることに対し、13人の「メディア・学術・言論に携わる有志一同」が連名で10月28日、即時解放を求める「緊急声明」を発表しました。呼応して、この声明への賛同を呼びかけるオンライン署名が続いています。

【緊急声明】ロシア当局による北海道新聞記者の不当拘束に抗議し、即時解放を強く求める
https://note.com/good_racoon2939/n/nee3bc65abbc2

note.com

 2026年10月13日、北海道新聞ユジノサハリンスク支局の記者である今井裕紀氏が、ロシア連邦保安局(FSB)によりスパイ容疑で拘束されるという事態が発生しました。

 拘束後、日ソ領事条約(現・日露領事条約)で明確に規定されている「拘束から4日以内の領事面会」という期限は守られず、日本大使館員との面会は大幅に遅れました。不当な拘束の長期化が強く懸念されます。今井記者の心身の健康と安全のために、定期的な領事面会や法的支援を含む十分な援助が確保されなければなりません。

 いかなる国や地域であっても、取材と報道の自由は最大限に尊重され、保障されなければなりません。現地で取材活動を行うジャーナリストを不当に拘束する行為は、真実を伝えようとする報道活動全体を萎縮させるものであり、決して看過することはできません。

 私たちメディア・学術・言論に携わる有志は、本件について強い危機感を共有しています。ロシア当局に対して、今井記者の不当な扱いの解消と即時解放を強く求めます。

 また、日本政府に対しても、ロシア側に厳重に抗議し、最大限の外交努力を通じて早期解放を実現するよう強く求めます。

2026年10月28日

メディア・学術・言論に携わる有志一同

  江川紹子  ジャーナリスト、神奈川大学特任教授
  加藤晃彦  月刊「文藝春秋」編集長
  小泉悠   東京大学先端科学技術研究センター准教授
  櫻井よしこ ジャーナリスト
  曽我部真裕 京都大学教授
  瀬尾傑   編集者、スローニュース代表
  田原総一朗 ジャーナリスト
  長野智子  キャスター
  東野篤子  国際政治学者 
  真山仁   小説家
  村田晃嗣  国際政治学者
  村山祐介  ジャーナリスト
  山口圭介  ダイヤモンド社メディア編集局長
  (50音順)

 オンライン署名は以下から。11月1日午前の時点で、賛同者は3万2千件超です。

www.change.org

 このブログで繰り返し書いている通り、ジャーナリズムとジャーナリストの役割と、その価値は国境を超えます。ジャーナリストとジャーナリズムへの迫害と弾圧は、国境を超えて批判されるべきです。
 この緊急声明に賛同します。

※写真出典:「ロシア記者拘束問題有志」のnote

 

【追記】2026年11月1日17時
 本記事を公開した後に、もう1件、オンライン署名が11月1日に始まったことを知りました。元北海道新聞記者が中心になって立ち上げた有志団体が参加、賛同を呼びかけています。主旨に賛同します。

■「ロシアで拘束された北海道新聞記者の即時解放を求めます」

www.change.org

署名活動の主旨
 北海道新聞のロシア・ユジノサハリンスク支局の男性記者(特派員)が10月13日、ロシア連邦保安局(FSB)にスパイ容疑で拘束されました。記者はモスクワに移送され、裁判所は2カ月間の拘留を認めたと報道されています。記者の健康、安全が確保され、一刻も早く解放されることを強く望みます。
 署名を集めているのはロシアで拘束された北海道新聞・男性記者の一日も早い解放を願う有志団体「ロシアで拘束された道新記者の解放を求める会」です。元北海道新聞記者が中心になって立ち上げましたが、そのほかの方の参加、協力、賛同を募っています。
 記者が無事に帰国することを願い、この問題を伝え続け、社会の関心が薄れないようにすることが目的です。
 ロシア連邦保安局(FSB)は、日本の諜報機関の指示に基づいて、ロシアの安全保障を脅かす目的で、記者が情報を集めていたと主張しています。これに対して北海道新聞社の編集局長は独立した報道機関として「政府の指示に基づいて取材や情報収集を行うことはありません」と反論しています。私たちもそう確信しています。
 日本とロシアの間では、政治的な緊張が続いています。しかしこういう時だからこそ、両国、そしてそこに暮らす人たちの間で相互理解を図ることが重要です。報道機関、ジャーナリストの果たす役割がここにあります。
 いかなる状況であっても、報道の自由は最大限尊重されなければなりません。記者は、ロシア政府の記者査証(ビザ)を取得して取材していました。不当な拘束は、報道の自由を踏みにじる行為です。FSBはただちに記者の拘束を解かなければなりません。
 私たちは日本政府に対しても、記者の早期解放に向けて全力を挙げることを求めます。拘束が長期化することがないよう、人道的配慮を最優先し、ロシア政府と交渉を進めることを望みます。
記者解放を願い、一緒に声を上げていきましょう。

 この署名は、ロシア政府に以下の点を求めます。

1北海道新聞記者の即時解放
2解放までの健康と安全の確保、人道的な処遇
3日本政府による領事面会、弁護士や家族との連絡の保障
4報道の自由と正当な取材活動の尊重

 また日本政府に以下の点を求めます。

1北海道新聞記者の即時解放に向けた最大限の外交努力
2ロシア政府への働きかけと交渉の継続
3領事面会を通じた記者の健康と安全の確認
4記者の家族への十分な情報提供と支援

署名開始 2026年11月1日

 以下にホームページがあります。

www.free1013.net

 

拘束から13日、北海道新聞記者と領事面会~ジャーナリズムには国境を超えた役割と価値がある

 ロシアに拘束されている北海道新聞の男性記者に、モスクワの日本大使館関係者が面会したことが10月26日夜、報じられました。記者の健康状態に問題はないことが確認されたとのことです。

■北海道新聞「拘束の本紙記者と初面会 在ロシア大使館、健康状態に問題ないと確認」
 2026年10月26日 23:02(10月27日 0:01更新)
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1396842

www.hokkaido-np.co.jp

 在ロシア日本大使館関係者は26日、ロシア連邦保安局(FSB)に拘束されている北海道新聞の男性記者とモスクワ市内で初めて領事面会した。外務省によると、記者の健康状態に問題はないという。日本政府は引き続き、記者の即時解放と人道的配慮や公正・公平な取り扱いを強く求めていく方針。

 記者の拘束は10月13日でした。約2週間たっての面会です。本来なら、この「領事面会」は拘束から4日以内に行われていなければならないはずでした。この間の経緯や日ロ両政府間の取り決めについて、読売新聞の記事から引用します。

 日本政府は記者の健康状態や拘束の経緯などを確認するため、露側に早期の面会実現を要求してきた。大使館員は露側と面会を事前調整のうえ、16日に拘置所を訪問したが実現せず、21日の再訪問でも面会できなかった。22日には記者の家族の希望に基づいて大使館員らがセーターなどを拘置所で差し入れたが、面会は認められなかった。
 日本と旧ソ連が定め、現在も有効とされる「日ソ領事条約」とその関連文書では、自国民の拘束・逮捕から遅くとも4日以内に本人と領事面会ができると定めているが、取り決めは事実上ほごにされていた。

■読売新聞「ロシアで拘束された北海道新聞記者、日本大使館員が領事面会…健康状態に問題なし」
 2026/10/26 23:02 (2026/10/27 00:21更新)
 https://www.yomiuri.co.jp/politics/20261026-GYT1T00389/

www.yomiuri.co.jp

 ロシア政府は、北海道新聞記者が日本の情報機関の指示でスパイ活動を行ったと主張しながら、その具体的な内容や根拠を示しません。面会を約2週間認めなかったことに対しても、具体的な説明はないようです。ロシアによる一方的な対応が続いています。
 国情の違いと言ってしまえば、そうなのかもしれません。しかし、ジャーナリズムとジャーナリストの役割と、その価値は国境を超えます。ジャーナリストとジャーナリズムへの迫害と弾圧は、やはり国境を超えて批判されるべきです。

 領事面会が行われたとのニュースに関連して、NHKのサイトに、北海道新聞記者が拘束されている施設についての記述がありました。

 北海道新聞の記者が拘束されているレフォルトボ拘置所は、首都モスクワにあります。
 独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」によりますと、施設は、帝政ロシア時代の1881年、軍の矯正施設として建設されました。
 その後、ソビエト時代には拘置所として、FSB=ロシア連邦保安庁の前身、KGB=国家保安委員会の管轄下に置かれました。
 ソビエト時代、KGBはスパイ容疑で拘束した人たちを収容し、対立する西側諸国で拘束された自国のスパイとの身柄交換に備えていたとしています。
 現在はFSBが管轄していて、「最も機密性の高い施設の1つだ」と伝えています。
 一方、ソビエト各地にあった強制収容所の実態を告発した『収容所群島』の著者で、ノーベル文学賞を受賞した反体制作家のソルジェニーツィン氏が一時、収容されていたことでも知られています。

■NHK「北海道新聞記者と『領事面会』実施 健康状態に問題なし 外務省」
 2026年10月26日 23:25 (2026年10月27日 1:10更新)
 https://news.web.nhk/newsweb/na/nd-20261026de66041

 ウイキペディアには「レフォルトヴォ刑務所」として、記述と写真があります。
▼「レフォルトヴォ刑務所」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%B4%E3%82%A9%E5%88%91%E5%8B%99%E6%89%80

※写真出典・ウイキペディア

 

皇位男系継承「2600年以上の伝統」の危うさ(再び)~改正皇室典範が施行、在京6紙の報道の記録

 7月に参議院で可決、成立した改正皇室典範が10月24日、施行されました。①旧11宮家の男系男子を養子として皇族に迎える②女性皇族は結婚後も皇室に残る-の二つが可能になりました。
 改正の目的は皇族の数の確保とされます。しかし、実質的な意味合いは「女性・女系天皇」の議論を封じ込め、「男系・男性」を堅持する点にあると考えるほかありません。そのことは、例えばこの改正を支持する産経新聞が、24日付朝刊の1面の記事の見出しに「男系継承堅持へ 旧11宮家」の見出しを立てていることからも端的にうかがわれます。
 近年の世論調査では、女性天皇の支持、容認は、控えめに見ても7割超に上っています。女系をも容認する意見が過半を占める調査結果もあります。こうした民意と「男系継承堅持」との乖離は、それ自体が象徴天皇制にとって深刻な問題です。憲法第1条は、天皇の地位は「主権の存する日本国民の総意に基づく」と規定しているからです。

日本国憲法
第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。

 「男系堅持」の理由は、古くから続いてきたから、ということに尽きます。まさにジェンダー平等の問題であって、「日本国民の総意に基づく」との象徴天皇制の本旨を踏まえるなら「女性・女系天皇」をも選択肢に含めた広範で深い議論が必要なはずです。しかし、その選択肢は事実上排除されました。
 さらに本質的な問題は、ジェンダー平等を否定する「男系堅持」の発想の背景にあるものです。ひとことで言えば、神格化された天皇像と家父長制の社会への回帰志向です。それは大規模な軍拡を進め、国旗損壊罪の創設などで愛国心を高め、スパイ防止法などの秘密保護法制の制定などを目指す高市早苗政権の方向性と重なります。収れんされる先は戦争ができる国への転換です。
 象徴的な出来事が、皇室典範改正案の国会審議中にありました。小林鷹之・自民党政調会長の「2600年以上の伝統」発言です。この発言の意味と、皇室典範改正の危うさについて、このブログでも触れました。わたしの考えは、以下の過去記事に記した通りです。
※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

 改正皇室典範の施行を東京発行の新聞各紙がどのように報じたか、10月24日付の6紙の朝刊を見てみました。読売新聞と産経新聞は1面トップ。朝日新聞、毎日新聞、東京新聞は1面準トップ。日経新聞は総合面です。

 改正案審議の過程では、この改正を支持するのは産経新聞だけでした。他紙は批判的、懐疑的でした。その各紙のスタンスに変わりはないように感じます。読売新聞は力が入っていて、1ページを充てた論点スペシャルで、識者3人が問題点、疑問点を指摘しています。社説の見出しも「現系統の維持が最優先課題だ/『女性宮家』へ再改正ためらうな」と、ストレートに再改正を主張しています。朝日、毎日両紙も社説で議論の継続、再開を求めています。朝日新聞は、国会審議の段階では、識者の見解などで「両論併記」のスタンスが目に付きましたが、24日付の朝刊で紹介した2人はいずれも疑問点を指摘する内容です。
 唯一、改正を支持する産経新聞は大きな扱いなのですが、読売や朝日のような識者の見解、解説は見当たりません。目立つのは、改正の意義を自社の論説委員長が一問一答の形式で説く1ページの特集記事です。「男系堅持」の発想とはどのようなものかがよく分かります。見開きで126代の天皇の系図を大きく掲載しています。

 以下に、6紙の主な記事の見出しを書きとめておきます。
 社説はリンク先で全文が読めます。

【10月24日付朝刊】
■朝日新聞
▽1面準トップ「改正皇室典範 施行」
▽2面
・時時刻刻「安定的継承『検討中』のまま」「養子受け入れ 4宮家受け止め様々」「女性・女系天皇の議論は進まず」
・「皇室制度 国会で決められるもの/三笠宮家・彬子さま」
・識者談話2人「長子優先へ 議論し再改正を」所功・京都産業大名誉教授/「『家』の維持が目的 時代錯誤」若尾典子。元佛教大教授
▽社説「改正典範施行 皇位継承、本格議論を」
 https://digital.asahi.com/articles/DA3S16573218.html 

■毎日新聞
▽1面準トップ「改正皇室典範 施行/宮内庁、養子把握明言せず」
▽2面・検証「宮内庁、中傷対策に腐心/ネット投稿削除要請『姿勢』見せる」「『自由意思』尊重が鍵」
▽社説「改正皇室典範が施行 安定継承へ議論の再開を」
 https://mainichi.jp/articles/20261024/ddm/005/070/115000c

■読売新聞
▽1面トップ「改正皇室典範 施行/男系養子、女性身分保持/『見直し』付則に 30年ごと」
▽2面「『安定継承』議論乏しく/政府・与党『女系天皇』を警戒」
▽3面・スキャナー「運用や儀式 課題」「養子縁組 進捗は非公表か」「女性皇族の夫 結婚時『昇殿』は」
▽9面・論点スペシャル「改正皇室典範が施行 課題は」
「男系男子維持 民意とズレ」日大教授・古川隆久氏/「『見直し』検討 国会の責務」民主改革の会衆院議院・笠浩史氏/「『継承ルール』一貫性欠く」お茶の水女子大客員研究員・鹿内浩胤氏
▽社説「皇室典範施行 現系統の維持が最優先課題だ/『女性宮家』へ再改正ためらうな」/一般人の子孫に継承権/有識者会議設置が急務/国民の信頼あってこそ
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20261023-GYT1T00450/

■日経新聞
▽5面(総合)「改正皇室典範きょう施行/旧宮家から養子・女性皇籍維持/皇族数確保 一定の道筋/安定的な継承、議論に溝」
※25日付 社説「皇位継承策の議論続ける場を」
 https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK2346A0T21C26A0000000/

■産経新聞
▽1面トップ「改正皇室典範 施行」/「男系継承堅持へ 旧11宮家/養子縁組過程は明かさず/自由意思を尊重」
▽4面・126代 天皇系図
▽5面・一問一答(榊原智・論説委員長)
「『皇統』守る改正典範 施行を歓迎/旧宮家は皇室の伴奏者」
▽社説(「主張」)「改正皇室典範施行 皇統支える養子縁組を/静謐な環境の日本でありたい」/改正の眼目を忘れまい/首相は実現に取り組め
 https://www.sankei.com/article/20261024-BEZ6SJ3S3NIRVJOV2XIL767DDY/

■東京新聞
▽1面準トップ「改正皇室典範 施行/女性 婚姻後も身分保持/男系男子の養子 可能に」

「日本から声を上げ続けて」16カ月間のロシア拘束、米WSJ記者の訴え

 北海道新聞記者がロシアで拘束されていることに関連して、16カ月間ロシアに拘束された経験がある米ウォールストリートジャーナル紙のエバン・ゲルシコビッチ記者が、日本経済新聞と北海道放送(HBC)の取材にそれぞれ答えているのを目にしました。
 日経新聞の記事は会員限定ですが、HBCの動画は同局のサイトで視聴できます。文字起こしのテキストもあります。わたしは日経新聞の記事は10月20日付朝刊の紙面で読みました。
▽日経新聞
「ロシアの日本人記者拘束、解放に『同盟国の協力重要』 経験した米記者/編集委員 田中孝幸」
2026年10月19日 11:00
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD172DC0X11C26A0000000/
※紙面の見出しは「記者解放『同盟国と協力を』/獄中生活 手紙が支えに/メディア 声上げ続けて/ロシア16カ月拘束のWSJ記者/囚人交換で解放」

▽北海道放送
「『狭い部屋に1日23時間』ロシアに拘束された経験のある米紙記者が語った過酷な勾留経験、北海道新聞記者への支援を訴える『日本から声を上げ続けて』」
2026年10月19日(月) 19:30
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/hbc/3022858?display=1

 日経新聞の記事によると、ゲルシコビッチ記者は「身柄交換が目的であることは早い段階から明白だった」として、逮捕後の取り調べでも、誰と会っていたかを問われることもなかったことを述べています。
 北海道新聞の記者の拘束でも、ロシア側は拘束する映像を公開しながら、スパイ容疑の内容については具体的なことは明らかにしません。ロシア当局は批判の矛先を記者や北海道新聞よりも日本政府に向けており、拘束には政治的な意図を感じます。
 ゲルシコビッチ記者の経験で重要だと感じるのは、拘束された記者に孤独を感じさせないための支援の取り組みです。
 以下、北海道放送の記事から書きとめておきます。

 長い拘置所生活で、ガーシュコビッチさんを支えたのは、友人がロシア語に翻訳して届けてくれた手紙でした。
ガーシュコビッチ記者
「手紙は受け取ることができたので、自分はひとりではないと感じられた」
自分の解放に向けて動いている人たちがいる。手紙で知ったその事実が希望になったといいます。そして、自分を支えるためこんなことを心がけました。
ガーシュコビッチ記者
「ユーモアの感覚を失わないことも大切です。彼の家族や同僚たちもユーモアの感覚を忘れずにいてほしい。暗い状況の中でも、ときには笑う必要があります」
 (中略)
 ガーシュコビッチさんは、記者の釈放を願い、こう呼びかけました。
ガーシュコビッチ記者
「彼の事件について声を上げてほしい。私の家族や新聞社は政府に行動を求め続けました。記者の逮捕に抗議するため日本政府への働きかけも大切です。彼を支えるため孤独を感じさせないよう気を強く持ってほしい」
「できる限りの支援と思いが、記者を支える」と訴えました。

【写真出典・北海道放送HP】

 日経新聞の記事によると、拘束中の支援についてガーシュコビッチ記者は、友人たちが誰でも手紙を書けるウェブサイトを作り、集まった支援の手紙を、検閲を通すためにロシア語に訳して届けてくれたことを話しています。また、メディアが自分の事件を取り上げ続けて、世界に支援があると分かることも大きかったとしています。

 拘束の身であっても「独りではない」と感じることができる支援が何より必要なのだと思います。それは第一義的には、所属先を問わず、ジャーナリズムの仕事の同僚である記者、編集者らの役割だと思います。その意味で、北海道新聞記者の拘束に対して日本社会で真っ先に声を上げ、声明を発表したのが新聞労連と北海道新聞労組だったことには意義があります。
 また、解放への動きを促す意味でも、マスメディアが報道を続けることが重要です。

 

政治的な意図による記者の弾圧、迫害は許されない~ロシアによる北海道新聞記者の不当拘束の記録

 一つ前の記事の続きです。
 北海道新聞の記者が、ロシア・サハリン州のユジノサハリンスク支局での任期を終えて帰国する前夜、ロシア連邦保安局(FSB)にスパイ容疑で身柄を拘束された事件について、ロシア当局への抗議の意思を表明し、拘束された記者の解放を求めます。厳しい環境の中で関連の取材を続ける日本メディアの記者の皆さんに敬意を表します。このブログでは、この事件をめぐる動きを書きとめておきます。

▽「スパイ」の根拠を示していない
 記者の拘束について、ロシア政府は何度か公式にコメントしています。駐日ロシア大使館が日本語訳をSNS(フェイスブック)で発信しています。
※The Embassy of the Russian Federation in Japan
 https://www.facebook.com/profile.php?id=100066546578635

www.facebook.com

 10月18日午前9時半の時点で投稿は以下の3件でした。

https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=pfbid022hvaw3V6UZcCHUCsFrmbJapLwtiSUKMRv5p4sFfMWizbstGznKjLhzFhGFqgkvKDl&id=100066546578635

ロシア外務省ザハロワ報道官、日本人記者の拘束についてコメント(2026年10月13日)
💬 本日、サハリン州において、ロシア外務省に記者登録している北海道新聞今井裕紀記者がわが国領内で諜報活動を行ったとしてロシア連邦保安局により拘束された。👉 同記者には、ロシア連邦刑法第276条が規定する犯罪、すなわちスパイ行為の容疑がかけられている。
日本当局が我が国の安全保障を損なう目的の情報収集をするために、外国人記者の地位を有するロシア駐在の特派員を利用しようとしていることは、まことに遺憾である。本日の出来事はこれ一回に留まるものではないことを、指摘せざるを得ない
特別軍事作戦の開始後に日本政府がとった反ロシア政策による二国間協力の全体的な悪化と、極東におけるわが国の安全保障上の正当な利益に影響及ぼす日本の再軍事化路線へのロシア側の懸念に耳を傾けようとしない日本当局の姿勢をふまえて、今回の出来事はロシアと日本の関係に新たな影を落とす要因となると指摘せざるを得ない。
❗️ 日本政府に対しては、ロシアに対する敵対的な措置を放棄し、自らの方針を見直して変更することを、改めて要請する。

https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=pfbid0xpJA4LCiU59AKf6cxn68HHvBuzXuuWD747SE5PLvSTzBMBffjMxMHsRb6SrJp4t5l&id=100066546578635

ロシア連邦保安庁:
⚡️ロシア連邦保安庁は、サハリン州において、ロシア外務省の認可を受けた日本の新聞社『北海道新聞』のユジノサハリンスク支局特派員として勤務する日本国民の違法活動を阻止しました。当該人物は日本の諜報機関のためにスパイ活動を行った疑いが持たれています。
捜査活動により、当該外国人はロシアの防衛力に関する情報を収集・保管していたことが判明しました。諜報機関はロシア連邦の安全保障を脅かす上で使用するため、そうした情報を伝達するよう指示していたのです。
当該外国人は出国直前にサハリン州で拘束され、その後モスクワへ移送されました。
❗️ロシア連邦保安庁の捜査局は、ロシア連邦刑法第276条(スパイ行為)に基づき、日本人1名に対する刑事事件を立件しました。モスクワのレフォルトヴォ地区裁判所の決定により、当該外国人は身柄を拘束されています。
現在、さらなる調査および捜査活動が進行中です。

https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=pfbid02nA4Hy3PVNYxEt5iyqyRh848np2rqFdQShz2jtGqv3nFpZaiuzstPwZqDjBEC9irrl&id=100066546578635

駐日ロシア大使館のコメント
🗣10月14日、N.S.ノズドリェフ駐日ロシア大使は、日本外務省で行われた中村仁威外務省欧州局長との会談において、ユジノサハリンスク市でロシア法執行機関により北海道新聞の日本人記者が拘束された件、および中国黒竜江省の行政・経済界の代表がイトゥループ(択捉)島を訪問した件に関する日本側の申し入れを、断固として退けた。
❗️ ノズドリェフ大使は、日本の情報機関がわが国の安全保障と防衛力を損なう目的で機密情報を収集するために、ロシアで記者登録を受けているジャーナリストを含む民間人を『協力』に引き込んでいる状況は受け入れがたいものであると、中村欧州局長に指摘した。また、ロシアの管轄機関がこのような試みをこれまでにも繰り返し阻止してきたことも強調した。当該日本人が現行犯で拘束される様子を映した公開済みの捜査映像にも中村局長の注意を促して、この件に関する捜査上の措置はロシアの法令に則って行われることを強く主張した。
☝️中国代表団によるサハリン州訪問については、中国当局との包括的パートナーシップと戦略的協力の枠組みにおいて、地域間交流等の実務的協力は(ロシア極東地域の社会・経済的発展プログラムを背景とするものを含め)今後も漸進的に拡大していくことを、ノズドリェフ大使は指摘した。

 一連のコメントでは、北海道新聞記者が日本の諜報機関のためにスパイ活動を行い、収集したロシアの防衛力に関する情報を諜報機関に伝達するよう指示を受けていたと主張しています。しかし、具体的な根拠は示していません。
 一般的に、記者の取材活動がその国の秘密保護法制に抵触することはあり得ます。しかし、そうした取材活動が、自国の情報機関の指示に基づくかどうかは、まったく別の問題です。このブログの一つ前の記事でも触れたように、少なくとも日本では新聞記者が何らかの国家機関の指示を受けて情報収集に動くといったことはありえません。報道は独立の立場で行っていることであり、記者は独立の立場で取材しています。論調として「国益」を強調する新聞があるとしても、政府からは独立した存在です。また、記者にとって国家機関は取材対象でもあり、その要員と接触することはありますが、そのことがただちに「指示」を意味するわけでもありません。「取材、報道の独立」は「公正中立」「政治的中立」などと表現されることも少なくないのですが、日本の新聞界で共有されている報道の倫理の基本中の基本です。

▽真っ先に新聞労連が声明
 ロシア側のコメントを踏まえるなら、今回の事件の核心の一つは記者の行動が「取材」なのか「スパイ行為」なのかです。この点に関して北海道新聞社は16日早朝、ホームページ上に編集局長が見解を公表して、「政府の指示」を明確に否定しました。

■北海道新聞社編集局長の見解
「ロシアから記者が伝える意義 編集局長・山本武史」
 2026年10月16日 4:00更新
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1390356/

www.hokkaido-np.co.jp

 北海道新聞は、政府から独立した報道機関です。政府の指示に基づいて取材や情報収集を行うことはありません。
 記者はロシアの記者査証(ビザ)を取得して活動しており、報道の自由と取材活動は尊重されるべきです。具体的な拘束理由などが説明されないまま、記者を拘束した際の映像が広く公開されたことも、認めることはできません。
 私たちは今、記者の安全確保を最優先に考え、対応しています。外交ルートを通じて事実関係の確認と情報収集を急いでおり、早期の解放に向けて、万全を期して取り組んでいきます。

※写真出典・北海道新聞ホームページ

 また17日付で社説も掲載しました。

■北海道新聞・社説「本紙記者拘束 速やかな解放を求める」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1391180/

www.hokkaido-np.co.jp

 ロシア連邦保安局(FSB)が極東サハリン州ユジノサハリンスクで取材を続けていた北海道新聞の男性記者を、スパイ容疑で逮捕した。
 ロシア国営タス通信によるとFSBは記者が日本の情報機関の指示でクリール諸島(北方領土と千島列島)からウクライナ侵攻に動員された兵士や志願兵の人数に関する情報を収集・保管していたと主張している。
 これに対し高市早苗首相は日本がロシアでスパイ活動を行っているとの主張に関し「そのような事実はない」と否定した。
 北海道新聞は16日、編集局長名で「政府から独立した報道機関」であると明確にしている。あくまでも自らの判断による主体的な活動だ。情報機関からの指示に基づく取材はあり得ない。
 記者は正式な報道ビザで取材をしていた。詳細な理由が説明されないまま拘束した映像を拡散したことは容認できない。
 記者の安全と健康を確保し、直ちに解放することをロシアに強く求める。

 ロシア当局のコメントからは、ロシア政府が記者を拘束した真の狙いが、もっぱら日本政府への揺さぶりであることが推測できます。北海道新聞記者の拘束は、政治的な意図を持ったジャーナリズムの弾圧、ジャーナリストへの迫害だと受け止めています。
ロシアという国の国情の違いと言ってしまえばそれまでですが、本来、ジャーナリズムに国境はありません。ジャーナリストは国境を超えて、「今、何が起きているか」を取材し、伝えます。その活動は国境を超えて保護されるべきです。

 北海道新聞記者の拘束に対し、日本でいち早く声明を発表し、記者の釈放を求めたのは新聞労連(日本新聞労働組合連合)と北海道新聞労組でした。このブログの一つ前の記事でも触れた通りです。

■新聞労連・北海道新聞労組
10月14日 【声明】ロシアで拘束された日本人記者の早期釈放求める
https://shimbunroren.or.jp/statement-20261014/

shimbunroren.or.jp

 日本以外では、労働組合は企業別ではなく、職能別に産業横断的に組織されています。記者であれば個人加盟のジャーナリストユニオンがあり、ユニオンのメンバーシップがジャーナリストであることを担保することにもなります。そうしたジャーナリストユニオンがない日本で、その機能を代替しうるのが新聞労連です。記者への弾圧、迫害に対して、真っ先に新聞労連が声を上げたことには大きな意義があります。

news-worker.hatenablog.com

 10月15日には新聞労連や民放労連、出版労連などメディア産業関連などの産業別労組でつくる日本マスコミ文化情報労組会議(略称・MIC)も声明を公表しました。

■日本マスコミ文化情報労組会議
10月16日 【声明】ロシアで拘束された日本人記者の早期釈放に日本政府は全力を
https://www.union-net.or.jp/mic/seimei/2026_10_15-MIC%E5%A3%B0%E6%98%8E%E3%80%8C%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2%E6%8B%98%E6%9D%9F%E8%A8%98%E8%80%85%E6%97%A9%E6%9C%9F%E9%87%88%E6%94%BE%E3%82%92%E3%80%8D.pdf

 10月16日には日本ペンクラブも、北海道新聞記者の釈放を求める緊急声明を公表しています。

■日本ペンクラブ
10月16日【緊急声明】「日本人記者の釈放を求める」
https://japanpen.or.jp/post-5202/

japanpen.or.jp

 一方、新聞産業の業界団体である日本新聞協会は、16日に年に1度の新聞大会を松江市で開催しました。全国の新聞社の経営者が一堂に会する機会です。北海道新聞記者の拘束に対し、ロシアに抗議し釈放を求めることを明記した特別決議でも出すのかと思ったら違いました。大会冒頭の協会会長(朝日新聞社会長)のあいさつの中で触れただけでした。

■日本新聞協会
10月16日 「中村会長、北海道新聞の記者拘束受け『強い懸念と憤り』を表明 第79回新聞大会を松江で開催」
https://www.pressnet.or.jp/news/headline/261016_16355.html
中村会長あいさつ全文
https://www.pressnet.or.jp/about/shimbun_shukan/message/index.html

 前述のように、ロシア政府の視線は日本政府に向けられています。いわば日ロの外交戦の一環として記者が弾圧され、迫害されています。拘束の模様を撮影し、手錠姿の記者の姿を公表するという人権侵害も伴っています。モスクワでは他の新聞社、通信社、放送局の記者たちも取材を続けています。今回の事件は北海道新聞社だけの問題ではありません。

▽新聞各紙の社説・論説
 日本の新聞各紙も15日付以降、相次いで社説、論説で取り上げています。
 全国紙は毎日新聞、読売新聞、日経新聞、産経新聞がそろって15日付で掲載しました。朝日新聞は16日付です。ブロック紙・地方紙も16日以降、掲載が相次いでいます。
 「懸念」「憂慮」などの表現にとどまる社説、論説がある一方で、中日新聞・東京新聞はプーチン政権に対し「強く非難」と記述しているのが目を引きます。

■中日新聞・東京新聞「日本人記者拘束 ロシアに解放を求める」
 https://www.chunichi.co.jp/article/1325810

 ロシア連邦保安局(FSB)が極東サハリン州で、北海道新聞ユジノサハリンスク支局の日本人記者をスパイ容疑で拘束。旧ソ連時代から秘密警察が政治犯らを取り調べているモスクワのレフォルトボ拘置所に移送した。
 日本の報道機関による正当な取材活動を威圧する不当な拘束だ。プーチン政権を強く非難し、記者の即時解放を求める。
日本政府はロシア政府に対し、拘束に関する情報提供や本人への人道的配慮を求め、一方的な情報発信などについても抗議したが、それだけでは不十分だ。
 ロシアは根拠のない日本の情報機関の指示によるスパイ容疑で立件しており、日本政府は明確に非難し、記者の即時解放と安全な帰国を正式に要求すべきである。

 産経新聞の社説の冒頭は、記者を拘束する模様を撮影したロシア側の映像の描写です。社説、論説としては異例のスタイルですが、「スパイ」の根拠を示さないまま、「犯罪者」の印象だけを強めようとするロシア側の意図を「用意された完全な見せしめである」と端的に指摘しています。結びは「こうした事態に対抗するためにも、スパイ防止法の制定を急ぐべきである」。産経新聞らしい論点です。

■産経新聞「道新記者拘束 ロシアは直ちに解放せよ」
 https://www.sankei.com/article/20261015-F4EU4ZRKMJN27IOXWTZLVFUHMI/

 ホテルの廊下を進む全身黒装束の屈強な男たちが、部屋のドアを開ける。一気に突入した男らは居室の男性を床にうつぶせに寝かせ、一人が馬乗りに、一人は頭部を押さえ込んで制圧した。
 部屋にあった日本のパスポートが大写しにされる。取り調べ中も車での移送時も、男性は手錠をはめられたままだ。
 ロシア連邦保安局(FSB)が提供し、国営放送が流した。サハリン(樺太)で北海道新聞ユジノサハリンスク支局の男性記者がスパイ容疑で拘束された際の映像である。これは用意された完全な見せしめである。
(中略)
 「反スパイ法」の乱用で日本人の摘発を繰り返す中国と同様に、専制国家は見せしめや囚人交換の手駒のため恣意(しい)的な法の運用をためらわない。
 日本政府はロシア側に情報提供や人道的配慮、公正公平な取り扱いを申し入れた。強い姿勢を堅持し、記者の即時解放を求めてほしい。
 こうした事態に対抗するためにも、スパイ防止法の制定を急ぐべきである。

 以下に、ほかの各紙の社説、論説の見出しと、冒頭部を書きとめておきます。ネット上の各紙のサイトで全文を読むことができたものです。

【15日付】
■読売新聞「日本人記者拘束 露のメディア威圧を懸念する」
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20261014-GYT1T00368/

 ロシアで取材を続けていた日本人記者が、スパイ容疑で逮捕された。異例の事態である。
 事実関係の詳細は不明だが、ロシアによるメディア統制が日本人にも及んだことに、深刻な懸念を禁じ得ない。ロシアが記者の安全を確保し、速やかに情報を開示するよう強く求める。

■毎日新聞「露が日本人記者を拘束 一日も早い解放を求める」
 https://mainichi.jp/articles/20261015/ddm/005/070/098000c

 正当な取材にもかかわらず言いがかりをつけ、報道関係者を拘束することは許されない。即時の身柄解放を求める。

■日経新聞「ロシアの記者拘束を憂慮する」
 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD140IB0U6A011C2000000/

 ロシア連邦保安局(FSB)は極東サハリン州で北海道新聞ユジノサハリンスク支局の日本人記者をスパイ容疑で拘束した。記者はモスクワに移送され、裁判所は約2カ月の勾留を認めた。
 通常の取材活動をスパイ罪に問うのだとすれば、とても受け入れられない。憂慮すべき事態であり、ロシア当局は邦人記者を直ちに解放すべきだ。

【16日付】
■朝日新聞「ロシアの記者拘束 報道への抑圧は許せぬ」
 https://digital.asahi.com/articles/DA3S16567535.html

 取材活動を犯罪視し、見せしめのように拘束した。断じて受け入れられない。日本人記者の解放と情報の開示をロシア当局に求める。

■新潟日報「邦人記者拘束 ロシアは速やかに解放を」
 https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/925245

 政治利用のための拘束ではないか。「非友好国」に圧力をかける狙いがあるならば、決して許されない。ロシアは一刻も早く解放しなければならない。

■信濃毎日新聞「道新記者の拘束 ロシアは説明し解放せよ」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/gf01db8adkdk0fh4r7aq2cs0

記者査証(ビザ)を受けた取材活動に対する妨害である。

■京都新聞「日本人記者逮捕 ロシアは即時解放せよ」
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1809050

 ロシアでの取材活動に対する一方的な弾圧であり、容認できない。拘束した記者の安全確保と即時解放を求める。

■山陽新聞「ロの邦人記者拘束 直ちに身柄を解放せよ」
 https://www.sanyonews.jp/article/2005752

 通常の取材活動をしているにもかかわらず、一方的にスパイ容疑をかけ、記者を拘束する行為は断じて許されない。ロシア当局は記者を人道的に扱って安全を確保し、一刻も早く解放すべきだ。

■中国新聞「北海道新聞記者の拘束 ロシアは一刻も早く解放を」
 https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/910631

 ドラマのような逮捕劇を周到に撮影し、見せしめのように公開する。単なる事件ではなく、政治的な意図があるのではないか。そんな疑念を強く抱かせる。ロシアの治安当局、連邦保安局(FSB)によるスパイ容疑での北海道新聞の記者拘束である。

■高知新聞「【邦人記者拘束】ロシアは直ちに解放を」
 https://www.kochinews.co.jp/article/detail/1054620

 ロシア連邦保安局(FSB)が、極東サハリン州で北海道新聞の日本人記者をスパイ容疑で拘束した。
 取材活動を罪に問い、報道の自由を侵す行為は容認できない。ロシアには納得のいく説明とともに、一刻も早く記者を無事に解放することを求める。

■沖縄タイムス「邦人記者拘束 ロシアは『即時解放』を」

 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1946928

 関係地域で起きていることを取材し、伝えるのは報道機関の役割だ。それをスパイ活動とは言いがかりとしか思えない。記者の即時解放を求める。

 

新聞労連が声明「ロシアで拘束された日本人記者の早期釈放求める」~記者は「独立」の立場で取材

 ロシア連邦保安局(FSB)が13日、サハリン(樺太)のユジノサハリンスクで北海道新聞の男性記者をスパイ容疑で拘束し、逮捕したと発表したことが報じられています。ロシア国営タス通信は、モスクワの裁判所が2カ月間の勾留を認めたと伝えているとのことです。
■北海道新聞「ロシア、本紙記者拘束 政府、大使に情報提供求める」
2026年10月14日 23:54(10月15日 0:18更新)

www.hokkaido-np.co.jp

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1389549/

 記者は、記者査証(ビザ)を受けて、極東サハリン州などロシア国内で取材活動をしていた。タスによると、記者は13日に出国予定だったが、同州の州都ユジノサハリンスク市内のホテルで拘束され、モスクワに移送された。
 タスによると、FSBは記者が日本の情報機関の指示でクリール諸島(北方領土と千島列島)からウクライナへの特別軍事作戦に動員された兵士や志願兵の人数に関する情報を収集・保管していたと主張。日本の情報機関に伝えようとしていたとしている。

 一般に、日本では新聞記者が何らかの国家機関の指示を受けて情報収集に動くといったことはありえません。報道は独立の立場で行っていることです。記者は独立の立場で取材しています。日本の新聞界で共有されている報道の倫理の基本中の基本です。
 FSBは記者を拘束し、モスクワへ連行する模様を撮影しており、ロシアメディアを通じて公開しています。このこと自体に政治的なプロパガンダの色彩を強く感じます。ロシア外務省は「日本が自国特派員を動員し、ロシアの安全保障を損ねる目的で情報収集のために利用しようとする試みは遺憾だ」とのコメントを発表しています。ロシア政府の視線は日本政府に向いており、政治的な目的のために報道の自由を侵害するに等しい意味合いがあります。容認できません。
 日本の新聞社の労働組合の連合体である新聞労連(日本新聞労働組合)は北海道新聞労組と連名で、記者の早期解放を求める声明を公表しました。声明を支持します。全文を転記します。

【声明】ロシアで拘束された日本人記者の早期釈放求める
 ロシア連邦保安局(FSB)は10月13日、極東サハリン州で北海道新聞記者をスパイ容疑で拘束したと発表しました。ロシアメディアの報道によると、記者はモスクワに移送され、裁判所が2カ月間の勾留を決めました。拘束された記者の安全と健康が確保され、一日も早く釈放されることを強く求めます。
 記者は記者査証(ビザ)を受けてロシア国内で取材活動をしていました。しかしロシアメディアによると、出国予定だった13日にユジノサハリンスク市内で拘束されました。FSBは「(記者が)ウクライナでの特別軍事作戦にクリール諸島(北方領土と千島列島)から参加した動員兵や契約兵の情報を集めていた」と主張しています。
 報道の自由は民主主義の根幹であり、最大限に尊重されなければなりません。いかなる国・地域であっても、記者の取材活動と安全は必ず保障されるべきです。
 今後、記者の拘束が長期化することは絶対にあってはいけません。日本政府に対して、記者の安全確保を最優先に、記者ができる限り早期に自由の身になるよう全力を挙げることを求めます。

2026年10月14日
日本新聞労働組合連合(新聞労連) 中央執行委員長 内藤景太
北海道新聞労働組合 中央執行委員長 花城潤

shimbunroren.or.jp

https://shimbunroren.or.jp/statement-20261014/

「印象操作では」との疑念、批判に何も答えていない内閣広報官

 一つ前の記事の続きです。私人ならともかく、公権力の側としては異様な発信を目にしました。記録の意味も兼ねて書きとめておきます。

 このブログの前記事では、内閣広報室の2027年度予算の要求が26年度の10倍にもなっていること、内閣府の政府広報経費の予算要求も大幅増になっていることに対して、高市早苗政権の現状の広報姿勢では政権の一方的なプロパガンダが強まる恐れがあることを指摘しました。特に、SNSのXで内閣広報官が発信しているアカウントには、現状でも情報を加工した投稿が目に付くことにも触れました。 

news-worker.hatenablog.com

 内閣広報官のアカウントでは、日米首脳会談の写真として、高市首相、トランプ米大統領のそれぞれの写真2枚を向かい合うように掛け合わせたものが投稿されました。そのことに対して、以下のように書きました。

 高市首相とトランプ大統領が笑顔で向き合っている構図。日米首脳会談の一コマだと受け取ってしまうかもしれません。笑顔で向き合うシーンが本当にあったのなら、2人を1枚に収めた写真を使えばいいのに、なぜ2枚掛け合わせなのか。
 (中略)実際に笑顔で視線を合わせたシーンが皆無だったかは、断定は控えたいと思います。それでも、2人を収めた1枚の写真ではなく、わざわざ2枚の写真を掛け合わせて一つの情景のように受け取らせる手法を意図的に取ったのだとすれば、広報の体裁であっても、2人の親密ぶりを強調するための政治的な宣伝、プロパガンダです。実際には、高市首相が「ドナルド」と呼びかけているのにトランプ大統領は一度もファーストネームでは呼んでいないことが指摘されています。2人の「非対称」が際立っています。

【写真】内閣広報官の9月26日の投稿 

 同じように感じた方は少なくないようで、ネット上の出版社系のニュースメディア(「女性自身」)が記事にしました。

■「すごい印象操作」高市首相 内閣広報官のトランプ大統領との“合成2ショット”が物議…広報予算が激増で消えない広報への疑念
=記事投稿日:2026/09/29 11:00 最終更新日:2026/09/30 14:14
 https://jisin.jp/domestic/2602154/

jisin.jp

 この記事に対して、当の内閣広報官がXアカウントでコメントしています。私人ならともかく、政府の広報担当者、公権力の側としては異様な発信です。

「すごい印象操作」って、この写真のことかと一瞬思ってしまいました
https://jisin.jp/domestic/2602154/
当アカウントでの電話会談投稿の写真は、直近のお二人の笑顔の写真をそれぞれ使っただけです
どう感じるか、見たい世界は人それぞれですが、首相官邸Xでは日米首脳会談冒頭部分をノーカット公開(続く)

していますので、どなたでも一次情報で検証可能です
なお、総理の日々の動きに関する編集動画や写真は、職員自身により撮影・作成しており、外部委託は行っておらず、制作のために予算は使われていませんのでお伝えします

 

https://x.com/PressSec_JP/status/2105217485687709738
https://x.com/PressSec_JP/status/2105217487285755968

 まず、個別の報道に対してコメントする点が異様です。事実関係に誤りがあることを指摘しているわけではなく、報道の内容が不満のようです。自身の発信が批判を受けていることへの不満でしょうか。加えて言えば、「女性自身」の記事の併用写真にも不満があるように受け取りました。
 個々の報道に対して、事実関係ではなく感情的な不満を発信していることは、私人の投稿ならともかく、内閣広報官の立場では異様としか言いようがありません。

 次に「直近のお二人の笑顔の写真をそれぞれ使っただけです」との説明についてです。
 2枚に分かれていても、写っているのは一定の空間の一定の時間内に同席していた2人の人物であること自体は間違いないと思います。その点への疑念はネット上にも見当たりません。批判や疑念を招いているのは、その2枚の写真の使い方です。笑顔の2人が向かい合っている構図。その点を「印象操作」だと感じ取っている人が少なくないということです。2人が一緒に収まった構図の写真もあるはずなのに、なぜわざわざ2枚を並べる手法を取ったのか。その説明はこの投稿にはありません。何ら批判や疑念に答えていません。

 もっとも疑問に感じるのは「どう感じるか、見たい世界は人それぞれですが」の一文です。投稿の趣旨や意図を後刻、釈明しなければならない(しかも釈明になっていないのですが)時点で、広報としては機能していないのですが、そのことをさて置いて、「受け取り方の問題だ」と言っているのに等しい。繰り返しますが、私人ではなく内閣の広報官です。政権の広報担当者です。職務の責任は政権を支持する人たちだけではなく、社会全体に対して負っているはずなのに、受け取り側の問題だと言ってしまうのは開き直りです。このままではいずれ、政権に批判的な人たちを敵視することにならないか。危惧があります。

 「一次情報で検証可能」との主張も疑問です。「ノーカット公開」と主張している首相官邸Xの日米首脳会談冒頭部分の動画は、全景を撮影しているものではありません。高市首相とトランプ大統領の表情をすべてはとらえていません。検証の素材としては不十分です。会談自体は非公開です。

 結局のところ、高市首相とトランプ大統領の2人の首脳の関係は、本当に固い信頼で結ばれているのかどうかは、動画や写真では分からないと言うべきです。もしかしたら、信頼があるのかもしれないし、そうでないのかもしれない。そうであるのに、わざわざ笑顔の2人の写真を2枚、向かい合わせに並べることの意図は何なのか。当の内閣広報官はその意図を説明しようとしない、その姿勢だけは明らかになりました。政権の側によるそういうSNSの使い方に、まさに都合のいい情報だけを一方的に発信するという意味でのプロパガンダではないのか、との疑問を深めています。

疑問、異論を受け付けないのなら「広報」ではなく「宣伝」「プロパガンダ」~軍拡と同時に「国策宣伝」強化が進む危うさ

 2027年度予算の概算要求で、内閣広報室が前年26年度の10倍に当たる72億円を計上しました。近年は4~7億円で推移しています。木原稔官房長官は記者会見で「動画やAI(人工知能)の活用など情報収集の方法は変化している」「従来のやり方で幅広い世代の方々に十分な情報を届けることは困難だ」と、改革の必要性を訴えたと報じられています。

※共同通信「内閣広報、情報発信に予算10倍 『政権宣伝へ税金投入』と批判も」=2026年9月20日
 https://news.jp/i/1474303972632134241?c=39550187727945729 

news.jp

 内閣広報室だけでなく、内閣府の政府広報経費の増額要求も報じられています。26年度当初予算の約79億円から約280億円への増額です。
 「幅広い世代の方々に十分な情報を届ける」ということ自体には、異論は多くはないと思います。しかし、その具体的な内容と方法はよく見ておくべきです。高市政権では、高市首相自身が自分のXアカウントでしばしば長文を投稿しています。コメントに返信はありません。一方通行です。その一方で、記者会見は頻度自体が石破前首相や岸田元首相と比べても大幅に少ない上に、記者からの質問も制限が目に付きます。「全社で1問だけ」ということもありました。
 内閣広報官もXのアカウントを運用しています。しばしば、疑問を感じます。最近の例を一つだけ挙げると、9月20日の以下の投稿です。

 「再び、先日の内閣改造の際の写真です」として写真4枚をアップロードしています。いずれもモノクロなのですが、1枚だけ、首相官邸の赤じゅうたんの赤色だけをカラーにしています。写真の改変です。実際に目にすることがない情景であり、ジャーナリズムであればそのまま使うことは許されません。新聞でもコラージュを掲載したりすることはありますが、そのことを明記するのがルールです。

【写真出典】内閣広報官のXアカウント

https://x.com/PressSec_JP/status/2101632978007085419

内閣広報官(色々投稿試し中) on X: "再び、先日の内閣改造の際の写真です" / X

 政府が写真を改変してそれをそのまま発信することが既に行われている。しかも内閣広報官のこのアカウントはコメントを受け付けていません。「この写真はおかしいのではないのか」などの異論は受け付けないということです。政権の主張を一方的に発するだけなら、広報と言うよりも「宣伝」「プロパガンダ」との呼び方が適切だろうと思います。

 この現状で「広報」の名目の予算が大幅に増えれば何が起こるのか。まさにマスメディアのジャーナリズムが監視しなければならない対象です。

 日本の敗戦から80年だった昨年、東京・九段の「昭和館」で特別企画展「社会を映す、動かす-ポスターにあらわれる国策宣伝の姿-」が開催されました。かつて、国策宣伝は戦争と直結していました。新聞もその一角を担っていたことがあらためてよく分かる展示でした。歴史の教訓です。
※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

 軍拡を押し進め、「継戦能力」の強化、スパイ防止法の整備、その先の憲法改正などに躍起の高市政権が目指すのは、戦争遂行が可能な社会体制づくりと考えざるを得ません。広報予算の大幅な増額も「国策宣伝」の強化ととらえれば、高市首相にとっては絶対に欠かすことができないことです。
 歴史の教訓は、戦争遂行が可能な社会はいずれ自由な報道を抑圧する、自由な報道とは両立しない、ということです。

【追記】2026年9月30日7時45分
 記録の意味で書きとめておきます。
 内閣広報官のXアカウントを巡ってもう一つ、疑問に感じる投稿があります。ネット上でも疑問、批判を目にします。
 9月26日夜の投稿。「トランプ大統領との日米首脳電話会談が先ほど始まりました。(写真は今週ニューヨークでの首脳会談時のもの)」との文面と、2枚の写真を掛け合わせた写真を投稿しています。

 https://x.com/PressSec_JP/status/2103817473514738166

 高市首相とトランプ大統領が笑顔で向き合っている構図。日米首脳会談の一コマだと受け取ってしまうかもしれません。笑顔で向き合うシーンが本当にあったのなら、2人を1枚に収めた写真を使えばいいのに、なぜ2枚掛け合わせなのか。
 ネット上では、首脳会談の冒頭の動画を見た人たちから、2人が笑顔で向き合うシーンはなかった、高市首相が笑顔で視線を向けても、トランプ大統領は視線を合わせていない、などの内容の指摘が挙がっています。
 わたしも動画を見てみました。実際に笑顔で視線を合わせたシーンが皆無だったかは、断定は控えたいと思います。それでも、2人を収めた1枚の写真ではなく、わざわざ2枚の写真を掛け合わせて一つの情景のように受け取らせる手法を意図的に取ったのだとすれば、広報の体裁であっても、2人の親密ぶりを強調するための政治的な宣伝、プロパガンダです。実際には、高市首相が「ドナルド」と呼びかけているのにトランプ大統領は一度もファーストネームでは呼んでいないことが指摘されています。2人の「非対称」が際立っています。
 内閣広報官の別の投稿を見ると、切り貼り写真のトランプ大統領の表情と酷似した表情のシーンがあります。連続したシーンのようにも思えます。その投稿では、笑顔の先は高市首相ではなく茂木外相です。