9月13日の沖縄県知事選の結果を、日本本土の新聞各紙がどのように報じたか。ネット上の各紙のサイト(デジタル版)で読むことができた社説、論説を記録しておきます。
13日は日本本土の各紙は休刊日のため、14日付の新聞紙面の発行はありませんでした。社説、論説は紙面掲載を前提にしていますので、選挙から2日後の15日付朝刊用、デジタル版では14日夜から15日朝の更新でした。
全国紙5紙の見出しは以下の通りです。
■朝日新聞「沖縄県知事選 苦渋の民意が示す重み」
■毎日新聞「沖縄に自民系知事 複雑な民意向き合わねば」
■読売新聞「沖縄県知事選 『基地反対ありき』からの転換」
■日経新聞「沖縄の期待は負担の軽減だ」
■産経新聞「沖縄知事に古謝氏 命と生活守る県政推進を」
沖縄への基地の過剰な集中と、米軍普天間飛行場の返還、辺野古への新基地建設の問題は選挙戦で直接の争点にはなかったとはいえ、やはり各紙とも中心的な論点としています。
朝日新聞と毎日新聞は見出しの通りで、基地の過剰な負担を沖縄の民意が是としているわけではないことに力点があるように感じました。
一方で読売新聞、産経新聞は辺野古新基地建設の推進を求める論調が顕著です。読売新聞の社説には「辺野古移設は米軍の抑止力を維持する上で、現実的な唯一の選択肢である」と、日本政府を代弁するような表現があります。
産経新聞の本文には「沖縄は防衛の最前線になった」との、かなり強い表現があります。住民の生命を守るためとして、有事の際の南西諸島住民の九州への避難、沖縄本島での地下シェルター整備が必要と強調しています。アジア太平洋戦争末期には、沖縄からの疎開船が米潜水艦の魚雷攻撃で撃沈され1484人が犠牲になった「対馬丸事件」がありました。そうした歴史の教訓が頭に浮かびます。抑止力で平和を守るとの発想は、現実は有事に備えるということになり、その先は「戦争も辞さない」との発想まで一直線に進みかねないと感じます。
日経新聞も辺野古新基地建設を推進の立場と読めますが、同時に沖縄の負担軽減を重視しています。読売や産経とは違った姿勢を感じました。
ブロック紙、地方紙の社説、論説では、「国と地方」「政府と自治体」の問題意識を感じる内容のものが目立ちます。地方では新聞もそれぞれに当事性であり、その点が全国紙と大きく異なる点です。特に辺野古の新基地建設を巡っては、国と自治体は対等なはずなのに、司法の場も含めて、自治体の異議は封じ込められた経緯があります。知事選に勝利した古謝氏に対して、政府に毅然と向き合うよう求める内容の社説、論説もいくつか目につきました。「国と自治体は本来対等」との問題意識を沖縄の地元紙と共有しているとも感じます。
辺野古の新基地建設の推移を振り返れば、日本国と沖縄県の関係は非対称です。この「非対称」は、沖縄の基地の過剰負担をめぐる日本本土と沖縄の関係の本質だと考えています。「非対称」は民意にもあります。沖縄に過剰な基地負担を強いているのは、直接的には日本政府ですが、その政府、政権は民主主義の手続きを経て成り立っています。だから日本政府の行為は、原理的には日本国の主権者の総意に基づくことになります。個々の主権者が政府、政権を支持するか否かとは別の問題です。日本本土に住む主権者は、沖縄に過剰な基地負担を強いている加害行為に対して、当事者性を免れ得ません。そこに「民意の非対称」があります。
選挙期間中にとりわけ現職の玉城デニー知事に、SNSで本土からすさまじい勢いでデマや誹謗中傷が向けられたことは、日本本土と沖縄の「民意の非対称」が、これ以上はないグロテスクな態様で発露したものだと、わたしは受け止めています。
日本本土の新聞各紙も大半は、選挙期間中のデマや誹謗中傷を深刻に受け止めています。ただ、日本本土の選挙とは異なる構造にいっそう留意する必要があると思います。
以下に、各紙の電子版で全文が読める社説、論説の見出しと本文の一部を書きとめておきます。
【全国紙】
■朝日新聞「沖縄県知事選 苦渋の民意が示す重み」
https://www.asahi.com/articles/DA3S16546449.html
焦点は経済だったが、辺野古移設に反対の県民はなお多い。基地負担や軍備強化への不安を抱えながら、苦渋の選択で一票を投じたと見るべきで、古謝氏も高市政権も重く受け止める必要がある。
(中略)
米軍関係者による事件・事故や基地に由来する環境汚染など、米軍基地をめぐる問題はさまざまある。古謝氏に求められるのは、政府の方針にただ従うのではなく、多様な県民の声に耳を傾け、国に是正を求めることだ。政府も強権的な手法はやめ、本当に実現可能な計画なのかという疑問に正面から答えるべきだ。
■毎日新聞「沖縄に自民系知事 複雑な民意向き合わねば」/辺野古容認とは言えぬ/基地負担軽減は急務だ
https://mainichi.jp/articles/20260915/ddm/005/070/168000c
毎日新聞などの投票行動調査では、45%が移設に「賛成・容認」と答えた。一方、「反対」は30%、「どちらともいえない」も25%に上った。
移設に反対しても工事を止めることは難しい。国との対立がさらに深まれば、経済振興への影響も懸念される。そうした無力感やジレンマを抱えながら投票した人も少なくなかっただろう。
政府は、こうした複雑な県民感情に向き合う必要がある。
■読売新聞「沖縄県知事選 『基地反対ありき』からの転換」
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20260914-GYT1T00336/
訴訟は昨年までにすべて決着して県の主張は退けられた。県民の間にも辺野古移設を容認する声が増えている。それなのに国との対立を続ける玉城氏に対し、有権者が疑問を抱いたのではないか。
さらに、3月に辺野古沖で船が転覆し、高校生を含む2人が死亡した事故も打撃となった。辺野古移設に反対し、玉城氏を支援する団体が使っていた船だったことで強い批判を招いた。
辺野古移設への反対に固執してきた、玉城氏の手法が行き詰まっていたことは明らかだ。
辺野古移設は米軍の抑止力を維持する上で、現実的な唯一の選択肢である。政府は2030年代半ばに移設を実現するよう、着実に工事を進めねばならない。
■日経新聞「沖縄の期待は負担の軽減だ」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK144510U6A910C2000000/
沖縄でも中国の脅威に直面する地政学的な観点から米軍駐留はやむをえないと考える人は少なくない。だがそれに伴う物理的、精神的な負担が沖縄に偏るのは耐えがたい。割り切りたくても割り切れない複雑な思いに寄り添わなければ県民の協力は得られず、再び反基地の機運を招きかねない。
当選した古謝氏が有事に自衛隊が空港や港湾を使うのを容認する一方、普天間基地の返還期日の明確化を求めるのも県民感情の表れだ。政府は南西シフトで沖縄の自衛隊を強化しているが、これはある意味で米軍の肩代わりである。自衛隊の増強を米軍基地の削減につなげる道を探りたい。
■産経新聞「沖縄知事に古謝氏 命と生活守る県政推進を」
https://www.sankei.com/article/20260915-FUUCMQDIHVOODL66T3WVSCFCLU/
県民の命を守るには、辺野古移設を容認するだけでは十分でない。沖縄は防衛の最前線になった。新知事は国民保護法に基づく施策を推進する責務がある。国は、有事に石垣市など先島諸島の住民ら12万人を九州などへ避難させる計画だ。先島諸島では地下シェルター(避難施設)建設も始まっている。だが、遠距離からのドローン(無人機)攻撃がロシアのウクライナ侵略などで常態化している点に鑑みれば、沖縄本島での地下への避難施設整備も必要だ。
中国共産党政権は、SNSやメディアを利用して、沖縄を本土から分断しようと認知戦をしかけている。玉城氏は傍観していたが、新知事は的確に反論するなど対応してもらいたい。
【ブロック紙・地方紙】
■中日新聞・東京新聞「沖縄県に新知事 基地負担軽減を着実に」
https://www.chunichi.co.jp/article/1311272
沖縄県民が知事選や県民投票で辺野古での新基地建設に重ねて反対の民意を示しても、政府は「辺野古が唯一の解決策」との立場に固執。新基地建設が既成事実化する現実を前に、県民に「疲れ」や「諦め」が広がり、新基地問題よりも経済政策を重視して投票したというのが実情だろう。
(中略)
政府は台湾有事の可能性も念頭に、南西諸島への自衛隊配備を強化する「南西シフト」を進める。米軍との連携強化により抑止力、対処力を向上するともしており、多くの米軍・自衛隊基地を抱える沖縄の負担は増す一方だ。
基地負担軽減は古謝氏も訴える沖縄県民の切実な願いである。政権が推す候補が勝利したからといって、さらなる負担を強いていいわけではない。高市政権には県民との対話を深め、基地負担軽減を着実に進めるよう求めたい。
■北海道新聞「沖縄県知事選 国は基地の現実直視を」
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1370528/
玉城氏は辺野古移設を阻止する国との法廷闘争で全て敗訴し、手詰まりに陥っていた。選挙結果は移設問題への関心低下や諦めが背景にあるとみられる。
政府は米軍の抑止力維持を盾に、玉城県政の移設反対の主張に耳を傾けてこなかった。司法も安全保障は国の専管事項とする考えの下で県の訴えを事実上門前払いにした。沖縄の異議申し立てを国家権力を挙げてねじ伏せた結果の「諦め」だろう。
古謝氏は普天間返還期日の明確化を政府に求める考えだ。軟弱地盤に阻まれ難航する辺野古移設工事の完成を前提としていては返還が見通せない。政府は普天間返還を、辺野古工事と切り離して一日も早く実現させるよう米側に求めねばならない。
■西日本新聞「沖縄に新知事 政府に物申す姿勢を貫け」
https://www.nishinippon.co.jp/item/1537988/
古謝氏の当選で新基地建設が順調に進展するわけではない。難工事によって1兆円近い総事業費はさらに膨らむとみられ、政府は完成時期をはっきりと示せない。米軍は緊急時に使用する長い滑走路も求めている。普天間返還の実現さえ不透明なままだ。
政府は台湾有事を念頭に、南西諸島で自衛隊のミサイル基地などを整備する南西シフトを急速に進めている。県民は攻撃の標的になることを懸念している。
米軍基地が集中する沖縄では、米兵が起こす事件事故が多発し、基地の騒音や水質汚染も県民生活に深刻な被害をもたらしてきた。
知事は県民の生命と安全を守るリーダーである。選挙で政府、与党の支援を受けたとしても、決然と物申す姿勢を貫かなくてはならない。
■東奥日報「対立避け普天間返還図れ/沖縄知事選」
https://www.toonippo.co.jp/articles/-/2362382
玉城氏は辺野古工事を止める一連の法廷闘争に敗れ、大敗を喫した。3月に移設反対派が関わった辺野古沖の船転覆事故で若い命が奪われたことも響いた。ただ交流サイト(SNS)で玉城氏らへの中傷が飛び交ったのは残念だ。分断を深めるべきではない。
国会の野党多弱化で政権批判は勢いをそがれた。結果として沖縄の世論は基地問題より生活を重視した。米施政からの返還後に生まれた初の知事選出で、沖縄を巡る政治状況は転換点を迎える。
(中略)
中国の海洋進出を受け、政府は沖縄など南西諸島の防衛強化を急ぐ。在日米軍専用施設の7割が国土面積の1%に満たない沖縄に偏る現状は理不尽だ。太平洋戦争末期の地上戦で、沖縄は列島防衛の「捨て石」となる惨禍に見舞われた。同盟強化の名の下に、国は同じ轍(てつ)を踏んではならない。
■新潟日報「沖縄新知事 基地負担の軽減も全力で」
https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/906670
今回の選挙結果は物価高の中で、県民の関心が米軍基地問題よりも足元の生活支援策に傾いたとの見方ができるだろう。
県民は知事選などで幾度も「辺野古ノー」の意思を示してきたが、国は移設工事を止めなかった。県民の疲弊や諦めが結果として古謝氏を後押ししたとも言えよう。
政府は古謝氏の当選を受け、経済振興に前向きだ。27年度の沖縄振興予算について、県が求めてきた3千億円超に増やす方向で調整に入った。
移設に反対する玉城氏の県政下では、22年度から当初予算で2600億円台が続いた。安全保障と振興予算を関連付ける「アメとムチ」の手法は看過できない。
■信濃毎日新聞「沖縄の県政転換 国との対等な関係こそ」
https://www.shinmai.co.jp/news/article/gf01dajtipu29c62qgihp8ag
沖縄には国内の米軍専用施設の7割が集中している。30年前、日米が普天間返還に合意したのは、過重な基地負担の軽減のためだ。ところが、米軍が求める基地機能の移転先は、米側と国の意向で、県内の辺野古になった。
これに対し、保守系の故翁長雄志氏から玉城氏まで直近3度の知事選で、県民は反対の意思を示してきた。2019年の県民投票でも7割超が反対した。
それでも国は計画を進め、本来は移設問題と関係のない沖縄振興予算のさじ加減でも揺さぶった。国政選や市長選などで反対派候補は敗退するようになった。
「沖縄を前へ」と訴えた古謝氏は政府と協調して辺野古移設を進めるという。振興費の増額と引き換えに、国と県との対立はひとまず解消される。だが、基地負担問題の解決は見通せない。
■京都新聞「沖縄で県政転換 国は痛みに向き合う対話を」
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1790733
ただ、米軍基地の過重負担や深刻な事件・事故の被害に苦しみ続ける沖縄の声に耳を傾けず、国策を力押ししてきた政府の姿勢を、県民が全面的に認めたとは言えまい。
古謝氏は選挙中、基地問題では政権と一線を引く考えをにじませ、当選後、普天間の返還期日の明確化や基地負担軽減を求める姿勢を表明した。
新知事のもとで政府は対話に向き直り、沖縄の分断が修復される道を探るべきである。
(中略)
政府は早速、振興予算を増額させる方針だが、「アメとムチ」で沖縄と本土の溝を深めてきた轍(てつ)を踏んではならない。
「唯一の解決策」と言うだけでなく、米軍専用施設の7割が集中する沖縄の痛みを直視し、米との協議に手を尽くす姿勢を求める。
■神戸新聞「沖縄県知事選/県民の分断招かぬように」
https://www.kobe-np.co.jp/opinion/202609/0020820073.shtml
今回の選挙では、米軍基地問題よりも、古謝氏が強調した経済活性化に有権者が関心を寄せたとされる。だが県民は、米軍統治時代から「基地のない平和の島」を求めてきた。米兵による凶悪事件や事故が後を絶たず、基地への反発は根強い。観光業など第3次産業に依存するいびつな産業構造も、元々は基地の集中に由来する。経済の自立のためにも、古謝氏には基地の整理縮小に向けた具体的な取り組みが求められる。
普天間の早期返還には辺野古移設が必要と古謝氏は主張した。ただ、辺野古沖の軟弱地盤改良は前例のない難工事で、完了は不可能との指摘がある。米側が返還条件とする辺野古より長い代替滑走路も定まっていない。古謝氏にはこうした課題についての見解を示す責任がある。
■山陽新聞「沖縄県知事選 基地負担軽減を忘れるな」
https://www.sanyonews.jp/article/1988640
とはいえ、辺野古反対の民意は依然として根強く残ることは忘れてはならない。政府は全国の米軍専用施設の7割が集中する基地負担の軽減を進めねばならない。
この4年の間に県は国との法廷闘争にことごとく敗訴し、工事を止める手段はほぼなくなった。県民の間には「反対しても工事は止められない」といった諦めムードや、対立疲れが広がったとの深刻な見方もある。
高市早苗首相は知事選を「政権基盤を占う選挙」と位置づけ、古謝氏を全面的に支援した。結果を受けて首相は「経済成長を求める県民の意思が反映されたのではないか。沖縄経済を強くするため力を尽くしたい」と話し、連携に意欲を示した。
12年ぶりの保守県政となる古謝新知事の誕生に、県民が期待するのは国との円滑な意思疎通にほかならないだろう。県との真摯(しんし)な対話がこれまで以上に求められる。
■中国新聞「沖縄新知事に古謝氏 国と連携し基地負担軽減を」
https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/894671
高市早苗首相は、古謝氏の当選を受け「沖縄経済を強くするため、私も力を尽くしたい」と述べ、新知事に協力する考えを強調した。経済発展と引き換えに、防衛面での負担が増えないか懸念される。
南西諸島では今、中国の海洋進出をにらんだ防衛施設の強化が進んでいる。先の大戦で深い傷を負った沖縄。既に過重な基地負担が強いられているのに、さらに積み増しされることは許されない。新知事は、基地負担の具体的な軽減策を示すよう政府に迫るべきだ。連携して、実現に努めることが求められる。
■高知新聞「【沖縄県知事選】基地負担軽減に力尽くせ」
https://www.kochinews.co.jp/article/detail/1044020
直近の選挙で3回連続で示された移設反対の意思を顧みない国の姿勢への反発は根強い。反対しても工事が止まらない状況への無力感が今回の投票行動に影響した可能性がある。そうした思いを県民に抱かせたのであれば責任は重い。
軟弱地盤の改良は順調とは言えず、工期の遅れが指摘される。早くても36年以降とされる移設完了と普天間返還の時期確定にはなお時間がかかりそうだ。
古謝氏は、普天間の最も早い返還には辺野古移設が必要と主張した。政府に対し、普天間の返還期日の明確化や基地負担軽減を求めた。
(中略)
沖縄は在日米軍専用施設の7割が集中し、米軍関連の事件事故が繰り返される。選挙結果から、基地に対する懸念や反発が下火になったと判断すれば状況を見誤る。対話を重ね、丁寧な対応が求められる。