ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

高市首相に向けられたのは「抗議の声」か「ヤジ」か

 このところ、余裕がない状態が続いています。このブログに書きたいことも少なくないのですが、更新が途切れがちです。それでも、どうしても書きとめておかなければと思うのは、ことしの6月23日、沖縄の慰霊の日のことです。
 1945年の沖縄戦では6月23日、日本軍の第32軍司令官の牛島満中将と参謀長の長勇中将が自死し、日本軍の組織的戦闘が終結したとされます。沖縄ではこの日を慰霊の日としていますが、沖縄戦が終わった日ではありません。その後も住民の犠牲は続きました。
 ことしの6月23日は、高市早苗政権が発足して初めてのその日でした。81年前に日本の敗戦で終わった戦争に対して、真摯な考察もなく、何か教訓を得ているようにもうかがえず、軍備増強を押し進めようとしている高市首相が沖縄を訪れました。折しも、辺野古沖で同志社国際高校の生徒が死亡した事故を巡って、文科省が同高に対して教育基本法違反だとの判断を示し、平和教育の委縮が指摘されているさなかでした。
 「沖縄全戦没者追悼式」で高市首相が原稿を読みながら何を口にしたかと言えば、予想通りの空疎な文言でした。
 ※首相官邸のホームページに「あいさつ」の全文と動画が掲載されています
 https://www.kantei.go.jp/jp/105/statement/2026/0623okinawa.html

 沖縄戦が、本土決戦までの時間稼ぎだったこと、日本軍の戦闘の主目的は米軍に1日でも長く出血を強いることだったこと、その結果として日本軍による住民殺害があったこと、住民の集団自死があったこと、日本軍が司令部を構えた首里が陥落した時点で降伏、停戦していれば、その後の住民の犠牲はなかったこと。今日的な「住民保護」の問題につながることとして、九州への疎開船が米潜水艦の魚雷攻撃で沈没し、児童784人を含む1484人が犠牲になった対馬丸事件のようなこともありました。それらの史実に対して、反省はおろか、史実自体に無知、無関心ではないのか、とすら感じます。
 「今日私たちが享受している平和と繁栄は、この地で命を落とされた方々の尊い犠牲と、沖縄の歩んだ筆舌に尽くし難い苦難の歴史の上に築かれたものです」

 その死者の中には、日本兵に殺害された住民がいます。「尊い犠牲」とか「筆舌に尽くしがたい苦難の歴史」などとひとくくりにしてしまうこの無神経さに対しては、こんな首相を生んでいる、こんな政権を成り立たせている日本本土の主権者の一人として、恥ずかしさ、情けなさ、申し訳なさが入り交じった感情を覚えます。

 その高市首相に対し、会場では抗議の声が上がっていました。
 上記リンク先の首相官邸のホームページに掲載されている、高市首相のあいさつのシーンの動画ではよく分かりません。冒頭の40秒ほどが無音です。何も聞こえません。高市首相が話し始めると、その背後で小さく、抗議の声が聞こえます。
 ネット上に同じシーンの別の動画があります。
 ※【式典であいさつ】高市総理「誰もが平和で暮らせる世の中の実現へ不断の努力を重ねる」令和8年沖縄全戦没者追悼式【ノーカット】(2026年6月23日)|TBS NEWS DIG

https://www.youtube.com/watch?v=HzUmUEvGLho&list=WL&index=9

www.youtube.com

 高市首相が話し始める前から、大きな声がはっきりと聞こえます。
 「戦争反対」
 「9条を守れ」
 「24万人に謝ってこい」

 この「抗議の声」について、ネット上で猪股東吾さんの以下の記事を目にしました。
※「奥間政則さんは、なぜ慰霊の日に声を上げ続けるのか?」
https://togoinomata.com/rudenews/posts/fXwv_RmR

togoinomata.com

 書き出しは「6月23日、沖縄。慰霊の日の式典会場で、奥間政則さんはこの数年、総理大臣に対して声を上げ続けている。その背景には『ヤジ』と切り捨てることはできない切実な思いがあった」。その後に、奥間政則さんの言葉が続きます。
 その最初の部分を書きとめておきます。

 なぜ慰霊の日のあの場で声を上げるのかというと、日本の総理に対して、うちなーんちゅとして直接声を届けられる場であり、また、大人しいうちなーんちゅや、その他の参列者にも声を届けられる場は、あの式典会場しかないからです。
 右寄りの人たち、議員を含め、普段は耳を傾けようとしない人たちにも、あの場では聞かざるを得ない状況が生まれます。
 それに、慰霊の日は全国に中継されます。あとから配信されるニュースでは、抗議の声は編集されて消されてしまうことがあります。しかし実況中継であれば、編集することができず、会場の抗議の声がダイレクトに全国へ届きます。

 以下の部分は、特に広く知られていいと思います。

 慰霊の日は静粛な場だから声を上げてはいけない、という批判があります。基地に反対する側の人たちの中にも、そう言う人がいます。
 しかし、平和を唱えながら、実際には軍事化を進めている日本の総理の話を、沖縄の人たちが静かに聞いている。そのような場面だけが全国や世界に発信されてしまえば、「沖縄の人たちは軍事化を認めている」という間違ったイメージが浸透してしまいます。

 全文を読んで感じるのは、この抗議の声をどう考えるかは、「表現の自由」をどう考えるかの問題なのではないか、ということです。
 抗議の声が式典の間、ずっと続いているわけではありません。だから本質的な問題は、式典を妨害する行為かどうかと言うよりも、「抗議の声が上がる首相であること」なのではないか、とも感じます。
 高市首相のあいさつは首相官邸のホームページに、静謐な動画とともに紹介されています。何を話したのか、だれでもそこで知ることができます。しかし、沖縄の人たちが高市首相に直接、抗議の意思を表明できる場は限られています。

 この「抗議の声」は、マスメディアでは「ヤジ」と報じられました。どう表現して伝えればいいのか、あらためて考えてみるべきではないでしょうか。沖縄戦とその後の米統治、さらには歴史をさかのぼった明治期の「琉球処分」など、沖縄と日本本土の近現代史に対する認識と理解も問われているようにも思います。組織ジャーナリズムも試されている、と感じます。

「事実に謙虚」なのか

 高市早苗首相の公設第一秘書の依頼で、昨年秋の自民党総裁選や今年2月の衆院選の際、他の候補や野党幹部に対するネガティブが大量に作成され拡散されたのではないか、との疑惑を巡って、展開がありました。
 動画作成者から提供を受けたとするネガティブ動画の中に、使用した写真の撮影時期と動画を作成したとされる時期の間に齟齬があることが指摘されました。疑惑の発端になる報道を展開している週刊文春は6月25日号(電子版は17日正午公開)に「高市首相『中傷動画』全ての疑問に答える」との記事を掲載しました。
 その骨子は、週刊文春の記事公開前に公表された見解の通りです。

bunshun-online.zendesk.com

 4月29日から公開している高市早苗首相に関する記事について、一部の動画に時系列上の問題点が確認されたため、関連動画の公開を一時停止し、併せて本文も修正しました。「週刊文春」の次号にて取材経緯を説明いたします。
 今回の訂正は一部動画の時系列に関する部分にとどまります。 高市事務所が総裁選や衆院選において、動画などで対立候補に対する誹謗中傷を行っていた事実関係は、複数のSNS上のメッセージなどによって裏付けられています。疑惑の根幹を揺るがすものではないと認識しています。

【写真出典:週刊文春電子版】

 週刊文春の当該の記事を読みました。「この姿勢は『事実に謙虚』と言えるのだろうか」。ひと言で言えば、そんな感想を持ちました。
 週刊文春は動画作成者から提供を受けた動画20本のうち4本に時系列の齟齬が見つかったとしています。「全ての疑問に答える」とするなら、なぜ齟齬があるのか、その理由も記事で明らかにしているのかと思いました。しかし、記事には以下のようなくだりがあるだけです。

 こうした動画への疑義について松井氏側に問い合わせたところ、弁護士を通じて以下のように説明した。
 「スタッフに動画データの復元・探索を依頼し、見つかったものを文春側に転送しました。このような事態になって驚いています。ただ、改めて強調させて頂きたいのは、私が候補者の求めに応じ、動画の作成・拡散に携わっていたという一連の話は間違いなく事実だということです」

 動画作成者を直接、問いただしたといった説明もなく、「驚いています」との反応を紹介しているだけです。
 動画の時系列の齟齬の問題は、週刊文春の一連の報道の根幹にある動画作成者の証言の信用性にかかわるはずです。時系列になぜ齟齬が生じたか、作成者から合理的で納得できる説明がない限りは、証言の全体像についても留保が必要だと思います。しかし、そうした姿勢は記事からは読み取れません。
 わたし自身が40年余り、職業として組織ジャーナリズムにかかわってきて、ジャーナリズムに必要なこととして、第一に「事実に謙虚」であることだと教えられてきました。後続世代にもそう伝えてきました。「事実に謙虚」かどうかを評価軸に置くなら、週刊文春の姿勢は危ういというのが、率直な読後感です。
 週刊文春の報道に端を発した中傷動画問題について、指摘されているような公設秘書の関与があったかなかったかをここで論じたいのではありません。ほかにも確実な証拠があるとしても、また「疑惑の根幹を揺るがすものではない」としても、危惧するのは、動画の齟齬の理由を説明しない、説明できないままなら、高市首相擁護派の格好の攻撃材料になってしまうことです。既にSNSでそうした言説を目にします。
 週刊文春の6月25日号は、仮想通貨「サナエトークン」を巡る疑惑にも触れています。オンライン会議での発言の声紋解析の結果を報じました。高市首相の公設秘書がオンライン会議に参加していたことは間違いがないようです。今後は、サナエトークンを巡って高市首相の事務所がどう関与したのかが焦点になります。週刊文春が確実な証拠を元に疑惑を追及するとしても、その時に「動画の齟齬を説明しない週刊文春は信用できない」「“誤報メディア”の週刊文春が今さらのように追及するサナエトークンも高市首相の主張の方が正しいに違いない」-。そんな言説が広がってしまうことを危惧します。
 「誤報」が罪深いのは、ほかにどんなに優れた報道があっても、一つの誤報がすべてを台無しにしかねないことです。そのことも、40年余りの実務経験の中で先行世代に教えられ、後続世代に伝えてきました。組織ジャーナリズムも人間の営みなので、間違えることがあります。だからこそ、誤報を誤報と認めて検証し、教訓を残さなければなりません。


 中傷動画作成者とサナエトークンと高市事務所を巡っては、週刊現代とジャーナリストの河野嘉誠氏が一貫して追っています。河野氏の発信にも注目しています。

メモ:高市首相の資質が問われる段階に入ったのではないか 追記:答弁の訂正申し出、しかし必要なのは調査

 備忘メモを兼ねて、取り急ぎ書きとめておきます。
 とうとう堤防が決壊した―。そんな風に感じています。
 週刊文春の報道に端を発して、昨年の自民党総裁選、ことしの衆院選で、高石早苗首相の公設第1秘書が、相手陣営や野党幹部らのネガティブ動画の大量拡散に関与していたのではないかとの疑惑に対する追及が、国会で続いています。
 6月10日に、決定的だと感じるやり取りがありました。

■共同通信「首相秘書『音声、確信持てない』 中傷動画疑惑巡り高市氏」=2026年06月10日 19時00分
https://www.47news.jp/14447558.html

www.47news.jp

 高市早苗首相は10日の衆院法務委員会で、自民党総裁選での中傷動画作成疑惑を巡り、作成者とされるIT会社代表男性と公設第1秘書との会話を録音したとされる音声データを秘書に確認したところ「自分の声に似ているように思うが、内容も含め確信を持てない」との回答があったと説明した。
 音声データが秘書の声と一致していれば、男性と首相陣営側に面識があったことを裏付けるものとなり、「面識がない」としていた首相の答弁との整合性が問われる。

 声が似ているか似ていないか、確信を持てるか持てないかの問題ではないはずです。これまでの国会での答弁では、作成者とされる男性と面会したことも面識もないと完全否定。高市首相は、週刊誌を信じるか、秘書を信じるかと言えば秘書を信じると言い切っていました。面会も面識もないのなら、音声に対する回答は「こんな場面、こんな会話はあり得ない」となるはずです。高市首相が秘書を信じると主張していた、その大前提が崩れ去りました。
 動画の拡散に関与したかどうかの問題とは別に、結果的であるにせよ、高市首相が国会で繰り返し、「虚偽」の内容を主張していたことが明白になった、ととらえています。
 控え目に言っても、自身の秘書に振り回されるような政治家に、首相の重職が務まるのかどうか。高市首相の首相の資質が問われる段階に入ったのではないかと感じています。
 疑惑が指摘された早期に、調査すると表明していればともかく、このまま首相職にとどまれるのか、と思います。

 潮目が変わったな、と感じたのは6月7日のことです。
 共同通信が、ネガティブ動画の作成者とされる男性に取材した記事を配信しました。ネット上でも無料域に長文の記事を公開しました。

■総裁選で小泉氏批評動画 首相秘書から相談と作成者
 https://www.47news.jp/14431514.html

www.47news.jp

 昨年10月の自民党総裁選を巡り、IT会社代表の男性が7日までに共同通信のオンライン取材に応じ、高市早苗首相を当選させる目的で、小泉進次郎防衛相を「操り人形」などと批評する動画を独自の生成人工知能(AI)ソフトで作成、投稿したと証言した。首相の秘書から「小泉氏を逆転するにはどうすればいいか」と相談され「ネガティブな発信」を提案したと説明した。
 週刊文春が今年4月、同様の証言に基づき、中傷動画疑惑と報道。首相は報道内容を否定している。首相事務所は共同通信の取材に「他の候補に関するネガティブな動画を作成、発信したり、第三者に依頼したりしたことは一切ない」と文書で回答した。改めて調査するつもりもないとした。
 男性は松井健氏(33)。首相の名前が入った暗号資産(仮想通貨)「SANAE TOKEN(サナエトークン)」の開発責任者も務めた。松井氏は2月の衆院選でも、首相を含む与野党約50人の陣営から対立候補に関する動画などの作成を頼まれ、うち20人に協力したと証言した。いずれも無償で請け負い、広告収入も得ていないとした。野党に対しても説明を求める声が上がりそうだ。

 新聞というメディアを通じて培ってきた組織ジャーナリズムの価値を今後にどう残していくのか、ということを考える意味でも、新聞(通信社を含む)の“後追い報道”や、ネット記事の無料配信は、さまざまな示唆に富んでいると感じます。このことはまた、改めて書いてみたいと思います。

 

※追記 6月12日7時10分

 高市首相の参議院予算委員会での答弁が誤っていたとして、自民党が訂正を申し出たと報じられています。決壊した堤防から水が流れ出しています。

■共同通信「自民、参院の首相答弁訂正申し出 中傷動画疑惑、野党が虚偽と批判」=2026年06月11日 19時12分
https://www.47news.jp/14453614.html

 自民党の磯崎仁彦参院国対委員長は11日、立憲民主党の斎藤嘉隆国対委員長と国会内で会談し、高市早苗首相陣営による自民党総裁選での中傷動画作成疑惑を巡り、5日の参院予算委員会で首相が答弁した内容に誤りがあったとして、訂正を申し出た。斎藤氏は記者団に「虚偽の答弁だと言われても仕方ない」と批判した。会談では首相の公設第1秘書の参考人招致を重ねて要求した。自民側は難色を示した。
 首相は5日の予算委で、自身の事務所が動画の作成者とされるIT会社代表男性らとのオンライン会議を開催したと認める回答を4月3日付で週刊誌に行っているとの指摘に対し「秘書が事実と違うと申していた」と明言していた。

 高市首相は一連の国会のやり取りで、週刊誌を信じるか、秘書を信じるかと言えば秘書を信じる、とまで言い切っていました。週刊誌が指摘した疑惑を否定する根拠は、「秘書が否定している」の一点です。その根拠が崩れました。訂正ですむ話ではないと思います。
 国会に秘書を呼ぶのか、高市首相が自らの責任で第三者を交えて調査するのか。いずれにせよ、必要なのは調査です。それができないのなら、高市首相は首相の職にとどまるべきではありません。

デモと憲法と平和、沖縄と憲法~地方紙の社説、論説の記録

 5月3日の憲法記念日の前後には、地方紙、ブロック紙も憲法をめぐる社説、論説を掲載しました。各紙のサイトで全文、ないしは見出しを見た限りですが、軍拡を進め、改憲にも前のめりの姿勢を見せる高市早苗首相に批判的な論調が多く目に付きます。
 その中で、いくつかの新聞が、戦争に反対し、平和憲法を守れと訴えるデモが、回数を重ねるごとに参加者が増えていることに触れています。だれかが声を挙げれば、呼応する人が出てきて、やがて大きな声になっていく。戦争をやめさせ、平和を持続させていくための力になる可能性を感じます。それは日本社会だけのことではなく、世界共通の声にもなるはずです。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」と前文に明記する日本国憲法の理念に通じます。
 以下にデモに触れた社説、論説の一部を書きとめておきます。

■信濃毎日新聞5月3日付「憲法記念日に 平和主義を拠り所として」/法の支配を崩す/期限区切る首相/「諸国民」の力で
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/gf01d7qq5g2tdgtj8agvrnfg

 〈平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した〉。憲法は前文に記している。かつて高市氏はこの文章を「おめでたい一文」と述べた。そうではない。国家が起こす戦争を「諸国民」の連帯によって止めようという強い意志の表明だ。
 平和憲法を守れと訴える「緊急アクション」のデモが国会を取り囲み、呼応する動きが全国に波及した。反戦の声は世界に響いている。イランを先制攻撃した米国とイスラエルに抗議する統一行動は米国や欧州、中南米にも広がり、街の広場を人の波が埋めた。
 徹底した平和主義を掲げる日本の憲法は、人々の力で平和を築いていくための確かな拠(よ)り所だ。80年の時を経て、色あせていない。そのことをあらためて確認し、軍事の論理に日常を引きずり込んでいく動きに抗したい。

■新潟日報5月3日付「憲法記念日 立ち止まり考える機会に」/平和主義大きく変容/前のめりな姿勢危惧
 https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/824955

 高市政権の前のめりな姿勢に、国会前で開かれる改憲反対集会の参加者が増えている。
 主催者発表では2月に3千人台だったのが、4月には3万人を超えた。共同通信の分析では参加者の半数を20代、30代が占めた。県内の街頭行動にも若い人の姿が目立つ。
 平和憲法の危機に際し、若い世代が行動し、声を上げている。憲法の理念が次の世代に引き継がれていくことに期待する。
 首相は憲法を「国の理想の姿を物語る」ものと位置づける。だが、憲法は国の在り方を示すと同時に、国家権力の暴走を防ぐものでもある。
 憲法は権力者が思うようにできるものではない。
 私たち国民も政治家任せにせず、憲法について考えたい。

■神戸新聞「憲法記念日 『その時』までにもっと知ろう」/立憲主義への無理解/一人一人の声を形に
 https://www.kobe-np.co.jp/opinion/202605/0020313087.shtml

 国会を取り巻く改憲反対のデモは自民が圧勝した衆院選直後から回を重ねるごとに参加者が増え、4月には47都道府県の200カ所以上に広がった。呼びかけ人のeriさんはオンライン集会で「一人一人の声を形にして、無視できないぐらい大きくしたい」と話した。
 憲法は国民のもの。変えるなら一人一人の権利と自由を守るために。いつか訪れるであろう、初めての国民投票に備え、私たちはもっと憲法を知り、語る必要がある。

■西日本新聞「憲法を考える 時を動かすのは主権者だ」/形骸化する基本理念/国論を二分した熱は
 https://www.nishinippon.co.jp/item/1488543/

 近年で最も改憲が現実味を帯びたのは10年前の安倍晋三政権で、衆参両院の改憲勢力が発議に必要な3分の2を占めていました。
 市民も声を上げました。改憲を支持する「日本会議」、護憲を訴える「九条の会」、「SEALDs」など若者も加わりました。
 国論を二分した結果、政権の強引な手法に反発が広がるなどして改憲は頓挫しました。
 いま、あの時の熱はあるでしょうか。過去に学べば、沈黙や無関心は権力に隙を与えます。
 昭和の日、福岡市・天神にペンライトが揺れました。有志による「平和憲法を守るための緊急アクション」が全国に広がります。各地の活動を告知するサイトは市内の主婦が立ち上げました。「1人じゃないと知ってもらい、行動を後押ししたい」との思いからです。
 憲法に託された80年前の民意を引き受け、一人一人が「論憲」に参画する。時を動かすのは私たち主権者でなければなりません。

 沖縄の琉球新報、沖縄タイムス両紙の社説も、それぞれ一部を書きとめておきます。
 沖縄戦を経て日本から切り離され、米統治のもとで沖縄に平和憲法は適用されませんでした。日本復帰は平和憲法のもとへの復帰のはずでしたが、今も過剰な基地負担が続いています。それを沖縄に強いているのは日本政府です。民主主義の手続きを経て政権が合法的に成り立っている以上、それは主権者の総意です。個々人が高市政権を支持するか否かとにかかわらず、沖縄の過剰な基地負担に対し、日本本土の主権者には等しく当事者性があります。沖縄の2紙の論調は、日本本土でも広く知られていいと思います。

■琉球新報5月3日付「憲法施行から79年 戦争の反省こそが原点だ」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-5226728.html

 戦後の日本は必ずしも憲法が保障する権利や理念が隅々に行き渡ったわけではない。特に沖縄は米国の憲法も日本の憲法も適用されない27年の米統治時代があり、今なお軍事基地の集中と新たな建設が続くという憲法の矛盾を抱えた土地だ。
 そんな“憲法番外地”に置かれてきたからこそ、大田さんは「沖縄ほど憲法と縁遠いところはないが、沖縄ほど憲法を大事にしたところはない」と語っていた。憲法の真の適用を希求する思いが現実を動かす力になることを、沖縄の人々は証明してきた。
 日本国憲法の理想は一国だけの平和ではない。世界は今、「力が正義」の大国主義が幅を利かせる。戦争による恐怖と欠乏に立ち向かうことを決意した憲法の理想と目的は達成の途上にあり、その意義は増している。現実に慣らされて価値をおとしめてはいけない。
 鉄血勤皇隊として沖縄戦に動員された大田さんは「憲法を変えることを許すと、徴兵制が敷かれる」と警鐘を鳴らしていた。戦争体験者の遺(のこ)した言葉に耳を傾けたい。

■沖縄タイムス5月3日付「憲法記念日に 改憲前のめりを危ぶむ」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1829932

 新憲法を審議した衆議院に、沖縄選出の議員はいなかった。米軍の占領下にあった沖縄県民の選挙権は、45年12月の法改正によって停止されていたのである。
 多くの研究者が指摘するように、象徴天皇制をうたった憲法第1条と戦力の不保持を掲げた9条、沖縄の軍事化は分かち難く結び付いている。
 天皇制を残すため、9条によって日本を非軍事化し、日本の安全を沖縄の米軍が担う、というのが連合国軍最高司令官マッカーサーの考えだった。
 その後、講和条約によって米国が施政権を保持することになり、沖縄に憲法は適用されなかった。今も膨大な基地のくびきから抜け出せないでいる。

 そのほか、各紙のサイト上で全文が読める社説、論説は、見出しとリンク先のURLを書きとめておきます。全文が読めないものは、見出しだけです。

【5月4日付】
■福井新聞「憲法記念日 国民目線での議論が必要」
 https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/2592806
■神奈川新聞「憲法考・個人の尊重 人間の安保こそ優先を」
■佐賀新聞「憲法施行79年 9条の平和理念を今こそ」

【5月3日付】
■北海道新聞「きょう憲法記念日 平和主義世界に訴える時だ」/派遣阻んだ9条の力/協調し大国いさめよ/立憲主義の尊重こそ
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1308017/
■静岡新聞「憲法改正議論 国民皆が当事者意識を」
 https://news.at-s.com/article/1963865?lbl=576
■京都新聞「憲法記念日に 試されている『不断の努力』」/静かな異議の広がり/国の権限強める転換/性急な議論許されぬ
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1707602
■山陽新聞「憲法記念日 期限ありきの議論避けよ」
 https://www.sanyonews.jp/article/1915301
■中国新聞「高市政権と憲法 『権力を縛るもの』と自覚せよ」/9条は色あせない/歴史の教訓忘れず/尊厳と自由を守る
 https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/826426
■高知新聞「憲法記念日 懸念募る平和国家の変容」
 https://www.kochinews.co.jp/article/detail/997616

■河北新報「憲法と高市政権 改正の時なのか見極めたい」
■神奈川新聞「憲法考・国民主権 未来へ、主人公は私たち」
■北日本新聞「憲法記念日/改憲の是非、熟考が必要」
■北國新聞「憲法記念日に 改正急ぎ、抑止力の強化を」
■山陰中央新報「憲法記念日 9条の平和理念、今こそ」
■徳島新聞「憲法記念日 平和主義の理念守らねば」
■愛媛新聞「憲法記念日 戦後の日本を支えた輝きあせず」
■熊本日日新聞「憲法記念日 平和主義が揺らがぬよう」
■大分合同新聞「憲法記念日 危機感身近、考える好機に」
■南日本新聞「憲法記念日 平和国家の理想 今こそ」

【5月2日付】
■東奥日報「強引な改正発議を危惧/憲法施行79年」
 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/2265064
■秋田魁新報「憲法施行79年 平和主義の理念を貫け」
 https://www.sakigake.jp/news/article/20260502AK0003/
■下野新聞「あす憲法記念日 改正には熟議が不可欠だ」
 https://www.shimotsuke.co.jp/articles/-/1338418

■山形新聞「憲法記念日 9条の平和理念、今こそ」
■福島民報「9条と安全保障 まず世界を見渡せ」
■宮崎日日新聞「あす憲法記念日 9条の平和理念を今こそ」

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

news-worker.hatenablog.com

デモを報じるメディア、報じないメディア~憲法記念日、在京紙の報道の記録

 今年の憲法記念日は、自民党が改憲の発議に必要な3分の2以上の議席を、衆院で初めて単独で獲得している中で迎えました。高市早苗首相は4月の自民党大会で「時は来た」と、改憲に異様なまでの前のめり姿勢を示しています。新聞各紙の5月3日付の紙面では、例年以上に「憲法」の扱いが大きかったように感じます。いくつか、書きとめておきます。
 東京発行の新聞6紙のうち、日経新聞以外の5紙(朝日、毎日、読売、産経、東京)はいずれも憲法に関連した記事が1面トップでした。朝日新聞と読売新聞は、一つ前の記事で紹介した郵送世論調査の結果です。

news-worker.hatenablog.com

▽デモを報じるメディア、報じないメディア
 東京新聞の1面トップ記事の見出しは「高市政権 動き加速」とともに「反対デモ 訴え活発」が並びました。毎日新聞は社会面トップに「護憲・反戦 デモの輪」「ウェブカレンダーで急拡大」の見出しの記事を大きく掲載しました。
 高市政権は米国とイスラエルのイラン攻撃に対して法的な評価を避け続けていること、高市首相が日米首脳会談でトランプ米大統領の賞賛に終始したこと、そして高市首相の前のめりの改憲志向、殺傷能力のある武器の輸出解禁、スパイ防止法制定への動きなどに、憲法の平和主義が危機にあると感じる人が声を上げ始めているのだと思います。3月以降、国会前や全国各地でデモが行われています。個々人が自発的に集まってくることが特徴だと報じられています。
 デモや集会は憲法で保障された権利である「表現の自由」の行使です。その権利を路上で行使している人たちがいることを知ることが、異なった考え方や意見に触れる機会となることもあります。同じように、自分も声を挙げようと考える人もいます。デモや集会を報じることには、そうした意義があります。
 東京新聞や毎日新聞だけでなく、朝日新聞もデジタル版で例えば「デモ 憲法」で検索すれば、デモを報じるいくつもの記事がヒットします。一方で、読売新聞や産経新聞では、同じようには記事は見当たりません。両紙は憲法改正が社論です。

▽高市総裁インタビュー
 目を引いたのは産経新聞の1面トップです。見出しは「改憲 参院選合区解消急ぐ/緊急事態条項も先行」。「高市・自民総裁 単独インタビュー」とある通り、首相としてではなく、自民党総裁の立場で話した内容との位置づけです。1面に本記、2面にサイド記事「改憲 参院野党と連携焦点」、4面に「一問一答」と手厚い扱いです。
 新聞が要人の単独取材を狙うのは当然のことです。わたしがここで思うのは取材を受ける政治家の側の問題です。テーマによって政党の党首が取材に応じる媒体を選別することは、あり得ることだとは思います。
ただし、どう立場を使い分けようとも、「高市総裁」と「高市首相」は同一人物です。そして、首相としての「政治家高市早苗」は、記者会見などのマスメディアの直接取材の機会が石破前首相や岸田元首相と比べて少ないことが指摘されています。その一方でX(エックス)では連日、見解を発信。4月には、国会審議への姿勢を巡る報道を「全く事実ではない」と否定。「それにしても、他の事も含めて、最近は事実と全く異なる報道が増え過ぎている事は残念です」と投稿しました。何がどう事実と異なるかを示さず、一方的に「増えすぎている」との表現まで使いました。反論が来ない場で、言いたいことだけを言うのが高市首相の手法だと考えざるを得ません。
https://x.com/takaichi_sanae/status/2040651518668620178

 憲法改正を社是にしている媒体を選別して、首相と党総裁の立場を使い分け、持論を述べる手法それ自体が、異論には耳を貸さない、意見の違いを熟議で乗り越える意思も発想もない「政治家高市早苗」の実像をよく表しているように感じました。
 なお、紙面に掲載された写真の説明文によると、インタビューは自民党本部ではなく首相官邸で行われたとのことです。

 東京発行の新聞6紙はいずれも3日付の社説で憲法を取り上げています。いずれも各紙のサイトで全文が読めます。見出しを書きとめておきます。これだけでも、各紙ごとの論調の違いが分かると思います。

■朝日新聞
「高市政権と憲法 『改憲ありき』を繰り返すのか」/安倍路線の踏襲では/「立憲主義」の不在/中山方式という知恵
 https://digital.asahi.com/articles/DA3S16456058.html

■毎日新聞
「公布80年の憲法論議 主権者として向き合おう」/規範軽んじる政治権力/市民参加の仕組み必要
https://mainichi.jp/articles/20260503/ddm/005/070/104000c

■読売新聞
「憲法記念日 世界の激動踏まえ議論深めよ/偽情報の氾濫への対応も急務だ」/具体的条文が欠かせぬ/地方の声軽視するのか/想定外のデジタル社会
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20260502-GYT1T00360/

■日経新聞
「憲法改正は丁寧で建設的な議論を」/判断材料を国民に広く/次世代につなぐ責任
 https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK0143W0R00C26A5000000/

■産経新聞
「憲法施行79年 9条の弊害を直視したい 改正実現へ条文化に着手せよ」/「油断!」の危機眼前に/議員身分ばかり大切か
 https://www.sankei.com/article/20260503-BDPGOIKPYZN3FLXOUPEAVBK4OA/

■東京新聞(中日新聞と共通)
「憲法記念日に考える 権力縛る原点に返ろう」/「理想語るもの」と自民/政府に戦争起こさせぬ
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/486001

民意は冷静、改憲機運は高まっていない~「急ぐ必要ない」「幅広い合意形成優先」が多数、憲法記念日の世論調査

 5月3日の憲法記念日に合わせて、朝日新聞、読売新聞、共同通信がそれぞれ郵送の世論調査を実施。紙面では5月2日付、3日付に掲載されました。高市早苗首相が4月12日の自民党大会で「時は来た」と憲法改正に前のめりの姿勢を示しましたが、3件の世論調査の結果を見ていくと、民意は冷静に憲法改正論議を見ている様子が浮き彫りになるように思います。
 憲法を改正する必要かあるかどうかでは、いずれの調査も改正に肯定的な回答が否定的な回答を上回っています。読売新聞の調査では「改正する方がよい」57%に対して、「改正しない方がよい」40%です。ただし、朝日新聞の調査では「変える必要がある」49%に対して「変える必要はない」44%と、賛否は拮抗しているとも言えそうです。調査によって、賛否の状況にはかなりの違いがあります。「改正」という肯定的イメージが伴う用語を使うか、「変える」「変えない」の用語を使うかによっても結果は異なるように思います。ただし、憲法自体の条文に「改正」の手続き規定があり、「改正」の用語を設問に使うことにも理由はあると感じます。
 憲法改正をめぐる3件の調査の主な回答の状況を以下にまとめてみました。

 高市政権の元での改正に期待するかどうかでは、読売新聞の調査では「期待する」54%、「期待しない」43%。同紙は3日付朝刊の1面トップの記事に「高市首相に期待感」の脇見出しを立て、詳報面では、岸田、石破内閣当時より期待感の水準が高まっているとする識者(井上武史・関西学院大教授)のコメントに「高市政権 改憲機運高まる」との見出しも付けています。ただし、朝日新聞の調査では、高市政権の元での改憲に対して「賛成」47%、「反対」43%。同紙は3日付朝刊の1面トップに「高市政権で改憲 賛否拮抗」の主見出しを取っています。
 国会で改憲の議論を急ぐ必要があるかどうかについて、朝日新聞調査と共同通信調査が尋ねており、回答は「急ぐ必要がある」は朝日33%、共同46%に対し、「急ぐ必要はない」はそれぞれ62%、53%です。共同通信の調査結果を掲載した東京新聞の2日付朝刊は「改憲『急ぐ必要ない』53%」を主見出しにしています。
 興味深いのは、朝日新聞調査が、政治にもっとも優先的に取り組んでほしい政治課題を尋ねていることです。12の選択肢から一つを選ぶ設問で、トップは「年金・医療・介護」で37%。次いで「財政・税制・金融」17%、「こども・子育て、教育」13%と続き、「憲法(改憲・護憲)」はわずか1%です。
 このブログでは、2月の衆院選後にマスメディア各社が実施した世論調査の結果から、選挙で投票に際して重視した政策や、選挙後の高市政権に期待する政策をまとめました。そこでも「憲法」の優先順位は下位でした。その状況に変わりはないと言っていいように思います。

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

 「時は来た」とまで口にする高市首相の高揚感が何に基づくのか、民意の何を見ているのかを疑問に思うほど、社会で憲法改正の機運は高まっていないと言わざるを得ません。

 このほか、3件の世論調査結果で興味深く感じた回答状況を以下にまとめました。

 憲法9条を変えるかどうかの回答状況は調査によってかなり異なります。9条の全文を提示して尋ねる(朝日新聞)かどうかなど、設問によっても結果が異なる可能性があります。
 一方で、尋ね方の違いを問わず、回答状況の傾向が同じなのは、いわゆる「首相の衆院解散権」です。「衆院解散は首相の専権事項」との言辞もあり、マスメディアの政治報道でもしばしば何の留保もなくそのまま報じられています。しかし、憲法にそのような明文はありません。解散権の根拠になっているのは憲法7条の「天皇の国事」です。全文は以下の通りです。

 第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行ふこと。

 3番目の「衆議院を解散すること」が「内閣の助言と承認により」と定められているために、内閣総理大臣=首相の固有の権限のように行使されています。
 3件の世論調査では、設問で憲法7条に触れているのは共同通信だけですが、回答状況は3件とも現状に懐疑的な回答が、現状容認の回答より13~9ポイント多くなっています。民意を踏まえて、憲法改正論議の対象には「首相の解散権の制限」も加えるべきではないかと感じます。
 同性婚と選択的夫婦別姓は、朝日新聞の調査では「分からない」との回答がともに3割前後あるものの、肯定的な回答が否定的な回答を上回っています。人権にかかわることであり、まさに、時代の変化に合わせて変えて行くべき事項だと思います。

※メモ:各調査の概要は以下の通りです
朝日新聞 3000人対象 有効回答1827人 61%
読売新聞 3000人対象 有効回答2030人 68%
共同通信 3000人対象 有効回答1913人 63.8%

「撤回が筋だ」(北海道新聞)、「撤回を強く求める」(信濃毎日新聞)~武器輸出解禁、地方紙は反対、否定的、懐疑的な論調が圧倒

 高市早苗政権が4月21日に、殺傷能力を持つ武器の輸出を全面解禁したことに対しては、地方紙も社説、論説で取り上げています。
 各紙のサイトで全文を読むことができたものに限ってのことですが、輸出解禁に反対ないしは否定的、懐疑的な論調が圧倒しています。
 明確に撤回を求めているのは北海道新聞と信濃毎日新聞です。それぞれの社説の一部を書きとめておきます。

■北海道新聞4月23日付
「殺傷武器輸出の全面解禁 平和国家の理念捨てるな」/紛争加担は許されぬ/過去の反省はどこへ/金稼ぐ道具ではない
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1304253/

 紛争では当事国製以外の兵器が使われることも多い。解禁は日本製の武器で各地の市民が命を落としかねないことを意味する。世界の軍拡競争に手を貸すことにもなる。武力による紛争解決を認めない憲法の平和主義を形骸化させるのは明らかだ。
 歯止めは無いに等しい。輸出先は防衛装備品・技術移転協定を結んだ国に限るとするが、締結先は政府が決められる。
 「現に戦闘が行われている国」へは原則許可しないものの、安全保障上の「特段の事情」があれば例外とする。どれも政権の一存で拡大が可能だ。
 しかも輸出はNSCが許可し、国会には事後的に通知するだけだ。国権の最高機関である国会が許可に関与して止める仕組みはない。立憲主義の軽視にほかならず、極めて危うい。
 改定の手順にも中身にも疑問は尽きない。撤回が筋だ。

■信濃毎日新聞4月23日付
「武器輸出の解禁 危険を直視して撤回せよ」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/gf01d7kah0mt0kgm5adri5l0

 重ねて反対する。武器を輸出すべきではない。「防衛装備品」という無害そうな名を与えても、武器は命を奪い、平和な生活を壊す道具だ。輸出解禁の撤回を強く求める。
 社説はこれまで武器輸出の制限緩和に一貫して反対してきた。ことに高市早苗政権が目指す殺傷能力のある武器の輸出解禁には、何度も警鐘を鳴らした。
 だが政権は、懸念の声に全く耳を貸さず、かろうじて守られてきた平和国家の限界線を閣議決定であっさり踏み越えた。
 問題点を改めて述べる。
 輸出は軍拡競争を過熱させ、地域の安定に寄与しない。輸出先は秘密保護などの協定締結国(現在17カ国)に限定されるが、まずは中国と対立する国に輸出して関係を深め、包囲網を固めるのが狙いだ。当然中国は対抗する。
 互いに対話できないから力頼みになる。その力がまた対話を遠ざける。トランプ米政権が好例だ。武力の蓄積は安全を保障しない。

 そのほかの地方紙も、憲法の平和主義の理念に反することを強調。輸出の手続きに際して、国会の関与を強めることなどを指摘しています。
 共同通信社の3月の世論調査では、殺傷能力のある武器輸出を「認めるべきではない」が56・6%に対し、「認めるべきだ」は36・9%でした。この調査結果を挙げた地方紙の社説、論説も目に付きます。高市首相に国民への説明を求める社説、論説もあり、この点は全国紙でも、輸出自体は支持している読売新聞も指摘している論点です。
 一方、地方紙で、見出しだけを確認できたものを含めて、解禁を支持している社説では北國新聞(見出しは「防衛産業の強化に不可欠」)が目に止まりました。東京発行紙では読売新聞、産経新聞、日経新聞が支持ないしは肯定的評価です。朝日新聞、毎日新聞、東京新聞は否定的です。全体としてみても、武器輸出の解禁に対して、新聞の社説、論説は反対ないしは否定的、懐疑的な論調が圧倒していると言っていい状況です。

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

 以下に地方紙各紙の社説、論説の見出しと、全文が各紙のサイトで読めるものは、本文の一部を書きとめておきます。

【4月22日付】
■東奥日報「国会の関与強める運用を/殺傷武器の輸出解禁」
 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/2257620

 憲法の平和主義を踏まえ、東西冷戦期に旧「武器輸出三原則」は整えられた。それ以来の抑制的な運用の在り方が様変わりする。
 3月の共同通信世論調査で、殺傷武器の輸出を「認めるべきではない」は56%と、「認めるべきだ」の36%を上回った。安全保障政策上の大きな方針転換を、政府と与党による密室協議で短期間のうちに決めてしまう手法は危うい。平和国家の根幹に関わる政策判断は、立法府も責任を共有すべきだ。閣議決定にとどまっている輸出ルールを法制化し、国民の監視下に置くことを求めたい。

■中国新聞「殺傷武器輸出解禁 平和国家の理念なぜ捨てる」
 https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/820750

 政府は武器輸出を、国内の防衛産業育成だけでなく、成長戦略にも結びつける。トップセールスにも前のめりだ。
 与党から「『死の商人』から大量に殺傷兵器を買いながら、自分たちは売らないという矛盾を解消したい」(日本維新の会の前原誠司安保調査会長)との声も聞こえる。戦争で人が死ねば死ぬほどもうかる。それが「死の商人」だ。
 宮沢喜一元首相は三木武夫内閣の外相だった1976年、「わが国は兵器を輸出して金を稼ぐほど落ちぶれてはいない」と国会答弁した。あれからほんの半世紀である。「死の商人」になるために平和国家の理念を捨てるのか。

■西日本新聞「殺傷武器輸出へ 紛争への加担 容認できぬ」
 https://www.nishinippon.co.jp/item/1484451/

 政府は戦闘機や護衛艦をはじめ、殺傷能力を持つ武器の輸出拡大を決めた。安全保障政策の大転換である。
 紛争中の国に対しても、特段の事情があれば例外的に輸出できるようにした。日本製の武器が戦闘に使われ、人を殺傷する恐れがある。到底容認できない。

■沖縄タイムス「殺傷兵器輸出 平和国家の柱が崩れた」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1822310

 外務省が05年に発表した「平和国家としての60年の歩み」は、国際紛争助長回避の項目でこう記している。
 「武器の供給源とならず、武器の売買で利益を得ない」
 武器輸出解禁は、結果的に紛争を助長し、地域の軍拡競争をあおる懸念がある。
 高市早苗首相は「平和国家の基本理念を堅持することに全く変わりはない」とXに投稿した。
 「全く変わりはない」というのは詭(き)弁(べん)でしかない。殺傷兵器の輸出は、平和国家の根幹を損なう。

■琉球新報「政府が武器輸出解禁 国民的議論が不十分だ」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-5204064.html

 紛争中の国への武器輸出は大きな危険をはらむ。例外的に輸出先となる米国や「同志国」には紛争の相手国がいることになる。当然、相手国は日本が敵国を武器支援していると見なすであろう。武器輸出によって、日本が紛争に巻き込まれる恐れがないとは言い切れない。
 武器輸出の解禁は、自民と日本維新の会の連立合意を踏まえた政府への提言に基づいている。運用で政府にかなりの権限を持たせており、国会の監視や歯止めは及ばない。
 これだけの重大な政策転換を閣議決定だけで済ませてはならない。国民的な議論が不可欠である。野党も徹底して論戦を挑み、政府の暴走を止めるべきだ。

■山梨日日新聞「殺傷兵器輸出 国会の関与を強めるべきだ」
■山陰中央新報「殺傷兵器輸出 国会関与強める運用を」
■佐賀新聞「殺傷兵器輸出 国会の関与強める運用を」
■大分合同新聞「殺傷兵器輸出 国会の関与強める運用を」

【4月23日付】
■新潟日報「武器輸出の解禁 平和主義を逸脱しないか」
 https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/819295

 武器が他国への侵略に使用された場合の対応について、小泉氏は国会の質疑で「相手国に使用停止を求め、是正を強く要求する」と答弁したが、運用指針に記載されていないという。今回の改定自体に、不備があるのではないか。
 そもそも、安保政策の重大な転換にもかかわらず、十分な国会論議も、国民への説明もなされていないことは看過できない。
 共同通信社が3月に行った世論調査では殺傷能力のある武器輸出を「認めるべきではない」が56・6%で、「認めるべきだ」の36・9%を上回った。
 武器輸出を巡り、国民の評価が分かれているのは明らかだ。首相はリスクも含め、改めて丁寧に説明するべきである。

■神戸新聞「武器輸出解禁/平和国家の根幹が崩れる」
 https://www.kobe-np.co.jp/opinion/202604/0020274239.shtml

 首相ら政権幹部は「平和国家の基本理念を堅持することに全く変わりはない」と強調する。だが、輸出された武器が紛争に使われ、軍拡競争をあおる危険性は否定できない。それは憲法で不戦を誓った日本が「戦争に加担する国」に転じることを意味する。戦後築いてきた国際的な信用が損なわれるのではないか。
 政府は武器輸出で同志国との防衛協力を強化するとともに、国内防衛産業の生産基盤増強も狙う。そもそも武器の供給を成長戦略に結び付ける考え方が平和国家にふさわしいのか。政策転換によるリスクを語らず、議論を避ける政権の姿勢こそが民主主義を損ない、平和国家の根幹もむしばむことに気づくべきだ。

■高知新聞「武器輸出解禁 平和国家の堅持 見えず」
 https://www.kochinews.co.jp/article/detail/994302

 政権幹部らは「平和国家の理念は堅持する」と躍起になってアピールしている。しかし、歯止め策の緩さからは、その理念に執着する姿勢をうかがうことができない。
 「5類型撤廃」に関しては、これまで慎重だった公明党が自民との連立政権から離れ、前向きだった日本維新の会が連立入りしたことで、わずか半年で決定した。
 今回の決定は法改正を必要としない中、特に歯止め策に関しての議論が十分だったとは言い難い。国民の理解も進んでいない。あらためて「平和国家」のあり方を掘り下げて議論するべきだ。

■徳島新聞「武器輸出解禁 平和主義の理念を守れ」
■熊本日日新聞「武器輸出解禁 『平和主義』守る歯止めを」
■宮崎日日新聞「殺傷兵器輸出 国会の関与強める運用を」

【4月24日付】
■北國新聞「武器輸出解禁 防衛産業の強化に不可欠」
■愛媛新聞「殺傷武器輸出解禁 平和国家願う国民の思いどこに」

【4月25日付】
■北日本新聞「武器輸出解禁/実効性ある歯止め策を」

【4月27日付】
■神奈川新聞「武器輸出解禁 戦争準備の撤回求める」

【4月29日付】
■山陽新聞「武器輸出の解禁 国会の監視機能強化図れ」
 https://www.sanyonews.jp/article/1913368

 武器輸出の可否は首相、官房長官、外相、防衛相による国家安全保障会議(NSC)4大臣会合で審査する。輸出を認めた場合は国会に通知するが、あくまで事後の対応である。政府の判断で際限なく輸出が拡大することがないか懸念は尽きない。事前通知に切り替えるなど、国会によるチェック機能をもっと強化するべきだ。
 紛争中の国への武器輸出は原則不可となっている。ただし、日本の安保上の必要性を考慮して「特段の事情がある場合」は例外的に認められ、米軍がインド太平洋地域での体制維持のために武器を必要としているケースなどを想定している。政府の裁量の余地が大きく、審査基準は曖昧と言わざるを得ない。

 

平和国家の理念を根本的に変える「国論二分」の武器輸出解禁~歴史に学ぶ姿勢、軍事組織の統制の見識を欠く高市首相、小泉防衛相の危うさ

 高市早苗政権は4月21日、殺傷能力を持つ武器の輸出を全面的に解禁しました。閣議と国家安全保障会議で、防衛装備移転三原則と運用指針を改定しました。これまでは輸出の目的を救難、輸送、警戒、監視、掃海の「5類型」に限っていましたが、この制限は撤廃されました。
 日本国憲法9条は、国権の発動としての戦争と武力による威嚇、武力行使を国際紛争の解決手段としては永久に放棄すると定めています。戦後の日本の武器禁輸政策は、この憲法9条と対をなすものと理解していました。日本が自国はもちろんのこと、他国の戦争、他国の武力による威嚇や武力行使にも加担しないことを担保する具体策の一つとしての意義があるからです。
 高市首相は21日午前のX(エックス)への投稿で、自衛隊の装備に他国製の武器があるのだから、他国に日本製の殺傷兵器を供与してもいいとの趣旨の見解を示しています。しかし、専守防衛に徹してきた自衛隊と、他国の軍隊は性格が異なります。逆に言えば、自衛隊を他国の軍隊と同じように戦争ができる「軍」に変えたいとの意向がにじんでいると感じます。武器輸出解禁は、憲法9条の改変と根っこでつながっています。
 高市首相は同じ投稿の中で「戦後80年以上にわたる平和国家としてのこれまでの歩みと基本理念とを堅持することに、全く変わりはありません」と記しています。そうでしょうか。武器輸出、そして政府のインテリジェンス機能の強化、スパイ防止法の制定、それらの仕上げの憲法9条改正こそ、かねて口にしている「国論二分」の政策のはずです。平和国家の歩みと基本理念を根本的に変えるから国論が二分になることを、高市首相自身が自覚しているはずです。
https://x.com/takaichi_sanae/status/2046392245604291018

 殺傷武器の輸出をめぐっては、現に戦闘を行っている国であっても、日本の安全保障上の特段の事情があれば、例外的に認められます。それを決めるのは国会ではなく政府です。米国とイスラエルによるイラン攻撃に対して、法的な評価を避け続け、トランプ政権追随のままでいる高市政権が、トランプ大統領から武器の供与を求められた場合に、断ることができるでしょうか。現状でも在日米軍基地は米軍の出撃拠点になっています。日本製の武器が米軍によって使用されることで、より直接的に日本が米国の戦争に加担する恐れが高まっていると考えざるを得ません。
 武器の輸出それ自体も問題ながら、極めて危ういと感じるのは、「国論二分」の政策を力押しで進める高市首相に、かつて戦争に突き進んだ日本の現代史の教訓に対する知見や見識もなく、歴史に学ぶ姿勢すら感じられないことです。その点は、小泉進次郎防衛相も同じです。
 現職の陸上自衛隊3等陸尉が刃物を所持して東京の中国大使館に侵入する事件がありました。小泉防衛相や木原稔官房長官が「遺憾」と口にしただけです。自衛隊内の独自調査を指示することもなく、あまりに事態を軽視しています。
 4月12日の自民党大会では、陸自の3等陸曹が制服姿で登壇。自衛隊員だとの紹介を受けて君が代を歌いました。自民党による自衛隊の政治利用が本質なのに、自民党や高市政権は「君が代を歌うことは政治的行為ではない」「休暇中の私的な行為なので問題ない」「自衛官は常時制服着用」などと釈明を重ね、小泉防衛相は「事前に報告があれば別の判断もあったかもしれない」との趣旨のことを述べ、自衛隊の報告体制に問題をすり替えました。大会の会場で高市首相も小泉防衛相も、3曹が歌うのを見ていました。現場で政治利用に承認を与えたも同然の当事者です。小泉防衛相が3曹と一緒に撮った写真を自身のXに投稿した行為は、防衛相自身による自衛隊の政治利用です。投稿を削除したから不問に付される問題ではありません。罷免でも不思議はありません。
 軍事組織の規律や統制に対する理解や見識を欠いていることに懸念を抱かざるを得ない高市首相や小泉防衛相が、戦争ができる“普通の”国を目指して「国論二分」の政策を、国会を軽視して押し進めていく現状に、憲法がないがしろにされていると感じます。日本の民主主義の根幹であるはずの立憲主義、法治主義の危機です。
 そうした折に、武器輸出解禁と同じ4月21日、大分県の陸自日出生台演習場で、射撃訓練中の戦車で砲弾が破裂し、乗員3人が死亡、1人が重傷を負いました。予想もできなかった惨事です。原因を突き止め、是正すべきを是正しなければ、自衛隊員の生命が危険にさらされ続けます。
 軍事組織である自衛隊の現場で何が起きているのか。実態の解明には、見識を備えたトップの強力なリーダーシップが必要ですが、高市首相や小泉防衛相に可能でしょうか。

 殺傷能力がある武器の輸出解禁を、4月22日付の東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の朝刊はいずれも1面トップで報じました。この日の最重要のニュースとの判断です。ただし、社説も合わせてみてみると、肯定的な評価と否定的な評価とにはっきり分かれています。

 日経新聞は「武衛産業 成長底上げ」の主見出し。肯定的な評価ながら、企業業績の視点を前面に出す発想は少なからず驚きました。
 産経新聞は社説で高市政権を全面的に支持。読売新聞も24日付の社説でほぼ全面支持を表明しつつ、高市首相に説明を尽くすよう求めています。
 産経、読売両紙はかねてから憲法9条改変が社論です。武器輸出に対する論調の差異は、憲法に対する論調の違いと重なっているように感じます。

▽産経新聞社説:4月22日付
「武器輸出の解禁 平和守る決定を歓迎する」
 https://www.sankei.com/article/20260422-XQTVWWR6MVN7BODME6Y7FCBFBA/

 武器輸出の解禁を評価する。日本と地域の平和に資するからだ。同盟国・同志国の防衛力を高め、日本にとって望ましい安全保障環境を創出できる。防衛産業を成長させ、国民を守る自衛隊の継戦能力を高められる。高市内閣と与党自民党、日本維新の会の努力を多としたい。
 (中略)
 武器輸出解禁を「戦後の平和主義に反する」と批判する声が一部にあるが間違っている。
戦後でも日本は、占領期に起きた朝鮮戦争に際し、銃砲弾を生産して国連軍の主力である米軍へ納入した。これが北朝鮮の侵略をくじくのに寄与した。この史実を思い出したい。
移転三原則の源流である武器輸出三原則は昭和42年に制定され、運用が拡大されて事実上の武器禁輸を招いた。
もし、世界の主要先進国が従来の日本にならって武器輸出を自制していればどうなったかを想像してほしい。日本は自衛隊の装備を十分に揃(そろ)えられず、ウクライナは侵略者ロシアに抵抗する術(すべ)を持ちえなかったろう。それでいいはずがない。

▽読売新聞社説:4月24日付
「防衛装備品移転 ルール見直しで同志国増やせ」
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20260424-GYT1T00005/

 平和を唱えるだけで平和を守れるなら、それに越したことはない。
 だが、現実の国際社会では、大国が隣国を侵略し、超大国のリーダーが「文明を滅ぼす」とまで公言して、他国に対し、国際法を無視した攻撃を展開している。
 平和と安全を守るためには、防衛力の備えはもちろん、反撃のための継戦能力の強化が必要だ。自国だけで安全を守り切れない以上、同盟国や同志国と防衛装備品の相互援助を含めた協力体制を構築することが不可欠となる。
 政府が、防衛装備移転3原則とその運用指針を改定し、輸出を原則として可能としたのは、安全保障環境の変化に対応する措置として当然だ。平和国家の理念を損なうどころか、平和を守るための新しい構想への転換と言える。
 (中略)
 今回の改定は、法改正が不要だったため、国会での議論は短時間に限られた。世論の理解を得ているとは言い難い。今後、輸出拡大の狙いや意義について、高市首相自ら説明を尽くすべきだ。

 朝日新聞、毎日新聞、東京新聞は武器輸出の解禁に否定的、批判的です。特に東京新聞の社説(中日新聞と共通)の「平和主義を損なう浅慮」との見出しが目を引きました。

▽朝日新聞社説:4月22日付
「武器輸出政策の大転換 平和国家の理念はどこへ」/殺傷兵器を全面解禁/国会の関与は不十分/『好循環』は本当か
https://digital.asahi.com/articles/DA3S16448579.html

 武器輸出は国のあり方の根本にかかわる重大事なのに、三原則と運用指針の改定は政府・与党の判断だけで行われた。日本は他国の紛争に加担しない。国際法や人権を無視する国に武器は渡さない。そのための方策を国会で徹底的に議論する必要がある。政府には、国会の関与の強化を含め、再考を求めたい。

▽毎日新聞社説:4月22日付
「武器輸出の5類型撤廃 平和主義曲げぬ歯止めを」/野放図な拡大を危ぶむ/国会関与の仕組み必要
https://mainichi.jp/articles/20260422/ddm/005/070/088000c

 5類型撤廃は昨年の自民党と日本維新の会の連立合意に盛り込まれた。高市早苗政権は、防衛分野を成長戦略の柱の一つに位置づけている。三木内閣当時の宮沢喜一外相が国会で「日本は兵器の輸出で金を稼ぐほど落ちぶれていない」と述べたことについて、高市首相は「時代が変わった」と突き放した。
 地域の安定を実現するための明確なビジョンを欠いたまま、武器輸出をなし崩しに拡大することは許されない。日本が「死の商人」とみられるような事態は避けねばならない。
 戦後日本が掲げてきた平和国家のあり方に関わる問題である。国会で正面から議論すべきだ。

▽東京新聞社説:4月22日付 ※中日新聞と共通
「殺傷武器の輸出解禁 平和主義を損なう浅慮」/武器で稼ぐ「普通の国」/対米輸出なら戦争加担/歯止めの在り方論ぜよ
https://www.tokyo-np.co.jp/article/483546

 政府が防衛装備移転三原則と運用指針を改定し、殺傷能力のある武器の輸出を全面解禁した。国際紛争の助長を避けるために武器輸出を厳しく制限してきた安全保障政策の大転換は、憲法の平和主義を損なう浅慮と断じるほかない。
 武器輸出の制限は、専守防衛、非核三原則とともに、戦後日本の平和主義の根幹をなしてきた。1967年に武器輸出三原則を打ち出して以降は、事実上の全面禁輸が国是になってきた。
 近年は段階的に武器輸出の緩和を進め、他国と共同開発する戦闘機や護衛艦などの輸出を容認してきた。ただ、完成装備品の輸出は救難・輸送・警戒・監視・掃海の5類型の用途に限り、殺傷兵器の輸出に縛りをかけていた。
 政府は今回、この5類型を撤廃し、殺傷兵器の完成品輸出を容認した。国会での熟議や国民的議論もなく、平和主義の理念を蔑(ないがし)ろにするものとして深く憂慮する。

 以下に、4月22日付の東京発行各紙について、関連記事の主な見出しをまとめておきます。大分で陸自戦車の砲弾が破裂し3人が死亡した出来事の記事の扱いと見出しも書きとめておきます。

■朝日新聞
・1面トップ「殺傷武器輸出 全面解禁/政府決定 5類型の制限撤廃/戦後の抑制政策転換」
・2面・時時刻刻「武器輸出 踏み出した政府/国会審議経ず 自維協議わずか3回」「戦闘中の国へも輸出の余地/歯止めは『事後通知』実効性に疑問も」「防衛産業 予算増額が追い風」
・4面「野党『説明が不十分』『国内産業を育成』」/識者談話2人
・第2社会面「武器輸出 働いてきた人の思いは/造船継承へ『モノづくり大事』/海外に『武器ではなく平和を』」

1面準トップ「戦車の砲弾暴発 3人死亡/大分 陸自の訓練1人重傷」
社会面トップ「異例の暴発『記憶ない』/大分 陸自トップら衝撃/『10式』、最新の国産主力戦車」

■毎日新聞
・1面トップ「武器輸出を解禁/安保政策の転換点/閣議決定 装備『5類型』撤廃」
・2面「各国、受け入れ温度差/対中スタンスを反映」/「ミニ論点」識者2人
・3面・クローズアップ「政府、売り込みへ躍起」「歯止め策 不十分の声」「防衛産業、期待と課題」
・4面「野党『政府説明足りぬ』/5類型撤廃『平和国家に傷』懸念も」
・社会面トップ「市民ら動かす危機感/反対の声 デモで可視化」/「改憲反対集会 最多は30代」

1面3番手「砲弾破裂 3隊員死亡/大分・陸自演習場 戦車射撃訓練中」
第2社会面「安全管理 住民ら疑問/大分 落雷事故に続き隊員死亡」

■読売新聞
・1面トップ「『武器』の輸出 可能に/3原則改定 装備『5類型』撤廃/協定締結国に限定」
・2面「『平和国家 堅持』強調/『武器輸出』政府、段階的に緩和」/「中国『深刻に懸念』フィリピンは歓迎」
・3面・スキャナー「安保政策を転換/防衛産業強化で抑止力向上」「国民の理解不可欠/戦闘中は原則不可/国会には事後通知」
・4面「武器輸出容認 野党賛否/国民賛同『防衛産業育成する』」
・21面・防衛装備移転3原則と運用指針の主な変更点

1面3番手「陸自戦車『暴発』3人死亡/大分の演習場 砲弾破裂、1人けが」
社会面トップ「『前代未聞』隊員ら衝撃/破裂前 通常通り射撃か」/「『10式』南西防衛投入を想定」

■日経新聞
・1面トップ「武衛産業 成長底上げ/装備輸出『5類型』撤廃 政府決定/IHI、ミサイル部品増産」
・3面「防衛市場10年で5割増、640兆円/輸出拡大、外交力高める」
・4面・識者3人

社会面準トップ「戦車射撃訓練、4隊員死傷/大分の陸自演習場 砲弾が破裂/陸自トップ『早急に原因究明』」

■産経新聞
・1面トップ「武器輸出 原則可能に/防衛政策の大転換/政府『5類型』撤廃」/連載企画「岐路の国防 武器輸出」上「公明『死の商人論』足かせ/連立相手交代で状況一変」
・3面(企画続き)「共通武器 他国と連携/中国脅威『一国では安全確保できない』」/識者・拓殖大海外事情研究所・佐藤丙午所長

1面4番手「戦車砲弾破裂 3人死亡/大分 陸自訓練中、1人重傷」
社会面トップ「破裂『聞いたことない』/陸自トップ 安全装置複数」/「周辺住民不安『こんな近くで』」

■東京新聞
・1面トップ「殺傷武器輸出 解禁/平和国家 歩み大変換/政府新指針 5類型撤廃」/「『安保のジレンマ』陥る恐れも/抑止力向上 保証なし」
・2面・核心「国民不在で歴史的改定/禁輸から半世紀 緩和繰り返しの末」「被害受ける側の視点持たず/維新と連立、国会軽視加速」青井未帆・学習院大教授/「『売り上げ期待』『イメージ悪く』/武器部品製造 中小メーカー」

社会面トップ「戦車砲弾破裂 3人死亡/1人重傷 陸自演習場 訓練中 大分」/「『記憶にない事故』陸自幹部」

※参考過去記事

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首相と防衛相には政治利用の実態的な責任があるはず~自衛官の自民党大会・君が代問題、新聞各紙の社説、論説

 4月12日に開かれた自民党の党大会で、現役の自衛官である陸上自衛隊の3曹が、制服姿で君が代を歌ったことに対し、防衛省も日本政府も、自衛隊員の政治的行為には当たらず、自衛隊法には違反しないとの見解を押し通すようです。小泉進次郎防衛相は4月19日の閣議後の記者会見で、自衛隊、防衛省内の報告、連絡体制の問題に収れんさせようとしているように受け取るほかない答弁をしています。問題のすり替えは看過できません。
 記者会見のやり取りは、防衛省の公式サイトで見ることができます。
 https://www.mod.go.jp/j/press/kisha/2026/0417a.html

記者:
陸上自衛官による自民党大会での国歌歌唱の件で伺います。15日の衆院内閣委で木原稔官房長官が、政治レベルの政務三役や官房長、事務次官まで情報が上がっていれば別の判断もあった旨、御発言されました。大臣は14日の閣議後会見で記者から大臣まで情報が上がっていれば出席を認めていたのかと問われ、仮定の質問には答えないと回答されましたが、改めてですね、木原稔長官の答弁を踏まえ、御自身や他の幹部まで報告が上がっていれば隊員の出席を認めなかった可能性があったのか教えてください。

大臣:
はい、今回の件については、自衛隊法違反に当たるものではありませんが、私が事前に報告を受けていなかったように、私を含む幹部への報告や、関係部署の情報共有について反省すべき点があったと認識しています。その上でお尋ねについて、一般論として申し上げれば、政党の行事への自衛官の参加は、個別具体的に判断されるべきものであることから、仮に情報が上がっていれば、別の判断もあり得たと考えています。いずれにせよ、自衛隊の活動に対する国民の理解を得る観点からも、今後は、幹部への報告や、関係部署の情報共有を徹底してまいります。

 「仮に情報が上がっていれば、別の判断もあり得たと考えています」。そうでしょうか。
 自民党大会には高市早苗首相も小泉防衛相もその場にいました。目の前で制服姿の3曹が立っている、現職の自衛官として紹介されている、そのことだけで、自衛隊法違反の行為をとがめて当然でした。首相は自衛隊の最高指揮官です。責任は形式的なものではありません。首相や防衛相が自衛官の政党大会への出席を追認していたことは、実態としても極めて大きな責任があります。
 小泉防衛相に至っては、当該の3曹と一緒に写真を撮り、自身のX(旧ツイッター)に投稿までしています。背景には大きく「自民党」。この小泉防衛相の行為で、自民党による自衛官、自衛隊の政治利用は動かしたい事実として固定されたも同然です。投稿を後に削除したのは、小泉防衛相自身がそのことを自覚しているからではないのかと感じます。
 このブログの一つ前の記事でも触れた通り、この自民党大会で高市首相は「時は来た」と異様な高揚感と共に、憲法改正の発議のスケジュールにも触れています。自民党は憲法9条に自衛隊を明記することを掲げています。その場で制服姿の自衛官が君が代を歌う。自民党による自衛隊の政治利用そのものです。
 あるいは、高市首相や小泉防衛相が本気で「政治的行為ではない」「自衛隊法違反ではない」と考えているのだとしたら、政府機構と自民党との境目を、高市首相も小泉防衛相も自覚できていないことを疑わざるを得ません。そうなら自民党による自衛隊の私物化です。
 首相も防衛相も政治利用を認めず、「事前に聞いていなかった」ことだけを反省点にする。軍事組織に対するシビリアンコントロールは、高市政権の元では危機に瀕していると考えざるを得ません。
 首相、防衛相の問題の本質をすり替え、無理に無理を重ねる対応は、危機管理としても稚拙に過ぎます。軍事組織の最高指揮官として、「いざ」というときに適切な判断と部隊運用ができるのか。そういう政権の下で、軍拡が進んでいることにも深刻な危うさを感じます。

※参考過去記事

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 この自衛官の君が代斉唱の問題に対して、いくつかの新聞が社説、論説で取り上げています。ネット上の各紙のサイトで確認できたものを書きとめておきます。すべて政府・防衛省、自民党の見解に批判的、懐疑的です。

【4月19日付】
■琉球新報「自民大会自衛官歌唱 政治的中立の逸脱明らか」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-5198169.html

 保守層にアピールする演出を企図した可能性など、自衛隊の政治利用という批判は免れない。党大会に自衛官を招けば、自衛隊法が制限する政治的行為に抵触する可能性を野党に追及されるという懸念は自民党内になかったのか。巨大与党のたがの外れ具合にあきれるばかりだ。
 政府や防衛省、自民党が不問に付す姿勢を通すようであれば、「自民党のための自衛隊」や「自衛隊のための自民党」という結託を認めるようなものだ。民主的統制の仕組みを根幹から危うくし、自衛隊に対する信用は失墜する。
 政治的中立からの逸脱を直ちに認め、再発防止を図らなければならない。

【4月18日付】
■信濃毎日新聞「党大会に自衛官 緩んでいる政治的中立」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/gf01d7h12hshu9qn9evfq6sg

 問題の根本は、特定の政党の大会で誰が見ても自衛官と分かる形で登壇、歌唱し、それを認めた組織の判断にある。党勢の拡大に自衛隊が協力したと受け取られても仕方ない対応ではないか。
 首相は会場に着くまで「知らなかった」とし、小泉防衛相にも事前の報告はなかったという。小泉氏は「情報共有について反省すべき点があった」とし、報告体制を改善するとしている。
 政治的中立を巡る疑念が広がるなか、木原稔官房長官は、自衛隊法に抵触しないとした上で、「政治的な誤解」を招く可能性があったことを「しっかりと反省すべきだ」とも述べた。
 議会に責任を負う大臣(文民)の制御下に実力組織を置き、独走を防ぐ「文民統制」が機能しているのか、大いに疑問だ。自民と防衛省それぞれが違法性を含め検証し、改めて見解を示すべきだ。

■山形新聞「自民党大会に自衛官 政治利用の疑念拭えぬ」※見出しのみ確認
■南日本新聞「党大会に自衛官 中立性への疑義は当然」※見出しのみ確認

【4月17日付】
■東奥日報「政治利用の疑念拭えない/自民党大会に自衛官」
 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/2253864

 党大会では憲法9条への自衛隊明記も視野に、改憲原案の国会提出を目指す運動方針を採択。高市政権は防衛費増や装備品の輸出拡大など防衛力強化の方針を推進する。自衛官の出席は強化策の見返りに党勢拡大へ協力したと勘繰られても仕方がないだろう。
 衆院で審議中の「国家情報会議」創設法案に関し、新設される国家情報局が政治的中立を保てるか、野党が懸念を示している。権力を握る側が、自衛隊を含む行政機構を恣意(しい)的に政治利用することは厳に慎まなければならない。
 首相は会場に着くまで自衛官が出席することは知らなかったとも述べた。事実としても、党総裁で自衛隊の最高指揮官として監督責任は免れない。首相以外の党幹部は式次第を見て誰も違和感を持たなかったのだろうか。与党として国政を預かる自覚を欠いていたとしか言いようがない。

■新潟日報「党大会に自衛官 政治的中立に疑念生じた」
 https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/815706

 小泉進次郎防衛相は、事前に報告がなかったとし、「報告体制の改善が必要だ」と述べた。
 陸自トップの荒井正芳陸上幕僚長は不適切ではないとの見解を示した上で、「隊員一人一人の自覚を促すような指導を徹底したい」と話した。
 歌唱した隊員に問題があるのではない。自衛隊内の体制に責任を転嫁しようとする小泉氏や防衛省の対応こそが疑問だ。
 隊員が特定の政党の党勢拡大に協力したとみられたことは、災害時の被災地支援などに取り組み、積み上げてきた国民からの自衛隊への信頼を大きく損なうことにつながりかねない。
 党大会で首相は、改憲への強い意欲を示し、来年春の党大会までには、改憲発議の実現にめどをつけたいと強調した。自民は憲法9条への自衛隊の明記を含む改憲4項目をまとめている。
 まさに自衛隊の在り方が問われているタイミングで、自衛隊を利用するかのような軽率な判断が行われた。衆院で改憲発議に必要な3分の2を超える議席を持つことへの慢心がなかったのか、自民は十分に反省する必要がある。

■中国新聞「自民党大会で自衛官歌唱 政治的中立といえるのか」
 https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/818420

 党内から反省の声が聞こえてこないのはなぜだろう。党総裁の高市早苗首相は、特定政党への支援を呼びかけたのではなく「法律的に問題はない」との認識を示した。「私人として歌唱した」と説明したが、制服姿の隊員を「私人」と呼ぶのは無理がある。政治利用の疑念が拭えず、自衛隊の最高指揮官として監督責任は免れない。
 小泉進次郎防衛相は首相と同じく事前に報告はなかったとし、「報告体制の改善が必要」と語った。事前に知っていれば止めたと言わんばかりだが、党大会後に隊員と2人で並んだ写真を交流サイト(SNS)に投稿した。その後削除したのは、問題ありと認めたようなものだ。認識が甘いと言わざるを得ない。
 「国歌の歌唱は政治的行為に当たらない」との防衛省の説明は論点ずらしである。何を歌ったかが問題ではない。誰が見ても自衛官と分かる状況で政党行事に参加し、歌唱したことに問題がある。
(中略)
 長年政権を担ってきた自民には、自衛隊との関係に誤った認識が根付いているのではないか。首相は党大会で憲法改正に強い意欲を示した。自民がまとめた改憲項目の一つが9条への自衛隊明記だ。自衛隊には悲願だろう。
 しかし政治と自衛隊の距離感は、「文民統制」と法令順守に根差したものでなければ幅広い国民の信頼は得られない。民主主義の原則の徹底と検証を双方に求める。

【4月16日付】
■朝日新聞「自民党と自衛隊 揺らぐ政治的中立性」
 https://digital.asahi.com/articles/DA3S16444570.html

 自民は、今回の起用は党側の発案ではなく、党大会の企画会社側からの推薦だったという。自衛隊の中立性に疑義を持たれかねない人選に、なぜ違和感を持たなかったのか。自衛隊が災害派遣など、地道な活動で積み上げてきた国民の信頼を損ないかねない。政権の座に長くあることで、「私兵」のような感覚があるとしたら大間違いだ。
 一方の防衛省・自衛隊の側も、問題意識がなさ過ぎる。企画会社からの問い合わせに「問題ない」と返答。大臣や首相に報告も上げておらず、組織内の連絡体制や意思疎通にも疑問がある。
 小泉氏は党大会当日、この隊員との写真や「党にとって重要な場で大役を担ってくれた」と労をねぎらうコメントをX(旧ツイッター)に投稿した。政治的行為であるととられることを懸念してか、後に削除したが、自衛隊を統括するトップとしての自覚に欠ける。
 自衛隊は政権政党がどこであれ、国民全体に尽くす中立性が絶対的に求められる。政治が軍事に優先する「文民統制」も、確実に担保されねばならない。自民党と自衛隊双方に、民主主義の原則と法令順守への意識が欠如していては、幅広い国民の信頼は得られない。

■北海道新聞「自民党と自衛隊 見過ごせぬ政治利用だ」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1301407/

 党大会は党の最高意思決定機関で党勢拡大を図る場だ。高市早苗首相は「職務ではなく私人として歌唱した」と釈明したが、隊員は声楽要員で、身分を紹介された上で歌唱している。制服を着て出席したにもかかわらず「私人」は通用しない。
 そもそも自衛隊法61条は勤務時間の内外を問わず、選挙権行使を除く隊員の政治的行為を禁じている。施行令では例として「政治的目的のために官職、職権その他、公私の影響力を利用すること」などを挙げている。
 首相は「特定政党への支援を呼びかけたのではなく法的に問題はない」とも述べたが、政治的な場での出席と歌唱は支援と受け止められても仕方がない。
 自民党は隊員を政治利用したといえる。企画会社の推薦というが、政権内部で止める動きがなく幹部が「問題ない」と繰り返す事態は深刻である。巨大与党の緩みにほかならない。

【4月15日付】
■中日新聞・東京新聞「自民大会で国歌 自衛隊の政治利用慎め」
 https://www.chunichi.co.jp/article/1237548

 自民党は自衛隊明記を含む改憲を目指し、党大会で高市早苗総裁(首相)は次の党大会までに発議のめどをつけたいと述べた。
 自衛隊員に国歌を歌わせたことに、改憲機運を盛り上げる意図があったなら政治利用そのものだ。自民党内に止める人がいなかったとしたら機能不全は深刻だ。
 自衛隊は最高指揮官の首相の指示に従い、行動を国民の代表で構成する国会に統制される。自民党が長期政権のおごりから自衛隊員を私兵のように扱うなら、文民統制を自ら損なうことになる。
 防衛省・自衛隊側の対応も軽率のそしりを免れない。小泉進次郎防衛相は自衛隊員は私人としての参加だと違法性を否定したが、制服を着用し、官職も紹介されている。自衛隊員としての歌唱ではないとの言い訳は通用しまい。
 小泉氏は自衛隊員の党大会出席は事前に報告がなかったともしている。後に政治利用が問題視されるような事案を大臣への報告なく決めたのなら、防衛省内の手続きの問題も指摘せざるを得ない。

 

改憲、時は来ていない~高市首相の高揚感の危うさ

 4月12日の自民党大会で、陸上自衛隊の3等陸曹が君が代を斉唱していたことに対して、一つ前の記事で、自民党による軍事組織の政治利用への危惧を書きました。
 自民党大会ではもう一つ、気になることがありました。高市早苗首相が憲法改正について、「時は来た」と高揚した表現で、「発議に何とかめどが立ったと言える状態で、来年の党大会を迎えたい」と述べ、この1年の間の改憲発議を目指すとの時間的な目標を明示したことです。

※共同通信「高市首相、改憲『時は来た』 統一地方選での勝利方針も採択」
 2026年04月12日 15時49分

 https://www.47news.jp/14141271.html

www.47news.jp

 2月の衆院選で、改憲発議に必要な3分2以上の議席を自民党単独で獲得したことが、この高市首相の高揚感の背景にあるのだと思います。しかし、高市首相が「時は来た」と口にするほど、改憲への社会的な機運が高まっているわけではありません。むしろ、世論、民意は憲法改正には冷静です。そのことは、2月の衆院選後にマスメディア各社が実施した世論調査の結果から明白です。
 このブログの以前の記事で紹介した表を再掲します。

 時は来ていません。
 民意を見ようとせず、選挙の結果を自分の願望のために恣意的に使おうとすることに危うさを感じます。

※参考過去記事
 衆院選後の世論調査の詳しい結果も書きとめています。

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 自民党は憲法に自衛隊を明記することを掲げています。連立を組む日本維新の会は、「軍」の保有の明記を志向しています。そういう政党の大会に自衛官が招かれ、自衛官であることの紹介を受けて「君が代」を歌い、党の広報もXの公式アカウントに発信しました。小泉進次郎防衛大臣も自身のXで写真も投稿していました(後に削除)。
 憲法がないがしろにされています。