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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

自民党に厳正な調査と処分は期待できたか~「検察の機能不全」を改めて振り返る

 自民党は4月4日の党紀委員会で、パーティー券裏金事件をめぐり39人の処分を決めました。安倍派の幹部議員2人が離党勧告、3人が資格停止、安倍派の14人と二階派の3人が役職停止、安倍派の17人が戒告です。一つの節目ではあるのですが、安倍派で派閥ぐるみの裏金作りが始まった経緯は不明のままです。岸田派も派閥の資金処理が刑事訴追の対象になったにもかかわらず、岸田文雄首相(党総裁)は不問となったこと、二階氏も不問となったこと、処分の対象者を、不記載の金額500万円で線引きしたことに何ら合理性も説得力もないことなど、処分の意義も内容自体も疑問ばかりです。
 東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)も5日付の朝刊で1面、総合面のほか、政治面や社会面にも関連記事を載せ、大きく報じています。そろって社説でも取り上げており、見出しを見るだけでも「『けじめ』にはほど遠い」(朝日)、「解明なき幕引き許されぬ」(毎日)、「これで党の再生につながるか」(読売)などと、批判のトーンでそろっています。
 自民党と、そのトップである岸田首相が批判を受けるのは当然としても、少し視野を広げて俯瞰してみて「なぜこんなことになっているのか」と考えてみた時に、改めて目を向けた方がいいように思うことがあります。「検察の機能不全」です。

■捜査を尽くしたのか
 このブログで繰り返し書いてきましたが、検察があらゆる手立てで捜査を尽くしたと言えるのか、はなはだ疑問です。政治資金規正法の不備を理由にして、キックバックを受けた資金を収支報告書に記載しなかったことに対して、会計責任者だけしか立件しない、との結論ありきだったのではないか、と感じます。
 虚偽記載の立件にしても、先例を理由に不記載の金額を3000万円で線引きしたことも妥当でしょうか。今回の事件は派閥ぐるみ、つまりは組織的な前代未聞の悪質さです。そうであるなら、先例にとらわれず、虚偽記載があった議員についてはすべて訴追する、という判断もあり得たはずです。刑罰を与える必要があるかどうか、裁判所が判断を示せばいいことです。そうすることで民主主義社会の三権分立も機能を果たすことにもなります。
 裏金は実態として議員の個人所得ではなかったのか、という点も、検察の捜査の段階で、国税当局と連携して解明を進めることも可能だったはずです。そんな捜査の例はいくらでもあります。
 自民党が厳正な調査も処分もできないことは、批判を受けても仕方がないことですが、では、本当にきちんとした厳正な調査と処分が自民党に期待できたのか。最初から期待できなかった、こうなってしまうことは十分に予想されたからこそ、世論も検察の捜査に期待していたはずです。検察が捜査終結を表明した後の世論調査で、派閥幹部の政治家を立件しなかった検察の判断を疑問とする回答が8割前後に上ったことからも、そうした民意がうかがえます。
 自民党が厳正な調査も処分もできないのに、政治資金規正法の改正が果たして可能でしょうか。派閥幹部の立件回避の理由を法の不備に求めた検察自身が、その不備がそのまま放置されるのに、結果的にとはいえ、加担するようなことになってしまえば、皮肉としか言いようがありません。この裏金事件で問われるべきは自民党の腐敗、堕落だけではなく、「検察の機能不全」もその対象に加えていいのではないかと思えてなりません。安倍晋三政権が検察を言うがままの支配下に置こうとしたと批判された、検事長の定年延長問題があったのは、わずか5年前のことです。その安倍政権の足下で、組織的な裏金作りは続いていました。万が一にも、政治に忖度する検察であってはならないはずです。

■組織ジャーナリズムの課題
 検察の捜査が終わると、マスメディアの報道は、自民党と岸田首相(党総裁)の動向を追うことにシフトしました。伝統的な組織ジャーナリズムの縦割り取材で言えば、社会部が担当する事件報道から、政治部の政治・政局報道へと局面が変わって、今日に至っています。この政治・政局報道の中であっても、検察の捜査は妥当だったかどうかの観点は必要なのではないか、と感じています。
 言い方を変えれば、政治報道は政治部だけのことではない、政治家に対する捜査を捜査当局に対して心理的距離を取りながらどう報じるか、といったことを含めて、政治報道をどう構築するかということを、今日的な課題として意識した方がいいのではないか、と考えています。「政治とカネ」で言えば、企業献金という問題もあります。企業の経済活動のウオッチからアプローチする政治報道もあるはずだと思います。

※裏金事件の検察捜査についての過去記事はカテゴリー「2023~24自民党の裏金意見」に、検事長定年延長問題についての過去記事は、カテゴリー「2020検事長定年延長」にまとめています 

2023~24自民党の裏金事件 カテゴリーの記事一覧 - ニュース・ワーカー2

2020検事長定年延長 カテゴリーの記事一覧 - ニュース・ワーカー2

 以下に、東京発行各紙が自民党の処分を4月5日付朝刊でどのように報じたか、1面、総合面、社会面の主要な見出しを記録しておきます。社説は各紙のサイトでそれぞれ全文を読むことができます。

▽朝日新聞
・1面準トップ・本記「自民裏金 39人処分/世耕氏離党 近く塩谷氏も」
視点「内向き体質 解散し審判受けよ」(与党担当キャップ)
・2面・時時刻刻「自民 コップの中の処分劇/無責任体質 幹部から若手まで」
・社会面トップ「処分『市民感覚とズレ』」

▽毎日新聞
・1面トップ「自民 裏金事件39人処分/塩谷・世耕氏 離党勧告/下村・西村・高木氏 党員資格停止 首相は対象外」
・3面・クローズアップ「総裁選へ権力闘争/首相『厳格』アピール」
・社会面トップ「説明責任 果たさぬまま」

▽読売新聞
・1面トップ「自民不記載 39人処分/塩谷・世耕氏 離党勧告 世耕氏は離党/首相『規正法改正に全力』」
・3面・スキャナー「執行部内の対立露呈/武田・松野氏扱いで火花」
・社会面トップ「有権者 厳しい批判/『説明なし 処分当然』」

▽日経新聞
・1面「自民39人 処分決定/党紀委 世耕氏、勧告受け離党」
・3面「自民処分 幕引きは遠く/政権運営 強まる逆風」

▽産経新聞
・1面トップ「自民 不記載39人処分決定/世耕氏の離党届受理/下村、西村氏は党員資格停止/首相『最終的に国民判断』」
・2面「不満噴出 首相に逆風/『独裁的』『処分受けないのか』」
・社会面トップ「処分議員地元 戸惑い/『不信払拭できていない』」

▽東京新聞
・1面準トップ「基準曖昧 自民39人処分/塩谷・世耕氏 離党勧告 首相・二階氏 不問」
・2面・核心「処分ありき 渦巻く不満/首相、真相究明置き去り」
・社会面トップ「『処分軽い』『真相引責を』/地元有権者ら 怒りと失望」

【社説】
・朝日新聞「自民党の処分 『けじめ』にはほど遠い」
  https://www.asahi.com/articles/DA3S15904866.html

 失墜した政治への信頼回復どころか、逆に不信に拍車をかけるのではないか。実態解明を置き去りに、内輪の「基準」で結論を出しても、岸田首相がめざした「政治的なけじめ」にはなりえない。

・毎日新聞「自民の裏金議員処分 解明なき幕引き許されぬ」/筋が通らない首相不問/安倍派幹部の喚問必要
 https://mainichi.jp/articles/20240405/ddm/005/070/044000c

 疑惑の解明を置き去りにしたまま幕引きすることは許されない。内向きの論理と中途半端な処分で国民の不信を払拭(ふっしょく)できると考えているのだとすれば、見当違いも甚だしい。

・読売新聞「自民処分決定 これで党の再生につながるか」
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20240404-OYT1T50238/

 政治とカネの問題について、一定のけじめをつけた形だが、処分の基準が曖昧なために自民党内には不満がくすぶっている。党再生の道のりは平たんではない。

・日経新聞「党の処分で裏金問題の幕引きは許されず」
 https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK037YO0T00C24A4000000/

 自民党が4日、派閥の政治資金問題で関係議員39人の処分を決めた。本来であれば政治的、道義的な責任を明確にする節目のはずだが、巨額の資金還流や不記載の実態解明はほとんど進んでいない。今回の処分で疑惑を幕引きするような対応は決して許されない。

・産経新聞「自民党の処分 これでけじめになるのか」
https://www.sankei.com/article/20240405-QEWWGH5IVJODVOXDSXBU3Q3IIY/

・東京新聞「自民の裏金事件 首相は自らを処断せよ」
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/319415

 自民党の党紀委員会は派閥の裏金事件に関わった議員ら39人の処分を決めた。党総裁の岸田文雄首相=写真=は不問に付し、離党勧告は2人にとどめた。組織のトップが責任を免れる甘い処分だ。首相は自ら身を処すべきである。