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裏金巡る虚偽記載 「派閥の指示」と弁明~検察の捜査に改めて疑問

 自民党のパーティー券裏金事件で、自民党は2月15日、安倍派、二階派の議員らに対する聞き取り調査の結果を公表しました。報道によると、調査の対象は現職国会議員82人と選挙区支部長3人の計85人で、内訳は安倍派79人、二階派6人。85人中32人が、派閥から還流を受けるなどした「裏金」であることを事前に認識しており、うち11人は政治資金規正法にのっとって収支報告書に記載すべきだったことを認識していたとのことです(読売新聞によると、11人は全員安倍派所属)。聞き取り調査には党幹部のほか弁護士も立ち会いました。
 驚いたのは、議員側の弁明の内容です。収支報告書に記載しなかったことについて、派閥からの指示があった、とした議員が複数いたとのことです。このブログの以前の記事でも書きましたが、この事件には、自民党の金権体質だけではなく、検察が捜査を尽くしたのかどうか、という論点があります。安倍派の裏金は派閥ぐるみなのに、虚偽記載について派閥幹部の国会議員の刑事責任は不問とされ、派閥の会計責任者だけが訴追されました。捜査を尽くしても派閥幹部と会計責任者の共謀の証拠が見当たらなかったことが理由とされました。したがって、派閥幹部の刑事責任を巡る最大の焦点は、この共謀の有無です。
 今回の自民党の調査対象になった議員は、東京地検特捜部も聴取し、派閥の指示で収支報告書に記載しなかった、との供述も得たはずです(仮に聴取もせず、あるいは聴取はしたが派閥の指示について供述を得られなかったとしたら、「捜査を尽くした」とは到底言えません)。自民党の調査結果は、個々の弁明について議員名を明らかにしていないので、推測交じりになりますが、安倍派の議員が特捜部に「収支報告書に記載しなければならないことは分かっていたが、派閥の指示で記載しなかった」と供述していたとすれば、それは何を意味するでしょうか。派閥幹部の議員は、パーティー券の売り上げの還流は知っていたが、派閥の収支報告書に記載しないことは知らなかったことになっています。その一方で、還流を受けた議員たちに、それぞれの収支報告書にも記載しないことを派閥が指示していたことになります。
 還流する資金の出元である派閥と、受け取り側の議員側で、収支報告書の扱いをそろえることは、ありていに言えば「口裏合わせ」です。そんな重要なことを、派閥の事務方である会計責任者の一存で決められるでしょうか。派閥幹部の議員から事務方に対し、明示的にであれ暗黙のうち黙示的にであれ、意思表示と合意の形成があったからこそ、還流を受けた個々の議員に、派閥としての指示が下りていったのではないのか。合理的な疑問です。
 自民党の調査で「派閥の指示」を口にしたのは一部の議員のようですし、東京地検特捜部の聴取ではおそらく、議員たちの供述には食い違いも少なくなかったのではないかと思います。しかし、その食い違いを放置せず、実際は何があったのかを解明して初めて「捜査を尽くした」と言えるはずです。政治資金規正法が訴追対象を「会計責任者」と明記し、議員の訴追に共謀の立証が必要なことは、捜査側にとって高いハードルであるのは事実ですが、その点を「法の不備」という言い訳にして、当初から形だけの捜査で終わらせるつもりだったのではないのか、とすら感じます。あるいは検察の捜査能力の問題なのか。少なくとも、検察は捜査についてもっと説明するべきだと思います。


 議員たちの弁明について、以下の各記事が詳しく紹介しています。
※毎日新聞
「派閥指示・秘書のせい…言い訳オンパレード 『裏金』聞き取り報告書」=2月16日
https://mainichi.jp/articles/20240215/k00/00m/010/350000c
※読売新聞オンライン
「『派閥の指示から外れたことはできない』、多数の議員が違法性認識しつつ不記載継続…自民報告書」=2月16日
 https://www.yomiuri.co.jp/politics/20240216-OYT1T50009/
※産経新聞
「安倍派、幹部の責任問う意見多数 政治資金パーティー不記載、今後は処分が焦点」=2月15日
 https://www.sankei.com/article/20240215-WSKWC5TXNZK7XD3GYIJLFPXEMI/

 還流を受けた議員側の立件について、検察が3千万円で線引きしたことに対しても、あらためて疑問を感じます。自民党の調査によっても、収支報告書に記載しなければならなかったことを認識していた議員が11人もいました。派閥ぐるみのかつてない大掛かりな違法行為です。その悪質性に鑑みて、従来の“基準”にこだわらず、虚偽記載があったすべての議員側を金額の多寡にかかわらず訴追し、刑罰の可否の判断は裁判所にゆだねる、という選択肢もあるのではないかと思います。
 自民党の調査は、個々の議員の弁明を匿名とするなど、厳しさを欠いています。党としての処分についても、上記の産経新聞の記事によると、茂木敏充幹事長は、重い処分である除名や離党勧告の目安として、刑事事件での立件を挙げたとのことです。検察が3千万円の線引きを踏襲したおかげで、“裏金議員”の大多数は除名や離党勧告は免れるということになりそうです。
 一時的に批判は浴びても、刑事責任を問われることもなく、除名はおろか離党すらせずに済むのなら、議員たちは「今のままがいい」と考えるはずです。次回の選挙で当選してしまえば「禊は済んだ」ということにされ、連座制の導入など政治資金規正法の改正もうやむやになりかねないことを危惧します。
 マスメディアの報道は自民党に自浄能力があるか否かに向かっている観があります。それも必要な報道ですが、検察という公権力に対しても、引き続き監視の機能を果たしていってほしいと期待しています。

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

news-worker.hatenablog.com