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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「安倍派幹部『不問』」になお8割超が疑義~民意の検察不信と新聞

 自民党のパーティー券裏金事件で、自民党安倍派の政治資金収支報告書の虚偽記載に対し、東京地検は会計責任者を起訴しただけで、事務総長経験者ら派閥幹部の国会議員については不問としました。1月に実施された2件の世論調査では、「納得できない」「適切だとは思わない」との回答が80%と78%に上ったことは、以前の記事で触れました。先週末、2月3~4日に実施された共同通信の世論調査でも、「納得できない」が83.4%に上ったと報じられています。
 まとめると以下の通りです。

 TBS系列のJNNの世論調査(2月3~4日実施)でも、「納得しない」の回答が78%に上ったとのことです。派閥幹部の刑事責任を問わない検察への疑義は根強く、時間がたっても収まる気配がありません。検察への不信と言ってもいいように思います。
 気になるのは、この民意をマスメディア、その中でも新聞各紙がどこまで共有しているかです。東京地検が刑事処分を発表したのは1月19日。翌20日付で、朝日、毎日、読売、日経、産経の全国紙5紙は、そろって社説で取り上げました。いくつかの地方紙も関連の社説を掲載しています。その概要は、このブログの以前の記事にまとめました。

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 検察が派閥幹部の責任を問わなかったことに対し、全国紙では毎日新聞、産経新聞には批判的、懐疑的な記述は見当たりません。朝日新聞は、還流議員側の立件が3千万円で線引きされた点には疑問を呈していますが、派閥幹部のことは付け足しのように触れているだけです。読売新聞と日経新聞は、ある程度のまとまった記述がありますが、トーンは「全員を不問に付すのは不公平感が拭えない」(読売)、「多くの国民が結果に納得できないのは当然だ」(日経)など、さほど強くはないように感じます。
 民意に添うように、検察に躊躇なく疑問を提示し、批判していると感じるのは、いくつかの地方紙です。検察は派閥幹部について、会計責任者との共謀を示す証拠が見つからなかったことを、「不問」の理由にしているようですが、そもそも捜査についてろくに説明していません。そんな状況で「捜査は尽くされた」「法に不備があるのだから仕方がない」と受け止めるのは無理だ、と考える人も少なくないはずです。地方紙の社説では、例えば中国新聞は検察に対し、具体的に説明するよう求めています。
 現行の政治資金規正法は、政治資金収支報告書の虚偽記載の処罰対象を会計責任者と明記しています。政治家本人を処罰するためには、会計責任者との共謀を立証する必要があります。ハードルが高いのは事実ですし、その点を「法の不備」と言えばその通りかもしれません。法改正で、共謀の有無を問わず政治家も失職するなどの連座制が導入されるに越したことはありません。しかし、そのことと、現行法の下で検察がありとあらゆる捜査を尽くすこととは、別の問題です。
 「法に不備があるから、立件見送りは仕方がない」ということになれば、政治家、とりわけ自民党の国会議員たちは「今のままがいい」と考えるはずです。現に、刑事処分が発表された後、訴追を免れた議員が公にどんな説明をしているか。自民党の改革論議はどんな状況か。いずれも納得できるものではありません。この状況で、連座制の導入が本当に実現できるでしょうか。国会に任せていても改革は進まない、だから検察に期待したのに、「法の不備」を理由にさっさと捜査を終わらせてしまったとしか思えない―。世論調査に表れているのは、そうした疑義であり、不信、失望、怒りであるように感じます。
 今回の裏金事件は、民主主義の根幹にかかわります。仮にマスメディアが検察の説明を是とし、「法に不備があるから、立件見送りは仕方がない」と理解を示すとしたら、「検察と一体化しているのではないか」との不信を招くのではないでしょうか。そのことを危惧します。