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やはり「ザル法」温存したいのか~政倫審、岸田首相の弁明から読み取れること

 自民党パーティー券裏金事件をめぐり、衆議院の政治倫理審査会(政倫審)が2月29日と3月1日の2日間、開かれました。初日は岸田文雄首相(自民党総裁)と二階派の武田良太事務総長の2人が出席。2日目は安倍派から西村康稔・元事務総長、塩谷立・元座長ら幹部4人が出席しました。「首相として初めて」との異例さから注目されましたが、弁明の内容に新味はありませんでした。安倍派の幹部については、派閥の政治資金収支報告書への記載にどう関与したのかが焦点でしたが、4人とも否定しました。
 事前に予想できた展開であり、真相解明の観点からは進展はありませんでした。ただし、何の意味も見いだせないかと言えば、そうでもないように感じます。特に岸田首相を巡っては、東京発行の新聞各紙が消極的な評価の見出しとともに報じる中で、読売新聞の報じ方には「なるほど」と思いました。
 岸田首相の政倫審での発言については、東京発行の新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京の6紙)は3月1日付朝刊で、1面をはじめ複数のページに関連記事を掲載して大きく扱っています。そのうち、事実関係を中心にした「本記」と呼ぶメインの記事の見出し2本分を以下にまとめました。

 岸田首相の弁明を巡っては、読売新聞だけは「岸田首相が前向きに語ったこと」を主見出しにしています。記事のリードでは「(岸田首相は)国会議員本人への罰則を強化する同法の改正を今国会中に実現する意向を表明した」とあり、再発防止に向けた法改正を国会で言明した、との位置付けを、ニュースバリューととらえていることがうかがえます。「おや」と思ったのは、しばらく読み進めてのことです。以下のようなくだりがありました。

 首相は「監督などで過失があった場合などに、その責任を問うという(公明党の)基本的な考え方は参考になる」とも語った。政治家本人の責任を問う場合、会計責任者への監督責任に過失があったかなど、条件付きとなることを示唆したものだ。

 やっぱりそんなことを考えているのか、と思いました。この事件では、派閥の収支報告書の虚偽記載で訴追されたのは、政治資金規正法に処罰対象者として明示されている事務方の会計責任者のみです。政治家を訴追するためには会計責任者との共謀を証明しなければなりません。捜査の上でも高いハードルになっているのは事実であり、罰則強化の方向性としては、共謀の有無を問わず、政治家本人の責任も問える「連座制」の導入が必要だと指摘されています。
 公明党の再発防止策の考え方は、政治家とその資金を扱う団体の会計責任者との関係について、政治家の監督に過失があった場合などは政治家の責任を問う、との内容であり、岸田首相がその考え方を取り入れ条件付きの法改正とする意向であることが明らかになったことを、読売新聞の記事は伝えています。
 政治資金規正法は、資金の流れを透明化するという法律本来の趣旨からも、政治家本人の責任を問うという観点からも抜け道だらけで、改正も重ねても「ザル法」と呼ばれるままです。政治家本人への連座制を導入するにしても、仮に「条件付き」となったらどうでしょうか。その条件のハードルが高ければ、今までと同じです。
 例えば、会計責任者の監督に過失があった場合は政治家本人の責任を問う、となっても、会計責任者が「政治家本人の指示に背いて独断で虚偽記載をした」と言い張ればどうでしょうか。政治家の過失を立証するのにも、現在の共謀の証明と同じように高いハードルがある、ということになりかねません。事件の教訓を生かし再発防止を期すと言うのであれば、一切の条件なしに、会計責任者の有罪確定という客観事実だけで連座制が適用できる仕組みでなければ意味はありません。
 「ザル法」が改正しても「ザル法」のままなのは、法改正の主体が当の国会議員たちであるからだ、ということがたびたび指摘されています。「政治とカネ」にルーズな政治家、中でも自民党の国会議員が、自らに厳しい対応を取るわけがない、ということです。今回の裏金事件で、どれだけ世論の批判を浴びようと、どれだけ内閣支持率、自民党の支持率が落ちようとも、そのことに変わりはないことを、政倫審で岸田首相自らが示しました。そのことが分かっただけでも、政倫審開催の意味はあったのかもしれません。読売新聞の報じ方に接して、そんなことを考えています。