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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「沖縄の訴えを足蹴にするような暴挙」(琉球新報社説)~代執行訴訟、最高裁が上告不受理で終結

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設をめぐり、軟弱地盤の改良工事の設計変更を承認するよう、日本政府が沖縄県の玉城デニー知事に求めた代執行訴訟で、最高裁第1小法廷は、玉城知事側の上告を受理しない決定をしたと報じられています。2月29日付とのことで、3月1日に一斉に報じられました。福岡高裁那覇支部は昨年12月20日の判決で、設計変更の承認を知事に命じました。その後も知事は承認せず、斉藤鉄夫国土交通相が承認を代執行。ことし1月10日、既に工事は始まっています。
 高裁那覇支部判決は、結論としては日本政府の主張を全面的に認めつつ、「国と県が相互理解に向けて対話を重ね、抜本的解決が図られることが強く望まれている」と付言していました。このブログの以前の記事でも書きましたが、それこそが結論だったはずだと強く感じます。

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 最高裁は機械的な対応しか取れない機関だと言ってしまえばそれまでですが、極めて残念です。ことの本質は、沖縄という一地域だけの問題にとどまらず、同様に全国の自治体がいつ当事者になるか分からないことです。政府機関があたかも私人のように装うことで、自治体との紛争が別の政府機関に持ち込まれ、裁定されるようなことに本当に問題はないのか。素人目にも疑問なのに、政府の主張を丸ごと容認してしまう司法のありようには、主権者の一人として深刻な危機感を抱きます。

 最高裁の上告不受理に対して玉城知事は「憲法が託した『法の番人』としての正当な判決を最後まで期待していただけに、今回、司法が何らの具体的判断も示さずに門前払いをしたことは、極めて残念」とのコメントを発表しました。琉球新報のサイトに、記者団との質疑も含めた動画がアップされています。
※琉球新報「【速報・動画あり】デニー知事『門前払い、極めて残念』『新基地反対、つらぬく』 敗訴受けコメント 辺野古代執行訴訟、最高裁が不受理」
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-2860693.html

【写真】コメントを発表する玉城知事(出典:琉球新報動画)
 琉球新報は3月2日付の社説で「責務を放棄した」「およそ歴史の審判に耐え得るものではない」などと厳しい言葉を連ねて、最高裁を批判しています。最高裁の裁判官たちに届いているでしょうか。
 ※琉球新報:社説「辺野古上告不受理 最高裁は責務を放棄した」=2024年3月2日
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-2860756.html

 「法の番人」はどこへ行ったのか。民意と地方自治に基づく沖縄の訴えを足蹴(あしげ)にするような暴挙である。司法のあからさまな政府への追随を許すわけにはいかない。
(中略)
 玉城デニー知事は「司法が何らの具体的判断も示さずに門前払いをしたことは、極めて残念」と述べた。沖縄の声に向き合い、公正に審理するべき司法としての責務を放棄したに等しい。上告に際し、県民が求めたのは実質審理であった。最高裁の上告不受理はおよそ歴史の審判に耐え得るものではない。
(中略)
 代執行訴訟の上告審で、県は沖縄の基地集中を放置する構造的差別と、日本全国に及ぶ地方自治の危機を訴えるはずであった。最高裁はこの機会を奪ったのだ。日本の司法はここまで後退した。

 沖縄タイムスは3月3日付で「代執行訴訟 県敗訴確定 国への権限集中を疑え」との見出しの社説を掲載し、「県敗訴が確定したことになるが、最高裁の判断に意外性はない」「地方分権改革の際、法定受託事務に対する国の関与を強化する制度を設け、日米安保体制の運用に支障が出ないような制度設計にしたからだ」と指摘しています。そして、以下のような懸念を示しています。

 懸念されるのは「台湾有事」を想定した沖縄の要塞(ようさい)化と、政府への権限集中の動きが、同時並行で進んでいることだ。その影響を直接受けるのは沖縄である。
 俳人の渡辺白泉は、日中戦争真っただ中の1939年にこんな銃後の句を詠んだ。
「戦争が廊下の奥に立ってゐた」
 太平洋戦争が始まったのはその2年後のことだ。
 国が進める離島から九州などへの避難計画には、この俳句ほどの現実味はない。
 白泉の一句を沖縄戦場化への警鐘と受け止めたい。

 今回の最高裁の決定は事前に予想できたこともあってか、東京発行の新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京の6紙)はさほど大きくは扱っていません。3月2日付の朝刊で、1面に掲載したのは東京新聞のみ。朝日新聞は社会面。毎日、読売、産経の3紙は第2社会面、日経は総合面でした。関連の社説も2日付、3日付では見当たりません。