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辺野古工事強行 「乱暴で粗雑」(玉城知事)~東京発行の新聞各紙の報道は二分

 沖縄の米軍普天間飛行場の移設問題で、日本政府は1月10日、名護市辺野古沖の軟弱地盤の改良工事に着手しました。工事計画の変更に対する沖縄県知事の承認の権限を奪い、国土交通相による代執行を経ての着手強行です。沖縄県の玉城デニー知事は10日の記者会見で「丁寧な説明とは真逆の極めて乱暴、粗雑な対応だ」と批判しました。代執行に至る経緯の中では、福岡高裁那覇支部が政府勝訴の判決を言い渡しながらも、付言で「国と県が相互理解に向けて対話を重ね、抜本的解決が図られることが強く望まれている」と言及していました。「乱暴で粗雑」。沖縄県が求める対話に応じないばかりか、司法の呼びかけをも一顧だにしない岸田文雄政権の姿勢は、この言葉に尽きると思います。

 ※玉城知事の記者会見での発言は、琉球新報の以下の動画で見ることができます。 

www.youtube.com

 琉球新報は11日付の社説で、計画通りに工事が進んでも移設完了は12年後であり、その間は普天間飛行場の危険性が放置されることを挙げ、新基地建設計画を推し進める限り、普天間の危険性除去は実現しないと指摘して、以下のように訴えています。

 県は着工前の事前協議を求めていた。高裁判決を不服として県は最高裁に上告している。本来ならば県との協議に応じ、少なくとも最高裁判決が出るまで着工を見合わせるべきであった。玉城知事が「極めて乱暴で粗雑な対応」と批判したのは当然だ。岸田首相は「これからも丁寧な説明を続けていきたい」と述べたが、その気があるなら直ちに工事を止め、県と協議に臨むべきだ。
 最高裁では、実質審理を求めたい。地方自治を否定した政府の行為を追認した福岡高裁判決を厳格に審理することは「憲法の番人」たる最高裁の責務である。それも大法廷で玉城知事が意見陳述することが望ましい。日本全体の民主主義と地方自治の行方にも関わる裁判であることを沖縄から訴えたい。

※琉球新報社説「大浦湾埋め立て着手 政府の暴走、禍根を残す」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-2677743.html

 この「沖縄からの訴え」に、日本政府と最高裁の当事者はもちろんのこと、国会も、そして本土に住む主権者も正面から向き合わなければならないと感じます。日本政府、岸田政権が合法的に成り立っているのは、それが主権者の総意だからです。
 沖縄のもう一つの地元紙、沖縄タイムスも12日付の社説「前例なき埋め立て 対話が唯一の解決策だ」で「代執行による埋め立てをいったん中断し、国と県で検証委員会を設け、解決策を探るべきである」と主張。日本政府の硬直した姿勢について、以下のように指摘しています。

 配置先に柔軟な米側と違って、日本政府は県内移設にこだわり続けた。本土移設は政治問題を引き起こす、との理由で。
 政府のこの姿勢は今も変わっていない。
 抑止力の維持と沖縄の負担軽減。政府はこれまで、事あるごとにこの二つを強調してきた。
 この問題に関わった当時のペリー国防長官は辞任の送別会で、皮肉を込めてこう語ったという。「矛盾する内容で、神様だってできない」
 在沖米軍幹部は昨年11月、報道各社への説明会で、辺野古移設について「最悪のシナリオ」だと語った。
 一体、何のための、誰のための事業なのか。「軍事合理性」「民意」「自治」「環境への影響」「完成時期」-多くの点で疑問符が付く。
 名護市辺野古の新基地建設は今や、明確な目的を見失ってしまった。
 かつての日本軍のように、もう引き返せないという理由だけで、先の見えない工事を進めているように見える。

 工事着手の強行は、沖縄県と日本政府だけの問題ではなく、日本全体の民主主義と地方自治にかかわる問題です。日本本土の主権者にも当事者性があります。その意味で、沖縄で何が起きているか、沖縄の民意を代表する自治体がどんな意向を示しているかは、日本本土でも広く共有されるべきです。本土メディアが本土に住む主権者に向けてこの問題を報じることの意義はそこにあります。
 東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)も11日付朝刊に関連記事を掲載していますが、扱いは分かれました。本記を1面トップで報じたのは朝日新聞と東京新聞。毎日新聞は1面準トップでした。一方で読売新聞と産経新聞は2面でした。経済紙の日経新聞は4面の「政治・外交」面でした。新聞はニュースの格付け、ニュースバリューの判断に徹底的にこだわるメディアです。1面と2面の扱いの違いには明確な差があります。
 この扱いの差は、辺野古の工事強行を是とするか、非とするかの違いを反映しているように感じます。朝日、毎日、東京の3紙はこれまでも日本政府に批判的だったのに対し、読売、産経2紙は「辺野古移設が唯一の解決策」との政府方針を支持しています。

 11日付の紙面でも、朝日新聞と東京新聞は1面の見出しに玉城知事の「粗雑」発言を入れました。毎日新聞と東京新聞は社説でも取り上げました。朝日新聞は社会面の全てを沖縄現地の反応の記事と写真に充て、「対話なく強行 憤り」との大きな見出しを付けています。ひときわ目を引いたのは東京新聞1面のサイド記事「住民失望『この国に地方自治ないのか』」。琉球新報から提供を受けた記事です。沖縄の民意をそのまま首都圏の読者に伝えようとの意図がうかがえます。全国紙と一線を画した試みだと感じました。
 一方の読売新聞は本記に玉城知事の発言はなく、4面(政治面)のサイド記事に「普天間返還へ一歩前進」との見出しを付けています。ただ産経新聞は、本記の2本目の見出しを「知事反発『極めて乱暴』」としました。
 東京発行の各紙のトーンは割れ、二極化と言ってもいい状況ですが、地方紙に目を向ければ、このブログでも紹介してきたように、地方自治の否定に対する危機感を深めていることが各紙の社説、論説にも表れています。10日の着工強行に対しても、批判的に報じる紙面は少なくなかったことと思います。

 日本政府、岸田政権の手法が地方自治の否定だとしても、その政権は選挙を通じて合法的に成り立っています。日本政府が強硬姿勢から転じて工事を停止し、現実的な普天間飛行場の危険性除去へ向けて沖縄県と話し合いに入るかどうかは、選挙で主権者が総意としてどのような意思を示すかにかかっています。次の衆院選の大きな争点のはずであり、本土のマスメディアの選挙報道の課題にもなると思います。

 以下に、東京発行各紙の10日付朝刊に掲載された主な関連記事の扱いと見出しを書きとめておきます。

【朝日新聞】
・1面トップ「辺野古軟弱地盤 国が着工/玉城知事『粗雑な対応』」
・社会面
トップ「対話なく強行 憤り/昨年末に代執行/玉城知事『沖縄の民意軽視』/国側、天候見極め『条件整った』」
「『遺骨眠る土使用、人道上の問題』収集団体代表ハンスト/各地で不使用求める意見書」
「前のめりな国、怖い。どれだけ工事が進んでも基地いらない/辺野古ゲート前 続く工事」

【毎日新聞】
・1面準トップ「辺野古 地盤工事着手/防衛省 移設完了 最短12年後」
・第2社会面「『民意軽視』憤る沖縄/『反対し続ける』」/「軟弱地盤 7万本くい」
・社説「国が辺野古工事を強行 沖縄の声無視は禍根残す」
※1面トップは能登半島地震続報

【読売新聞】
・2面「辺野古工事 前倒し再開/移設完了 30年代半ば目標」
・4面(政治)「普天間返還へ一歩前進/計画 大幅遅れ」
※1面トップは能登半島地震続報

【日経新聞】
・4面(政治・外交)「辺野古、地盤改良に9年超/普天間返還の前提、対処急ぐ/政府、工事に着手」/識者談話2人
※1面INDEX
※1面トップは「中国、世界に衛星通信網」

【産経新聞】
・2面「地盤改良工事に着手/知事反発『極めて乱暴』 辺野古」
・第3社会面「『やっと』『だまし討ち』/地元賛否の声」
※1面トップは自民党裏金事件続報

【東京新聞】
・1面
トップ「辺野古 軟弱地盤側で着工/沖縄知事反発『乱暴で粗雑』/代執行から13日 対話なく前倒し」
「住民失望『この国に地方自治ないのか』」=琉球新報
・3面・核心「普天間返還 一体いつ/辺野古工期9年 長引く可能性も/識者『国の主張は詭弁』」
・社説「辺野古工事再開 対話なき強行許されぬ」

 旧ツイッター(X)で、沖縄タイムスの阿部岳さんの投稿が目にとまりました。沖縄の新聞人からの、日本本土の新聞人への問いかけでもあると受け止めています。