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「日本本土の国民に伝えたい」(琉球新報) 安全保障の負担は日本全体の問題~辺野古埋め立て・代執行と本土メディアの報道

 米軍普天間飛行場の辺野古移設計画をめぐって先週来、重要な動きが続いています。
 埋め立て予定地にマヨネーズ状とも指摘される軟弱地盤があるために、防衛省は当初の設計を変更せざるをえなくなりました。その変更の申請を沖縄県の玉城デニー知事が承認しなかったことから、司法の場で国と沖縄県が争う事態になりました。最高裁で沖縄県が敗訴し、国交相があらためて、設計変更を承認するよう沖縄県に勧告、次いで指示を出しましたが、期限の10月4日、玉城知事は「承認とも、不承認とも判断できない」と表明。国交相は翌5日、国が県に代わって承認する代執行に向け、提訴しました。玉城知事は10月11日に記者会見し、「国土交通相の請求の趣旨には承服できない」と言明し、設計変更申請を承認しないとの立場で訴訟に応訴することを表明しました。訴訟の口頭弁論では自ら発言することも明らかにしました。
 国の意向に従わない自治体から、権限を国が剥奪しようとしている、異例の展開です。沖縄だけの問題ではない、全国の自治体にとっても決して無関係ではない意味合いがここにあります。
 このタイミングで「承認せず」を明言した理由について、琉球新報は知事の発言を以下のように伝えています。

 国交相が承認の指示期限とした4日を過ぎた後、承認しないと表明した理由については「過重な基地負担を担わされている沖縄の現状で、1日たりとてわれわれが心配しなかった日はあったのか。この現状について主張すべきは主張すべきだと思い至った」と説明した。「平和で静かで安心に暮らしたいという、選挙という手段で思いを寄せていただいた県民の願いをかみしめることも必要だと考えた」とした。

※琉球新報「【動画】玉城知事、辺野古の設計変更申請『承認せず』を明言 代執行訴訟に応訴 30日に第1回の口頭弁論」=記者会見の様子を動画で見ることができます
 https://ryukyushimpo.jp/news/politics/entry-2363368.html

 沖縄では知事選や参院選などの選挙のたびに、普天間移設へ反対する民意が示されてきました。辺野古の海面埋め立ての賛否に絞った2021年2月の県民投票では、「反対」は70%を超えました。県民の明確な意思表示です。玉城知事にとっても、辺野古への新基地建設阻止は知事選の公約です。設計変更申請を承認しないことは、沖縄の民意を代表する立場として譲れない一線なのだろうと感じます。「辺野古移設が普天間飛行場の危険性を除去する唯一の解決策」「安全保障は国の専管事項」との主張をかたくなに続ける国が、沖縄県と話し合う姿勢も見せず、沖縄の民意をねじふせようとしていることに、日本本土に住む主権者の一人として、暗澹たる気持ちになります。

 「玉城知事は最高裁の判断に従え」との、国や一部の本土マスメディアの主張はこの間、玉城知事には相当なプレッシャーだったことと思いますし、そのことは今後も変わらないでしょう。その中で、沖縄の地元紙の沖縄タイムス、琉球新報がそれぞれ5日付で掲載した社説が目を引きます。ともに、この問題は沖縄だけの問題ではなく、日本全体の問題であることを訴えています。特に琉球新報は、「日本本土の国民」に直接呼びかける、社説としては異例の形式を取っています。
 以下に、それぞれ一部を引用します。琉球新報の社説は、ネット上の同紙のサイトで全文を読むことができます。

▽沖縄タイムス
「知事 辺野古承認『困難』 全国で議論深める時だ」

 自民党内の保守強硬派を中心に、玉城県政批判が高まるのは確実だ。ネット上にはここぞとばかりに「沖縄ヘイト」や「知事バッシング」が増えるのではないか。
  想定されるさまざまな逆風を考慮した上で、それでも玉城知事は、名護市辺野古で国が進める新基地建設の軟弱地盤改良に必要な設計変更申請の承認を、事実上拒んだのである。
 沖縄の「自治と尊厳」を守ろうとした知事の判断を、全国に向けた問題提起と受け止めたい。
 (中略)
 法は解釈され執行されることによって効力を発揮するが、その過程で法本来の趣旨から逸脱してしまう事態が生じることがある。
 一連の辺野古訴訟で浮かび上がった国による「私人なりすまし」はその典型である。 行政不服審査法は「国民の権利利益を救済するため」の法律だ。ところが国(防衛省)は行審法を使って国(国交相)に不服審査を申し立て、国交相がこれを是として県の不承認処分を取り消す裁決を行った。中立性、公平性を疑わせる措置だ。
 国と地方自治体の関係はどうあるべきか。安全保障を巡る負担を国民がどのように分かち合うべきか。国は本当に南部の戦跡国定公園内から採掘された土石を埋め立てに使うつもりなのか。
 いずれも日本全体が考えなければならない問題であり、玉城知事の今回の対応はこれら重要な課題を浮かび上がらせたというべきだろう。

▽琉球新報
「設計変更『承認困難』 新基地阻止の道筋残した」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-2336040.html

 今回の設計変更申請を含め、辺野古新基地建設を巡る県と国の対立は、常に県の側に理があることを改めて強調しておきたい。
 県民は近年の知事選で新基地拒否を公約に掲げた知事を選んだ。辺野古埋め立ての是非を問う県民投票でも新基地ノーの民意を示した。さまざまな県民大会や集会を通じて平和的に訴えてきた。
 民主的な手続きを踏み、沖縄の意思を繰り返し示してきたのである。しかし、政府は新基地建設に固執し、沖縄に背を向け続けたのだ。どちらが民主主義に沿った態度であるかは明白であろう。
 メディアを通じて沖縄と政府の対立に接している日本本土の国民に伝えたい。
 沖縄は日米安全保障条約による過重な基地負担を背負っている。安保による利益を得ているならば、沖縄県民だけに負担を押しつけるのではなく、本来ならば日本国民全体で負担すべきである。
 新基地建設問題も沖縄だけの問題ではなく、日本全体の問題であることを忘れてはならない。

 日本本土の国民がこの沖縄からの訴えに応えていくなら、まずは、沖縄で何が起きているのかが広く知られなければなりません。それには、本土のマスメディアが本土に住む人たちに対し、沖縄の過重な基地負担の実相が伝わるのに十分な情報を、質、量ともに届けることが必要です。沖縄にその負担を強いているのはだれかを、日本本土の側は考えなければなりません。

 以上のようなことも考えながら、この10月4日から5日にかけての動きを、東京発行の新聞各紙がどう伝えたかを見てみました。扱いは大きく分かれました。
 朝日新聞、毎日新聞は5日付朝刊、6日付朝刊とも1面トップに据え、関連の記事も総合面や社会面に展開しました。これに対して産経新聞や日経新聞は両日とも本記1本です。読売新聞は5日付では1面トップ、総合面にも関連のサイド記事を掲載していますが、サイド記事の見出しは「玉城知事、司法を軽視」と、露骨な“政府目線”です。
 東京新聞も含めた6紙について、5日付朝刊と6日付朝刊の記事掲載を一覧にしてみました。

 もともと、普天間飛行場の辺野古移設に対して各紙の社説などの論調は、朝日新聞、毎日新聞、東京新聞は批判的、懐疑的です。逆に読売新聞、産経新聞は政府方針支持が明確です。はっきり二極化が進んでいます。そうしたことを重ね合わせて言えば、辺野古移設に批判的、懐疑的な新聞に比べて、政府方針支持の新聞は記事の量が少ない、つまり情報量が少ないことが歴然としています。今回だけではありません。2021年2月の県民投票の結果の報道でも、同じ傾向が顕著でした。
※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

 https://news-worker.hatenablog.com/entry/2019/02/26/082324
 
 以下にあらためて、5日付、6日付の東京発行各紙の扱いと、主な記事の見出しを書きとめておきます。

【10月5日付朝刊】
▽朝日新聞
 ・1面トップ「辺野古 知事は判断保留/国、きょうにも代執行訴訟/『期限までに承認困難』/設計変更」
 ・3面
「民意と判決 板挟みの知事/辺野古承認めぐり『判断保留』/『行政の長』が従わねばリスクも」
「『移設止めて』県庁前で集会」

▽毎日新聞
 ・1面トップ「沖縄知事 変更承認せず/辺野古移設『期限内判断、困難』/国側、きょうにも『代執行』提訴」
 ・第2社会面
「辺野古 苦渋の判断保留/玉城知事『思案に時間』」
解説「政府は向き合う姿勢を」
「知事対応『残念』国交省幹部」

▽読売新聞
 ・1面「辺野古 知事承認せず/政府 代執行 きょうにも提訴 設計変更」

▽日経新聞
 ・4面「沖縄知事、承認指示応じず/辺野古移設工事 国は代執行提訴へ」

▽産経新聞
 ・1面「辺野古 代執行提訴へ/政府 沖縄知事 指示応ぜず」

▽東京新聞
 ・1面「辺野古承認 知事『困難』/政府きょうにも代執行提訴」
 ・7面「『移設反対の民意』重視/辺野古承認せず 玉城知事、苦悩1カ月」

【10月6日付朝刊】
▽朝日新聞
・1面トップ「辺野古 代執行へ国が提訴/高裁に知事へ命令求める/設計変更」
 ・2面
時時刻刻「知事保留 翌日に提訴/国『時間もったいない』」「県、法廷での主張に望み」「代執行、自治奪いかねない『最後の手段』/識者『他自治体も憂慮すべきだ』」
いちからわかる!「沖縄の基地負担 どれくらい集中してる?」「全国の米軍施設の7割。本土の基地も一部移された」
・社会面トップ「もがく沖縄知事 重なる悩み」「翁長氏の妻『権限まで奪うとは』」「『自治の基本に反している』/37歳町議 PFAS契機に気づいた」
・社説「辺野古代執行 強行手段に踏み切るな」

▽毎日新聞
 ・1面トップ「辺野古代執行へ国が提訴/設計変更 知事不承認受け」
 ・第2社会面「国の姿勢に反発の声/沖縄、知事批判も」

▽読売新聞
 ・1面トップ「国、辺野古代執行へ提訴/設計変更 知事承認せず」
 ・2面「玉城知事 司法を軽視/『オール沖縄』方針 影響」

▽日経新聞
 ・4面(政治・外交)「辺野古『代執行』へ提訴/移設工事巡り 国交相『県は承認を』」

▽産経新聞
 ・2面「辺野古 代執行へ国が提訴/2例目 高裁那覇支部で月内弁論」

▽東京新聞
 ・2面「辺野古代執行へ国が提訴/月内弁論 玉城氏『県の主張検討』」

【写真】10月6日付朝刊で1面トップの扱いだったのは朝日、毎日、読売の3紙でした